黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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4章

朝食

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【刻狼亭】では今現在、【病魔】が沈静化するまでは休業という形で営業を停止し、温泉大陸の住民の安全確保と衣食住を提供する為に動き回っている。

ドーンドーンと何度も大きな音と振動が地面を揺らし、大陸と温泉大陸を繋ぐ大橋が崩されていく。
何度か大橋を大陸から逃げようとして渡って来た人間が勝手に入り込んできたのもあり、一刻の猶予も無いと【刻狼亭】の力自慢部隊が技と力で破壊の限りを尽くして大橋を落とした。
大橋が落ち、振動が止まると従業員達は【刻狼亭】へ戻っていく。



これ以上【病魔】を温泉大陸に入れるわけにもいかず、温泉大陸に留まっている人間の数も増やすわけにはいかなかった。
外の大陸の家族を温泉大陸に入れて欲しいとの要請もあったが、その家族が安全かも連絡が取れない以上却下するしかない。
大橋が壊されたことで、外界から切り離された事への不安と不満が住民の間で出始めていた。





「勝手なものだな」

ルーファスの声に従業員も頷きながら大広間で騒いでいる。
大広間では朝食が用意され、従業員が仕事内容の割り振りをしながらも食べ進めていっている。

「つーか、そんなに不満ならこの大陸を出て自分で家族の元へ行けって思いますけどね」
製薬担当の責任者マグノリア・ミルが丸メガネを押し上げながら漬物をガリボリいわせて不満を口にする。
「本当にな。俺等がポーションを無料提供したのを当たり前と思うなっつーの」
製薬の従業員テッチ・ワールミーも怒りながらご飯をかき込んでいく。
「甘えてんじゃないって言ってやりたいよな」
「飯も寝床も用意されておいて、その上、自分の家族の分も用意しろってバカか!」
「若女将もおれ等もこれ以上は金を取るレベルですって」
製薬のピルマーとロタルスとウェイトも口々に文句を言う。

ルーファスの横でクロに野菜スティックを食べさせている朱里が困った顔で笑う。

「皆がんばったものね。これ以上がんばれって無茶言うよね」
製薬の従業員達はうんうん。頷いて、朱里に同意する。


「早く【病魔】騒動が終わって日常に戻ればいいんだけどな」
ハガネが朱里の皿から辛子煮を取って口にしながら、ふぃーっと息を吐く。
朱里の苦手な物を皿から奪っていくのは毎日の恒例行事になっている。

「若女将。今日のお昼はデザートに夏ミッカの実で作った氷菓子だって!」
若い女性従業員が朱里に声を掛け親指を立てると、朱里も笑顔で親指を立てる。


その様子を見ていたルーファスが「ふむ」と言いながら従業員達を見る。

「オレが不在の間に従業員と仲良くなったみたいだな」
朱里に親指を立ててピコピコと指を揺らすルーファスに朱里が笑う。
「うん。一致団結して事に当たったからね。皆に返事するたびに親指立ててたら、いつの間にか親指立てるのが浸透して今では挨拶みたいになってるけど」
ルーファスに朱里が親指を立ててルーファスの親指にくっつけてお互いに微笑むと、周りの従業員が生暖かい物を見る様な目線を送ってくる。

「若女将~っ!後で昼休みにでもお喋りしようね!」
「今日も良いアイテム仕入れてるよ!」
「お菓子も用意しとくからね!恋バナしよっ!」
そんなはしゃいだ声が届き、朱里が手をヒラヒラと声の方へ向ける。
ルーファスが「あいつ等か・・・」と、額を手で押える。
最近、朱里に「変な事」を教える従業員に軽く頭痛を覚えているルーファスに朱里が苦笑いする。

「ナーウナーンナーン」
クロが朱里の手をタシタシ叩きながら「ご飯もっと」とせがんでくる。
「もう野菜スティックないよ。煮物食べる?」
煮物の皿を取ってクロに差し出すと人参と芋だけを取って食べる。
「ナーン」
「相変わらず野菜好物だね」
「魔獣は何でも食べるが野菜ばかりなのは野菜に一番魔力があるからだろうな」
ルーファスがクロに豆を投げてクロが口でキャッチして食べる。
「野菜って魔力高いの?」
「温泉大陸の野菜は温泉の効能も染み出しているからか魔力が高い物が多いな」
朱里が感心した様に頷いて野菜の入った小鉢を見つめる。
ルーファスにクロが「もっと寄越せー」と前足でタシタシ叩いて豆をせがみ、ルーファスがハガネに豆の小鉢を渡すと、クロはハガネに「寄越せー」と騒いでいる。
ハガネが豆を皮から取り出すたびにクロに指ごと齧られ悲鳴を上げている。


大広間にのっそりと白金のドラゴン姿のアルビーが顔を出し、ルーファス達を見つけるけると嬉しそうに尻尾を振りながら入ってくる。
「ルーファス、アカリ。おはよー」
ルーファスと朱里の間に顔を割り込ませてアルビーが朱里に頭を擦り付ける。
尻尾が後ろの壁にぶつかり、ルーファスが尻尾を押さえると、アルビーが自分の体の大きさを小さく変化させる。
「ああ、おはよう。アルビー」
「アルビー、おはよ。朝ごはんは食べたの?」
アルビーは自分の尻尾を手で持ちながら嬉しそうに「食べたよ」と笑う。
別館の方で部屋を取っているアルビーは部屋でご飯を食べることが多い。
人型の時はとにかく、ドラゴン姿だと食事の仕方が少し大雑把なので注意を受けるからという理由があるからだ。

「さっきねテンが魔族が【病魔】の特効薬作れるかもしれないって連絡があったよってルーファスに伝えてって言ってたよ。テンは引き続き話をするから食事が終わったら来て欲しいって」
アルビーの言葉にルーファスが箸を置く。

「アカリ、行ってくる。今日はハガネ達と一緒にここに居てくれ。外には出ない様にな」
「はい。いってらっしゃい」
朱里の頬にキスをするとルーファスは席を立つ。
「若旦那、アカリの事は任せとけ!」
「若女将はおれ等とポーションでも改良してますから外なんて行きませんよ」
「若女将手伝ってくださいね?」
そんな事を言いながらハガネと製薬の従業員達がルーファスに声を掛けて親指を上げると、ルーファスも苦笑いしながら親指を立てて大広間を出ていく。
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