黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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4章

東国の王族

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夜会の最後の客が帰るのを目で見送りながら、カイナは【勇者】が残し、血族が受け継いできた刀を手に持ち閑散とした夜会の会場となったダンスフロアで兵士に見張られている自分の兄グレンの前まで歩いていく。

「兄上・・・」
カイナの声にグレンの肩が揺れて、グレンは俯いて自分の両手を握りしめる。
「笑いに来たんだろう?笑えばいい・・・私には何もない」
「笑えないですよ、兄上。兄上には殺人の容疑が掛かっています」
「ああ、認めるさ。私がやった事だからな」
「8人の罪もない人を殺めた事に間違いはないですか?」
「ああ、お前を陥れる為にな」

カイナが手に持った刀をガャチリと音を立てながら強く握ると、グレンは少し目線をカイナに上げ、自嘲気味に笑う。

「その刀で斬り捨てるならやっても構わん。私は第一王子でありながらこの国に必要のないモノなのだからな」
「この刀は本来、兄上が継ぐ物だった。私が黒髪というだけで継いでしまった物です。でも、今回の事件でこの刀は兄上が持ってこそ本来の力を発揮する物だったと気づきました」

グレンは顔を歪めてカイナを睨み付け唇の端をピクピクと痙攣させている。
「お前は私を馬鹿にしているのか?!」
「いいえ。私では普通の剣であの様な斬り方は出来ません。この刀を兄上が受け継いでいたら、私より素晴らしい【勇者】だったと思います。私は遺体を調べて兄上の剣の腕に正直、嫉妬しました」
カイナは少し困った顔で笑ってグレンを見つめる。

「なんだ、それはー・・・私にお前が嫉妬?馬鹿を言うな【勇者】でもない私に」
「兄上も【勇者】の血を受け継いだ正真正銘【勇者】の一族の一人ではありませんか。【黒髪】【黒目】に囚われすぎて、私も周りも盲目になっていただけです。勿論、兄上も」
グレンの目が揺れながらカイナを見た後で強く握りしめた手を解いて力なくだらりと下げる。

「一番、勇者の力を持っていた人が居たのに、こんな形で気づくなんて残念です。兄上の力をもっと早く知っていたら、私は【勇者】なんて、なりたくないモノにならなくて良かったのに・・・ずっと自由な兄上が羨ましかったです」

カイナの目から一粒涙が落ちると、手に持った刀は線を描く様にグレンの首元を通り過ぎる。

音もなくグレンが絶命すると兵士がグレンの遺体を運んでいく。


様子を見ていた城のお仕着せ姿のシュテンがそれを見届け静かにホールから出て、城を後にする。
もうすっかり夜も更け、あと2時間もしないうちに日が昇るのだろうと、シュテンは空を眺めつつ公爵邸へ足を向かわせていた。


ロルド公爵邸へ着くと客室へ入り、部屋のソファで足を組みながら浅く眠るルーファスの元に立つ。
「・・・シュテン、戻ったか」
「ええ、今戻りました」
ルーファスは眉間を指で摘まみながら頭を振って眠気を飛ばす。
「グレンはどうなった?」
「【勇者】が首を跳ねて終わらせました。朝には急病で死んだ事にして隠蔽する様です」
「妥当なところか。今、王家から殺人犯を出せば王家も終わる。せめてカイナが王政を手に貴族を潰す算段が出来るまでは持ちこたえてもらわなくてはな」

シュテンが密閉された透明な瓶をテーブルに置く

「宿から何とか回収出来た毒物ですが、グレン王子はこれとは無関係の様です。泊り客に1人居なくなっている人物が居ます。その居なくなっている人物の部屋の風呂場の浴槽にこの毒液がありました」
赤黒いまるで血肉の様な色をした液体にルーファスは眉間にしわを寄せる。

「別件か・・・その泊り客を調べる必要がありそうだな」
「名前はニック・ロバーという男です。行商人で東国へは2日前に来た男です。荷物などもそのまま置いてあったのですが、斬られた者の中にニックは居ませんし、捜索もしていますが行方は知れていません」
「引き続き捜索をしてこの毒薬に関しても調べるしかないな」
「はい。この毒薬は持ちかえり製薬担当の者へ調べさせます」

ルーファスとシュテンが居る位置より少し離れたベッドで1人寝ていたドラゴン姿のアルビーがのっそりと起き上がり、尻尾を振りならテーブルの上の小瓶を見つめて金色の目をしばたかせる。

「ねぇ、その小瓶の中身【病魔】だよ。早く焼いた方が良いと思うな」

アルビーの一言にルーファスとシュテンがアルビーを見ると、アルビーは左右に首を振りながら近づいてくる。
トスンとルーファスの横に座るとアルビーは小瓶をじーっと見つめる。

「アルビー、【病魔】とはどういう事だ?」
ルーファスに問われアルビーは小瓶を手に取る。
「【病魔】は【病魔】としか言えないけど、うーん。病気の濃い物というべきかな?でも病気みたいに原因が何かって言うのはなくて、ただ濃い病気の塊。治すのが難しいし、治す前にその瓶の中身みたいに人体が破裂してしまうんだよ。【病魔】を見つけたらたとえ生きている人間でも焼いて殺すしかないよ」
アルビーは少し困った顔をしながら、小瓶をテーブルに戻す。

「こいつは近くに居たり触ったりしたら感染したりするのか?」
「その瓶の中身を直接触って無ければ平気だよ。触ってないよね?」
ルーファスはシュテンを見るとシュテンは小さく頷く。
「この瓶はあの宿屋の警備兵が採取したので私は直接触っていませんが、少し心配になりますね」
シュテンが自分の両手で自分を抱きしめる様に身震いするとアルビーがシュテンに鼻を鳴らしながら金色の目を上から下まで全身くまなく見つめ回す。

「うーん。多分、大丈夫かな?心配ならアカリが大量に作ったポーション1本帰ったら飲むと良いよ。アカリの【聖】と私の魔法が合わさってるから【病魔】を打ち消せるし。ああ、でも飲むまでアカリには近寄らないでね?アカリ自身に効き目はないから、アカリが【病魔】になったら助ける手立てがないからね」

シュテンは頷いてから少し難しい顔をする。
「しかし、だとしたら採取した警備兵が心配ですね。あの宿屋から毒薬として樽で警備の砦に持ちかえっていましたから、大事になる前に知らせに向かいます」
シュテンが歩き出す前にアルビーが止めに入る。

「待って!私の体液掛けておくから少しは防げるよ。【病魔】は凄く嫌な臭いがするから、鼻がチクチクする臭いがしたら近寄っちゃ駄目だよ!破裂する前と破裂した数時間は匂いが酷いから解りやすいと思う」
シュテンに近寄ってペロンと舌でシュテンの顔を舐めるとアルビーは満足そうに尻尾を振る。
「一応礼は言っておくが、拭いたら駄目なのか?」
「駄目だよ。乾くまではそのまま!」
シュテンは小さくため息を吐いた後、少しルーファスに頭を下げて直ぐさまロルド公爵邸を出て行った。

部屋に残されたルーファスは小瓶を手に取ると魔法で高温の炎を出すと小瓶を灰にするまで燃やし尽くす。

「アルビー【病魔】の対応に関してお前の知識を貸してほしい」

「お安い御用だよ」
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