50 / 960
4章
製薬部隊
しおりを挟む「わかった。【風雷商】に話をつけておこう」
ルーファスのため息交じりの承諾にマグノリアが丸メガネを頭の上に掛けながら良い笑顔を向けて「ありがとう!若旦那!今度良い薬あげるから!」と言ってオープンスペースから勢いよく出ていく。
廊下の方で「お前等旅の準備だ!」と、騒いでいる声が響いた。
「やれやれ。ああなると製薬部隊は歯止めが効かないからな」
「魔法通信の準備をしてきます」
「頼んだ。ハァー・・・あいつの顔は見たくないんだがな」
「若、仕方がありませんよ」
ルーファスとシュテンが乾いた声を出しながら書簡を箱詰めしていく。
朱里がヨレヨレになった絵姿を見つつ、小さく肩を震わせている。
ルーファスはその姿を見つつ、オレの番の笑いのツボが判らないな。と、思いつつも楽しそうで何よりだと小さく笑って朱里を抱き上げる。
「ルーファス、あとで釣書のお返事書くんでしょ?」
「ああ、全て断ってアカリと番になったから、もう寄越すなと書いておくさ」
朱里が笑顔でルーファスの頬にチュッと音を立てて唇を寄せてルーファスの耳を触り、ルーファスの尻尾が左右に揺れていた。
ガチャガチャガチャ・・・・ガチャガチャガチャ・・・。
チャパチャパ・・・チャパチャパ・・・。
木箱の中で大量のポーション瓶が揺れながら、運ばれていく。
製薬執務室で在庫のポーションを記録する為にペンを走らせているのは製薬部隊の副責任者のテッチ・ワールミーだ。
栗毛色のくせのある髪を後ろで縛り、緑色のつり目がせわしなくポーションの数を追っている。
少し猫背な彼は前かがみで記録した紙に効能を走り書きして、最後に自分のサインを書く。
「ロタルス、ウェイト。お前等は室長と出掛けるんだから荷造りちゃんとしとけよ?」
ロタルスとウェイトはポーションの木箱にラベルを貼りながらテッチの方を向いて手を止める。
夕焼け色のツンツンした刈り上げの髪にバンダナを巻き付け直してロタルスが笑顔を向ける。
「わかってるって。テッチは心配性だな」
「おれ等も子供じゃないんだから平気だって」
サラサラした紫色の髪を掻き上げながらウェイトもテッチに親指を上げて笑う。
「お前等だから心配なんだよ。ポーションばっか詰め込んで肝心の着替えや食器なんか持って行かなさそうだからな。良いか、マグノリア室長はほっとくと飯も食わずに研究するからお前等がちゃんと面倒みるんだぞ?」
テッチが2人に言い聞かせながら、【刻狼亭】に居残り組となった薄い桃色の髪のピルマーを見る。
ピルマーは灰色の目で同僚の顔を見ながら布袋を取り出す。
「おれ特性の栄養剤作っておいたから、いざとなったらこれを食べて食事要らずで頑張れよ」
ピルマーの言葉にテッチが苦い顔をし、ロタルスとウェイトが「鬼かな?」と固まった。
そんな部下のやり取りに長い白髪をもっさりとさせた製薬部隊の責任者マグノリアが「うちの子達は元気だ」と丸メガネを指でずり上げる。
「まぁ、まだ若旦那が連絡入れている最中だから、そんなに慌てなくてもいいけどさ。でも今回は時間があと1ヵ月も無いからギリギリだと思って動く事、それだけは忘れるなよ。45年後なんておれ等は爺になってんだから後世に出来るだけ資料を残せるぐらいの成果は出しておきたいな」
「わかってるよ。でも、マグノリア室長は話が決まったら直ぐに動くだろ?だったら直ぐに動ける準備をするのは無駄じゃない。そうだろ?」
マグノリアにテッチが朱里の作ったポーションを割れにくい瓶に移し替えてポーションホルダーに入れた物を渡す。
テッチの頭をわしわしと撫でながらポーションホルダーを手に嬉しそうにしてマグノリアが笑顔を見せる。
「だーっ、もう。いい加減マグノリア室長はおれ等を子供扱いすんなよ!」
「ふふふ。お前等はおれの可愛い弟子だからな。おれを超えるまでは子供さ」
製薬師の中でマグノリアは5本の指に入るほどの薬学士なのだが、研究に没頭したり、薬の効能一番で危険な味の物を生み出すせいで評価は悪いが、同じ薬学と製薬を学ぶ4人はマグノリアを尊敬しているし、師として仰いでいる。
10歳程マグノリアが年齢が上ではある為に子供扱いをされているが、彼らは一応成人男性達である。
そして少し師に似たのか研究熱心で常識にとらわれないところも少しだけある。
そんな彼らの元に【風雷商】との話が終わったと連絡が届いたのは、彼らの準備が整って直ぐだった。
30
お気に入りに追加
4,628
あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。
鯖
恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。
パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する
アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。
しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。
理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で
政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。
そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。