黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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4章

スイカ

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ジリジリと熱い地面の上で魔獣のクロが背中を転がしては涼しい所を探して移動を繰り返す。
少し日陰に入っては倒れ込むようにしている。

「クロー。打ち水するからこっちにおいで」
水色の瑠璃唐綿ブルースターが描かれた浴衣と水色の帯を付け、髪をアップにした朱里が桶と柄杓ひしゃくを手にクロに呼びかける。
「ナウー・・・」
力なくクロが答えノロノロと朱里の方へ歩いてくる。
朱里の足に擦り寄ると室内に入り込む。

「黒いから熱くなってるね。今、打ち水してあげるからね」
桶から柄杓で水をすくい上げて庭の飛び石と玉砂利に水をかけると冷やっとした空気が下から上がる。
「ふぁー。さすが異世界、打ち水でこんなに涼しくなるなんてスゴイね、クロ」
朱里がクロに話しかけながら打ち水を繰り返していると、朱里の足元に黒い影が出来る。

「アカリ、暑いのにそのまま外に出ると頭焦げちゃうよ?」
そう言って日傘を朱里の真上に差してアルビーが首をかしげている。
ルーファスを模写した人型のアルビーは、忙しいルーファスに相手をしてもらえないので暇を持て余し、朱里の所によく来る。


「そういえば、アカリは今日は赤い柄の着物じゃないんだね?見たことない青い花だね」
アルビーが朱里の着ている浴衣を見ながら首をゆらゆら左右に振る。
ドラゴンの時のくせなのかアルビーはよく首をゆらゆらと揺らす。

「瑠璃唐綿だよ。この世界にある花か判らないから私が描いたのを元に作ってもらったの」
「るりとうわた?」
「別名ブルースター。青い星みたいな形をしてるからそう言われてて、花言葉が『信じあう心』とか『幸福な愛』っていうの。結婚式で花嫁が持つブーケに入れておくと幸せになれるってジンクスがあったんだよ」
「へぇー。アカリは物知りだね」
「私のお母さんが花が好きな人でね、お母さんに教えてもらった事なの」
朱里が少し懐かしそうに遠い目をして庭園を歩く。

「アカリ、日傘から出てるよ?頭焦げちゃう」
アルビーが日傘を朱里の方へ日傘と一緒に移動する。

「ありがとうアルビー。でもさすがに焦げつきはしないと思う・・・ハッ、まさか太陽で焦げるとかある?」
朱里が慌てて頭を押さえるとアルビーは首をかしげる。

「言葉の綾だよ。アカリは面白いね。太陽で焦げたら今頃ここら辺は火の海だよ」
クスクス笑ってアルビーは楽しそうにしている。

「お前等なんか物騒な事言ってんなぁ」
ハガネが桶を片手に庭園の玉砂利を音を立てながら歩いてくる。

「ハガネ、どうしたの?休憩?」
ハガネは白い歯を見せて笑いながら桶の中身を見せる。
朱里とアルビーが覗くと丸いスイカがデンっと氷水と一緒に入っている。

「私、スイカ好き!」
「私もスイカは好きだよ!」
朱里とアルビーが声を弾ませるとハガネはうんうんと頷く。

「若旦那が2人に持って行けってくれたヤツだから食おうぜ」
「良かったねアルビー」
「アカリも良かったね」

ハガネは2人を見ながらなんとも言えない表情をする。
「どうかしたの?」
「いや、若旦那の顔でアカリみたいな言動っていう違和感がハンパないなと・・・」
朱里とアルビーが顔を見合わせてキョトンとした顔でハガネを見る。

「慣れると違和感ないけど?」
「私は元々こういう言動だけど?」

2人が一緒になって首をかしげる姿にハガネが肩を震わせて口元を隠し、中庭から縁側に入り、室内に足を入れる。
2人もそれに倣って室内に上がる。

ルーファスの部屋の小さな給湯室もどきでハガネがスイカを切りに姿を消すと、朱里とアルビーは魔法の練習をしはじめる。
コップの水に魔力を流すというモノで、初歩の初歩をアルビーに教わりながら朱里はやっている。

