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5章
お子様なお客様
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「お前遊んでやるぞ!おれについて来い」
朱里の背丈と同じくらいの少年に朱里は声を掛けられ首を振る。
「私、忙しいの!いい加減にして!」
朱里が少年に怒りながら歩き出すと、後ろを歩いていたアナグマ姿のハガネが「シッシッ」と声を出して少年を手で払う。
リネンワンピースに前掛けをして三角巾をした朱里はどう見ても【刻狼亭】の下っ端見習いの従業員にしか見えないが、子供にとっては遊び相手にしか見えていないらしく、しつこく遊びに誘ってくる。
褐色の肌をしていて、ひと縛りにされた長い金髪にサファイアブルーの瞳。
そして金髪の頭に白い丸い耳、尻尾は長く白に灰色の縞模様がある少年。
着ている服はシルクのブラウスに青いズボンに絹の赤い腰巻をつけている。
見るからに貴族かお金持ちの少年という風体。
おそらく背丈は一緒ぐらいだが、甲高い声から少年は朱里より年下だと思われる。
朱里の腕を強引に引っ張り、ハガネに飛び膝蹴りをくらわされたのだが・・・それでもしつこく追ってくる。
とても厄介で困った小さなお客さんなのだ。
「ここから先は従業員しか入れないから自分の部屋に戻りなさい!」
朱里が調理場の入り口で少年に声を大きめにして警告すると少年は目を輝かせて朱里と一緒に調理場に入ろうとしてきて、中に居た料理人が少年を摘まみ上げて料理場から追い出した。
「ありがとう。しつこくて困ってたの」
「いいんですよ。もう準備は出来てますから頑張って下さい」
「はい。頑張ります」
不愛想な料理人の目が優しく朱里に向けられ朱里が笑顔で答えて調理場の奥にある一角でミッカの箱とハーブの籠に囲まれたアルビーの元へ行く。
「アカリ遅いよー。私一人でやるのかと思ったよ」
「ごめんねアルビー、小さいお客さんに絡まれてたの」
手をサッと水で洗い流し、アルビーと朱里が作業を始めると、ハガネが人型に戻り朱里からミッカの皮が渡されるまで待つ。
ミッカを搾り機にセットすると搾り機がミッカを二手に割り、それを手で押して果汁を搾り取ると、皮を籠に入れ、その皮をハガネが細かく切る。
いつもの工程でもう手慣れた作業風景に3人は黙々とやっていく。
「そう言えば、療養に来てたお客さんが『復興祈願ジュース』飲んで体の悪い所が一気に無くなったとかで大量に買い占めたいって騒いでたらしいよ」
「そうなの?でもコレ日持ちする物じゃないから買い占めても駄目なのにね」
アルビーがハーブ水をかき混ぜながら言うと朱里がハーブ水に食花を付け足し苦笑いする。
「欲の皮が張った奴はいるよなぁ」
笑って言いつつハガネが鍋に刻んだ皮を入れて、蜂蜜を用意しつつジャム用の瓶に手を伸ばすと、瓶がハガネに手渡される。
「おぅ、ありがー・・・って、お前ココは立ち入り禁止だぜ」
いつの間に入り込んだのか先程の少年が調理場に入りハガネに瓶を手渡していた。
ハガネが少年を迷惑そうに見ると、少年は『復興祈願ジュース』のガラス瓶を見つけると朱里の方を見る。
「お前が【刻狼亭】の女将なのか?」
少年の言葉に朱里は一瞬作業の手が止まるが、直ぐに作業を続ける。
「違います。女将さんは本館の料亭です。わかったらココから出て行って下さい。ここは遊び場じゃないの」
朱里が少年にそう言い、少年にお帰りはあちらと指をさすと少年は朱里の指を手に取り、ズイッと顔を近づける。
マジマジと朱里の顔を見て少年が鼻をヒクつかせて朱里のニオイを嗅ぐ。
「黒目、黒髪に白い肌。『復興祈願ジュース』付け加え【刻狼亭】の旦那のニオイがしてる。言い逃れは出来ないぞ。お前が女将だ」
