黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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4章

休養不足

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高速船から温泉大陸が見え、ようやく【刻狼亭】に戻れるとホッとしたのもつかの間。
温泉大陸の港付近に停泊していた船が温泉街へ大砲での攻撃があり、甲板に出ていたルーファス達は目を見開いた。

「ルーファス、なにあれ!!大砲?どうして?なにがあったの?」
アルビーが驚きすぎて矢継ぎ早にルーファスを質問攻めするが、ルーファスが逆に聞きたいぐらいだ。
オロオロと甲板を右往左往するアルビーを見て、少し冷静さを戻し、シュテンを見る。

「シュテンこの船に攻撃できる設備はあるか?」
「残念ながら。この船の設備は防御特化の防衛魔法の類しかありませんよ」
シュテンが手から青い炎を出すと、ルーファスもそれしかないかと頷く。
「アルビー、落ち着け!【刻狼亭】に飛んでもらうぞ!」
ルーファスがウロウロするアルビーの首を掴むと、アルビーが「ぴゃあああ」と叫ぶ。

「ルーファス、首はやめて!」
ふるふると震えながらアルビーが元のサイズに戻り、獣化して体を小さくしたルーファスを手に抱えると船を足台に空に舞い上がる。

「シュテン、こっちは任せた!」
「若、お気をつけて」
シュテンが2人を見上げた後、指で印を結びながら青い炎で作った狐を攻撃していた船に向かわせる。
アルビーの飛行速度により温泉大陸に攻撃していた船を横切り、甲板で青い炎の狐が暴れているのを見届けると港を抜ける。

温泉街の屋根を使い跳躍した小さな影がアルビーとルーファスに飛び込む。
「ルーファス!おかえり!大変な事になっちゃった!」
「メビナ何があった?」
アルビーの足に捕まりながらメビナがルーファスを覗き込んで温泉街を指さす。
「ポーションをもっと寄越せっていうバカに断ってたら船から攻撃してきたの!1発目の大砲が丁度、土産屋付近に落ちて、アカリ達が今そこにいるの!ルーファス急いで!ヒナはタマちゃんと船を攻撃するから!」
そう言い、メビナはアルビーから飛び降りて、再び温泉街を港に向かい走り出す。


ドーンという音が背後からし、目の前を大砲の玉が通り過ぎる。
「アルビー止まれ!」
ルーファスの声にアルビーが急いで止まると温泉街に衝撃波と土煙が上がる。
アルビーが衝撃波に体を揺らしながら地面に降りるとルーファスが駆け出す。
「ルーファス!待ってぇー」
アルビーがルーファスを呼びながら低空飛行でついて飛ぶ。


2人の目の前に茶屋が瓦礫に埋まり、近場の道端に【刻狼亭】の着物を着た従業員が数人倒れていた。
「アルビー、直ぐに治療してやってくれ!」
「わかった!」
従業員に駆け寄ろうと間近まで駆け寄ると、従業員の反対側の道に白い着物の小さな影が動くのが見えた。
髪の短くなった朱里が地面から顔を上げて手を伸ばしていた。

ルーファスの心臓が跳ね上がり、急いで朱里を抱き起す。

「アカリ!」

抱きしめた朱里が小さく呟く。

「ルーファス、ごめ・・・なさ・・・」

そう言ってルーファスの腕に力なく倒れ込む。

「アカリ?おい!アカリしっかりしろ!」
ルーファスが朱里の顔を見るといつもより青白い顔に冷えた冷たい体に気付く。
朱里の目の下を引っ張りまぶたを見て瞼の下の白さに貧血を起こして意識を失ったのだと解り、朱里を抱きしめながら安堵する。

「アカリ、ここからはオレが引き受けるからゆっくり休んでいろ」
朱里を抱き上げ、アルビーの方へ行くと従業員がアルビーに治療されアルビーの唾液まみれになっていた。
その中にいたハガネが目を開けてルーファスを見る。

「若旦那!アカリは?!」
「おそらく貧血だろう。あとで一応調べるが怪我はしていないようだ」
ハガネが胸に手を当てて大きく息を吐く。
「良かった・・・また主君を失ったら本当に生きていけねぇ・・・」
ハガネの言葉にルーファスの耳がピクリと動く。

「お前、アカリを主君に決めたのか?」
「おう。もう誓いは立てた。オレはアカリの従者だ」
小さくルーファスはため息を吐く。
「一生に一度あるかないかの主君決めもお前にとっては些か軽くも感じるが、まぁ決めたならアカリがオレの目が届かない時に無茶をしたら止めてやってくれ」
「オレは忠誠に熱いタイプなんだけどな。アカリの事は任せてくださいよ」
ニッと白い歯を見せて笑うハガネにルーファスは仕方がないな。と、小さく笑う。

