黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

文字の大きさ
上 下
26 / 960
4章

ポーション

しおりを挟む
「・・・で?結局、2人はどうした?」

目頭を押さえながらルーファスが1ヵ月分の留守にしていた間の収支書を机に置き、ため息をつく。

「どうも暇を持て余していただけみたいなので、従業員が買い出しに連れ出しましたから今頃大荷物抱えて部屋に居れば良かったと喚いているころじゃないですか?」
シュテンが収支書を手に取り、ざっと見しながら答える。

「まったく、あの2人は日に日に仲良くなるのは良いが、困ったものだ」

忙しくて構ってやれないのはルーファスだが、朱里とアルビーはお互いに感化されあって子供の様な言動が多くなっている。
年齢的にも2人は大差なく同年代の友達の居ない2人だからこそなのかもしれないが・・・。

「まぁ、若もたまには早めに仕事を切り上げて2人と食事でも一緒にしたらどうです?」
「そうだな。たまには早めに帰って2人を構ってやるか」
「ええ、そうしてください。若も仕事疲れでピリピリしてますから、2人に癒されて来てください」
シュテンは薄く笑って事務室から出ていく。
ルーファスは伸びをしてから着物の襟を直して事務室を後にする。


夕焼けに染まる温泉街を眺めながら【刻狼亭】の別館・宿から料亭に戻り、久々の早い時間の自室に戻ると、ドラゴンの姿のアルビーに朱里がもたれかかり、その横にアナグマとクロが寝ていた。

「これは、ハガネか・・・」

アナグマの匂いからハガネと解り、寝ているハガネを摘まみ上げる。

「ハガネ、起きろ」

「・・・俺は寝てないぜ?」

「いや、寝てただろ?」

アナグマ姿でハガネが白い歯を見せて笑いながら目線を反らす。
獣化してもハガネのふてぶてしさは隠しきれていない。

「まぁ別に怒りはしないが、2人は昼寝でもしてこのままなのか?」

「こいつ等は魔法の練習のし過ぎで魔力切れ起こしてるだけですよ。まぁ俺も魔力切れで人型とれないんですけどね。散々実験台に【幻惑】魔法とか色々使わされましたよ」

ハガネは頭をガシガシ掻きながら「参ったね、こりゃ」とプランと尻尾を揺らす。
ハガネを下ろし、氷室から魔力ポーションを取り出そうと扉を開けると、氷室の中は様々な大きさの空き瓶が詰まっていた。

「なんだこれは?」

トコトコとハガネが歩いてきてルーファスに白い歯を見せて笑う。

「あいつ等の魔力切れの原因。2人の合作回復ポーションです。まぁまだ効能が安定しないんですけどね」

ルーファスは1つ瓶を取り出して、仕事用の黒メガネを掛ける。



【聖竜の回復ポーション】
効能:眠気・疲労・肩こり・眼精疲労・腰痛・頭痛・歯痛・解毒・呪い・腹痛・耳鳴り・幻惑・幻聴・痺れ・体力・回復2日間継続



「・・・なんだこのエゲツない効能は・・・」

「んーっ、若旦那への2人の愛?」

ハガネが短い手を肩をすくめながら上げる。
ルーファスは瓶を氷室に戻し、氷室の奥に追いやられた魔力回復ポーションを3本取り出す。
1本をハガネに渡す。

「若旦那、あいつ等怒らないでやってくれよ?自分達にここで出来る事を考えた末に行きついたのがアレなんだ。【聖域の雫】並みにヤバいヤツだけど、若旦那の仕事の疲れを取る効能を考えて悩みまくって何個も作りまわってたから」

腰に手をおいてグイっと魔力回復ポーションをハガネが一気飲みするといつもの人型に戻り、プハァーっと息を吐く。

「まったく、無茶ばかりして仕方がない奴等だ。しかし薬草はどうしたんだ?ここにポーションを作る材料は無いと思うが」

「ああ、アルビーが1人で薬草を採ってきて、アカリはココで水をアカリのだし汁にしながら魔力入れてたんですよ。アルビーが居ないおかげで効能が安定してないのが大半ですけど」

ルーファスが苦笑いしながら可愛い弟分と番を起こしに行く。

「アルビー、魔力ポーション飲めるか?」
うすぼんやりと目を開けたアルビーに、ポンッと蓋を開けて、口に差し込むとアルビーが目を白黒させながらポーションを飲み干す。

「っ・・・不味っ!!!」
ペッペッと舌を出してアルビーが涙目でルーファスを恨みがましそうに見る。

「アルビー、アカリを起こすから人型に戻れるか?」
「あんまりその魔力ポーションじゃ長い時間人型に戻れないよ?それにもうアカリとはこの姿で遊んでもらってるから平気だと思う」
「そうか。ならそのままでいいな」
朱里の口に魔力回復ポーションを入れると眉間にしわを寄せて朱里が目を覚ます。

「アカリ、飲めるか?」
「不味っ!!・・・なにそれ????」
口を閉じて一の字に閉じると朱里は顔を背ける。
毒蛇の時もそうだが、朱里は自分が食べたり飲んだりする物で不味い物は一口で拒否する癖があるのをルーファスは改めて思い起こした。

「アカリ、魔力回復ポーションだから飲んでおけ。そのままだとフラフラで頭痛がしてくるぞ?」
ルーファスにポーションを口に近づけられて朱里は眉間にしわを寄せて嫌がる。

「アカリ、私は飲んだよ!不味かったけど!」
アルビーの一言に、朱里はルーファスからポーションを受け取る。
朱里の『お姉ちゃん』としてのプライドで『弟には負けられない』と一気に飲み干した。

「~っ不味いっっ!!!」

朱里が涙目でルーファスに恨みがましい顔をするとハガネがカラカラと笑い声をあげる。

「アルビーと同じとかっ!本当に姉弟だな」

朱里がフフーンと胸を張るとアルビーは首をひねる。
ルーファスはそんな朱里とアルビーを撫でる。

「二人共、色々していたようだがあまり無茶はするな?」

2人は顔を見合わせてから、急いで氷室から瓶を抱えて持ってくる。
テーブルに並べて2人はおススメをルーファスに指さす。

「私の一押しはコレ。疲労回復特化ポーション!」
「アカリ、それは余計な効能多かったじゃない?オーソドックスに私は夜遅くまで働いてるルーファスに寝不足特化のポーションをおススメ」
「アルビー、でもそれ、眠れなくなる効能も入ってなかった?」
「24時間働けるよ?眠気しらずだよ」

2人は「ならばこっち!」と新たに別のポーションを指さし、ルーファスは収拾がつかない。と、適当に1本飲み干す。

「んっ、意外とこれは甘いな」
ルーファスの言葉に2人はうんうんと頷く。
「だって私のだし汁だから、ルーファスには甘く感じるの間違いなしだしね」
「他の人が飲んだら無味なんだけどね。私は甘いと感じるから聖属性同士って便利だよね」

のん気に2人が喋っているのを聞いて飲み干したポーションの効能を瓶に残った液体で黒メガネを使い鑑定する。

【聖竜の回復ポーション】
効能:食欲不振・熱さまし・頭痛・喉の痛み・動機息切れ・体力・魔力・回復ポーション1日継続

「風邪薬だな・・・」

小さく言ってルーファスは苦笑いをした。
朱里とアルビーは褒めてと言わんばかりの顔をしているので流石に体力以外は回復しないとは言えないので、2人を撫でて「ありがとう二人共」と口にした。
しおりを挟む
感想 1,004

あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する

アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。 しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。 理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で 政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。 そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた

黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」 幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。