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4章
姿絵
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魔法通信のクリスタルから映し出される映像にルーファスがうんざりした顔を向ける。
『おう。久しぶりだな【刻狼亭】。何か入用なのか?』
薄緑色の髪で左側の顔を半分隠した瑠璃色の瞳の細身の男が優雅に軽く手を上げる。
胸元の開いた白いシャツから覗く金色のロケットペンダントにルーファスは頭痛を覚えつつも、サッサッと用件を言って終わらせてしまおうと口を開く。
「【風雷商】申し訳ないのだが、【病魔】について調べる為にうちの従業員の製薬に携わる者がお前の手を借りたいそうなんだが、大丈夫か?」
ルーファスの顔をマジマジと楽しそうに見つめながらアシュレイ・ビンクスが形のいい唇に弧を描く。
ルーファスはなるべく表情を崩すまいと映像の後ろに映っている花瓶に目を向ける。
『また【刻狼亭】は面白い事をしようとしているようだな。【病魔】なんて放っておけば終息するだろうに。まぁ、いいぜ。俺に出来る事なら手を貸してやろう』
「商人達で【病魔】に掛かった奴らがどれくらい居て、どの周辺に多いか、どの商業ギルドの者だったかを調べたいのだが、どうだ?」
アシュレイは顎に手を置きながら、ルーファスを見つめた後でアシュレイは画像に地図を映し出す。
東国よりもさらに東にある砂漠の大陸に赤い印が何個も書かれている。
そして、その印から線で結ばれた場所にバツ印が何ヵ所もある。
『【病魔】の動きと商人の動き。これは俺も怪しいと思って調べた商人達の行き先と死亡場所だ。砂漠の大陸ベルデラに寄った商人がことごとく【病魔】に感染して死んでいる』
ルーファスが息を呑んでアシュレイを見るとアシュレイは自分の目を指さして軽く叩く。
『この事を何故他の国や人々に広めなかったか?そう言うかもしれないが、これは俺の『目利き』では【病魔】は夏の終わりに終息と解っているのにわざわざ死にに行く様な危険を冒してまで調べる事ではない。そして何より、死んだ商人達は俺の商人ギルドとは別ギルドの派閥の奴等だからな。損得勘定で考えればわかるだろう?』
「お前はそういう奴だよ。アシュレイ・ビンクス・・・。まぁ【病魔】に対する特効薬がない時点で調べに行くのは死にに行くようなものと言うのはあながち間違いではないが。しかし、解っていて見過ごすのはむやみやたらと【病魔】を広げただけじゃないのか?」
『それに関しては俺もすぐさま気付いて調べたわけではないからな。気付いた時には蔓延していた。それだけの事だ。・・・で、お前の所の製薬師をどうすれば良い?』
ルーファスは髪を掻き上げながら手を額に置くと少し考えてから口を開く。
「その地図の情報が確かなら、うちの製薬師にはそのままベルデラへ向かってもらい調べた方が良さそうだ。もう終息まで間がないからな。調べるなら今しかない。情報だけ感謝しておく」
アシュレイが目を細めながらルーファスに1枚の姿絵を見せる。
先程、オープンスペースでぐしゃぐしゃに丸めた姿絵と同じ物が映る。
『で、俺の姿絵はどうだった?!嫁に貰いたい!とか思ったか?』
「・・・」
この女装癖のある男はどうしていつもこうなのか・・・と、ルーファスが遠い目をしたところで同じ部屋に居た朱里がお腹を押さえながら肩を震わせている。
どうやら朱里の笑いのツボに再びハマったらしい。
『どうだ?どうだ?』
「あー・・・釣書の中では一番ウケたのは確かだな・・・」
主に朱里に。
他の姿絵の中で朱里の目を引いたのはアシュレイの姿絵だけだったのは確かだ。
『そうかそうか。来年も是非新作の姿絵を送ってやろう!』
「いや、オレにはもう釣書はいらんぞ。番が出来たからな」
アシュレイの笑顔が凍り付き「ハァ?」とドスの利いた声を出してルーファスを見つめる。
ルーファスは朱里の方を見ながらフッと笑うとアシュレイのロケットペンダントの辺りを指さす。
「もうそのロケットも用無しだろう?処分しろよ?【風雷商】」
『ルーファス!そんなこれは男の将来を誓い合った物なのに?!俺とお前の2人で【刻狼亭】と【風雷商】を大きくする夢はどうした!番ごときで夢をあきらめるのか!!』
「いや、そもそもそんな約束自体が子供の戯言だしな。それに十分今のままで満足している。番ごときではない。番が出来たからこそ充実している」
満足そうにルーファスが言い返すとアシュレイが深いため息と共に自分の姿絵をビリビリに引き裂く。
『あーもう!噂でルーファスが番を迎えたのは聞いていたが、なんだその締まりのない顔は!この【病魔】騒ぎが終わったら絶対にお前の所に冷やかしに行ってやる!それと、地図が欲しいならベルデラに行く前に俺の所へ来い!お前の所の製薬師に情報をくれてやる!じゃあな!』
ブツリと、魔法通信が切れるとルーファスは部屋の隅で笑い転げていた朱里を回収する。
「まったくアカリは仕方がないな」
「ふふふ、ごめんなさい。でも、可笑しくて」
回収した朱里を連れて製薬執務室に行くと既に製薬部隊は準備万端で荷物を用意していた。
【病魔】調査で【刻狼亭】から出発するのは製薬部隊の責任者マグノリアを中心とした5名。
マグノリアとその部下のロタルスとウェイト。
【刻狼亭】と連絡を取るための魔法通信役のタマホメ。
砂漠大陸出身の案内役のヨルン。
