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5章
たった1つの魔法
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「サアユ!お前あれだけ俺が飯に手を出すなって言ったよな?!」
黒焦げになった中華鍋を片手にハガネが部屋の中に怒鳴り込むとサアユは悪びれも無く笑っている。
「餡掛けが薄そうだったから、片栗粉入れたら焦げた!」
カラカラと笑うサアユにハガネが膝を折ると、セイランが腕に赤ん坊を抱いて現れる。
「またやったのか?サアユは知識はあるけど、実行すると失敗するからな」
「何を入れるかはわかるんだけどね。本当、私不器用だから」
サアユがセイランの腕から赤ん坊を受け取ると優しい顔で赤ん坊を見る。
セイランの様なシルバーホワイトの髪にアメジストの瞳、よく見るとサアユの目の氷の様な白い部分も見れる。
2人の子供で女の子。
名前をサラノアという。
ハガネとサアユが主従関係になって1年、サラノアが生まれてからは水の国との交戦は一時休戦状態になっている。
主に、こちら側が逃げ隠れている状態。
隠れ家の一軒家で4人で暮らしながら生活をしているが、大抵の事はハガネがやっている。
炊事洗濯なんでも屋状態で、サアユが手伝うと大抵悲惨な目に遭う。
サラノアはまだ生後半年の赤ん坊で能力も分かっていない。
だたそこに居るだけで皆の笑顔を引き出す、不思議で可愛い存在それがサラノア。
「サアユは不器用なんじゃねぇ、考えがねぇんだよ・・・」
ブツブツと文句を言いながらハガネが中華鍋の中で炭と化した食材を持って台所に消える。
サアユはサラノアに「酷いハガネおじさんだねー」と言って、ハガネに台所から「酷いのはサアユだよなーサラノア」と言い返される。
そんな2人のやり取りにセイランが笑い、サラノアが笑う大人たちにきょとんとした顔をする。
穏やかな日々が暫くは続いていた。
冬になり、サアユが何を思ったのか毛糸を大量買いしてきた。
不器用の代名詞と言っても過言ではないサアユが編み物なんて出来るわけがない!!
ハガネは断言できる。
「よし!編み方は覚えたわ!サラノアの為に毛糸の手袋と靴下作るわよ!」
編み物の本を閉じて、サアユが勢いよく言うが、サアユは覚えるのは得意だが、実行すると毛糸が糸くずになるのは目に見えていた。
急いでハガネも編み物の本を読み、サアユが毛糸に手を掛けていきなり「あれ?糸何処から出るの?」と、そこからなのか!!!と、ハガネが溜め息を吐きながらサアユから毛糸を奪う。
「毛糸の端はココだ。サアユ、俺も編み方覚えたからまずはやってみようぜ?」
「いくわよ。まずは輪っかを作るのよ・・・こう!」
いきなり糸をブチりといわせて力任せに引っ張り切るサアユにハガネは「あ、これもう最初からダメだ」と思いながらも、サラノアの為に母親らしい手作りがしたいサアユを応援すべく手伝っていく。
試行錯誤の末、何とか靴下の形にはなったが、何処かで糸目を外したのか穴あきが目立ちサアユがガクリと肩を落とすのを見て、ハガネが編み物の本を読みながら、毛糸で花を作り、それを穴の開いた場所へ編み込んでいく。
「流石ね、ハガネ!可愛くなった」
サアユが嬉しそうに小さな靴下を持ってサラノアに穿かせてセイランに見せに行く。
セイランがそれを見てサアユにキスをしてサラノアのオデコにキスをする。
嬉しそうなセイランとサアユにハガネも白い歯を見せて笑って、まだ大量に残っている毛糸で色々作れるようになっておくかと、更に編み方を覚えた。
またある日は、サアユが相変わらずの髪の縛り方の雑さに、ハガネが髪の結い方を覚えサアユの髪を結い上げ、紐も質素だったので飾り紐の編み方を覚え飾り紐を作った。
