62 / 960
4章
砂漠大陸
しおりを挟む
黄砂と乾いた風が舞い、口元を覆った布越しにもジャリジャリとした砂粒が溜まっていく。
黒く乾燥した遺体が折り重なるように倒れている。
「マグノリア室長、この村は全滅みたいですね」
バンダナの上にゴーグルを持ち上げてロタルスがマグノリアに言うと、マグノリアは丸メガネを押し上げながら、砂に埋もれていく村と村人の遺体に小さく手を合わせる。
「港に程近い村なのに、南と北じゃ死んでいる人の数も違うし、何かがあるんでしょうね」
紫色のサラサラした髪をピンで止めながらウェイトが【風雷商】の息子アシュレイから受け取った地図を見ながら、全滅した南の街にどくろマークを描いていく。
水色の長い髪をなびかせて砂漠出身のヨルンが鎮魂歌を口にしながら村人の魂がより良い場所に逝く様に口ずさむ。
水人族のヨルンの歌声はどこか悲しく、美しく響き渡る。
「そろそろ移動しないと、また【夜】がくるよ」
タマホメが鎖鎌を手に、赤い狐火を出して村人の遺体を燃やしていく。
マグノリア達一行が砂漠大陸ベルデラに入港してわずかな間でかなりの【病魔】患者と出会ってきた。
朱里のポーションと、アルビーから貰って来た朱里の髪の毛の束を使い、ポーションを作りながら自分達の感染予防をしつつ、感染患者にどの程度までポーションが効くのかの実験などをしつつ回っている。
助からない人間のほとんどが臓腑が【病魔】に侵食され溶けている状態まで進行した人々だった。
その少し手前までならば助けだせるギリギリのライン。
そして、この大陸に着きやはり行き当たったのが【黄土病】だった。
【黄土病】が【病魔】と一緒に蔓延してこの土地では広がり、奥の村へ行けば行くほど、【病魔】から【黄土病】感染者が増えていく。
しかも商人ルートと呼ばれる、商人たちが使う道や村ばかりの線上で広がっていっていた。
「商人達が何かをばら撒いている事だけは確かなんだがな」
マグノリアがもっさりとした白髪を掻きむしりながら、ふぅーっと息を吐く。
何かを商人が持ち運んでいる事だけは確かなのだが、追えば追うほど、証拠が減っていく。
証拠になる証人の人間が村ごと全滅しているせいで聞くに聞けず、残った村人の生活や持ち物から推測していくほかない。
「早くしないと終息してしまう。皆、急ごう」
マグノリアの言葉にロタルスとウェイトが頷く。
「マグノリア室長、俺等で若女将の子供達が【病魔】で困らない未来にしておきたいですね」
「その前に若女将の体調管理を俺等がしてあげないとあの人無茶するからなぁ。あのままじゃ子供産んでも若旦那の時みたいに母親が亡くなったって事になりかねないからなー・・・」
【刻狼亭】の若女将は小さな体に耐性の低い貧弱な体を持つ女の子。
【刻狼亭】を助ける為ならば出し惜しみなく自分の血肉を差し出す彼らと共にポーションを作る大事な仲間で【病魔】騒動で戦友になった人だ。
終息が近い【病魔】を調べているのも、その小さな若女将が将来血肉を差し出してまで動き回らなくても済むようにという彼らなりの気持ちだ。
勿論、製薬部隊として【病魔】を解き明かしたいという気持ちもあるが。
「今日はもう少し先の村まで行けると良いんだけどね」
「そうですね。今日はまだ日が高いですから急ぎましょう」
「そそ。俺等はとにかく今は時間との勝負だしな」
製薬部隊がそんな話をしていると、1匹の黒い2メートル程の大きさの猿が目の前をうろついている。
「皆、逃げて!【夜】がもう来た!!!」
タマホメが叫び鎖鎌の鎖を伸ばし勢い任せに黒い猿に投げつける。
ガキンと、音がすると鎖鎌が弾かれ、タマホメが距離を取る。
「【氷結】足止めするから早くマグノリアさん達は後ろに下がって!」
ヨルンが氷魔法で黒い猿の足元を凍らせ、マグノリア達が慌てて後退する。
マグノリアがカバンから聖水を取り出し、タマホメに聖水の瓶を投げるとタマホメが鎌先で聖水の瓶を割り、聖水のかかった鎌で黒い猿目掛けてまた切りかかる。
ザショッと音がし、黒い猿の首が落ちるとタマホメが辺りを見回す。
砂漠の砂に沈みかけた村の建物の影から黒い猿が複数頭を覗かせて動き回る。
「もう【夜】に囲まれてる!聖水の準備急いで!」
タマホメの声に全員が身構え、行動を開始する。
この砂漠大陸に来て、黒い猿は【夜】と呼ばれ、いきなり現れては人を襲っていく。
【病魔】の付属品の様な扱いでこの大陸では怖がられている。
普通の武器では歯が立たず、聖水をかけた武器だけが攻撃を可能にする厄介な相手。
わかっているのはそれだけ。
目的があるのかないのかもわからない。
タマホメは目の前の敵を倒すだけだと思いながら、鎖鎌を構える。
「今日は魔法通信遅くなったらごめんねヒナちゃん・・・」
黒く乾燥した遺体が折り重なるように倒れている。
「マグノリア室長、この村は全滅みたいですね」
バンダナの上にゴーグルを持ち上げてロタルスがマグノリアに言うと、マグノリアは丸メガネを押し上げながら、砂に埋もれていく村と村人の遺体に小さく手を合わせる。
「港に程近い村なのに、南と北じゃ死んでいる人の数も違うし、何かがあるんでしょうね」
紫色のサラサラした髪をピンで止めながらウェイトが【風雷商】の息子アシュレイから受け取った地図を見ながら、全滅した南の街にどくろマークを描いていく。
