黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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4章

代理

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「悪かったよ。私だって可愛い甥っ子に番を得た事を聞かされなくて寂しかったり、久々に家に帰ったら愛息子は居ないしで、辛かったんだ。でも、番のレディにも会えたし、アルビーの可愛い所も見たし、満足だよ」

ルーファスの向かいのソファに腰を深くかけながらギルはご機嫌で殴られて腫れた頬を押さえながら答える。
その様子に呆れながらもネルフィームが氷袋を持ってギルの頬に押し付ける。
氷袋を受け取りながらギルは胸ポケットに手を入れてゴソゴソと何かを取り出す。

「私を捕まえられたら、ご褒美をあげるとレディに約束したからね。レディが目を覚ましたら渡してくれ」

ルーファスの手にギルが指輪を投げてよこす。
銀色の少し厚みのあるリングに蔦が描かれ、小さな宝石が3つ付いている。
黒曜石・ルビー・イエローダイヤ。

「ギル叔父上これは?」
「私と姉さんと義兄さんの3人でお揃いの指輪なんだ。レディは勝負に勝ったからね。ルーファスとアルビーはまだ私に勝ててないからあげれないけどね」
「この小ささだと母上の物ですか?」
「そう。亡くなった姉さんの物さ。赤い宝石が姉さんを表していて黒い宝石が義兄さんで黄色い宝石が私なんだ。もう二人共居ないから、いつかルーファスの選んだ子にあげようとは思っていたんだよ」

少し寂しそうなギルの目にルーファスも少し気持ちがグラつく・・・が、情に絆されて腕の中で熱を出してぐったりと寝ている朱里の状態を許すわけにもいかない。

「起きたら渡しておく。しかし、ギル叔父上、ハガネからアカリが色々な物に耐性が低いと聞いていたのに追加で変な物飲ませて、挙句追いかけさせての、この惨状は許してない。普通に病じゃないから治癒ポーションも効かない、反省しろ」

ルーファスに睨まれギルが申し訳なさそうな顔をするものの、長年の付き合いでギルが再び同じ事をしでかしそうな予感はしている。

「レディは体力をつける為にも私と追いかけっこで体力付けた方が良いと思うけどね。小さい頃のルーファスみたいにさ」

ギルが片目をウィンクして朱里を指さすが、ルーファスは嫌な顔しかしない。

「オレは病弱とか貧弱ではなく、ただ体が小さい子供ってだけだったのをギル叔父上が勝手に心配しすぎて鍛え上げていっただけだ。アカリは見ての通り直ぐに体調を崩すし、病気に感染すれば特殊なポーションでないと治せない。無茶はさせられない」


「過保護だな」
「過保護過ぎだ」

ギルとネルフィームが顔を見合わせながら朱里を抱き寄せているルーファスに生暖かい目を向ける。
ルーファスの母親がルーファスを生んですぐに亡くなっているせいでギルがたった一人の甥っ子のルーファスを甘やかしてはいたが、ここまで過保護にしていたわけではない。
むしろ体を強くしようと遊びに付き合わせながら体力を作らせ鍛え上げていった。
その反動でルーファスが番を過保護にしているのではないかとすら心配もする。

「冒険者の脳筋頭で考えないでくれ。オレはそろそろ【刻狼亭】に戻る。ギル叔父上は満足したならオレにもう用はないんだろ?」

「【病魔】の蔓延で色々と他国への行き来が面倒になったから終息するまでは私は暇なんだ。ルーファスだって【刻狼亭】を休業していて暇なんだろ?少しくらいは私に付き合ってくれてもいいと思うんだけどな」

おどけて見せるギルにルーファスが非難の目を向ける。

「ギル叔父上のせいで事務作業を放り出してきている。それにうちの製薬部隊が【病魔】の手がかりを追って出立しているんだ。オレがあいつらが帰ってくる場所を守らないで遊んでいるわけにはいかない」

「【刻狼亭】の従業員なら放っておいても平気だと思いますけどね。なんせ私が鍛え上げた子達もいるんですから。ああ、でも診療所で暴れていたのは何ですか?あんな奴等をいつまでも温泉街に留め置いているのは叔父として、先の代理【刻狼亭】当主としては認められないな」

声のトーンを落としてギルがルーファスに目で脅しつける。
ルーファスの両親が番同士だったこともあり、ルーファスの母親が亡くなった後、父親も気落ちしていきルーファスが10代に入る前に亡くなっているので【刻狼亭】の当主の座をルーファスが継ぐまでの代理でギルが収まっていた時期がある。

「【病魔】が発生した時に温泉街を留守にしていたオレに責任があるのは反省している。そろそろ住民にも留め置いている者にも不満が限界なのも・・・しかし、あと1ヵ月もしない間に落ち着く事だから乗り切ってみせるさ」

ルーファスが疲れた表情を一瞬したものの、腕の中の温もりに表情を和らげる。

「私がここにルーファスとアルビーを呼び寄せたのは何も遊んでほしくてってだけじゃない。再び先代の【刻狼亭】当主の様に甥っ子を失うわけにはいかないからね。私は温泉街にしばらく住もうと思っているんだ。引っ越しの手伝いしてくれるだろ?」

パンっと両手を閉じてギルがルーファスに笑いかける。
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