朱里の心は不安定な所が多いが、アルビーと手を握っている間は少しずつ出来る様にはなってきた。
アルビーの魔力を流すと朱里が過剰反応してしまって、ルーファスに怒られる状態になるので、あくまで朱里の魔力をサポートするだけである。

コップに指を入れて朱里が「むぅぅ」と唸ると、アルビーがコップの水を指で舐める。
「アカリ、これじゃただのアカリのだし汁だよ?」
「ううっ、だし汁って・・・」
「魔力入ってないよ。まぁ、アカリのだし汁美味しいけど」
「だし汁って言わないで・・・」
朱里が触れる物には少なからず【聖域】が滲みだしてしまうのでアルビーはアカリのだし汁と呼んでいる。
ガクリと朱里が項垂れるとハガネがスイカを持って給湯室もどきから戻り、テーブルの上にスイカを並べる。

「「スイカだー!」」
2人が声を合わせるとハガネが吹き出す。

「お前等、兄弟かなんかかよ」

2人は「私、お姉さん!」「私、お兄さん!」と同時に言い放ち笑顔で「いやいや」と手を左右に振る。
ハガネがそこで床に伏せて爆笑をするので2人はむぅっと口を尖らせる。

「私はルーファスの番だから、ルーファスの弟分のアルビーは必然的に弟になると思うの」
「うーん。年齢的には私の方がお兄さんだと思うけどね」
「アルビー幾つなの?」
「15歳だよ」

「私、16だよ。アルビー、やっぱり弟だよ」

朱里の一言にアルビーとハガネが目を丸くする。

「12かそこらだと思ってた・・・」
「私も・・・そのくらいだと・・・幼子じゃないって聞いたからギリギリそのくらいかと」

ハガネとアルビーの言葉に朱里が目を吊り上げる。

「私は背は小さいけど、そんなに子供だと思われてたの?!」

12歳と言えば小学生か中学生、朱里は本来なら高校生である。
16歳も子供と言えば子供だが、小学生と高校生では違いがあるというものだ。

「若旦那の番が早く成長するといいなってここでも噂されてるぜ?」
「私はルーファスが幸せなら幼い子に手を出してもいいかって思ってたよ」

朱里の心にダメージがグサグサと刺さり、2人を睨み付けるとハガネとアルビーは目をサッと反らし、半月状に切られたスイカを手にシャクシャクと食べ始める。

「・・・もしかして、ルーファスも私の事、子供だと思ってたり・・・」

そう言えば年齢なんて聞かれたことも無かったし、言ったことも無かったかもしれない・・・。
その考えに思い当たった朱里は、ちゃんと確かめようと心に決めた。

朱里もスイカを口にしながらシャクシャクいわせていると、スイカの瑞々しさに年齢の事で言われたムカついた気持ちを消化していった。

「アルビー、スイカ美味しいね」
「うん。ルーファスに何かお礼したいね。」
朱里とアルビーは目線を合わせると「それだ!」と声を上げる。

「アルビー、ルーファスに何かお礼しよう!」
「うん。何かお礼を考えよう!」
盛り上がる2人にハガネはスイカに齧りつきながら半目で見ている。

「別に気にしなくていいんじゃねぇの?お前等がスイカ美味かったって言うだけで喜ぶだろ?」

ハガネの言葉に朱里とアルビーは肩をすくめる。

「たまには私だってルーファスに何かしたいもの」
「私もルーファスに宿を借りてお世話になりっぱなしだし、何かしたい」

ハガネは、ハーッと息を吐いて首を振る。

「いいか、お前等。特にアカリ。余計な事をしないで大人しくしてろ。働きたいとか、何かあげたいとか考えてどこかへ行ったり、行動するなよ?仕事でただでさえ忙しい若旦那に余計な心配させるな」

朱里とアルビーはハガネをちょっと尊敬した眼差しで見てくる。

「ハガネそれだよ!お仕事の忙しいルーファスに差し入れしたい!」
「この時期なら疲労回復の薬草が生えてる場所があったはず!採りにいこう!」

2人が手を握ってやる気満々なのを見てハガネが苦虫を噛み潰した顔で叫ぶ。


「だから、余計な事を考えるんじゃないって言ってるだろーが!!!!」
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