水色の長い髪をなびかせて砂漠出身のヨルンが鎮魂歌を口にしながら村人の魂がより良い場所に逝く様に口ずさむ。
水人族のヨルンの歌声はどこか悲しく、美しく響き渡る。
「そろそろ移動しないと、また【夜】がくるよ」
タマホメが鎖鎌を手に、赤い狐火を出して村人の遺体を燃やしていく。
マグノリア達一行が砂漠大陸ベルデラに入港してわずかな間でかなりの【病魔】患者と出会ってきた。
朱里のポーションと、アルビーから貰って来た朱里の髪の毛の束を使い、ポーションを作りながら自分達の感染予防をしつつ、感染患者にどの程度までポーションが効くのかの実験などをしつつ回っている。
助からない人間のほとんどが臓腑が【病魔】に侵食され溶けている状態まで進行した人々だった。
その少し手前までならば助けだせるギリギリのライン。
そして、この大陸に着きやはり行き当たったのが【黄土病】だった。
【黄土病】が【病魔】と一緒に蔓延してこの土地では広がり、奥の村へ行けば行くほど、【病魔】から【黄土病】感染者が増えていく。
しかも商人ルートと呼ばれる、商人たちが使う道や村ばかりの線上で広がっていっていた。
「商人達が何かをばら撒いている事だけは確かなんだがな」
マグノリアがもっさりとした白髪を掻きむしりながら、ふぅーっと息を吐く。
何かを商人が持ち運んでいる事だけは確かなのだが、追えば追うほど、証拠が減っていく。
証拠になる証人の人間が村ごと全滅しているせいで聞くに聞けず、残った村人の生活や持ち物から推測していくほかない。
「早くしないと終息してしまう。皆、急ごう」
マグノリアの言葉にロタルスとウェイトが頷く。
「マグノリア室長、俺等で若女将の子供達が【病魔】で困らない未来にしておきたいですね」
「その前に若女将の体調管理を俺等がしてあげないとあの人無茶するからなぁ。あのままじゃ子供産んでも若旦那の時みたいに母親が亡くなったって事になりかねないからなー・・・」
【刻狼亭】の若女将は小さな体に耐性の低い貧弱な体を持つ女の子。
【刻狼亭】を助ける為ならば出し惜しみなく自分の血肉を差し出す彼らと共にポーションを作る大事な仲間で【病魔】騒動で戦友になった人だ。
終息が近い【病魔】を調べているのも、その小さな若女将が将来血肉を差し出してまで動き回らなくても済むようにという彼らなりの気持ちだ。
勿論、製薬部隊として【病魔】を解き明かしたいという気持ちもあるが。
「今日はもう少し先の村まで行けると良いんだけどね」
「そうですね。今日はまだ日が高いですから急ぎましょう」
「そそ。俺等はとにかく今は時間との勝負だしな」
製薬部隊がそんな話をしていると、1匹の黒い2メートル程の大きさの猿が目の前をうろついている。
「皆、逃げて!【夜】がもう来た!!!」
タマホメが叫び鎖鎌の鎖を伸ばし勢い任せに黒い猿に投げつける。
ガキンと、音がすると鎖鎌が弾かれ、タマホメが距離を取る。
「【氷結】足止めするから早くマグノリアさん達は後ろに下がって!」
ヨルンが氷魔法で黒い猿の足元を凍らせ、マグノリア達が慌てて後退する。
マグノリアがカバンから聖水を取り出し、タマホメに聖水の瓶を投げるとタマホメが鎌先で聖水の瓶を割り、聖水のかかった鎌で黒い猿目掛けてまた切りかかる。
ザショッと音がし、黒い猿の首が落ちるとタマホメが辺りを見回す。
砂漠の砂に沈みかけた村の建物の影から黒い猿が複数頭を覗かせて動き回る。
「もう【夜】に囲まれてる!聖水の準備急いで!」
タマホメの声に全員が身構え、行動を開始する。
この砂漠大陸に来て、黒い猿は【夜】と呼ばれ、いきなり現れては人を襲っていく。
【病魔】の付属品の様な扱いでこの大陸では怖がられている。
普通の武器では歯が立たず、聖水をかけた武器だけが攻撃を可能にする厄介な相手。
わかっているのはそれだけ。
目的があるのかないのかもわからない。
タマホメは目の前の敵を倒すだけだと思いながら、鎖鎌を構える。
「今日は魔法通信遅くなったらごめんねヒナちゃん・・・」
40
お気に入りに追加
4,628
あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。
鯖
恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。
パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041


淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する
アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。
しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。
理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で
政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。
そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。