黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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4章

砂漠大陸

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黄砂と乾いた風が舞い、口元を覆った布越しにもジャリジャリとした砂粒が溜まっていく。
黒く乾燥した遺体が折り重なるように倒れている。

「マグノリア室長、この村は全滅みたいですね」

バンダナの上にゴーグルを持ち上げてロタルスがマグノリアに言うと、マグノリアは丸メガネを押し上げながら、砂に埋もれていく村と村人の遺体に小さく手を合わせる。

「港に程近い村なのに、南と北じゃ死んでいる人の数も違うし、何かがあるんでしょうね」

紫色のサラサラした髪をピンで止めながらウェイトが【風雷商】の息子アシュレイから受け取った地図を見ながら、全滅した南の街にどくろマークを描いていく。

水色の長い髪をなびかせて砂漠出身のヨルンが鎮魂歌を口にしながら村人の魂がより良い場所に逝く様に口ずさむ。
水人族のヨルンの歌声はどこか悲しく、美しく響き渡る。

「そろそろ移動しないと、また【夜】がくるよ」

タマホメが鎖鎌を手に、赤い狐火を出して村人の遺体を燃やしていく。


マグノリア達一行が砂漠大陸ベルデラに入港してわずかな間でかなりの【病魔】患者と出会ってきた。
朱里のポーションと、アルビーから貰って来た朱里の髪の毛の束を使い、ポーションを作りながら自分達の感染予防をしつつ、感染患者にどの程度までポーションが効くのかの実験などをしつつ回っている。

助からない人間のほとんどが臓腑が【病魔】に侵食され溶けている状態まで進行した人々だった。
その少し手前までならば助けだせるギリギリのライン。

そして、この大陸に着きやはり行き当たったのが【黄土病】だった。

【黄土病】が【病魔】と一緒に蔓延してこの土地では広がり、奥の村へ行けば行くほど、【病魔】から【黄土病】感染者が増えていく。

しかも商人ルートと呼ばれる、商人たちが使う道や村ばかりの線上で広がっていっていた。


「商人達が何かをばら撒いている事だけは確かなんだがな」

マグノリアがもっさりとした白髪を掻きむしりながら、ふぅーっと息を吐く。
何かを商人が持ち運んでいる事だけは確かなのだが、追えば追うほど、証拠が減っていく。
証拠になる証人の人間が村ごと全滅しているせいで聞くに聞けず、残った村人の生活や持ち物から推測していくほかない。


「早くしないと終息してしまう。皆、急ごう」
マグノリアの言葉にロタルスとウェイトが頷く。

「マグノリア室長、俺等で若女将の子供達が【病魔】で困らない未来にしておきたいですね」
「その前に若女将の体調管理を俺等がしてあげないとあの人無茶するからなぁ。あのままじゃ子供産んでも若旦那の時みたいに母親が亡くなったって事になりかねないからなー・・・」

【刻狼亭】の若女将は小さな体に耐性の低い貧弱な体を持つ女の子。
【刻狼亭】を助ける為ならば出し惜しみなく自分の血肉を差し出す彼らと共にポーションを作る大事な仲間で【病魔】騒動で戦友になった人だ。
終息が近い【病魔】を調べているのも、その小さな若女将が将来血肉を差し出してまで動き回らなくても済むようにという彼らなりの気持ちだ。
勿論、製薬部隊として【病魔】を解き明かしたいという気持ちもあるが。


「今日はもう少し先の村まで行けると良いんだけどね」
「そうですね。今日はまだ日が高いですから急ぎましょう」
「そそ。俺等はとにかく今は時間との勝負だしな」

製薬部隊がそんな話をしていると、1匹の黒い2メートル程の大きさの猿が目の前をうろついている。

「皆、逃げて!【夜】がもう来た!!!」

タマホメが叫び鎖鎌の鎖を伸ばし勢い任せに黒い猿に投げつける。
ガキンと、音がすると鎖鎌が弾かれ、タマホメが距離を取る。

「【氷結】足止めするから早くマグノリアさん達は後ろに下がって!」

ヨルンが氷魔法で黒い猿の足元を凍らせ、マグノリア達が慌てて後退する。

マグノリアがカバンから聖水を取り出し、タマホメに聖水の瓶を投げるとタマホメが鎌先で聖水の瓶を割り、聖水のかかった鎌で黒い猿目掛けてまた切りかかる。

ザショッと音がし、黒い猿の首が落ちるとタマホメが辺りを見回す。
砂漠の砂に沈みかけた村の建物の影から黒い猿が複数頭を覗かせて動き回る。

「もう【夜】に囲まれてる!聖水の準備急いで!」

タマホメの声に全員が身構え、行動を開始する。
この砂漠大陸に来て、黒い猿は【夜】と呼ばれ、いきなり現れては人を襲っていく。
【病魔】の付属品の様な扱いでこの大陸では怖がられている。

普通の武器では歯が立たず、聖水をかけた武器だけが攻撃を可能にする厄介な相手。

わかっているのはそれだけ。

目的があるのかないのかもわからない。

タマホメは目の前の敵を倒すだけだと思いながら、鎖鎌を構える。


「今日は魔法通信遅くなったらごめんねヒナちゃん・・・」
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