黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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5章

復興ジュース

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【病魔】が終焉を迎え、世界に安全宣言が出されると徐々に日常は戻り始めていた。

温泉大陸の人々も客は少ないながらも戻り始め、忙しそうに毎日を過ごしている。
大陸側の難民は大陸側の政府が介入し、自分達の国へ戻っていった。

【刻狼亭】の別館の温泉宿では【病魔】で弱った体を癒すための療養目的の客が多く宿泊していた。

大橋が未だ工事中なのもあって、船での客ばかりなので一般客より格上の上客に従業員もいつも以上にミスをしないよう気を配り動いている。


「この温泉で『復興祈願ジュース』という飲み物があると聞いたのだけど、あるかしら?」

温泉宿の浴衣を着た客に声を掛けられ従業員が笑顔で答える。

「お申し付けくださればお部屋にお持ちいたしますよ」

客が嬉しそうに従業員に部屋番号を伝え部屋に戻っていく。


従業員が急いで調理場に駆け込むと、調理場の片隅でオレンジ色のミカンに似た果物を搾り機にかけているクリーム色のパフワンピースに頭には三角巾をした背の小さい少女に声を掛ける。


「若女将、ジュースの注文また入りましたよ」

「はーい。出来上がったのが氷室に入っているので持って行ってくださーい」


若女将の朱里が作業をしながら従業員に答え、せっせっと搾り機から果汁を取り出し、ハーブ水と食花の入った大きなガラス瓶に入れて、横でチョコンと座っているアルビーが魔法で混ぜ込み、【刻狼】と彫られたガラス瓶に詰込み蓋をしていく。


「アルビー、ミッカの実が少なくなったから裏から取ってくるね」

「うん。でも、アカリ重いから無理しないでね」


朱里が調理場から裏手にある倉庫からミカンに似たミッカの実の入った木箱を持ち上げると重さにヨロめいて2,3歩後ろに足が動き、尻もちを付きそうになったところで後ろからミッカの木箱を支える手が伸びる。

「アカリ、俺が持って行くから無茶すんな」

ハガネが朱里からミッカの木箱を取り上げて軽々と調理場に持って行く。

「ハガネありがとー」

朱里がハガネにお礼を言いながら調理場に戻ると、従業員が追加の注文を持ってきていた。

「随分、『復興祈願ジュース』反響あるみたいだな」

「うん。売り上げを復興支援金として他国にも送ってるから、支援したい人も喜ぶし、支援金を送られた所も喜ぶし、お互い嬉しい・・・みたいな?そんな感じで話題になってるみたいなの」

「でもよ、何でジュースのガラス瓶を飲んだ奴に渡してんだ?コップに出して瓶回収した方がよくねぇか?」

「ああ、それは自分が「刻狼亭で支援金出したよ」って証明にもなるし、話題にもなるじゃない?だからルーファスにお願いしてガラス瓶はデザインを少し凝った物にしてもらったの。まぁお値段は普通のジュースよりお高いけど」

ハガネは「ふーん」と言いながらミッカの実を台に乗せて朱里の手伝いを始める。

「私は効能も関係してると思うけどな」

アルビーが出来上がったジュースの瓶を氷室に入れながら首を揺らす。

「あー・・・効能はやっぱり【聖域】効果出ちゃうんだよねー。ミッカ触ったりしただけなんだけどね」

「アカリの【聖域】効果入りのジュースならもう少し高値でも良いと私は思うけど」

アルビーが朱里の横にチョコチョコ歩いてきて、ぺたんと座ると手伝いを始める。

「お金は使った分だけ採算取れればいいの。まぁ人件費代は出せないのが申し訳ないけど、こういうのは気持ちだからね」

「アカリの世界の支援って面白いよな。そういうの」

「そう?この世界じゃ違うの?」

ハガネに朱里が首をかしげるとハガネは片眼を開いて朱里を見ると白い歯を見せて笑う。

「こっちじゃ「お前の国に支援してやるから見返り寄越せよ」って感じだな。無償で何か支援っていうのは自国の民ぐらいにしかやらねぇよ」

「まぁ、私の世界もそういうのはあるけど、こういった天災みたいな事は少し余裕のある国が支援を無償でして、いつかその支援をした国が困ったら「あの時のお礼だ!支援にきたよ!」って感じで助け合いが基本かな?」

「なんだか平和そうな世界だな」

ハガネがミッカの絞った後の皮を素早く切り鍋に入れていく。
この皮部分は蜂蜜と煮込んでジャム状にして温泉宿のお茶の時間等に付け合わせで出している。
希望すれば朝食のパンにもついたりと、余すことなくミッカを使い切っている感じだ。

朱里が刃物を怖がる為、ハガネは手に隠せる小さな刃物で手伝い、朱里の目に刃物を見せない様に動くので自然と目にもとまらぬ速さで切る様になってしまった。

ある意味優秀な従者である。
たまにサボるのがたまに傷ではあるけれど。


「今日はあとどの位作るの?アカリ」

「アルビー疲れちゃった?とりあえずこの箱分は作ろうと思ってるよ」

「疲れてはいないけど、アカリの体力はどうなの?疲れてない?」

「平気だよ。製薬は睡眠薬作ってから怒られて出入り禁止だし、暇してるとギルさんに追われるし、ルーファスは忙しくてお休み無いし、皆の邪魔にならない様にココで復興ジュース作ってるしかやる事ないしね。体力有り余ってるよ」

朱里がガクリと頭を下げると、アルビーも頭をガクリと落とす。
朱里とアルビーはルーファスの叔父ギルにとにかく構われまくって「お仕事中」と銘打って構われない様にしている。


「ようやく俺ら従業員も通常業務に戻り始めてギルが邪魔出来なくなってるからなぁ。お前ら二人しか遊び相手いねぇもんなぁ」


うぐっ・・・と、2人が言葉に詰まりハガネを睨むとハガネはカラカラ笑って朱里とアルビーを揶揄からかう。


今のところギルと互角にやり合ったのはテンぐらいだった。
テンの私物と化している小鬼をギルが追い回し、テンにギルが危ないところまで追い詰められルーファス達が慌てて仕事を放り出して止めに飛んできた。


朱里は睡眠薬を使い倒せたのは1度だけで次は逆に自分が睡眠薬をお見舞いされた。
起きた時には2日過ぎていて、ルーファスにギルがガッツリ怒られアルビーにも口を聞いてもらえず、枯れた花の様になっていた。

そのせいで製薬で睡眠薬や危ない物を作らない様に出入り禁止させられたのもある。


「ハガネはギルに追い駆けられなくていいよね」

「ハガネを追い駆ければいいのに」

朱里とアルビーが文句を言えばハガネが指を1本左右に振り、口でチッチッチッと言って笑う。

「俺は追えと言われりゃ無視するし、追い駆けられたら動かずにいるからな。お前らが素直すぎるんだよ。お子様共め」

2人が「ずるいー」と口をそろえて言っているとまた従業員が追加の復興ジュースを注文にきた。


「とにかく、今はジュース作りがんばろー!」

「「おーっ!」」

3人は手を動かしつつ、復興作業の進む中、復興支援ジュースを作り続けて過ごした。
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