62 / 73
三章 悪の華
小さな手
しおりを挟む
魔塔の階層を四つ程あがったところで、ルカリオンの足が止まった。
回復魔法で疲労も取れるはずではあるけれど、連戦させ過ぎたか? そう思ってルカリオンの顔を覗き込む。
頬と頬を擦り合わせ、フッと笑い俺のおでこに唇を落としてから床におろす。
壁を手の爪でコツコツ叩き、片足を上げると壁を蹴る。
「何してるんだよ!」
「この壁の内側から人の気配と、シグマ様の匂いがします」
「なるほど。俺は魔法で隠された物を見るのは苦手だからなぁ……」
「その為の、わたしです」
言い終わると同時にミシリと壁に亀裂が入り、隠された扉が姿を現した。
俺には魔力の流れは見えないし、ルカリオンたち獣人も魔力の流れを見るのは苦手だが、人や物は匂いを発する。そこを上手く見つけ出せるのが獣人の持ち味だろう。
きっと俺じゃ、この壁に扉が隠されている事には気づかなかったはずだ。
「開けますが、直ぐには中に入ってはいけませんよ。人の気配がしていますから、魔法を撃つ準備をしているかもしれません。わたしが撃たれたら回復をして下さい。すぐに起き上がって対応しますので」
「了解。でも、死んだら蘇らせるほどの回復魔術は持ってないから、無茶はすんなよ?」
「ええ。あなたを一人にするわけが無いでしょう」
「うーん。死亡フラグに聞こえるから、それは聞かなかった事にしておく」
爪先立ちをしてルカリオンの頬に口付け、防御力増加と攻撃力増加を掛け直しておく。
目が合い腰に手が回ると、少しだけ持ち上げられて唇が触れ合う。
「わたしが無茶をしない、お呪いです」
尻尾を振り幸せそうな声を出すルカリオンに、「ばーか」と舌を出す。
ルカリオンに床に下ろしてもらい、壁際に寄るとルカリオンの拳が扉を開けた。
扉の内側がどうなっているのかルカリオンの表情を見れば、眉間にしわを寄せて「ハァ」と溜め息吐く。
「ルカリオン?」
「弄ばれた気分です……大丈夫ですよ」
「?」
口から犬歯を出して唇を噛むルカリオンに、不思議に思って開け放たれた扉から顔を覗き込ませる。
中に居たのは金髪碧眼の自分の幼馴染ディオンで、俺も目を半目にさせた。
ヒラヒラと片手を振り、腕には俺と同じ髪色の赤ん坊、シグマを抱いているのだから、察するしかない。
「ディオン、どういう事だ」
「怒らないでよ。僕だってね、父様と兄様にお願いされただけなんだから」
おどけた口調に、益々ルカリオンと俺の眉間にはしわが寄る。
「どういう事か、説明を」
氷の魔法使いかというぐらいの冷えた声で、俺も思わず「落ち着け」と言いそうになってしまう。
ディオンからシグマを受け取り、数カ月ぶりに抱いたシグマは前よりもズシリと重く、俺を忘れてはいないのか人見知りをしないだけなのか、もちもちな頬っぺたを緩ませて「あふー」と笑ってくれる。
「父様は『王家で管理すべき』という意見で、兄様は『赤ん坊を守れる家族かどうかで家族の元に戻すべき』って、言っていてね。それで、大事にも出来ないしで……見習い騎士や魔塔の人間を使って、赤ん坊の所までたどり着けるのかを……って、ルカリオン! 殺気出すのは止めて欲しい! 一応、僕は王族だからね? 不敬罪って知ってる!?」
「あなたこそ、死する者は語れずという言葉を知っていますか?」
「ルカリオン。それは流石にダメだから」
流石に王族相手には、こちらの分が悪い。
それにしても、国王とラローシュがシグマに関して、ドロッセル家を無視して話を進めているのも頭が痛い問題だ。
両親は気位ばかりが高く、回復術師の息子を得た事で、盤石な人生を築き上げたような人達だ。
まさか、俺がフラフラと動き回るから、子供をもう一人作ってより一層盤石にしようと目論んだら、まさかの魔眼持ちのシグマが生まれて、王家にまで知られることになり、逃げだしてしまったのだから王家も話し合いをする公爵家当主が療養中を言い訳に、王都に戻ってこなくなるとは思ってもいなかっただろう。
