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5章
サアユ
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水の都、アクアトーネ都市は海底移動都市である。
海の中を移動する不思議な都市。
都市の地下奥深くに、その女は繋がれていた。
青みがかった黒く長い髪に、氷の様な白を閉じ込めた瞳。
女性らしさを表す肉付きは男達を魅了する妖艶さを兼ねそろえていた。
綺麗な顔立ちも魅了する一つの要因でしかないが、彼女に接する事が出来るのはたった一人の年老いた召使だけだった。
サアユは生まれつき膨大な魔力を持っていた。
その膨大過ぎる魔力のせいでこのアクアトーネ都市の移動電力装置として地下に繋がれ魔力を吸い取られて生きている。
元は王家の人間だったが、王子が村娘と駆け落ちして生まれた子供なので王家の汚点であり、存在の無いモノとして扱われている。
サアユは自分の魔力の高さに自分ではコントロールが効かず、魔法を使うことが出来ない。
どれだけ魔力を吸い取られても魔力が枯渇したこともなかった。
外の世界も何も知らず、子供の頃から地下だけしか知らない。
そんなサアユが唯一出来る事は体術を極める事だけ。
何で体術なんだ!!と、後にハガネが喚くことになるが、魔法すら扱えず、武器は持つ事を許されないサアユが出来る自分を守る術は体一つで出来る体術だけだった。
その日のサアユはいつもの様に首の後ろから魔力を吸い取る管に繋がれながら、サアユの世話は子供の頃からしている年老いた召使いを待っていた。
「今日のご飯まだかしら?遅い・・・」
ぐぅうううぅぅぅ~・・・。
腹の虫の大合唱にサアユが簡素なベッドに横になると、グラグラと部屋が揺れ、天井から石がボロボロと落下してきた事に驚いてベッドから飛び起きる。
大きな音が何度もして、天井は崩れていくばかり。
さすがのサアユもこれ以上はここに居ては死んでしまう!と、慌てて大声で助けを呼ぶ。
「誰か居ないの?!私ここに居るんだけどー!!!助けてー!!」
叫ぶサアユを助けに来る足音も無く、崩壊だけが激しくなる。
元々、魔力を吸い取られて一生ここに縛られて生きていく事が定められた身ではあるが、サアユは何というかたくましい娘だった。
「ざっけんなー!私が居ないと困るのはお前等でしょー!助けに来いって言ってんのよ!!!」
ガンガンと鉄の扉を手で叩き、荒れるサアユはついに足をトントンとリズムをつけて、扉に蹴りを放つ。
ガコン…と、鉄の扉が崩壊と共に緩んでいたせいか開くと、サアユが意気揚々と出ようとしたが、首の後ろから繋がれている管がそれ以上は伸びずに、何処にも行くことはできなかった。
魔力を取られて生きていくだけの一生がここで幕を閉じるのか?サアユが怒りを胸に抱きながら管をガンガンと拳で叩きまわる。
魔法で出来た管は生身の体では引きちぎる事すら出来ない。
何度も挑戦しては召使の老人に呆れられたが、それでも自由が欲しかった。
自分が普通の人間と同じ扱いを受けていないのは知っているし、いつかは使い捨てられることも分かっていた。
だから必死に自分を守る手立てを探しいつかここを出て行こうと必死にあがいていた。
簡素なベッドが天井の瓦礫に潰され、いよいよ無理かと諦めた時、天井から白い男が落ちて来た。
シルバーホワイトの髪にアメジスト色の瞳をした神秘的な雰囲気の男だった。
「ああ、やっと見つけた。地下に居たとは思わなかったな」
男は嬉しそうに目を細めてサアユを抱きしめ、首の後ろの管を握りつぶして砕いた。
「え・・・?その管、私、散々叩きまわったのに・・・嘘でしょ?」
男はニッと笑ってサアユを抱き上げると瓦礫を足場にヒョイヒョイと上にあがっていく。
サアユの初めて見る地下以外の場所が目の前に広がっていた。
大勢の兵士達が武器を持ち、破壊された都市は荒れ果てて煙を出していたが、石造りの白い建物が立ち並び、街の至る所に白い水晶で出来たアーチが設置されていた。
