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4章
東国の代償
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城の1室を貸し切り、アルビーが朱里の髪の毛でポーションを作っては、ポーション瓶に城の使用人たちが詰込み、箱に収めていく。
少し離れたテーブルでルーファスとカイナが書類に目を通しながらサインと捺印を取り交わす。
「それなりの数を置いていく。貴族連中には高い交渉で売りつけるといい。オレが先に贈った箱の中の物と合わせて上手く切り盛りしろ。ただし、感染者が出れば無料で治し感染を広げるな」
ルーファスが書類をシュテンに渡し、シュテンが桐の箱にしまい込む。
「わかっています。貴族の力を削ぐためにも上手く活用させてもらいます。感染者がこれ以上出なければいいのですが・・・」
カイナがアルビーの作るポーションを見ながら不安な声を上げる。
「【刻狼亭】からの話では各地で【病魔】が出ているらしいからな。この国の島国という利点を生かして【病魔】が収まるまでは、他国からの入国者を入れずに注意を払っておけばこの国の【病魔】対策はこれ以上は広がらないだろう」
カイナがルーファスの言葉に頷き自分の手元の書類に目を落とす。
この東国独自の古美術技能が【刻狼亭】の手に渡る事に同意した書類。
染め物技術から織物、陶器等を中心にごっそりと持っていかれ、東国で作ろうともそれは【刻狼亭】の物になる。
権利の譲渡、これぐらいで済んだというべきか、それとも代償は大きかったというべきなのか。
ただ、【刻狼亭】で扱われる一品に選ばれるという事は一級品と誇れる物なので職人たちは逆に喜びそうではある。
ルーファス側からすれば【刻狼亭】で扱う物を買い付けや注文を楽にするぐらいのメリットしかない。
ただ、朱里が異世界の花などを最近教えてくれるので染め物や織物や陶器にその花を使用し喜ばせようかというルーファスの番愛が変な方向に走っているだけともいう。
そしてもう1つの書類がこの東国で唯一の高速船の譲渡の書類。
最新式の魔導高速船、王家の紋章のついた割りとお高い物なのだが、人の命に比べたら安い物と諦めるしかなかった。
ただでさえ火の車の国庫がまた火を噴きそうだ・・・。
「ルーファス、1000個作ったからもういいかな?」
アルビーがルーファスの元へトコトコと首を揺らしながら歩いてくる。
「ああ、それだけあれば十分だろう」
アルビーは嬉しそうに残った髪束をトートバッグに仕舞い込み、トートバッグに頬刷りしている。
「あの、その治療薬に使われている材料をお聞きしても?」
カイナの言葉にルーファスは書類の一文を指さす。
・製薬の製法等【刻狼亭】の物であり、探る事を禁ず。
「悪いが企業秘密といったところだ。このアルビーに対しても他者に口外はしてくれるなよ?」
手伝わせた使用人が居た時点でアルビーの事は人の口に戸は立てられぬとは思っているが、一応念押しはしておく。
「申し訳ありません。しかしご安心ください。ここの者達は先程助けて頂いた兵士の家族の者ですので口外はしないと約束いたします」
カイナがそう言うと、使用人たちは頭を下げる。
室内に老執事が入り、船の準備が出来た事を伝えるとルーファスはシュテンとアルビーを連れて席を立つ。
「この件が片付き次第、またそちらに赴きたいと思います」
カイナがそう言い、少年らしさの残る顔で笑っているのを見つつ、ルーファスは2人を連れて出ていく。
「若、公爵邸に置いた荷物も船に乗せられたそうですので、公爵邸には後日詫び状でも出しておきましょう」
「ああ、こんな事態だしな。まぁ、あの男の話をまた聞くのは時間の無駄になりそうだから助かったがな」
シュテンもその言葉に頷き、アルビーだけが首をひねっていた。
東国の船着き場では貴族と商人達のいざこざが起き、混雑で中々船にたどり着けないというアクシデントがあったものの、ようやくカイナから譲渡された高速船に乗船した。
