黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

文字の大きさ
上 下
80 / 960
5章

出会い

しおりを挟む
東国ツルガ湖山脈。

東国の【幻惑使い】として色々と裏の仕事をしながらも自分に自信をつけて来た20代の若者ハガネ。
若輩者ではあるけれど、自分の人生今が一番輝いてる?!とか思っていた・・・。

仕事も順調、有名にもなり始めた幸先の良い・・・順風満帆だった。

「こんなん無理に決まってんじゃねぇか!」

飲み屋で安酒を飲みながらぐてんぐてんに酔っ払ってハガネは飲み屋のテーブルを涙で濡らす。

自分の順風満帆の門出を祝う様に『番』のニオイを感じ取り、まさに俺、最強!と、思っていた。
しかし、ハガネの番は既に結婚して家庭があり、子供まで居た。

まだハガネに気付かない番は赤ん坊を抱き上げて幸せそうに笑っていた。
笑った番の顔が可愛くて足を1歩踏み込むと、赤ん坊の泣き声に沸き上がった気持ちはスッと、冷めて引いていく。

番同士がお互いに会ってしまえば、家庭を捨ててでも一緒になってしまう。
そんな事は割りとよくあり、家庭崩壊等よく聞く話だった。
番の略奪愛は番同士だけ盛り上がるだけで、残された家族は不幸でしかない。

ハガネの妹が17歳という若さでこの世を儚んだのも自分の夫が番を見つけて捨てられたからだ。
妹のお腹には子供も出来たばかりだったというのに・・・。

自分だけは家庭を壊すような真似はしたくないと、身を引き裂かれる思いで諦めた。
諦めて、でも、足は番の家へ向かってしまう、そして後悔ばかりが募る。

結局、安酒に逃げて毎日ぐてんぐてんに酔っ払って忘れるしかなかった。

自分の胸を占めているのは番の事ばかりだった。
このままではいけないと思っているのに、気持ちが抑えられない。

「はぁー・・・どうすりゃいいんだよ」

番同士が惹かれ合うとは聞いていたが、ここまで頭が番一色になるとは思っていなかった。
いっそのこと、【幻惑】でもかけて夫と子供を始末してしまおうか?
そんな事すら考えてしまう自分が酷く嫌だった。


「お兄ちゃん、最近よく見かけるけど嫌な事でもあったのかい?」

酔っ払いの男に話しかけられてハガネは自分の番の事を話した。
酔っ払いの男は笑いながらハガネの背中をバンバン叩きながら「若い時に番を諦めるのはきついよなー」と笑う。
ハガネにとっては笑い事ではない。

「良い事教えてやるよ。『主君』を見つけて主従契約をして忠誠心を誓っちまえば、番の事なんざ二の次になる。自分の仕えたい主を見つけてみるのも手だぜ」

そう言って男は笑いながらハガネから去っていった。
ハガネの財布を盗んで。


傷心の痛手を負っているハガネに容赦なかった酔っ払い男のスリ行為に踏んだり蹴ったりではあるが、ハガネは『主君』という物に掛けてみようか?と、思い始めていた。
高い授業料にはなったが、妹の様な不幸な者を増やすわけにはいかない。
ハガネは【幻術使い】として自分を上手く導いてくれる様な主人を主君にしたいと考え、前よりも精力的に【幻惑】での裏仕事を引き受けて行った。






月の明るい夜だった。

依頼を受けた屋敷に入り込み、宴会場で騒いでいる標的達ターゲットに【幻惑】を掛け、ちょっとした契約書にサインを書かせるだけの簡単なお仕事のはずだった。

逆に罠に掛けられ、縄に縛られ依頼人の名前を吐かされそうになり、自分の命と依頼人どうすべきかハガネの心の中の天秤がグラついていた。
いい加減さには自信がある。
しかし、今自分は主君探しの最中で依頼人を裏切る様な仕事をしている奴だと主君に思われて、いつか主君を裏切ると思われたりして過ごすのは嫌だな・・・と、ハガネなりに真面目に考えた。

そして、ハガネの出した答えは、逃げよう!に行き当たる。

縄に縛られたまま中庭に逃げ込み、囲まれ、もう駄目かと思った時だった。

月明かりの中をまるで月の女神が目の前に現れたのか?!と、思う様な美女が中庭に風の様にフワッと舞い降り、ハガネを取り囲む屋敷の住人をえげつない音を立てながら、拳と足を使いなぎ倒していく女。


それは月の下で舞を踊るようだった。
効果音はえげつないドカバキドゴォという物ではあったが。

妖艶な美女は青みがかった黒髪を無造作に1本に縛ってはいるが、真ん中より左寄りになっていてバランスが悪かった。結んでいる紐も、長さがいい加減で結び方も解けそうなほどいい加減。

腰に巻いている腰巻も結び目がいい加減に固く結ばれている。
この美女は見た目は良いのに、自分以上にいい加減な奴かもしれない。と、ハガネは思った。

しかし、目は強い意思と自信に満ち溢れていた。

ハガネの縛られていた縄を解き、手を差し出して、美女は笑う。


「東国の【幻惑使い】ハガネ、私と一緒に来い」


この美女の自信満々な笑顔に、ハガネもつられて白い歯を見せて笑う。
美女の手を取ると女性だてらに力強く、全てを支配するような風格すら見えた。

この美女を自分の主にしよう。
きっと、この美女が自分を上手く使いこなしてくれる主君になるに違いない。


サアユと出会いハガネは主君というモノを得る。


まさか、サアユが初めからハガネに目を付け、接触を図ろうとしていたとは思っても居なかったが・・・。
しおりを挟む
感想 1,004

あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する

アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。 しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。 理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で 政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。 そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた

黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」 幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。