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小梅の恋
醤油煮染めた浅蜊の味よ
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夕焼けも沈みかけた頃合いに、佐平と小梅が神社の階段を下りきると、千吉と小松も駆け寄ってきた。
小梅から千吉に肩を貸してもらうことにして、家路につく。
磯混じりの醤油の香りがふわりと家の中に漂い、留守番をしていたせつが出迎えに出る。
「あらまぁ! 佐平さん大丈夫かい!?」
「へへ、大丈夫と言いてぇところだが、ちぃとばかり、襤褸にされちまったよ」
「ああ、もう。笑ってないで、佐平さんはそこに座んなさいな。小松、あんたもボヤッとしてないで、桶に水! 小梅ちゃんは竈の灰で傷薬を作っておくれ」
しゃきしゃきと指示を出すせつに、小松も小梅も慌てて動き、千吉は困った顔で突っ立っていたら、せつに「井戸から冷たい水を汲んできな! 男は考えて動くんだよ!」と喝を飛ばされていた。
そんな折り、白い割烹着をきた老人が茶屋に訪ねてきた。
「ごめん下さいよ。佐平さんは居るかね?」
「おいらなら、ここですが……ああ、【久世楼】のお医者先生じゃねぇですか」
「乕松坊ちゃんから、言われましてね。こりゃまた酷い顔だねぇ」
【久世楼】に住み込みで医者をしている笹塀という男で、腕は良いのか悪いのかいまいち分からないところだが、ここらでは産婆以外に唯一いる医者だ。
その昔、貧乏で学問を学べない笹塀に、【久世楼】の旦那が金を工面して世話をしたらしく、医者になってこの町に戻ってからは、【久世楼】の雇われ医者として過ごしている。
金は取らない医者で、【久世楼】が必要な物は揃えて与えているという塩梅で、下町の人々にも非常に助かる医者でもある。
「灰は流石に顔には駄目だよ。洗顔には良いだろうけどねぇ」
「そうなの? 笹塀お医者さん。洗顔って、灰で顔を洗っても良いの?」
「塩を一摘まみと灰で優しく洗うと、肌がつやっとするんだよ。でも、塩を入れすぎると逆に赤くなるから、擦り過ぎたりは駄目だからね」
小梅と小松が目を輝かせている辺り、若い娘にとっては耳よりの情報だったようだ。
佐平の顔に軟膏を塗りつけて、ついでに塗り薬の湿布も置くと笹塀は腰の低いお辞儀で帰って行った。
「さて、小松。あたらしも帰ろうか」
「せつさん。折角、飯を作ってくれたんだ。うちで食べて行けばいいじゃないか」
「そうかい? それじゃあ、家からもう少しおかずを持ってこようかね」
せつは一旦、家に戻り、作り置きの大根の煮付けを持って戻ってきた。
流石に、家の中では四人で食べるには狭かった為に、茶屋の方で大根の煮付けに浅蜊の炊き込みご飯、そして大根の葉の味噌汁。漬物は刻み柚子と唐辛子の入った塩もみの大根を食べる。
「んまい。せつさんは、料理上手だねぇ」
「これぐらいしか取り柄がないからねぇ。浅蜊をよく醤油で煮染めるさせるのが美味いんだよ」
「小梅、せつさんに料理を習っておくといいんじゃねぇかい」
佐平の言葉に小梅は鼻を鳴らして、つんとした顔をする。
せつは眉を下げて「佐平さんも娘心、いや、女心がわかってないねぇ」と笑う。
「そうよ。佐平のおじさん。毎日、梅だって料理作ってんだから、それをないがしろにするような発言は駄目よ」
「ないがしろにしたつもりはねぇんだがよ……」
佐平にはさっぱりわからなかったが、女には女の領分があるのだろうと納得するしかなかった。
小梅から千吉に肩を貸してもらうことにして、家路につく。
磯混じりの醤油の香りがふわりと家の中に漂い、留守番をしていたせつが出迎えに出る。
「あらまぁ! 佐平さん大丈夫かい!?」
「へへ、大丈夫と言いてぇところだが、ちぃとばかり、襤褸にされちまったよ」
「ああ、もう。笑ってないで、佐平さんはそこに座んなさいな。小松、あんたもボヤッとしてないで、桶に水! 小梅ちゃんは竈の灰で傷薬を作っておくれ」
しゃきしゃきと指示を出すせつに、小松も小梅も慌てて動き、千吉は困った顔で突っ立っていたら、せつに「井戸から冷たい水を汲んできな! 男は考えて動くんだよ!」と喝を飛ばされていた。
そんな折り、白い割烹着をきた老人が茶屋に訪ねてきた。
「ごめん下さいよ。佐平さんは居るかね?」
「おいらなら、ここですが……ああ、【久世楼】のお医者先生じゃねぇですか」
「乕松坊ちゃんから、言われましてね。こりゃまた酷い顔だねぇ」
【久世楼】に住み込みで医者をしている笹塀という男で、腕は良いのか悪いのかいまいち分からないところだが、ここらでは産婆以外に唯一いる医者だ。
その昔、貧乏で学問を学べない笹塀に、【久世楼】の旦那が金を工面して世話をしたらしく、医者になってこの町に戻ってからは、【久世楼】の雇われ医者として過ごしている。
金は取らない医者で、【久世楼】が必要な物は揃えて与えているという塩梅で、下町の人々にも非常に助かる医者でもある。
「灰は流石に顔には駄目だよ。洗顔には良いだろうけどねぇ」
「そうなの? 笹塀お医者さん。洗顔って、灰で顔を洗っても良いの?」
「塩を一摘まみと灰で優しく洗うと、肌がつやっとするんだよ。でも、塩を入れすぎると逆に赤くなるから、擦り過ぎたりは駄目だからね」
小梅と小松が目を輝かせている辺り、若い娘にとっては耳よりの情報だったようだ。
佐平の顔に軟膏を塗りつけて、ついでに塗り薬の湿布も置くと笹塀は腰の低いお辞儀で帰って行った。
「さて、小松。あたらしも帰ろうか」
「せつさん。折角、飯を作ってくれたんだ。うちで食べて行けばいいじゃないか」
「そうかい? それじゃあ、家からもう少しおかずを持ってこようかね」
せつは一旦、家に戻り、作り置きの大根の煮付けを持って戻ってきた。
流石に、家の中では四人で食べるには狭かった為に、茶屋の方で大根の煮付けに浅蜊の炊き込みご飯、そして大根の葉の味噌汁。漬物は刻み柚子と唐辛子の入った塩もみの大根を食べる。
「んまい。せつさんは、料理上手だねぇ」
「これぐらいしか取り柄がないからねぇ。浅蜊をよく醤油で煮染めるさせるのが美味いんだよ」
「小梅、せつさんに料理を習っておくといいんじゃねぇかい」
佐平の言葉に小梅は鼻を鳴らして、つんとした顔をする。
せつは眉を下げて「佐平さんも娘心、いや、女心がわかってないねぇ」と笑う。
「そうよ。佐平のおじさん。毎日、梅だって料理作ってんだから、それをないがしろにするような発言は駄目よ」
「ないがしろにしたつもりはねぇんだがよ……」
佐平にはさっぱりわからなかったが、女には女の領分があるのだろうと納得するしかなかった。
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