「貸し切りだね!」
アルビーが嬉しそうに船の甲板で小さくステップを踏む。
「貸し切りというより【刻狼亭】の物になったからな。他の乗客は乗船出来ん」
ルーファスの言葉にアルビーは「ふーん」と言いながら船着き場に居る人々に手を振っている。
出航するとシュテンが船の設計図や見取り図を持ってウロウロと見回る。
「シュテンなにしてるの?」
アルビーがシュテンを不思議そうに見つめながら首をゆらゆらさせると、シュテンがニヤリと悪い顔で笑う。
「この船を少し改良して稼ぎを出せれば維持費も問題なさそうですね」
ルーファスに改良の説明をしながらシュテンの目が輝く。
「こういう事は、お前の得意分野だから任せるが、とりあえずは王家の紋章を【刻狼亭】に変える事から考えればいいんじゃないか?」
シュテンの勢いに押されルーファスがとりあえずの意見を言うと、シュテンはハッとした感じで「紋章の素材を溶かして作り直し【刻狼亭】の物を入れましょう!」と益々やる気を見せた。
「ルーファス、私はこんなに生き生きとしたシュテン見るの初めてだよ」
アルビーがルーファスの頭に頭を乗せながら、尻尾をパタパタさせてシュテンを見ていた。
「オレも久々にシュテンの商魂たくましい所を見たな」
2人はそんなシュテンにたじろぎながら船内の1階部分で海の中を眺められる丸い窓から水中を覗きながら時間を潰す。
「高速船と言っても15時間は掛かるのを果たして高速と言って良いのかわからんな」
早く温泉大陸に戻って朱里や従業員の無事を確かめ事態の収拾に当たらねば・・・と思いながら、アルビーが朱里から託された、自分に任せて大丈夫だという伝言に心配が募る。
朱里が身を削ってポーションを作っているとはいえ、朱里自身が弱ってしまっていてはたまったものではない。
帰ったらよく言い聞かせなくてはいけないが、しかし、最悪の事態を回避できている状態にしたのも朱里となると褒めて良いのか悪いのか・・・。
ルーファスは自分の小さく可愛い番を思い浮かべて静かに、東国に行くべきではなかったと後悔した。
少し離れたテーブルでルーファスとカイナが書類に目を通しながらサインと捺印を取り交わす。
「それなりの数を置いていく。貴族連中には高い交渉で売りつけるといい。オレが先に贈った箱の中の物と合わせて上手く切り盛りしろ。ただし、感染者が出れば無料で治し感染を広げるな」
ルーファスが書類をシュテンに渡し、シュテンが桐の箱にしまい込む。
「わかっています。貴族の力を削ぐためにも上手く活用させてもらいます。感染者がこれ以上出なければいいのですが・・・」
カイナがアルビーの作るポーションを見ながら不安な声を上げる。
「【刻狼亭】からの話では各地で【病魔】が出ているらしいからな。この国の島国という利点を生かして【病魔】が収まるまでは、他国からの入国者を入れずに注意を払っておけばこの国の【病魔】対策はこれ以上は広がらないだろう」
カイナがルーファスの言葉に頷き自分の手元の書類に目を落とす。
この東国独自の古美術技能が【刻狼亭】の手に渡る事に同意した書類。
染め物技術から織物、陶器等を中心にごっそりと持っていかれ、東国で作ろうともそれは【刻狼亭】の物になる。
権利の譲渡、これぐらいで済んだというべきか、それとも代償は大きかったというべきなのか。
ただ、【刻狼亭】で扱われる一品に選ばれるという事は一級品と誇れる物なので職人たちは逆に喜びそうではある。
ルーファス側からすれば【刻狼亭】で扱う物を買い付けや注文を楽にするぐらいのメリットしかない。
ただ、朱里が異世界の花などを最近教えてくれるので染め物や織物や陶器にその花を使用し喜ばせようかというルーファスの番愛が変な方向に走っているだけともいう。
そしてもう1つの書類がこの東国で唯一の高速船の譲渡の書類。
最新式の魔導高速船、王家の紋章のついた割りとお高い物なのだが、人の命に比べたら安い物と諦めるしかなかった。