ドーンと港からまた音がするが、大砲とは違う音にルーファスはシュテン達が何とかしたのだろうと判断し、従業員の傷の具合をアルビーに尋ねる。
「アルビーどうだ?」
「大丈夫。外身だけなら軽傷だね。この人達の問題は寝不足と疲労だね」
アルビーがうんうん。と頷き、ルーファスの腕の中の朱里に顔を近づけて覗き込む。
「アカリ、ただいま」
アルビーが尻尾をふりながら朱里に頬刷りをしていると、製薬の従業員に連れてこられた医者が到着した。
【刻狼亭】の他の従業員も駆けつけ、製薬の従業員を【刻狼亭】へ運び込んだ。
別館の宿の大広間に5人とハガネを寝かせ、ルーファスは朱里をアルビーに貸し出している『月光の間』に寝かせる。

医者に診察を頼み打ち身と貧血に寝不足と疲労と、ポーション作りの従業員達と同じ症状で休養をすれば大丈夫と診断をもらった。


アルビーと朱里を和室で寝かせ、手前の部屋でルーファスは状況報告を受けている。

「この温泉街に来て、この街に留め置かれていた冒険者と商人がポーションを他国へ売りつけようと欲に目がくらませ、船での街への強襲で脅しをかけようとしたようです」
シュテンが呆れた顔で報告をする。
「ポーションで【病魔】の予防した恩を仇で返されたの!」
「宿泊や食べ物もこっちが用意して対応してたに酷いの!」
タマホメとメビナも憤慨しながら拳を上げる。
シュテンが2人の頭を軽く小突いて静かにするように朱里の部屋を指さす。
2人は耳を下げながらルーファスに頭を下げる。

「で、そいつらは始末したのか?」
ルーファスの冷ややかな声にシュテンはニコリと笑う。
「テンの拷問の後で売れる部位は後程、魔族に高値で売りつけて土産屋と茶屋の修復費に当てようと思います」
「船の方は見せしめの為にへし折ったよ」
「乗組員は見せしめの為にへし折ったよ」
3人は笑顔のまま報告をして、ルーファスも報告に頷く。

「これからもそういう輩が出ると問題だな。【病魔】騒ぎが収まるまで、大陸に続く大橋を一旦叩き落せ。港はこの海域に近づいた船を攻撃出来る様に砲台の準備を急がせろ。【刻狼亭】は引き続き休業しつつ街の安全確保と見回りを強化させておけ」
ルーファスの指示に3人は頷き即時行動と言わんばかりに出ていく。

部屋でこの6日間の報告をまとめた物に目を通してから、朱里の様子を見に和室を覗く。

「・・・ルーファス?」
朱里が布団の中から顔を起こすとルーファスが手で止める。
「起きなくていい。貧血を起こして倒れるぞ」
バッと布団から体を起こして朱里が驚いた顔をする。

「本当にルーファスだ」
ルーファスが朱里の横に座って微笑むと朱里の手がルーファスに伸びる。
「ただいま、アカリ・・・って、アカリ?」
朱里の手がルーファスの頬を掴んで指でギリッと握りしめている。
「ルーファス、おかえりなさい。ルーファス、私怒ってるの」
「えーと、遅くなってすまん」
「違うよ。シュテンを女装させて私に見立てて東国に夫婦として行った事」
ルーファスがバツの悪そうな顔をすると、頬を引っ張って指を離す。

「すまん。アカリ、しかしアカリを巻き込むわけにもいかなくてな」
「そこは解ってます。でも事前に言わないのは傷つくよ」
ルーファスの耳が後ろに下がると朱里も少し罪悪感が湧く。
耳が一番ルーファスの心を表していて反省しているのが解る分、強く言えなくなる。
「今度からは先に言っておく。それで許してくれるか?」
「私の今回の事を怒らないなら」
ルーファスが小さくため息を吐き朱里に首を振る。

「それとこれとは話が別だ」
「私、頑張ったよ?」
朱里が唇にルーファスの指を持って甘噛みしながら上目遣いをする。
「アカリのその誘いポーズは効かないぞ?」
「ルーファス・・・ごめんね?」
首をかしげながら朱里が言うとルーファスが唇を重ね貪った後、朱里に「今回はこれで手打ちにしよう」と言ってお説教は終わった。
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