まるで小さな名探偵が犯人を追い詰める様な言い草に朱里は「はいそうです」とでも言うと思うのかしら?と思いながら少年の手を振り払うとミッカの皮を持ち、ミッカの皮を少年の鼻先で二つに折り曲げると少年が目と鼻を押さえて「うわーっ」と声を上げる。
皮の汁を飛ばすという目つぶし攻撃にハガネとアルビーが自分達の目を押さえて少年に憐れむような視線を向ける。
「ハガネ、お客さんを追い出して」
ハガネが少年を摘まみ上げ、調理場の外へ追い出すと褐色の肌をした男が2人廊下から走ってきて少年を1人が庇い、もう1人がハガネに飛び掛かると、ハガネが飛び掛かってきた男に足を引っ掛けてサッと避ける。
「危ねぇな。別に何もしてねぇーって、俺は」
男は直ぐに起き上がりハガネに襲い掛かるとハガネはうっすらと糸目を開けるが、直ぐにいつもの表情でのらりくらりと攻撃を避けていく。
「おいおい。お客さん人の話は聞こうぜー?」
「我が主に手を掛けた無礼者めがー!」
聞く耳無しの男にハガネがウンザリした顔で攻撃してくる男に足を何度も引っ掛けては転ばして避けていく。
「ダリドア!手を貸せ!」
男がもう一人の男に声を掛けるともう一人の男が腰に帯刀していた剣を引き抜く。
ハガネが片眉を上げて調理場の方向を見ると料理人達が長い麺棒を手にハガネの方へ頷きかける。奥では朱里がミッカ絞りをしていてまだ騒ぎに気づいていない様子で楽しそうにアルビーと作業をしている。
不愛想な料理人が長い麺棒を持ってハガネの横に立つとハガネが白い歯を見せて笑う。
「悪いな。アカリが気付く前に頼むわ」
「ああ。【刻狼亭】で武器を取り出した時点で殲滅対象だ」
剣を抜いた男に調理人が麺棒で応戦を始めると、少年が慌てて止めに掛かる。
「エスターク!ダリドア!やめろ!」
ガコンといい音がして剣がくるくると回りながら男の手から離れて天井に刺さると、調理人が麺棒で男の手を容赦なく叩きまわって、少年が必死に料理人に止めに掛かる事になった。
朱里の背丈と同じくらいの少年に朱里は声を掛けられ首を振る。
「私、忙しいの!いい加減にして!」
朱里が少年に怒りながら歩き出すと、後ろを歩いていたアナグマ姿のハガネが「シッシッ」と声を出して少年を手で払う。
リネンワンピースに前掛けをして三角巾をした朱里はどう見ても【刻狼亭】の下っ端見習いの従業員にしか見えないが、子供にとっては遊び相手にしか見えていないらしく、しつこく遊びに誘ってくる。
褐色の肌をしていて、ひと縛りにされた長い金髪にサファイアブルーの瞳。
そして金髪の頭に白い丸い耳、尻尾は長く白に灰色の縞模様がある少年。
着ている服はシルクのブラウスに青いズボンに絹の赤い腰巻をつけている。
見るからに貴族かお金持ちの少年という風体。
おそらく背丈は一緒ぐらいだが、甲高い声から少年は朱里より年下だと思われる。
朱里の腕を強引に引っ張り、ハガネに飛び膝蹴りをくらわされたのだが・・・それでもしつこく追ってくる。
とても厄介で困った小さなお客さんなのだ。
「ここから先は従業員しか入れないから自分の部屋に戻りなさい!」
朱里が調理場の入り口で少年に声を大きめにして警告すると少年は目を輝かせて朱里と一緒に調理場に入ろうとしてきて、中に居た料理人が少年を摘まみ上げて料理場から追い出した。
「ありがとう。しつこくて困ってたの」
「いいんですよ。もう準備は出来てますから頑張って下さい」
「はい。頑張ります」
不愛想な料理人の目が優しく朱里に向けられ朱里が笑顔で答えて調理場の奥にある一角でミッカの箱とハーブの籠に囲まれたアルビーの元へ行く。
「アカリ遅いよー。私一人でやるのかと思ったよ」
「ごめんねアルビー、小さいお客さんに絡まれてたの」
手をサッと水で洗い流し、アルビーと朱里が作業を始めると、ハガネが人型に戻り朱里からミッカの皮が渡されるまで待つ。
