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5章
出会い
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東国ツルガ湖山脈。
東国の【幻惑使い】として色々と裏の仕事をしながらも自分に自信をつけて来た20代の若者ハガネ。
若輩者ではあるけれど、自分の人生今が一番輝いてる?!とか思っていた・・・。
仕事も順調、有名にもなり始めた幸先の良い・・・順風満帆だった。
「こんなん無理に決まってんじゃねぇか!」
飲み屋で安酒を飲みながらぐてんぐてんに酔っ払ってハガネは飲み屋のテーブルを涙で濡らす。
自分の順風満帆の門出を祝う様に『番』のニオイを感じ取り、まさに俺、最強!と、思っていた。
しかし、ハガネの番は既に結婚して家庭があり、子供まで居た。
まだハガネに気付かない番は赤ん坊を抱き上げて幸せそうに笑っていた。
笑った番の顔が可愛くて足を1歩踏み込むと、赤ん坊の泣き声に沸き上がった気持ちはスッと、冷めて引いていく。
番同士がお互いに会ってしまえば、家庭を捨ててでも一緒になってしまう。
そんな事は割りとよくあり、家庭崩壊等よく聞く話だった。
番の略奪愛は番同士だけ盛り上がるだけで、残された家族は不幸でしかない。
ハガネの妹が17歳という若さでこの世を儚んだのも自分の夫が番を見つけて捨てられたからだ。
妹のお腹には子供も出来たばかりだったというのに・・・。
自分だけは家庭を壊すような真似はしたくないと、身を引き裂かれる思いで諦めた。
諦めて、でも、足は番の家へ向かってしまう、そして後悔ばかりが募る。
結局、安酒に逃げて毎日ぐてんぐてんに酔っ払って忘れるしかなかった。
自分の胸を占めているのは番の事ばかりだった。
このままではいけないと思っているのに、気持ちが抑えられない。
「はぁー・・・どうすりゃいいんだよ」
番同士が惹かれ合うとは聞いていたが、ここまで頭が番一色になるとは思っていなかった。
いっそのこと、【幻惑】でもかけて夫と子供を始末してしまおうか?
そんな事すら考えてしまう自分が酷く嫌だった。
「お兄ちゃん、最近よく見かけるけど嫌な事でもあったのかい?」
酔っ払いの男に話しかけられてハガネは自分の番の事を話した。
酔っ払いの男は笑いながらハガネの背中をバンバン叩きながら「若い時に番を諦めるのはきついよなー」と笑う。
ハガネにとっては笑い事ではない。
「良い事教えてやるよ。『主君』を見つけて主従契約をして忠誠心を誓っちまえば、番の事なんざ二の次になる。自分の仕えたい主を見つけてみるのも手だぜ」
そう言って男は笑いながらハガネから去っていった。
ハガネの財布を盗んで。
傷心の痛手を負っているハガネに容赦なかった酔っ払い男のスリ行為に踏んだり蹴ったりではあるが、ハガネは『主君』という物に掛けてみようか?と、思い始めていた。
高い授業料にはなったが、妹の様な不幸な者を増やすわけにはいかない。
ハガネは【幻術使い】として自分を上手く導いてくれる様な主人を主君にしたいと考え、前よりも精力的に【幻惑】での裏仕事を引き受けて行った。
月の明るい夜だった。
依頼を受けた屋敷に入り込み、宴会場で騒いでいる標的達に【幻惑】を掛け、ちょっとした契約書にサインを書かせるだけの簡単なお仕事のはずだった。
逆に罠に掛けられ、縄に縛られ依頼人の名前を吐かされそうになり、自分の命と依頼人どうすべきかハガネの心の中の天秤がグラついていた。
いい加減さには自信がある。
しかし、今自分は主君探しの最中で依頼人を裏切る様な仕事をしている奴だと主君に思われて、いつか主君を裏切ると思われたりして過ごすのは嫌だな・・・と、ハガネなりに真面目に考えた。
そして、ハガネの出した答えは、逃げよう!に行き当たる。
縄に縛られたまま中庭に逃げ込み、囲まれ、もう駄目かと思った時だった。
月明かりの中をまるで月の女神が目の前に現れたのか?!と、思う様な美女が中庭に風の様にフワッと舞い降り、ハガネを取り囲む屋敷の住人をえげつない音を立てながら、拳と足を使いなぎ倒していく女。
それは月の下で舞を踊るようだった。
効果音はえげつないドカバキドゴォという物ではあったが。
妖艶な美女は青みがかった黒髪を無造作に1本に縛ってはいるが、真ん中より左寄りになっていてバランスが悪かった。結んでいる紐も、長さがいい加減で結び方も解けそうなほどいい加減。
腰に巻いている腰巻も結び目がいい加減に固く結ばれている。
この美女は見た目は良いのに、自分以上にいい加減な奴かもしれない。と、ハガネは思った。
しかし、目は強い意思と自信に満ち溢れていた。
ハガネの縛られていた縄を解き、手を差し出して、美女は笑う。
「東国の【幻惑使い】ハガネ、私と一緒に来い」
この美女の自信満々な笑顔に、ハガネもつられて白い歯を見せて笑う。
美女の手を取ると女性だてらに力強く、全てを支配するような風格すら見えた。
この美女を自分の主にしよう。
きっと、この美女が自分を上手く使いこなしてくれる主君になるに違いない。
サアユと出会いハガネは主君というモノを得る。
