好いたの惚れたの恋茶屋通り

ろいず

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小梅の恋

なんてこったいおっかさん

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 せつに薙刀で追い回されての帰宅に、佐平は身震いしながらも、せつのいった『ろくでもない輩』という言葉が気になった。
 確かに千吉は小梅と佐平にとっては、祝言の約束を反故ほごにした『ろくでもない輩』である。
 しかし、寺子屋の息子で学問ばかりの青瓢箪あおびょうたんで、子供の時分から佐平も知っているが、薙刀を振り回すほどの恨みをかう青年ではない。

「こりゃあ、全くもっていよいよどうしたもんかねぇ」

 肝心の小松には会えずじまい、千吉の話を聞くなら小梅が一番手っ取り早いが、傷心の娘にそんなことを出来るはずもなく、佐平は家の台所にある水壺から柄杓ひしゃくで水をすくいそのまま飲み干した。
 すると後ろで人の気配を感じて振り向く。

「父ちゃん! 柄杓から直接水を飲まないでって、何回言ったらわかるのさ! 父ちゃんの唾が入った水なんて、あたしはご免だからね!」

 小梅が一気にまくし立て、傷心の娘とは思えねぇなと佐平はぼやく。
 耳ざとく小梅が「なによ!」と噛みつかんばかりに、怒った顔を佐平にしてみせた。
 おお怖いと、佐平が両腕を摩って身震いして小梅を揶揄からかうと、佐平の持っていた柄杓を取り上げて、佐平の頭をカコンといい音が響いた。

 ことが変わったのは、翌日の朝だった。
 昨日の剣幕はどこへやらで小松の母親せつが深々と頭を下げて、佐平の家へとお詫びに来た。

「この度は、あたしの早とちりでとんだご迷惑を……」
「せつさん、気にしないでくれ。頭をそんなに下げるこたぁないよ。顔を上げとくれ。なにか訳でもあったんだろう?」

 せつは顔を上げると、ぽつりぽつりと話し始めた。
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