ミッカを搾り機にセットすると搾り機がミッカを二手に割り、それを手で押して果汁を搾り取ると、皮を籠に入れ、その皮をハガネが細かく切る。
いつもの工程でもう手慣れた作業風景に3人は黙々とやっていく。
「そう言えば、療養に来てたお客さんが『復興祈願ジュース』飲んで体の悪い所が一気に無くなったとかで大量に買い占めたいって騒いでたらしいよ」
「そうなの?でもコレ日持ちする物じゃないから買い占めても駄目なのにね」
アルビーがハーブ水をかき混ぜながら言うと朱里がハーブ水に食花を付け足し苦笑いする。
「欲の皮が張った奴はいるよなぁ」
笑って言いつつハガネが鍋に刻んだ皮を入れて、蜂蜜を用意しつつジャム用の瓶に手を伸ばすと、瓶がハガネに手渡される。
「おぅ、ありがー・・・って、お前ココは立ち入り禁止だぜ」
いつの間に入り込んだのか先程の少年が調理場に入りハガネに瓶を手渡していた。
ハガネが少年を迷惑そうに見ると、少年は『復興祈願ジュース』のガラス瓶を見つけると朱里の方を見る。
「お前が【刻狼亭】の女将なのか?」
少年の言葉に朱里は一瞬作業の手が止まるが、直ぐに作業を続ける。
「違います。女将さんは本館の料亭です。わかったらココから出て行って下さい。ここは遊び場じゃないの」
朱里が少年にそう言い、少年にお帰りはあちらと指をさすと少年は朱里の指を手に取り、ズイッと顔を近づける。
マジマジと朱里の顔を見て少年が鼻をヒクつかせて朱里のニオイを嗅ぐ。
「黒目、黒髪に白い肌。『復興祈願ジュース』付け加え【刻狼亭】の旦那のニオイがしてる。言い逃れは出来ないぞ。お前が女将だ」
まるで小さな名探偵が犯人を追い詰める様な言い草に朱里は「はいそうです」とでも言うと思うのかしら?と思いながら少年の手を振り払うとミッカの皮を持ち、ミッカの皮を少年の鼻先で二つに折り曲げると少年が目と鼻を押さえて「うわーっ」と声を上げる。
皮の汁を飛ばすという目つぶし攻撃にハガネとアルビーが自分達の目を押さえて少年に憐れむような視線を向ける。
「ハガネ、お客さんを追い出して」
ハガネが少年を摘まみ上げ、調理場の外へ追い出すと褐色の肌をした男が2人廊下から走ってきて少年を1人が庇い、もう1人がハガネに飛び掛かると、ハガネが飛び掛かってきた男に足を引っ掛けてサッと避ける。
「危ねぇな。別に何もしてねぇーって、俺は」
男は直ぐに起き上がりハガネに襲い掛かるとハガネはうっすらと糸目を開けるが、直ぐにいつもの表情でのらりくらりと攻撃を避けていく。
「おいおい。お客さん人の話は聞こうぜー?」
「我が主に手を掛けた無礼者めがー!」
聞く耳無しの男にハガネがウンザリした顔で攻撃してくる男に足を何度も引っ掛けては転ばして避けていく。
「ダリドア!手を貸せ!」
男がもう一人の男に声を掛けるともう一人の男が腰に帯刀していた剣を引き抜く。
ハガネが片眉を上げて調理場の方向を見ると料理人達が長い麺棒を手にハガネの方へ頷きかける。奥では朱里がミッカ絞りをしていてまだ騒ぎに気づいていない様子で楽しそうにアルビーと作業をしている。
不愛想な料理人が長い麺棒を持ってハガネの横に立つとハガネが白い歯を見せて笑う。
「悪いな。アカリが気付く前に頼むわ」
「ああ。【刻狼亭】で武器を取り出した時点で殲滅対象だ」
剣を抜いた男に調理人が麺棒で応戦を始めると、少年が慌てて止めに掛かる。
「エスターク!ダリドア!やめろ!」
ガコンといい音がして剣がくるくると回りながら男の手から離れて天井に刺さると、調理人が麺棒で男の手を容赦なく叩きまわって、少年が必死に料理人に止めに掛かる事になった。
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