まさか、サアユが初めからハガネに目を付け、接触を図ろうとしていたとは思っても居なかったが・・・。
東国の【幻惑使い】として色々と裏の仕事をしながらも自分に自信をつけて来た20代の若者ハガネ。
若輩者ではあるけれど、自分の人生今が一番輝いてる?!とか思っていた・・・。
仕事も順調、有名にもなり始めた幸先の良い・・・順風満帆だった。
「こんなん無理に決まってんじゃねぇか!」
飲み屋で安酒を飲みながらぐてんぐてんに酔っ払ってハガネは飲み屋のテーブルを涙で濡らす。
自分の順風満帆の門出を祝う様に『番』のニオイを感じ取り、まさに俺、最強!と、思っていた。
しかし、ハガネの番は既に結婚して家庭があり、子供まで居た。
まだハガネに気付かない番は赤ん坊を抱き上げて幸せそうに笑っていた。
笑った番の顔が可愛くて足を1歩踏み込むと、赤ん坊の泣き声に沸き上がった気持ちはスッと、冷めて引いていく。
番同士がお互いに会ってしまえば、家庭を捨ててでも一緒になってしまう。
そんな事は割りとよくあり、家庭崩壊等よく聞く話だった。
番の略奪愛は番同士だけ盛り上がるだけで、残された家族は不幸でしかない。
ハガネの妹が17歳という若さでこの世を儚んだのも自分の夫が番を見つけて捨てられたからだ。
妹のお腹には子供も出来たばかりだったというのに・・・。
自分だけは家庭を壊すような真似はしたくないと、身を引き裂かれる思いで諦めた。
諦めて、でも、足は番の家へ向かってしまう、そして後悔ばかりが募る。
結局、安酒に逃げて毎日ぐてんぐてんに酔っ払って忘れるしかなかった。
自分の胸を占めているのは番の事ばかりだった。
このままではいけないと思っているのに、気持ちが抑えられない。
「はぁー・・・どうすりゃいいんだよ」
番同士が惹かれ合うとは聞いていたが、ここまで頭が番一色になるとは思っていなかった。
いっそのこと、【幻惑】でもかけて夫と子供を始末してしまおうか?
そんな事すら考えてしまう自分が酷く嫌だった。
「お兄ちゃん、最近よく見かけるけど嫌な事でもあったのかい?」
酔っ払いの男に話しかけられてハガネは自分の番の事を話した。
酔っ払いの男は笑いながらハガネの背中をバンバン叩きながら「若い時に番を諦めるのはきついよなー」と笑う。
ハガネにとっては笑い事ではない。
「良い事教えてやるよ。『主君』を見つけて主従契約をして忠誠心を誓っちまえば、番の事なんざ二の次になる。自分の仕えたい主を見つけてみるのも手だぜ」
そう言って男は笑いながらハガネから去っていった。
ハガネの財布を盗んで。
傷心の痛手を負っているハガネに容赦なかった酔っ払い男のスリ行為に踏んだり蹴ったりではあるが、ハガネは『主君』という物に掛けてみようか?と、思い始めていた。
高い授業料にはなったが、妹の様な不幸な者を増やすわけにはいかない。
ハガネは【幻術使い】として自分を上手く導いてくれる様な主人を主君にしたいと考え、前よりも精力的に【幻惑】での裏仕事を引き受けて行った。
月の明るい夜だった。
依頼を受けた屋敷に入り込み、宴会場で騒いでいる標的達に【幻惑】を掛け、ちょっとした契約書にサインを書かせるだけの簡単なお仕事のはずだった。
逆に罠に掛けられ、縄に縛られ依頼人の名前を吐かされそうになり、自分の命と依頼人どうすべきかハガネの心の中の天秤がグラついていた。
いい加減さには自信がある。
しかし、今自分は主君探しの最中で依頼人を裏切る様な仕事をしている奴だと主君に思われて、いつか主君を裏切ると思われたりして過ごすのは嫌だな・・・と、ハガネなりに真面目に考えた。
そして、ハガネの出した答えは、逃げよう!に行き当たる。
縄に縛られたまま中庭に逃げ込み、囲まれ、もう駄目かと思った時だった。
月明かりの中をまるで月の女神が目の前に現れたのか?!と、思う様な美女が中庭に風の様にフワッと舞い降り、ハガネを取り囲む屋敷の住人をえげつない音を立てながら、拳と足を使いなぎ倒していく女。
それは月の下で舞を踊るようだった。
効果音はえげつないドカバキドゴォという物ではあったが。
妖艶な美女は青みがかった黒髪を無造作に1本に縛ってはいるが、真ん中より左寄りになっていてバランスが悪かった。結んでいる紐も、長さがいい加減で結び方も解けそうなほどいい加減。
腰に巻いている腰巻も結び目がいい加減に固く結ばれている。
この美女は見た目は良いのに、自分以上にいい加減な奴かもしれない。と、ハガネは思った。
しかし、目は強い意思と自信に満ち溢れていた。
ハガネの縛られていた縄を解き、手を差し出して、美女は笑う。
「東国の【幻惑使い】ハガネ、私と一緒に来い」
この美女の自信満々な笑顔に、ハガネもつられて白い歯を見せて笑う。
美女の手を取ると女性だてらに力強く、全てを支配するような風格すら見えた。
この美女を自分の主にしよう。
きっと、この美女が自分を上手く使いこなしてくれる主君になるに違いない。
サアユと出会いハガネは主君というモノを得る。
まさか、サアユが初めからハガネに目を付け、接触を図ろうとしていたとは思っても居なかったが・・・。
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