黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

文字の大きさ
上 下
43 / 960
4章

船上

しおりを挟む
ルーファスが【魔王】との交渉に船で出た後、【刻狼亭】は忙しく従業員が動き回っていた。


医務室の隣りにある製薬室。


「若女将、このポーションは飲ませないで傷にぶっかけて下さい。まぁ飲ませても良いけど、味で昇天するかもしれないっすね」

製薬組みの交渉に行かなかった居残り組ピルマーが朱里に赤い瓶に入ったポーションを説明しながら箱に詰めていく。

「わかりました。こっちの黄色い瓶は?」

朱里がテーブルに並んだ黄色いポーションを指さすと居残り組のロタルスとウェイトが朱里の周りに集まる。

「若女将、この黄色は無茶したバカがいたら飲ませて下さい。即時回復ポーションです。まぁ、味は保証しないんですけど」

「こっちの青い瓶のは安全安心マグノリアさんが作ったちょっと不味いだけの回復ポーションだから適当に飲ませたり傷にぶっかけて下さい」

2人の説明に朱里は「どれも美味しくはないのね」と、苦笑いしつつピルマーに渡された箱を手に宿舎の方へ向かう。


【刻狼亭】から少し離れた宿舎は、玄関ホールと歓談スペースのみ共同であとは、女性従業員入口と男性用従業員入口に分かれている。

ピルマーから渡された箱の上に着替えの入った風呂敷きとルーファスにお世話になる女性従業員達と食べる様に持たされたお菓子を持って玄関ホールで立っていると、普段着を着た女性従業員達が朱里を出迎えに来る。

「若女将、いらっしゃーい!」
「早く入って入って」
「女の園へようこそー」

朱里を取り囲みながら賑やかに連れ込まれ、朱里は【病魔】騒ぎの時から仲が良くなった若手の従業員の三人組と同じ部屋に通される。
女の子らしい配色の薄い桃色のカーテンに箪笥やテーブルも細かな花の細工のしてある可愛らしい物で3人の女子っぷりが伺える部屋に朱里は目を輝かせる。

「お邪魔します。今日はよろしくお願いします」
朱里が3人に笑うと3人ともいい笑顔で返してくる。

薄い小麦色のストレートの髪にこげ茶色の目をした羊獣人のプリシー。
水色のゆるいウェーブのかかった髪に青い目をした水人のヨルン。
さび色の髪をお団子にした緑色の目をした鳥獣人のオリアナ。

「今回も若旦那を落とす会を開きますよ!」

プリシーがビシッと海上を指さしながら高らかに宣言し、朱里が苦笑いした頃、船の上でルーファスの尻尾がゾワっと逆立っていた。




「若旦那、どうしたんですか?」
マグノリアに聞かれ、ルーファスは首を鳴らしながら小さく伸びをする。
「いや、アカリがそろそろ宿舎に着いた頃だと思ってな」
「若女将なら大丈夫ですよ。製薬室のとっておきを持たせてますから!」
グッと親指を立てるマグノリアにルーファスはそれが一番問題なのだが・・・とは言えなかった。
効能一番、味は二の次のポーションを作りまわる【刻狼亭】の製薬部隊は危険物も平気で混ぜ込む時があるので間違ってもお世話にはなりたくない。と、他の従業員に言われている。
ルーファスもそれは常々思っている。

「そろそろ目的地の海域付近ですから停止しましょう」
テッチが海域地図を見ながらテンに言うとテンが手を上げて船がゆっくり停止する。

「着いたの?私、海に潜っても良い?」
アルビーが船内から顔を出しキョロキョロと辺りを見回す。
今回、アルビーは【病魔】が近づいたら見抜く役目と、【聖女】が本物ならば光竜であるアルビーには見抜く事が出来る為、見抜く役目。そして何か船であれば空を飛んで【刻狼亭】へ知らせに行くという3つの役目がある。

「潜っても良いが、ここら辺は海獣がいるぞ?齧られても知らんぞ?」
ルーファスがアルビーに意地の悪い顔をするとアルビーは自分の尻尾を持ってブルっと身震いをして首を振る。
「潜るのは止めておくね?」
「そうするといい」
素直に撤回したアルビーにルーファスが小さく笑い、アルビーがルーファスの横にトコトコと歩いてきて甲板で小さく欠伸をする。

ルーファスが懐中時計を懐から取り出して時間を見ると約束の時間までわずかとなった。
海面が揺らぎ、段々と大きな揺れになり波が船を揺らすと、船の先にドーム状の白い巨体が海から上がってくる。

