黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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4章

薬草園

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栗色のくせっ毛を縛り上げテッチが朝早くに薬草を採取しに【刻狼亭】の裏手にある薬草園に行くと、白い着物の女の子が変な踊りをしていた。

「若女将?何してんですか?」

【刻狼亭】の若女将、朱里である。

「ふぁっ!テッチかぁ・・・驚いた」

胸をなでおろしながら朱里が再び変な踊りをしている。

「若女将、その変な踊り何なんですか?」

「え?ラジオ体操だよ・・・ってラジオ分かんないか。軽い運動」

朱里が鼻歌を歌いながら左右に腕を振っている。
怪しい動きにしか見えないが、運動というのだから多分運動なのだろう。

「こんな場所に来るなんて珍しいですね」

「あー・・・体動かしてるの見つかると怒られるから、内緒ね?」

「貧血治るまでは大人しくしてくださいよ」

「もう大丈夫だよ。2日間お布団の上に居たし」

「せめてあと1日は大人しくしてくださいよ。怒られますよ?」

朱里がうにうにと口を一の字にしながら眉を下げる。
本人も怒られそうだと思っているからこそ隠れて運動しているのであろう。

「それにしても随分早い時間に薬草摘み取るんだね?」

「摘み取るのは効果が濃いやつだけですよ。朝露で効果が薄れている今が丁度いい塩梅なんですよ。本当は雨の日に摘み取れればこんな早起きしないんですけどね」

テッチが薬草に手をかけると、朱里が後ろをチョロチョロとうろつきテッチの手元を見ている。

「若女将、多分この薬草は若女将が触ったら効能が手から吸収されて酷い目にあいますから手を出そうとしないで下さいね?大人しくラジオ体操とやらをしていてくださいよ」

「はーい」

プチプチと薬草を摘むテッチと変な動きをしながら鼻歌を歌う朱里が薬草園で過ごすとどちらともなく口を開く。

「そろそろ砂漠大陸着くころかな?」

2人共心配なのは仕事仲間のマグノリア達一行がどうなっているかという事。
ギルは「私に任せれば問題はない」と言って出て行ったが、心配は尽きない。

「マグノリア室長の事だから何とか切り抜けているとは思うんだけど、問題はロタルス達なんだよな。あいつ等ちゃんと見て無いと適当に薬草ぶっこむときあるからドジしてなきゃいいんだけど」

「きっと大丈夫だよ。だって【刻狼亭】の従業員だもの」

テッチが少し寂しそうに笑って「そうですね」と答えるが、製薬部隊の人間は非戦闘員なので砂漠大陸で戦闘が起きた状態ではたとえ【刻狼亭】の薬師のエキスパートであってもそれ程役に立つとは思えない。
最初からマグノリアの代わりに自分が行けるほどの技量と知識があればと連絡が途絶えたと聞いた日からそう思って過ごしている。


「アカリ!こんなとこにいたのか!探したじぇねぇか!」

ズンズンと怒りながらハガネが薬草園に入り込み朱里がヤバイという顔をしてテッチの後ろに隠れると、ハガネに首根っこを掴まれて回収される。

「ハガネ離してー!下ろしてー!」

俵抱きにされた朱里がワーッと騒ぐが聞く余地無しと無視される。

「テッチ悪いな。うちのじゃじゃ馬が邪魔してたみたいで」

「邪魔じゃないよ。若女将、今度ここの薬草の一角にハーブ植えてお茶でも作ってやるから遊びに来いよ。薬草茶よりも飲みやすいし、女の子にはそっちの方がいいだろ?」

テッチが薬草花壇の一角を見ながら担がれた朱里に声を掛けると、朱里がハガネの肩に手をかけて顔を上げると親指を上げる。

「楽しみにしてますね。テッチありがとう」

「ホラ。戻るぞアカリ」

「歩けるから下ろしてー!テッチまた朝食の時にねー」

ワァワァと騒ぎながらハガネと朱里が遠ざかっていくのを見送りながらテッチは再び薬草摘みに戻る。

「あいつ等帰ってこないと、ここの薬草1人で摘むの大変なんだよな」

小さくテッチが呟いて彼の猫背がまた丸まる。
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