それを見たセイランが椿の木を削り、櫛を作るとサアユにプレゼントして、結局はハガネがその櫛を管理して2週に1度椿の油に漬け込み、その櫛を乾かすとサアユの髪を梳かすのに使い、サアユの髪はしっとりとした綺麗な髪になっていった。
サアユが気に入っていた飾り紐は紫色の飾り紐で「セイランとサラノアの目の色」と言ってよく付けていた。
ハガネもなるべく飾り紐を作る時は紫を入れたりして作っていた。
それから2年の月日が流れて行った___。
サラノアの能力が判明し、サアユもセイランもハガネも言葉を失った。
サラノアは土・風・水・森の精霊の力を持ちながら、全ての精霊の力が打ち消し合い、力が使えるどころか、日に日に魔力を失っていっていた。
衰弱していくサラノアにしてあげられることは無く、魔力ポーションを与えては消費していくだけの日々が続いた。
そんな時に温泉大陸の【刻狼亭】がやっている温泉は魔力回復にも効くと噂を聞き、温泉大陸に向かった。
温泉大陸はハガネの故郷からも近く東国風の着物文化が流れ込んでいる温泉大陸をハガネは良い場所だと感じて過ごした。
今現在は使われなくなっている、朱里が【病魔】の時にポーション作りで使った間欠泉の枯れた洞窟。
あの間欠泉の場所でハガネは自信家で堂々としてる強気なサアユが声を上げて泣くのを慰めた。
セイランには吐露出来ない、サアユのサラノアに対しての不安と悲しみ、そして、サアユが唯一使える魔法の事。
サアユの最初にして最後の魔法。
自分の膨大な魔力を1度だけ他人へ譲る事が出来る魔法。
命と引き換えの魔法。
サラノアの為に使いたい。
それがサアユの願いでハガネだけが知っている事。
セイランはきっと『番』の意思が強すぎてサラノアよりサアユをとってしまい反対される事がサアユには怖かったし、ハガネにもそれは痛いほどよくわかっていた。
『番』の一番優先する事は番同士で子供は二の次。
サアユとハガネの2人だけの秘密。
いつかサラノアが魔力を枯渇させてしまった時にサアユは魔法を使うと言い、ハガネはその時に残されたセイランとサラノアに遺言を残すよう頼まれた。
結局、遺言は言えず、ハガネは今もサアユの遺言を胸に秘めたまま過ごしている。
黒焦げになった中華鍋を片手にハガネが部屋の中に怒鳴り込むとサアユは悪びれも無く笑っている。
「餡掛けが薄そうだったから、片栗粉入れたら焦げた!」
カラカラと笑うサアユにハガネが膝を折ると、セイランが腕に赤ん坊を抱いて現れる。
「またやったのか?サアユは知識はあるけど、実行すると失敗するからな」
「何を入れるかはわかるんだけどね。本当、私不器用だから」
サアユがセイランの腕から赤ん坊を受け取ると優しい顔で赤ん坊を見る。
セイランの様なシルバーホワイトの髪にアメジストの瞳、よく見るとサアユの目の氷の様な白い部分も見れる。
2人の子供で女の子。
名前をサラノアという。
ハガネとサアユが主従関係になって1年、サラノアが生まれてからは水の国との交戦は一時休戦状態になっている。
主に、こちら側が逃げ隠れている状態。
隠れ家の一軒家で4人で暮らしながら生活をしているが、大抵の事はハガネがやっている。
炊事洗濯なんでも屋状態で、サアユが手伝うと大抵悲惨な目に遭う。
サラノアはまだ生後半年の赤ん坊で能力も分かっていない。
だたそこに居るだけで皆の笑顔を引き出す、不思議で可愛い存在それがサラノア。
「サアユは不器用なんじゃねぇ、考えがねぇんだよ・・・」
ブツブツと文句を言いながらハガネが中華鍋の中で炭と化した食材を持って台所に消える。
サアユはサラノアに「酷いハガネおじさんだねー」と言って、ハガネに台所から「酷いのはサアユだよなーサラノア」と言い返される。
そんな2人のやり取りにセイランが笑い、サラノアが笑う大人たちにきょとんとした顔をする。
穏やかな日々が暫くは続いていた。
冬になり、サアユが何を思ったのか毛糸を大量買いしてきた。
不器用の代名詞と言っても過言ではないサアユが編み物なんて出来るわけがない!!