ただでさえ火の車の国庫がまた火を噴きそうだ・・・。
「ルーファス、1000個作ったからもういいかな?」
アルビーがルーファスの元へトコトコと首を揺らしながら歩いてくる。
「ああ、それだけあれば十分だろう」
アルビーは嬉しそうに残った髪束をトートバッグに仕舞い込み、トートバッグに頬刷りしている。
「あの、その治療薬に使われている材料をお聞きしても?」
カイナの言葉にルーファスは書類の一文を指さす。
・製薬の製法等【刻狼亭】の物であり、探る事を禁ず。
「悪いが企業秘密といったところだ。このアルビーに対しても他者に口外はしてくれるなよ?」
手伝わせた使用人が居た時点でアルビーの事は人の口に戸は立てられぬとは思っているが、一応念押しはしておく。
「申し訳ありません。しかしご安心ください。ここの者達は先程助けて頂いた兵士の家族の者ですので口外はしないと約束いたします」
カイナがそう言うと、使用人たちは頭を下げる。
室内に老執事が入り、船の準備が出来た事を伝えるとルーファスはシュテンとアルビーを連れて席を立つ。
「この件が片付き次第、またそちらに赴きたいと思います」
カイナがそう言い、少年らしさの残る顔で笑っているのを見つつ、ルーファスは2人を連れて出ていく。
「若、公爵邸に置いた荷物も船に乗せられたそうですので、公爵邸には後日詫び状でも出しておきましょう」
「ああ、こんな事態だしな。まぁ、あの男の話をまた聞くのは時間の無駄になりそうだから助かったがな」
シュテンもその言葉に頷き、アルビーだけが首をひねっていた。
東国の船着き場では貴族と商人達のいざこざが起き、混雑で中々船にたどり着けないというアクシデントがあったものの、ようやくカイナから譲渡された高速船に乗船した。
「貸し切りだね!」
アルビーが嬉しそうに船の甲板で小さくステップを踏む。
「貸し切りというより【刻狼亭】の物になったからな。他の乗客は乗船出来ん」
ルーファスの言葉にアルビーは「ふーん」と言いながら船着き場に居る人々に手を振っている。
出航するとシュテンが船の設計図や見取り図を持ってウロウロと見回る。
「シュテンなにしてるの?」
アルビーがシュテンを不思議そうに見つめながら首をゆらゆらさせると、シュテンがニヤリと悪い顔で笑う。
「この船を少し改良して稼ぎを出せれば維持費も問題なさそうですね」
ルーファスに改良の説明をしながらシュテンの目が輝く。
「こういう事は、お前の得意分野だから任せるが、とりあえずは王家の紋章を【刻狼亭】に変える事から考えればいいんじゃないか?」
シュテンの勢いに押されルーファスがとりあえずの意見を言うと、シュテンはハッとした感じで「紋章の素材を溶かして作り直し【刻狼亭】の物を入れましょう!」と益々やる気を見せた。
「ルーファス、私はこんなに生き生きとしたシュテン見るの初めてだよ」
アルビーがルーファスの頭に頭を乗せながら、尻尾をパタパタさせてシュテンを見ていた。
「オレも久々にシュテンの商魂たくましい所を見たな」
2人はそんなシュテンにたじろぎながら船内の1階部分で海の中を眺められる丸い窓から水中を覗きながら時間を潰す。
「高速船と言っても15時間は掛かるのを果たして高速と言って良いのかわからんな」
早く温泉大陸に戻って朱里や従業員の無事を確かめ事態の収拾に当たらねば・・・と思いながら、アルビーが朱里から託された、自分に任せて大丈夫だという伝言に心配が募る。
朱里が身を削ってポーションを作っているとはいえ、朱里自身が弱ってしまっていてはたまったものではない。
帰ったらよく言い聞かせなくてはいけないが、しかし、最悪の事態を回避できている状態にしたのも朱里となると褒めて良いのか悪いのか・・・。
ルーファスは自分の小さく可愛い番を思い浮かべて静かに、東国に行くべきではなかったと後悔した。
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