「お待たせしてすまない!」
そんな声が上からし、まるで羽の様に軽やかに甲板に【魔王】リロノスが【聖女】ありすを抱えて舞い降りる。
リロノスが甲板に降りると、ドーム状の巨体は海の中に沈んでいく。

「今の何?何?」
アルビーが首を振りながらリロノスに聞くとリロノスはアルビーの瞳を見ながら目を細める。
「あれは海獣のホエールデビルだ。船代わりに乗ってきた」
「ぶっちゃけクジラだよね。真っ白いクジラ」
リロノスが言うとありすが楽しそうに笑いながらクロノスの腕から甲板に降りる。

「ホエールデビルかぁ。私、遠目でしか見た事なかったけど大きかったんだね」
アルビーが海面を見ながら尻尾を振ると、ルーファスに尻尾を軽く足で踏まれ、慌ててルーファスの後ろに戻る。

アルビーが瞬きをして「大丈夫だよ」と小声でルーファスに言うとルーファスが頷く。

「さて、そちらは2人だけ・・・と、言う事はないのだろう?」
ルーファスが値踏みするように2人を見ると、リロノスは小さく降参ポーズで首を振る。

「いや、私とシノノメの2人だけだ。シノノメの居ない間は国に【病魔】が入ってきても対応出来ないからな。他の者に対応に当たらせている。それに、ただでさえ混乱している所へ大人数で訪れるのは不躾というものだろう」
リロノスはアルビーに興味を持っているありすの制服のシャツを掴み、失礼のない様に止めている。

テンが「嘘はないようです」とルーファスに伝え、ルーファスは少し首をひねる。

「誠心誠意・・・と、いう所か?しかし、【魔王】がノコノコ護衛もつけないで来るのは些か危険だと思うが?」
誠心誠意というよりは、一歩間違えれば、こちらを馬鹿にしていると思われても仕方がない行動ではある。と、ルーファスは若い【魔王】に生暖かい目を向ける。

「私は【魔王】だ。でも替えの利く【魔王】だからな。私がここで朽ち果てても弟が継ぐだろうし、まぁ、これでも自分の身とシノノメぐらいは守れるつもりだ」
「何とかなるっしょ!」
リロノスの言葉にありすが元気に答えると、リロノスはありすに苦笑いを浮かべる。

「うちの作った薬はコレ」
ありすが制服のポケットから小瓶を出してルーファスの目の前に差し出す。
リロノスがありすに「交渉には順序があると言っておいただろう?」と慌てて注意するが、マグノリアとテッチが奪う様に小瓶を受け取る。

「安全かどうかも判らない物を若旦那に触らせられない」
「とりあえず、【鑑定】と製薬分解をして調べるから、しばらくおれ達に近づくなよ。毒ならすぐに緊急音が出る様に結界張るからな」
マグノリアとテッチはそう言いながら、船の後ろに牽引してきた小型の船の上に移動し、結界を張りながらポーションを調べに入る。

もし何かあっても小型の船を切り離し、被害が出るのは2人だけにするという措置である。


2人がポーションを調べている間、ルーファスの後ろにいたアルビーが鼻を鳴らす。
「この子【聖】属性なのは間違いないよ。アカリとは違ってすっごく甘すぎて濃縮された香りがする」
ルーファスの背中に鼻を押しつけて「うーん」とアルビーが唸る。

「なんかこのトカゲ失礼じゃね?」
ありすはアルビーがルーファスの服で鼻を誤魔化すのを見て少し頬をふくらます。
「シノノメ、トカゲじゃなくて光竜だ。ドラゴン。失礼に値するから言わないでくれ」
リロノスが困り顔でありすをたしなめる。
「だってリロっち、女の子に「うわっくさっ!」みたいな態度どーかと思う」
アルビーに指をさすありすに対して、アルビーも小さい手をありすに指す。

「だって、アカリみたいに花みたいな香りじゃなくて、果物が熟しすぎた香りなんだもの。君は舐めなくてもニオイが喉に痛いぐらい強い」
アルビーがルーファスの背中に鼻を押し付けたまま、ありすに頬をふくらます。
リロノスが胃を押さえながら、ありすに止める様に何度か注意するものの、アルビーとありすの睨み合いはポーションの結果が出るまで続いた。


小型の船からマグノリアとテッチが戻り、ポーションの結果を伝える。

「こちらの効果は【病魔】対策用と通常の病気やケガなど治せるもので間違いはありません。ただし、体力回復や他の付属効果はありませんね」

「【刻狼亭】側の素材提供者にも効果はあります」
しおりを挟む
感想 1,004

あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する

アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。 しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。 理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で 政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。 そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた

黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」 幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。