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5章
灯台
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「いやぁああああ!!近づかないで!来ないで!」
暴れる朱里をルーファスが後ろから抱きしめて、腕に噛みつかれながら何とか朱里が暴れるのを押さえる。
眼の角膜が傷つき目に包帯をしているせいで朱里は周りが見えず、ずっと脅えている。
声を掛けて触ったりするが、それでも少し経つと恐怖で暴れ出してしまう。
顔を重点的に殴られた朱里の治療は回復ポーションで傷を治していったのだが、目だけは治癒魔法が必要であまり目を動かさない様に包帯をしているものの、治療のたびにこの状態になってしまう。
「アカリ、落ち着け、大丈夫だ。目が治ったら包帯は取れる。だから落ち着け」
「フーッ、ハァー・・・フーッ・・・」
ルーファスの腕から口を放して朱里が声を震わせる。
まるで野生の動物が脅えている様な状態にルーファスはゆっくりと朱里を抱きしめていた手を緩める。
肩を震わせて朱里が泣き始め、ルーファスに謝りはじめる。
「ごめ、なさ・・・い。ごめんな・・さい」
「大丈夫だ。アカリに噛みつかれたぐらいじゃ痛くもなんともない」
バカだな。と言いながら、ルーファスは笑って朱里の頭を撫でつける。
噛みつかれたルーファスの腕は毎日新しい噛み痕と傷を付けていくが、自分が朱里から離れたせいで起きてしまった事なので治療もせずに罰としてそのままにしている。
「そろそろ治療をしても良いでしょうか?」
そう声を掛けるのはイルマールの父親のテルトワイト・ジスだった。
金色の髪に顔に包帯を巻いているが、線の細い彼からは何処か凛とした雰囲気が出ている。
彼は南国ミシリマーフの神官であり、治癒魔法の使える男だった。
本来はルーファスの叔父ギルに治癒魔法をかけさせれば良かったのだが、今現在ギルも忙しいため、テルトワイトに頼んでいる。
「ああ、頼む」
ルーファスが朱里に耳元で「治療が始まるから安心しろ」と言い聞かせ、テルトワイトが朱里の目の前に手をかざす。
朱里の目に温かい光と熱が伝わる。
少しずつゆっくりと治療に時間を掛け治していっている。
朱里は何日も目が見えない状態で過ごしているせいか、最近はひどく落ち着きがない。
顔を殴られただけで他に外傷はないが、心に植え付けられた恐怖は早々消えてはくれない。
眼も見えないので余計に怖さで朱里自身も自分が抑えられていない。
「はい。今日はこの辺にしましょうか?また明日頑張りましょうね」
テルトワイトが朱里に声を掛け、ルーファスはようやく朱里から手を緩めて体を放す。
朱里も肩の力を抜き、小さく震えながら息をつく。
「あり、がとうございます・・・」
「良いんですよ。気にしないでください。私も【病魔】で弱った体を貴女のジュースで救われたので感謝しているのですから」
テルトワイトの優しく穏やかな声に朱里の心も少し落ち着き、テルトワイトの手を取ってルーファスが出口まで送ると、出入り口にダリドアが迎えとして立っていた。
テルトワイトの手を取ってダリドアは帰っていく。
今現在の朱里の住居は温泉大陸の住民区から離れた灯台塔の中である。
【刻狼亭】では人の声に脅え、特に子供の声と甲高い少年の声は過呼吸になるほど怖がるのでこの波の音だけしかしない場所で暮らしている。
ルーファスは全権をギルに任せて【刻狼亭】から離れ朱里の側にずっといる。
職場放棄ともいえるが、心が壊れかけている朱里を放っておく事は出来なかった。
朱里が襲われた日から1週間、朱里はずっと熱を出してうなされ、叫んでは起きてを繰り返し、製薬室のマグノリアから鎮静剤を処方され1日の半分以上を寝て過ごしていた。
今もずっと心は癒えないまま、ようやく出来る様になった魔力水を作る魔法も出来なくなってしまった。
ハガネが毎日食事を作りに来ては朱里の様子を気にしている。
アルビーも気にしてはいるが、アルビーの声は若干高めなので朱里が怖がり近づけない為、アルビーもすっかり気落ちしてしまい自分の屋敷に籠っている。
若女将の『復興祈願ジュース』は発売を中止し、今は”幻のジュース”などといわれている。
日が沈み、夜が近付くと人気のないこの灯台は真っ暗になる。
朱里は目が見えないのもあって、することも無い2人はいつも早めに就寝している。
「アカリ、そろそろ横になるか?」
ルーファスの声に朱里が小さく頷き、獣化した狼姿のルーファスを背もたれにゆっくり眠りにつく。
人型で抱きしめると途中で目を覚ました時に怖がって泣いてしまうので、なるべく朱里と寝るときは獣化している。
朱里の寝息を聞き、ルーファスはようやく朱里のオデコに鼻を押し付けながらキスをする。
起きている時に下手になにかすれば脅えられてお互いに傷つけあうだけなのでルーファスは朱里の寝ている間が一番触れ合えて好きな時間だ。
番に拒絶されるのは理由が解っていても辛い。
朱里の頭にキスを落としてルーファスは出会った頃の毎日くちにしていた言葉をつぶやく。
「オレが側に居るから早くよくなれ。オレの可愛い番」
