黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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5章

新しい主君

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ズズズ・・・ッとお茶を飲んでハガネが一息つく。

「まぁ、俺の初めての主君はそんな感じで終わったな」

ハガネが朱里の手元の毛糸を見ながら懐かしそうな顔をする。
朱里がぽろっと涙を自分の手に落とし、ハガネを見るとハガネは白い歯を見せて笑う。

「ハガネは、サアユさんの最後の願い叶えたんだね」

ぐすっと鼻をすすって朱里がハガネに言うと、ハガネは毛糸を手に持つとかぎ棒で小さな花をササッと簡単に作り朱里に渡す。

「いや、叶えられてない。サラノアは死んだからな」

「えっ・・・なんで?だってサアユさんが命をかけて魔力渡したのに?」

「サアユの魔力量がデカすぎたんだよ」

「まさか・・・」

ハガネはカギ棒をくるくると手で回しながら眉を下げる。

「サラノアには大きすぎる魔力のコントロールは無理だった。結局、半年後にサアユとセイランの所に逝っちまった」

朱里がうつむいて泣き始めるとハガネが朱里の頭を撫でながら、自分の新しい主君は泣き虫でサアユとは全然違うのに、どうしてか自分が仕えて支えてやらなくてはと思ってしまう。


「ハガネ、ハガネはそんな辛い事があったのに、私を主君にして良かったの?」

「んっ?俺は俺の心に従っただけだ。それに辛いばかりじゃねぇしな。十分サアユ達との日々は俺には今も鮮明に思い出せるぐらいには楽しい思い出なんだぜ?」

「そっか・・・うん。私もハガネが楽しいって言ってもらえるような日々をハガネと一緒に積み重ねていきたい」

ハガネがカラカラと笑って、「若旦那に言ってやれ。俺は嫉妬されたくねぇよ」と、手首を振りながら笑って茶菓子に手をつけると、饅頭を一口で食べてしまう。

「まぁ、あれだ。アカリは無茶はすんな。それだけで俺は寿命が延びるからな」

「ううっ・・・最近は無茶はしてないよ」

「どうだかなー?まぁ貴族のガキ共に追い回されたりして疲労とストレス溜めすぎんなよ。いざとなりゃ俺も腹くくって貴族の一人や二人殴ってやっから」

白い歯を見せてハガネがニッと笑い朱里が吹き出してお腹を抱えてしまう。

何だかんだでこの主君はとても笑い上戸で変なツボがある。
サアユも変な奴ではあったが、朱里も笑いのツボの低さはサアユ並みに変ではある。


「ふふふ、それで気になったんだけど、森の国はどうなったの?」

「森の国は結局どーもこうもねぇな。精霊の加護を持つ王族が1人も居なくなったから精霊族は能力不足で皆、深い森の奥深くに姿を消して、今じゃほとんど見なくなったな」

「そうなんだ。悲しいね・・・」

「そうでもねぇさ。精霊族が祈り続ける限り、新しい精霊の王がそのうち誕生して新しい国が出来上がるさ」

「そう。なら次は戦争が起きない平和な精霊族の王が君臨すると良いね」

「そうだなー。まぁもう俺は関係ねぇからどうでもいいかな?」

ハガネが朱里の顔を見ながら小さくウィンクする。

もうハガネには精霊族の主君は居ない。

居るのは【刻狼亭】の若女将で小さな体の頑張り屋な目の前の少女だけだ。

朱里が居る場所がハガネの新しい場所で住処だ。


前の主君に思う事は沢山ある。


誰よりも自信家で何でもやれると信じて疑わないサアユ。
失敗しても気にもしない。
それでもどこか憎めない変な女で絶対的支配者の風格すらあった。
あんな風になる前に、皆でちゃんと話し合いをすべきだった。
そうしたら未来は少し変わったかもしれない。

守りたいのに守れなかった小さなサラノア。
主君の命が無駄に終わったのかどうなのかはハガネには判らない。
出来る事ならば、サラノアにはサアユとセイランの分まで長く生きて欲しかった。
もし、時が戻せるのならば、サアユに最後の魔法を使わせずにセイランだけの魔力でサラノアには残りの人生を歩ませてやりたい。

セイランにもしまた会えるならきっと殴る。
妻子を残して自分だけ先に逝くなと、残されるこっちの身になれと言いたい。
あと部下のしつけがなって無い!とキツクいっておきたいところだ。
あの黒い服の騎士は役に立たなかったぞ!もっと自分の側近は選べと言ってやりたい。

最後にサアユに言いたいことがあるとしたら、一言。

俺は新しい主君みつけて楽しくやってる安心しろ。



ただ、たまに不安になる。

どうか自分の仕える主君がまた儚く散ってしまわない様に願わずにはいられない。
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