黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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4章

お茶

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「このレディはよく眠る子だね」

ギルの一言にハガネが猛抗議してピョンピョンと地面を蹴り上げながらギルから朱里を取り戻そうと手足をばたつかせている。

「アカリは色んなモンに耐性が低い!早く解毒ポーション飲ませろ!」

アナグマ姿のハガネをギルが足でぷぎゅるっと踏みつけて夜の冷え冷えとした森の地面に押さえつける。
昼間に連れ去られてから、いつの間にか夜になり、野営する事になった。
ハガネは2時間ほどで目が覚めたものの、薬物耐性が低い朱里はずっと眠り続けている。

「もう寝るからレディを起こしたら可哀想じゃないですか?」
「なら俺を元の姿に戻せ!あとアカリを返せ!」
「君の目がちゃんと治ってからだよ?今は最小限に力を押さえる事が重要だ」

ギルがハガネの横に座り込み毛布で朱里をぐるぐる巻きにするとハガネにも毛布を掛ける。
黒竜のネルフィームに寄りかかるとギルは直ぐに目を閉じてしまう。

「あんた若旦那の身内なのにこんな事して大丈夫なのかよ?」
「んーっ、大丈夫も何もレディは私の身内になったんだし、家族を家に招待するのは普通だろ?」
「いや、どうみても拉致誘拐だろ!若旦那が絶対怒って追ってくるぜ?」
「それは望むところだよ。アルビーの速さだと1日遅れだろうし、ゆっくり待とうじゃないか。もう私は寝る時間だから寝るよ。おやすみ」

それだけ言うとギルはすぐさま寝息を立ててしまう。
ハガネが小さな手で頭を抱えるとネルフィームが小さく鼻でため息を吐く。

「悪いね。うちのギルはいい意味でも悪い意味でもマイペースなんだ」
「あんたんとこの主人、良い根性してるぜ?」
「ギルはルーファスとアルビーが好きだからね。構ってほしくて仕方がないのさ」
「ハァー・・・仕方がねぇ。俺も考えるの苦手だし寝るか」

ハガネは元々いい加減な性格の持ち主。
朱里という主君を得て少しだけ朱里中心なだけで元の性格は早々変えられない。
朱里に自分の毛布を掛けるとネルフィームに寄りかかりハガネも直ぐにイビキをかき始める。

「やれやれ。この従者もマイペースな子だ」

ネルフィームの溜め息だけが森の中に消えていく。




朱里が目を覚ました時、体が柔らかい物に包まれている事に気付く。
体を起こすと体を包み込む程の弾力のあるベッドに身を沈めていた。
豪華なレースがふんだんにあしらわれた天蓋付きのベッドは朱里の知らない物だった。

「何処ここ?」

自分の服を見れば白いレースが段々重ねにされたミニワンピースを着せられていた。
ルーファスの趣味でも無ければ自分の趣味でも無い少女趣味な洋服に首をひねる。

「アカリ起きたか?」
「ハガネ!ここ何処?」

アナグマ姿のハガネが頬をカリカリと掻きながらベッドを飛び降りる。
ベッドから出ると、中世風の少女趣味なフリルと白い家具の部屋だった。

「えーと、ハガネ・・・本当にココは何処?」
「若旦那の母方の叔父さん家だってさ。アルビーの家って言うべきか」

ハガネと朱里がペタペタペタペタと音を立てながら部屋を出て歩く。
ハガネも獣化しているので靴を履いていないのもあるが、朱里も裸足だった。

ペタペタペタペタペタペタ・・・・。

白い大きな扉に金色の引き取っ手を引くと広い大理石のリビングに黒髪の背の高い美女と銀髪の狼獣人の男性が優雅にお茶をしていた。

「おや?レディ起きたのかい?」
「あの、ルーファスは何処ですか?」

朱里が扉に半分隠れながらギルに聞くとギルはにこやかに笑って朱里とハガネを手招きする。
黒髪美女がティーカップをお湯で温めてから乾燥魔法を使い、ティーポットのお茶を注いで2つ分用意する。

「レディは私の甥っ子が気になるのかい?」
「あ、はい。私が居る場所には絶対来ると思うので」

朱里の言葉にギルは笑顔で頷いてから、朱里に座る様に促しお茶をすすめる。
ハガネがジタバタしながら椅子によじ登り、朱里が持ち上げて自分の膝の上に乗せる。

「私の甥っ子はもう直ぐ来るんじゃないかな?どうかな?ネルフィーム」
「・・・アルビーの気配が西の森でしますからそろそろでしょうね」
「そう。じゃあ、アルビーと遊んでおいで」
「まったく、あなたは本当に素直じゃない男だ」


黒髪美女はそう答えると黒いドレスを翻してリビングの窓を全開にすると黒いドラゴンに姿を変えて飛び立つ。
ハガネがテーブルの上のお茶を少しすすり、朱里に差し出す。

「飲んでも大丈夫そうだぜ」
「嫌だなぁ。毒なんか盛りませんよ」

ハガネが半目になりながらギルを睨み付ける。
ギルは楽しそうに自分のお茶を飲みながら恐る恐るお茶に口をつける朱里を見る。

「私はルーファスの母親の弟でギル・アーバントというんだ。レディの名前を伺っても?」
「朱里です。アカリ・ミノミヤといいます」
「オレはアカリの従者のハガネだ」

ティーカップを口から離しギルがルーファスによく似た目元を細める。

「折角だから、アカリとハガネはルーファスとアルビーが来るまで私と追いかけっこでもしようか?あの2人とはよくやったんだよ」

ギルが指をパチリと鳴らすと朱里とハガネの首に細い鎖がお互いの首を繋ぐようにぶら下がる。
アカリとハガネが自分の首の鎖を手に取るとギルが笑う。

「毒は入れてないけど、ちょっとした仕掛けを紅茶にしておいたんだ。懐かしいな。ルーファス達もよく引っかかったものだよ」

「やっぱり何か盛ってんじゃねぇか!」

ハガネがフルフルと拳を震わせるとギルは楽しそうに2人の前に立つ。

「その鎖、時間が経つごとに重くなるから早めに私を捕まえてごらん?捕まえられたらいい物をあげるよ」

ギルが2人に手を振るとツカツカと音を立てて前を通り過ぎる。

「アカリ!捕まえるぞ!」

ハガネがバッと飛び上がって朱里の膝から降りて走り出すと、鎖に引っ張られて朱里がよろける。

「わぁっ!ハガネ待って!」
「わっ!アカリ大丈夫か?」

2人が床に手をつきながら顔を上げると、ギルが2人の頭に小さなリボンを付けていく。

「さぁ、私を捕まえる為に頑張りなさい」

にこやかにギルが再び歩き出す。

「一体何がしたいんだ!あの人は!」
「うん。本当に・・・何なの?」

ハガネと朱里が少しムッとして、ハガネを抱き上げると朱里が走り出す。
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