些か不安のあるパーティではあるが、マグノリアはルーファスから許可が下りると東国から譲渡された高速船に乗り込み温泉大陸から北東へ進路を向けて出港していった。
『おう。久しぶりだな【刻狼亭】。何か入用なのか?』
薄緑色の髪で左側の顔を半分隠した瑠璃色の瞳の細身の男が優雅に軽く手を上げる。
胸元の開いた白いシャツから覗く金色のロケットペンダントにルーファスは頭痛を覚えつつも、サッサッと用件を言って終わらせてしまおうと口を開く。
「【風雷商】申し訳ないのだが、【病魔】について調べる為にうちの従業員の製薬に携わる者がお前の手を借りたいそうなんだが、大丈夫か?」
ルーファスの顔をマジマジと楽しそうに見つめながらアシュレイ・ビンクスが形のいい唇に弧を描く。
ルーファスはなるべく表情を崩すまいと映像の後ろに映っている花瓶に目を向ける。
『また【刻狼亭】は面白い事をしようとしているようだな。【病魔】なんて放っておけば終息するだろうに。まぁ、いいぜ。俺に出来る事なら手を貸してやろう』
「商人達で【病魔】に掛かった奴らがどれくらい居て、どの周辺に多いか、どの商業ギルドの者だったかを調べたいのだが、どうだ?」
アシュレイは顎に手を置きながら、ルーファスを見つめた後でアシュレイは画像に地図を映し出す。
東国よりもさらに東にある砂漠の大陸に赤い印が何個も書かれている。
そして、その印から線で結ばれた場所にバツ印が何ヵ所もある。
『【病魔】の動きと商人の動き。これは俺も怪しいと思って調べた商人達の行き先と死亡場所だ。砂漠の大陸ベルデラに寄った商人がことごとく【病魔】に感染して死んでいる』
ルーファスが息を呑んでアシュレイを見るとアシュレイは自分の目を指さして軽く叩く。
『この事を何故他の国や人々に広めなかったか?そう言うかもしれないが、これは俺の『目利き』では【病魔】は夏の終わりに終息と解っているのにわざわざ死にに行く様な危険を冒してまで調べる事ではない。そして何より、死んだ商人達は俺の商人ギルドとは別ギルドの派閥の奴等だからな。損得勘定で考えればわかるだろう?』
「お前はそういう奴だよ。アシュレイ・ビンクス・・・。まぁ【病魔】に対する特効薬がない時点で調べに行くのは死にに行くようなものと言うのはあながち間違いではないが。しかし、解っていて見過ごすのはむやみやたらと【病魔】を広げただけじゃないのか?」
『それに関しては俺もすぐさま気付いて調べたわけではないからな。気付いた時には蔓延していた。それだけの事だ。・・・で、お前の所の製薬師をどうすれば良い?』
ルーファスは髪を掻き上げながら手を額に置くと少し考えてから口を開く。
「その地図の情報が確かなら、うちの製薬師にはそのままベルデラへ向かってもらい調べた方が良さそうだ。もう終息まで間がないからな。調べるなら今しかない。情報だけ感謝しておく」
アシュレイが目を細めながらルーファスに1枚の姿絵を見せる。
先程、オープンスペースでぐしゃぐしゃに丸めた姿絵と同じ物が映る。
『で、俺の姿絵はどうだった?!嫁に貰いたい!とか思ったか?』
「・・・」
この女装癖のある男はどうしていつもこうなのか・・・と、ルーファスが遠い目をしたところで同じ部屋に居た朱里がお腹を押さえながら肩を震わせている。
どうやら朱里の笑いのツボに再びハマったらしい。
『どうだ?どうだ?』
「あー・・・釣書の中では一番ウケたのは確かだな・・・」
主に朱里に。
他の姿絵の中で朱里の目を引いたのはアシュレイの姿絵だけだったのは確かだ。
『そうかそうか。来年も是非新作の姿絵を送ってやろう!』
「いや、オレにはもう釣書はいらんぞ。番が出来たからな」
アシュレイの笑顔が凍り付き「ハァ?」とドスの利いた声を出してルーファスを見つめる。
ルーファスは朱里の方を見ながらフッと笑うとアシュレイのロケットペンダントの辺りを指さす。
「もうそのロケットも用無しだろう?処分しろよ?【風雷商】」
『ルーファス!そんなこれは男の将来を誓い合った物なのに?!俺とお前の2人で【刻狼亭】と【風雷商】を大きくする夢はどうした!番ごときで夢をあきらめるのか!!』
「いや、そもそもそんな約束自体が子供の戯言だしな。それに十分今のままで満足している。番ごときではない。番が出来たからこそ充実している」
満足そうにルーファスが言い返すとアシュレイが深いため息と共に自分の姿絵をビリビリに引き裂く。
『あーもう!噂でルーファスが番を迎えたのは聞いていたが、なんだその締まりのない顔は!この【病魔】騒ぎが終わったら絶対にお前の所に冷やかしに行ってやる!それと、地図が欲しいならベルデラに行く前に俺の所へ来い!お前の所の製薬師に情報をくれてやる!じゃあな!』
ブツリと、魔法通信が切れるとルーファスは部屋の隅で笑い転げていた朱里を回収する。
「まったくアカリは仕方がないな」
「ふふふ、ごめんなさい。でも、可笑しくて」
回収した朱里を連れて製薬執務室に行くと既に製薬部隊は準備万端で荷物を用意していた。
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マグノリアとその部下のロタルスとウェイト。
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些か不安のあるパーティではあるが、マグノリアはルーファスから許可が下りると東国から譲渡された高速船に乗り込み温泉大陸から北東へ進路を向けて出港していった。
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