外側はガラスのドームの様な物に覆われていて海の外は太陽に反射され綺麗でサアユは自分の知らない綺麗なモノに知らずと涙が零れていた。
「こんな酷い状態の街にしてすまないな。泣かないでくれ」
男が申し訳なさそうに言うが、サアユは首を振る。
「違うわ。私、初めて外に出たの。すごく外は綺麗がいっぱいね。本で海を見た事はあったけど、すごく、綺麗だわ」
サアユの世界はいつだって本からの知識で本物は見た事がない物ばかり。
「本当に綺麗」と呟いて涙を溢れさせるサアユに男が物悲しい目を向けるが、サアユはそれに気づかずにドームの天井の太陽の光に手を伸ばして見つめている。
「セイラン王そろそろ脱出しますよ!」
黒い騎士服の男が白い男にそう言い、男はサアユに笑いかけてから、騎士に「全軍撤退!」と声を上げ、兵士達と共に巨大な白いクジラ、ホエールデビルに乗り込みアクアトーネ都市を脱出する。
初めて地下から出て、街を出て、海の外に出た。
サアユの初めて尽くしの1日だった。
サアユを連れ帰った白い男はセイランという名前の男で、水の国と戦争をしている森の国の王だった。
水の国と森の国は精霊族の国でサアユは自分が精霊族だと初めて知った。
男が言うには、水の国の王の孫がサアユになるらしい。
王の息子、つまりサアユの父親である王子はセイランが手にかけて殺してしまった。
何故なら、セイランの父親を水の国の王が殺した為に報復が必要だったから。
サアユ以外の後継者もおらず、水の国は今頃サアユを巡って大変な騒ぎになっているだろうとセイランは楽しそうに話す。
サアユは用意された食事をもりもりと口に運びながらセイランの話を聞く。
サアユにとっては王家の話も父親の殺されたという話も自分の世界には今まで無いモノだったので、関係も無ければ感情もない。
悲しみも怒りも何も。
そんなモノより、外に出れた喜びと、冷めてない温かい食事は美味しい。その事ぐらいしか頭には無い。
「サアユ、口の周りにソースがついてるぞ」
ペロリと口元をセイランに舐められ、サアユは少しセイランに距離を取る。
人との距離感も分からなければ、こうして召使の老人以外と話すのも初めての事で今更ながら、自分はこの男についてきて良かったのか?と、思考が回ってくる。
普通に考えたら、敵同士になるのではないだろうか?
うーん。と、サアユは考えるが、あまりにも自分には関係ない話に見えて考えは上手くまとまらない。
「セイラン王!そんな敵の女に情を移さないでください!そいつは人質です!」
黒い騎士服の男がセイランに声を上げるとセイランは騎士を面倒くさそうに見てから、サアユの長い髪を手に取り口元に持って行き、髪に口づけを落としてサアユに笑いかける。
「サアユ、心配は要らない。私は君を害したりはしない」
「いえ、そこの騎士の言う通り敵なのでしょう?敵に情を移すと身を亡ぼすって本で読んだわ。私もあそこから出してもらった恩を仇で返すのは心苦しいけど、人質になって自由が無くなるのは嫌だから精一杯抵抗して自由を勝ち取るわ」
サアユは席を立つと身構え、毎日練習していた体術の型をとる。
セイランは少しだけ驚いた顔をした後に苦笑して席を立ちサアユに手を差し伸べる。
「私は君の『番』だから、君を傷付けないし、守ると約束するよ」
「残念だけど、私は何も知らないから何が本当か嘘かもわからない。だから、勝ち取って自分の道は自分で決めるのよ」
サアユがセイランに後ろ回し蹴りを繰り出すと、セイランはサアユの片足を掴み上げ、そのまま持ち上げてサアユを抱き上げる。
片足を上げたまま抱き上げられたサアユは足を動かすが、セイランに足を余計上にあげられて、足の付け根が悲鳴をあげて、大人しく抵抗をやめる。
「早速、嘘ね!私を傷付けないんじゃなかったの?足、放して。痛いわよ?」
サアユが嬉しそうに「嘘ね!」と言うのでセイランは思わず声を上げて笑いだす。
笑いだしたセイランにサアユは変な人ね?と首をかしげる。
サアユにとって初めて「嘘」という物の体験したのだから、はしゃぐなというのが無理なのである。