包帯がとれたらきっと、またいつもの朱里の笑顔が戻る。
それだけを楽しみに過ごしている。
暴れる朱里をルーファスが後ろから抱きしめて、腕に噛みつかれながら何とか朱里が暴れるのを押さえる。
眼の角膜が傷つき目に包帯をしているせいで朱里は周りが見えず、ずっと脅えている。
声を掛けて触ったりするが、それでも少し経つと恐怖で暴れ出してしまう。
顔を重点的に殴られた朱里の治療は回復ポーションで傷を治していったのだが、目だけは治癒魔法が必要であまり目を動かさない様に包帯をしているものの、治療のたびにこの状態になってしまう。
「アカリ、落ち着け、大丈夫だ。目が治ったら包帯は取れる。だから落ち着け」
「フーッ、ハァー・・・フーッ・・・」
ルーファスの腕から口を放して朱里が声を震わせる。
まるで野生の動物が脅えている様な状態にルーファスはゆっくりと朱里を抱きしめていた手を緩める。
肩を震わせて朱里が泣き始め、ルーファスに謝りはじめる。
「ごめ、なさ・・・い。ごめんな・・さい」
「大丈夫だ。アカリに噛みつかれたぐらいじゃ痛くもなんともない」
バカだな。と言いながら、ルーファスは笑って朱里の頭を撫でつける。
噛みつかれたルーファスの腕は毎日新しい噛み痕と傷を付けていくが、自分が朱里から離れたせいで起きてしまった事なので治療もせずに罰としてそのままにしている。
「そろそろ治療をしても良いでしょうか?」
そう声を掛けるのはイルマールの父親のテルトワイト・ジスだった。
金色の髪に顔に包帯を巻いているが、線の細い彼からは何処か凛とした雰囲気が出ている。
彼は南国ミシリマーフの神官であり、治癒魔法の使える男だった。
本来はルーファスの叔父ギルに治癒魔法をかけさせれば良かったのだが、今現在ギルも忙しいため、テルトワイトに頼んでいる。
「ああ、頼む」
ルーファスが朱里に耳元で「治療が始まるから安心しろ」と言い聞かせ、テルトワイトが朱里の目の前に手をかざす。
朱里の目に温かい光と熱が伝わる。
少しずつゆっくりと治療に時間を掛け治していっている。
朱里は何日も目が見えない状態で過ごしているせいか、最近はひどく落ち着きがない。
顔を殴られただけで他に外傷はないが、心に植え付けられた恐怖は早々消えてはくれない。
眼も見えないので余計に怖さで朱里自身も自分が抑えられていない。
「はい。今日はこの辺にしましょうか?また明日頑張りましょうね」
テルトワイトが朱里に声を掛け、ルーファスはようやく朱里から手を緩めて体を放す。
朱里も肩の力を抜き、小さく震えながら息をつく。
「あり、がとうございます・・・」
「良いんですよ。気にしないでください。私も【病魔】で弱った体を貴女のジュースで救われたので感謝しているのですから」
テルトワイトの優しく穏やかな声に朱里の心も少し落ち着き、テルトワイトの手を取ってルーファスが出口まで送ると、出入り口にダリドアが迎えとして立っていた。
テルトワイトの手を取ってダリドアは帰っていく。
今現在の朱里の住居は温泉大陸の住民区から離れた灯台塔の中である。
【刻狼亭】では人の声に脅え、特に子供の声と甲高い少年の声は過呼吸になるほど怖がるのでこの波の音だけしかしない場所で暮らしている。
ルーファスは全権をギルに任せて【刻狼亭】から離れ朱里の側にずっといる。
職場放棄ともいえるが、心が壊れかけている朱里を放っておく事は出来なかった。
朱里が襲われた日から1週間、朱里はずっと熱を出してうなされ、叫んでは起きてを繰り返し、製薬室のマグノリアから鎮静剤を処方され1日の半分以上を寝て過ごしていた。
今もずっと心は癒えないまま、ようやく出来る様になった魔力水を作る魔法も出来なくなってしまった。
ハガネが毎日食事を作りに来ては朱里の様子を気にしている。
アルビーも気にしてはいるが、アルビーの声は若干高めなので朱里が怖がり近づけない為、アルビーもすっかり気落ちしてしまい自分の屋敷に籠っている。
若女将の『復興祈願ジュース』は発売を中止し、今は”幻のジュース”などといわれている。
日が沈み、夜が近付くと人気のないこの灯台は真っ暗になる。
朱里は目が見えないのもあって、することも無い2人はいつも早めに就寝している。
「アカリ、そろそろ横になるか?」
ルーファスの声に朱里が小さく頷き、獣化した狼姿のルーファスを背もたれにゆっくり眠りにつく。
人型で抱きしめると途中で目を覚ました時に怖がって泣いてしまうので、なるべく朱里と寝るときは獣化している。
朱里の寝息を聞き、ルーファスはようやく朱里のオデコに鼻を押し付けながらキスをする。
起きている時に下手になにかすれば脅えられてお互いに傷つけあうだけなのでルーファスは朱里の寝ている間が一番触れ合えて好きな時間だ。
番に拒絶されるのは理由が解っていても辛い。
朱里の頭にキスを落としてルーファスは出会った頃の毎日くちにしていた言葉をつぶやく。
「オレが側に居るから早くよくなれ。オレの可愛い番」
包帯がとれたらきっと、またいつもの朱里の笑顔が戻る。
それだけを楽しみに過ごしている。
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