王命で引きずり出してしまえと、ラローシュは言っていそうな気もするけどね。
「それで、我々はシグマ様を守るに相応しいと、判断されましたか?」
「うーん、僕じゃなんとも言えないけど、ここまでたどり着いたのなら、父様も文句は言わないって兄様と約束していたからね。大丈夫じゃないかな? あ、でも、まだ一緒に帰してあげることはできないんだ」
ディオンに「なんでさ?」と俺がすごめば、ディオンは「フェルも怖いんだから」と俺とルカリオンを交互に見る。
「魔封じの魔道具が、ちょっと問題でね。赤ちゃんって成長早すぎてサイズと魔力調整が大変なんだよ」
「それは、致し方ありませんね」
「ハァ……毎日、会いに来るのも執務で忙しくて出来ないし、ごめんな。シグマ」
何も知らずニコニコとしているシグマに、物怖じしないところは大物だなと目を細めて頬を撫でる。
小さな手が指を掴み、目を輝かせている姿にベンガルと父親のギルモアさんに魔封じの魔道具作成を俺からも頼むしか無いだろう。
俺の前世の知識でも魔封じの魔道具なんてものはないから、二人が頼りだ。
回復魔法で疲労も取れるはずではあるけれど、連戦させ過ぎたか? そう思ってルカリオンの顔を覗き込む。
頬と頬を擦り合わせ、フッと笑い俺のおでこに唇を落としてから床におろす。
壁を手の爪でコツコツ叩き、片足を上げると壁を蹴る。
「何してるんだよ!」
「この壁の内側から人の気配と、シグマ様の匂いがします」
「なるほど。俺は魔法で隠された物を見るのは苦手だからなぁ……」
「その為の、わたしです」
言い終わると同時にミシリと壁に亀裂が入り、隠された扉が姿を現した。
俺には魔力の流れは見えないし、ルカリオンたち獣人も魔力の流れを見るのは苦手だが、人や物は匂いを発する。そこを上手く見つけ出せるのが獣人の持ち味だろう。
きっと俺じゃ、この壁に扉が隠されている事には気づかなかったはずだ。
「開けますが、直ぐには中に入ってはいけませんよ。人の気配がしていますから、魔法を撃つ準備をしているかもしれません。わたしが撃たれたら回復をして下さい。すぐに起き上がって対応しますので」
「了解。でも、死んだら蘇らせるほどの回復魔術は持ってないから、無茶はすんなよ?」
「ええ。あなたを一人にするわけが無いでしょう」
「うーん。死亡フラグに聞こえるから、それは聞かなかった事にしておく」
爪先立ちをしてルカリオンの頬に口付け、防御力増加と攻撃力増加を掛け直しておく。
目が合い腰に手が回ると、少しだけ持ち上げられて唇が触れ合う。
「わたしが無茶をしない、お呪いです」
尻尾を振り幸せそうな声を出すルカリオンに、「ばーか」と舌を出す。
ルカリオンに床に下ろしてもらい、壁際に寄るとルカリオンの拳が扉を開けた。
扉の内側がどうなっているのかルカリオンの表情を見れば、眉間にしわを寄せて「ハァ」と溜め息吐く。
「ルカリオン?」
「弄ばれた気分です……大丈夫ですよ」
「?」
口から犬歯を出して唇を噛むルカリオンに、不思議に思って開け放たれた扉から顔を覗き込ませる。
中に居たのは金髪碧眼の自分の幼馴染ディオンで、俺も目を半目にさせた。
ヒラヒラと片手を振り、腕には俺と同じ髪色の赤ん坊、シグマを抱いているのだから、察するしかない。
「ディオン、どういう事だ」
「怒らないでよ。僕だってね、父様と兄様にお願いされただけなんだから」
おどけた口調に、益々ルカリオンと俺の眉間にはしわが寄る。
「どういう事か、説明を」
氷の魔法使いかというぐらいの冷えた声で、俺も思わず「落ち着け」と言いそうになってしまう。
ディオンからシグマを受け取り、数カ月ぶりに抱いたシグマは前よりもズシリと重く、俺を忘れてはいないのか人見知りをしないだけなのか、もちもちな頬っぺたを緩ませて「あふー」と笑ってくれる。