ハガネは断言できる。
「よし!編み方は覚えたわ!サラノアの為に毛糸の手袋と靴下作るわよ!」
編み物の本を閉じて、サアユが勢いよく言うが、サアユは覚えるのは得意だが、実行すると毛糸が糸くずになるのは目に見えていた。
急いでハガネも編み物の本を読み、サアユが毛糸に手を掛けていきなり「あれ?糸何処から出るの?」と、そこからなのか!!!と、ハガネが溜め息を吐きながらサアユから毛糸を奪う。
「毛糸の端はココだ。サアユ、俺も編み方覚えたからまずはやってみようぜ?」
「いくわよ。まずは輪っかを作るのよ・・・こう!」
いきなり糸をブチりといわせて力任せに引っ張り切るサアユにハガネは「あ、これもう最初からダメだ」と思いながらも、サラノアの為に母親らしい手作りがしたいサアユを応援すべく手伝っていく。
試行錯誤の末、何とか靴下の形にはなったが、何処かで糸目を外したのか穴あきが目立ちサアユがガクリと肩を落とすのを見て、ハガネが編み物の本を読みながら、毛糸で花を作り、それを穴の開いた場所へ編み込んでいく。
「流石ね、ハガネ!可愛くなった」
サアユが嬉しそうに小さな靴下を持ってサラノアに穿かせてセイランに見せに行く。
セイランがそれを見てサアユにキスをしてサラノアのオデコにキスをする。
嬉しそうなセイランとサアユにハガネも白い歯を見せて笑って、まだ大量に残っている毛糸で色々作れるようになっておくかと、更に編み方を覚えた。
またある日は、サアユが相変わらずの髪の縛り方の雑さに、ハガネが髪の結い方を覚えサアユの髪を結い上げ、紐も質素だったので飾り紐の編み方を覚え飾り紐を作った。
それを見たセイランが椿の木を削り、櫛を作るとサアユにプレゼントして、結局はハガネがその櫛を管理して2週に1度椿の油に漬け込み、その櫛を乾かすとサアユの髪を梳かすのに使い、サアユの髪はしっとりとした綺麗な髪になっていった。
サアユが気に入っていた飾り紐は紫色の飾り紐で「セイランとサラノアの目の色」と言ってよく付けていた。
ハガネもなるべく飾り紐を作る時は紫を入れたりして作っていた。
それから2年の月日が流れて行った___。
サラノアの能力が判明し、サアユもセイランもハガネも言葉を失った。
サラノアは土・風・水・森の精霊の力を持ちながら、全ての精霊の力が打ち消し合い、力が使えるどころか、日に日に魔力を失っていっていた。
衰弱していくサラノアにしてあげられることは無く、魔力ポーションを与えては消費していくだけの日々が続いた。
そんな時に温泉大陸の【刻狼亭】がやっている温泉は魔力回復にも効くと噂を聞き、温泉大陸に向かった。
温泉大陸はハガネの故郷からも近く東国風の着物文化が流れ込んでいる温泉大陸をハガネは良い場所だと感じて過ごした。
今現在は使われなくなっている、朱里が【病魔】の時にポーション作りで使った間欠泉の枯れた洞窟。
あの間欠泉の場所でハガネは自信家で堂々としてる強気なサアユが声を上げて泣くのを慰めた。
セイランには吐露出来ない、サアユのサラノアに対しての不安と悲しみ、そして、サアユが唯一使える魔法の事。
サアユの最初にして最後の魔法。
自分の膨大な魔力を1度だけ他人へ譲る事が出来る魔法。
命と引き換えの魔法。
サラノアの為に使いたい。
それがサアユの願いでハガネだけが知っている事。
セイランはきっと『番』の意思が強すぎてサラノアよりサアユをとってしまい反対される事がサアユには怖かったし、ハガネにもそれは痛いほどよくわかっていた。
『番』の一番優先する事は番同士で子供は二の次。
サアユとハガネの2人だけの秘密。
いつかサラノアが魔力を枯渇させてしまった時にサアユは魔法を使うと言い、ハガネはその時に残されたセイランとサラノアに遺言を残すよう頼まれた。
結局、遺言は言えず、ハガネは今もサアユの遺言を胸に秘めたまま過ごしている。
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