人と隔離されすぎて思考のズレたサアユ。
そんなサアユと『番』の繋がりを感じ恋に落ちたのがセイラン。
ハガネが2人に出会った時、既に2人はお互いに『番』同士として寄り添っていたから、こんな出会いをしていたと聞いた時は少し意外だった。
ハガネが知る限り2人は仲の良い夫婦だった。
海の中を移動する不思議な都市。
都市の地下奥深くに、その女は繋がれていた。
青みがかった黒く長い髪に、氷の様な白を閉じ込めた瞳。
女性らしさを表す肉付きは男達を魅了する妖艶さを兼ねそろえていた。
綺麗な顔立ちも魅了する一つの要因でしかないが、彼女に接する事が出来るのはたった一人の年老いた召使だけだった。
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外の世界も何も知らず、子供の頃から地下だけしか知らない。
そんなサアユが唯一出来る事は体術を極める事だけ。
何で体術なんだ!!と、後にハガネが喚くことになるが、魔法すら扱えず、武器は持つ事を許されないサアユが出来る自分を守る術は体一つで出来る体術だけだった。
その日のサアユはいつもの様に首の後ろから魔力を吸い取る管に繋がれながら、サアユの世話は子供の頃からしている年老いた召使いを待っていた。
「今日のご飯まだかしら?遅い・・・」
ぐぅうううぅぅぅ~・・・。
腹の虫の大合唱にサアユが簡素なベッドに横になると、グラグラと部屋が揺れ、天井から石がボロボロと落下してきた事に驚いてベッドから飛び起きる。
大きな音が何度もして、天井は崩れていくばかり。
さすがのサアユもこれ以上はここに居ては死んでしまう!と、慌てて大声で助けを呼ぶ。
「誰か居ないの?!私ここに居るんだけどー!!!助けてー!!」
叫ぶサアユを助けに来る足音も無く、崩壊だけが激しくなる。
元々、魔力を吸い取られて一生ここに縛られて生きていく事が定められた身ではあるが、サアユは何というかたくましい娘だった。
「ざっけんなー!私が居ないと困るのはお前等でしょー!助けに来いって言ってんのよ!!!」
ガンガンと鉄の扉を手で叩き、荒れるサアユはついに足をトントンとリズムをつけて、扉に蹴りを放つ。
ガコン…と、鉄の扉が崩壊と共に緩んでいたせいか開くと、サアユが意気揚々と出ようとしたが、首の後ろから繋がれている管がそれ以上は伸びずに、何処にも行くことはできなかった。
魔力を取られて生きていくだけの一生がここで幕を閉じるのか?サアユが怒りを胸に抱きながら管をガンガンと拳で叩きまわる。
魔法で出来た管は生身の体では引きちぎる事すら出来ない。
何度も挑戦しては召使の老人に呆れられたが、それでも自由が欲しかった。
自分が普通の人間と同じ扱いを受けていないのは知っているし、いつかは使い捨てられることも分かっていた。
だから必死に自分を守る手立てを探しいつかここを出て行こうと必死にあがいていた。
簡素なベッドが天井の瓦礫に潰され、いよいよ無理かと諦めた時、天井から白い男が落ちて来た。
シルバーホワイトの髪にアメジスト色の瞳をした神秘的な雰囲気の男だった。
「ああ、やっと見つけた。地下に居たとは思わなかったな」
男は嬉しそうに目を細めてサアユを抱きしめ、首の後ろの管を握りつぶして砕いた。
「え・・・?その管、私、散々叩きまわったのに・・・嘘でしょ?」
男はニッと笑ってサアユを抱き上げると瓦礫を足場にヒョイヒョイと上にあがっていく。
サアユの初めて見る地下以外の場所が目の前に広がっていた。
大勢の兵士達が武器を持ち、破壊された都市は荒れ果てて煙を出していたが、石造りの白い建物が立ち並び、街の至る所に白い水晶で出来たアーチが設置されていた。
外側はガラスのドームの様な物に覆われていて海の外は太陽に反射され綺麗でサアユは自分の知らない綺麗なモノに知らずと涙が零れていた。
「こんな酷い状態の街にしてすまないな。泣かないでくれ」
男が申し訳なさそうに言うが、サアユは首を振る。
「違うわ。私、初めて外に出たの。すごく外は綺麗がいっぱいね。本で海を見た事はあったけど、すごく、綺麗だわ」
サアユの世界はいつだって本からの知識で本物は見た事がない物ばかり。
「本当に綺麗」と呟いて涙を溢れさせるサアユに男が物悲しい目を向けるが、サアユはそれに気づかずにドームの天井の太陽の光に手を伸ばして見つめている。
「セイラン王そろそろ脱出しますよ!」
黒い騎士服の男が白い男にそう言い、男はサアユに笑いかけてから、騎士に「全軍撤退!」と声を上げ、兵士達と共に巨大な白いクジラ、ホエールデビルに乗り込みアクアトーネ都市を脱出する。
初めて地下から出て、街を出て、海の外に出た。
サアユの初めて尽くしの1日だった。
サアユを連れ帰った白い男はセイランという名前の男で、水の国と戦争をしている森の国の王だった。
水の国と森の国は精霊族の国でサアユは自分が精霊族だと初めて知った。
男が言うには、水の国の王の孫がサアユになるらしい。
王の息子、つまりサアユの父親である王子はセイランが手にかけて殺してしまった。
何故なら、セイランの父親を水の国の王が殺した為に報復が必要だったから。
サアユ以外の後継者もおらず、水の国は今頃サアユを巡って大変な騒ぎになっているだろうとセイランは楽しそうに話す。
サアユは用意された食事をもりもりと口に運びながらセイランの話を聞く。
サアユにとっては王家の話も父親の殺されたという話も自分の世界には今まで無いモノだったので、関係も無ければ感情もない。
悲しみも怒りも何も。
そんなモノより、外に出れた喜びと、冷めてない温かい食事は美味しい。その事ぐらいしか頭には無い。
「サアユ、口の周りにソースがついてるぞ」
ペロリと口元をセイランに舐められ、サアユは少しセイランに距離を取る。
人との距離感も分からなければ、こうして召使の老人以外と話すのも初めての事で今更ながら、自分はこの男についてきて良かったのか?と、思考が回ってくる。
普通に考えたら、敵同士になるのではないだろうか?
うーん。と、サアユは考えるが、あまりにも自分には関係ない話に見えて考えは上手くまとまらない。
「セイラン王!そんな敵の女に情を移さないでください!そいつは人質です!」
黒い騎士服の男がセイランに声を上げるとセイランは騎士を面倒くさそうに見てから、サアユの長い髪を手に取り口元に持って行き、髪に口づけを落としてサアユに笑いかける。
「サアユ、心配は要らない。私は君を害したりはしない」
「いえ、そこの騎士の言う通り敵なのでしょう?敵に情を移すと身を亡ぼすって本で読んだわ。私もあそこから出してもらった恩を仇で返すのは心苦しいけど、人質になって自由が無くなるのは嫌だから精一杯抵抗して自由を勝ち取るわ」
サアユは席を立つと身構え、毎日練習していた体術の型をとる。
セイランは少しだけ驚いた顔をした後に苦笑して席を立ちサアユに手を差し伸べる。
「私は君の『番』だから、君を傷付けないし、守ると約束するよ」
「残念だけど、私は何も知らないから何が本当か嘘かもわからない。だから、勝ち取って自分の道は自分で決めるのよ」
サアユがセイランに後ろ回し蹴りを繰り出すと、セイランはサアユの片足を掴み上げ、そのまま持ち上げてサアユを抱き上げる。
片足を上げたまま抱き上げられたサアユは足を動かすが、セイランに足を余計上にあげられて、足の付け根が悲鳴をあげて、大人しく抵抗をやめる。
「早速、嘘ね!私を傷付けないんじゃなかったの?足、放して。痛いわよ?」
サアユが嬉しそうに「嘘ね!」と言うのでセイランは思わず声を上げて笑いだす。
笑いだしたセイランにサアユは変な人ね?と首をかしげる。
サアユにとって初めて「嘘」という物の体験したのだから、はしゃぐなというのが無理なのである。
人と隔離されすぎて思考のズレたサアユ。
そんなサアユと『番』の繋がりを感じ恋に落ちたのがセイラン。
ハガネが2人に出会った時、既に2人はお互いに『番』同士として寄り添っていたから、こんな出会いをしていたと聞いた時は少し意外だった。
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