「父様は『王家で管理すべき』という意見で、兄様は『赤ん坊を守れる家族かどうかで家族の元に戻すべき』って、言っていてね。それで、大事にも出来ないしで……見習い騎士や魔塔の人間を使って、赤ん坊の所までたどり着けるのかを……って、ルカリオン! 殺気出すのは止めて欲しい! 一応、僕は王族だからね? 不敬罪って知ってる!?」
「あなたこそ、死する者は語れずという言葉を知っていますか?」
「ルカリオン。それは流石にダメだから」
流石に王族相手には、こちらの分が悪い。
それにしても、国王とラローシュがシグマに関して、ドロッセル家を無視して話を進めているのも頭が痛い問題だ。
両親は気位ばかりが高く、回復術師の息子を得た事で、盤石な人生を築き上げたような人達だ。
まさか、俺がフラフラと動き回るから、子供をもう一人作ってより一層盤石にしようと目論んだら、まさかの魔眼持ちのシグマが生まれて、王家にまで知られることになり、逃げだしてしまったのだから王家も話し合いをする公爵家当主が療養中を言い訳に、王都に戻ってこなくなるとは思ってもいなかっただろう。
王命で引きずり出してしまえと、ラローシュは言っていそうな気もするけどね。
「それで、我々はシグマ様を守るに相応しいと、判断されましたか?」
「うーん、僕じゃなんとも言えないけど、ここまでたどり着いたのなら、父様も文句は言わないって兄様と約束していたからね。大丈夫じゃないかな? あ、でも、まだ一緒に帰してあげることはできないんだ」
ディオンに「なんでさ?」と俺がすごめば、ディオンは「フェルも怖いんだから」と俺とルカリオンを交互に見る。
「魔封じの魔道具が、ちょっと問題でね。赤ちゃんって成長早すぎてサイズと魔力調整が大変なんだよ」
「それは、致し方ありませんね」
「ハァ……毎日、会いに来るのも執務で忙しくて出来ないし、ごめんな。シグマ」
何も知らずニコニコとしているシグマに、物怖じしないところは大物だなと目を細めて頬を撫でる。
小さな手が指を掴み、目を輝かせている姿にベンガルと父親のギルモアさんに魔封じの魔道具作成を俺からも頼むしか無いだろう。
俺の前世の知識でも魔封じの魔道具なんてものはないから、二人が頼りだ。
0
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
「役立たず」と追放された神官を拾ったのは、不眠に悩む最強の騎士団長。彼の唯一の癒やし手になった俺は、その重すぎる独占欲に溺愛される
水凪しおん
BL
聖なる力を持たず、「穢れを祓う」ことしかできない神官ルカ。治癒の奇跡も起こせない彼は、聖域から「役立たず」の烙印を押され、無一文で追放されてしまう。
絶望の淵で倒れていた彼を拾ったのは、「氷の鬼神」と恐れられる最強の竜騎士団長、エヴァン・ライオネルだった。
長年の不眠と悪夢に苦しむエヴァンは、ルカの側にいるだけで不思議な安らぎを得られることに気づく。
「お前は今日から俺専用の癒やし手だ。異論は認めん」
有無を言わさず騎士団に連れ去られたルカの、無能と蔑まれた力。それは、戦場で瘴気に蝕まれる騎士たちにとって、そして孤独な鬼神の心を救う唯一の光となる奇跡だった。
追放された役立たず神官が、最強騎士団長の独占欲と溺愛に包まれ、かけがえのない居場所を見つける異世界BLファンタジー!
義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました!
えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。
※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです!
※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる