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二章 学園生活
あの日から……(sideルカリオン)
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先程まで起きていた恋人は、今はベッドの上ですやすやと寝息を立てている。
柔らかな薄いラベンダー色の髪、閉じた目の色は故郷の森を思い起こすエメラルド色。
ずっと手に入れたくて、手に入れられなかった優しくてか弱い、どこか人とは違う人。
見た目は線の細い頼りなげな少年で、小柄で人畜無害そのもの。
人の手で育てられた動物のような鈍くささ、それでいて、年齢不相応な発想や行動をして驚かせる不思議な人だ。
「……んぅ」
「まだ、寝ていて大丈夫ですよ」
頭を撫でれば、口元が微かに笑う。
あの出会いから、どのくらいの月日が流れたのだろうか。
獣人国の外れで森と山に囲まれた少人数の村、そこにわたしと母は二人で暮らしていた。
母は子爵家の出で、王都のどこかで行儀見習いをしていたらしい。そこで父と出会い、私を身篭ったために駆け落ちをして、この村へ住んだ。
わたしが生まれて、三年ほどで父は流行病で亡くなった。
母は女手一つでわたしを育てつつ、行儀作法に厳しく育てられた。母いわく『人に敬われる人でありなさい。それは貴方の所作の一つから滲み出る物なのだから、粗暴な行動をとってはいけません』というもので、こんな田舎の村で行儀よくしたところで、浮いている母子に思われているだけでしか無かった。
母は『常に自分を律しなさい』と、凛とした態度を崩す事は無い。
六歳の誕生日の数日後に村が何者かに襲われ、母が『リオン、貴方は人の街へ行き、助けを呼びなさい。それまで、わたくしがこの村を守ります』と言い、わたしを逃がした。
今思い浮かべても、あの時の母は勇ましく、剣を扱う者の動きをしていた……母は、もしかすると王都で行儀見習い等ではなく、騎士でもやっていたのではないかと思う。
初めて人族の大きな街へ出て、助けを求めた。
ケガと素朴な服装に、異種族へ関わる事に警戒した人々は遠回しに避けていき、誰も助けてはくれなかった。
いや、正確には、一人だけ居た。
「ケガ、なおそうか?」
拙い言葉でわたしを見上げたのは、小さな幼児で着ている物は仕立ての良い物なのに、周りに大人一人連れていないぼんやりした子供だった。
「あなたでは、話にならない」
「まぁまぁ、そんなケガじゃ、トラブルをきらう大人は話をきいてくれないよ」
「時間がわたしにはないんです! 放っておいて下さい!」
焦りと不安で怒鳴りつけたわたしに、目を大きく見開いた子供は泣いてしまうかと思ったが、「元気がいいねぇ」と言い、助けを通り過ぎる大人に求めるわたしの後ろをついて歩く。
もう村に戻って母の手助けをした方が良いのではないか? そう思いつつも、もう村は壊滅して母も死んでいるかもしれないと思うと、怖くて身動きが取れなくなる。
膝を抱えて泣きそうになっているわたしに、子供は頭を撫でてきた。
「さっきから、なんなんですか……」
「んー、よくわからないけど、たすけたいなって」
こんな子供に何が出来るというのか、恨みがましく子供の顔を見ると、緑色の瞳がふわっと細くなって目を閉じてわたしの唇に唇を押し当ててきた。
ビックリしたわたしは、子供を突き飛ばしてしまうが、子供は泣くことも無くニッコリ笑う。
「もう、ケガはなおったから、いっしょに話をきいてくれるところにいこうか」
「ケガ……えっ」
腕や足にあった傷が消え、体も疲れていたのにどこかスッキリしていた。
子供はわたしに手を差し伸べると、わたしを街にある警備兵が多く集まる所へ連れて行った。
そこで子供は小さな手に皮袋を持ち上げる。
「たすけてくれるなら、お金あげる。あと、おれ『かいふくじゅつし』だから、ケガのほしょうつきだよ!」
始めは警備兵も相手にしてはくれなかったが、皮袋の中身を床に落とすと話を真面目に聞いてくれた。
まさか、こんな小さな子供が金貨を大量に持っているというのは、大人もわたしも思っていなかった。
ケガをしている警備兵に、先程と同じように口付ける事で治してみせ、わたしの村へ派遣してもらう事が出来た。
子供は国境を超えられない身分だったらしく、国境でケガ人が出たら連れてきてね。と、笑って送り出してくれた。
まぁ、後に公爵家の嫡男だと分かった事と、公爵家が後始末で自分の私兵を助けに出したのだと改ざんしたため、事実上は公爵家の恩恵で獣人族の村が救われたとして、功績をあげた。
国境で村人の治療をしてもらい、母に助けてくれた子供を紹介した。
その時、初めて名前をお互いに名乗り合っていないことに気付き、母にはその場で怒られた。
「ルカリオン・グラッセです。あなたには返しきれない恩を受けました」
「おれは、フェルミナ・ドロッセル」
母の強い勧めと彼への恩を返すために、公爵家に彼の専属従者として雇ってもらい、彼と共に過ごすようになった。
知れば知るほど、子供らしくない大人びた考え、かと思えば、無茶な発想で周囲を巻き込んだりと、自由奔放な人でもある。
いつだったか、それまでの彼と少し変わった時期があった。
父親の顔色を窺う事を止め、屋敷を飛び出しては友人たちとの交流を積極的にしたりと、せわしなく動き、彼の新しい面が開花したのか、わたしはもっと彼を知りたくなった。
「いつから、恋をしたのかなんて……わかりませんね」
いつの間にか、自分の中で彼が一番大切で愛おしい存在になっていただけの話。
横で寝がえりをうつフェルミナに、あの小さな子供が大きくなったと目が細まる。
保護欲で、フェルミナの周りを威嚇して牽制していたのに、大事にしすぎて余計な害虫に目を付けられた。
知らない間に、人を惹き付けて恩を売る事に関しては、フェルミナが無意識に得意としている事だと解っていたはずだったのに、それを思うと悔しいが、こうして心も体も手に入れる事が出来たのは、良い事なのだろう。
ただ、フェルミナは誤解しやすいようだから、しっかりと恋愛で好きだと伝えて行かなければ。当分は甘い日々になりそうだ。
柔らかな薄いラベンダー色の髪、閉じた目の色は故郷の森を思い起こすエメラルド色。
ずっと手に入れたくて、手に入れられなかった優しくてか弱い、どこか人とは違う人。
見た目は線の細い頼りなげな少年で、小柄で人畜無害そのもの。
人の手で育てられた動物のような鈍くささ、それでいて、年齢不相応な発想や行動をして驚かせる不思議な人だ。
「……んぅ」
「まだ、寝ていて大丈夫ですよ」
頭を撫でれば、口元が微かに笑う。
あの出会いから、どのくらいの月日が流れたのだろうか。
獣人国の外れで森と山に囲まれた少人数の村、そこにわたしと母は二人で暮らしていた。
母は子爵家の出で、王都のどこかで行儀見習いをしていたらしい。そこで父と出会い、私を身篭ったために駆け落ちをして、この村へ住んだ。
わたしが生まれて、三年ほどで父は流行病で亡くなった。
母は女手一つでわたしを育てつつ、行儀作法に厳しく育てられた。母いわく『人に敬われる人でありなさい。それは貴方の所作の一つから滲み出る物なのだから、粗暴な行動をとってはいけません』というもので、こんな田舎の村で行儀よくしたところで、浮いている母子に思われているだけでしか無かった。
母は『常に自分を律しなさい』と、凛とした態度を崩す事は無い。
六歳の誕生日の数日後に村が何者かに襲われ、母が『リオン、貴方は人の街へ行き、助けを呼びなさい。それまで、わたくしがこの村を守ります』と言い、わたしを逃がした。
今思い浮かべても、あの時の母は勇ましく、剣を扱う者の動きをしていた……母は、もしかすると王都で行儀見習い等ではなく、騎士でもやっていたのではないかと思う。
初めて人族の大きな街へ出て、助けを求めた。
ケガと素朴な服装に、異種族へ関わる事に警戒した人々は遠回しに避けていき、誰も助けてはくれなかった。
いや、正確には、一人だけ居た。
「ケガ、なおそうか?」
拙い言葉でわたしを見上げたのは、小さな幼児で着ている物は仕立ての良い物なのに、周りに大人一人連れていないぼんやりした子供だった。
「あなたでは、話にならない」
「まぁまぁ、そんなケガじゃ、トラブルをきらう大人は話をきいてくれないよ」
「時間がわたしにはないんです! 放っておいて下さい!」
焦りと不安で怒鳴りつけたわたしに、目を大きく見開いた子供は泣いてしまうかと思ったが、「元気がいいねぇ」と言い、助けを通り過ぎる大人に求めるわたしの後ろをついて歩く。
もう村に戻って母の手助けをした方が良いのではないか? そう思いつつも、もう村は壊滅して母も死んでいるかもしれないと思うと、怖くて身動きが取れなくなる。
膝を抱えて泣きそうになっているわたしに、子供は頭を撫でてきた。
「さっきから、なんなんですか……」
「んー、よくわからないけど、たすけたいなって」
こんな子供に何が出来るというのか、恨みがましく子供の顔を見ると、緑色の瞳がふわっと細くなって目を閉じてわたしの唇に唇を押し当ててきた。
ビックリしたわたしは、子供を突き飛ばしてしまうが、子供は泣くことも無くニッコリ笑う。
「もう、ケガはなおったから、いっしょに話をきいてくれるところにいこうか」
「ケガ……えっ」
腕や足にあった傷が消え、体も疲れていたのにどこかスッキリしていた。
子供はわたしに手を差し伸べると、わたしを街にある警備兵が多く集まる所へ連れて行った。
そこで子供は小さな手に皮袋を持ち上げる。
「たすけてくれるなら、お金あげる。あと、おれ『かいふくじゅつし』だから、ケガのほしょうつきだよ!」
始めは警備兵も相手にしてはくれなかったが、皮袋の中身を床に落とすと話を真面目に聞いてくれた。
まさか、こんな小さな子供が金貨を大量に持っているというのは、大人もわたしも思っていなかった。
ケガをしている警備兵に、先程と同じように口付ける事で治してみせ、わたしの村へ派遣してもらう事が出来た。
子供は国境を超えられない身分だったらしく、国境でケガ人が出たら連れてきてね。と、笑って送り出してくれた。
まぁ、後に公爵家の嫡男だと分かった事と、公爵家が後始末で自分の私兵を助けに出したのだと改ざんしたため、事実上は公爵家の恩恵で獣人族の村が救われたとして、功績をあげた。
国境で村人の治療をしてもらい、母に助けてくれた子供を紹介した。
その時、初めて名前をお互いに名乗り合っていないことに気付き、母にはその場で怒られた。
「ルカリオン・グラッセです。あなたには返しきれない恩を受けました」
「おれは、フェルミナ・ドロッセル」
母の強い勧めと彼への恩を返すために、公爵家に彼の専属従者として雇ってもらい、彼と共に過ごすようになった。
知れば知るほど、子供らしくない大人びた考え、かと思えば、無茶な発想で周囲を巻き込んだりと、自由奔放な人でもある。
いつだったか、それまでの彼と少し変わった時期があった。
父親の顔色を窺う事を止め、屋敷を飛び出しては友人たちとの交流を積極的にしたりと、せわしなく動き、彼の新しい面が開花したのか、わたしはもっと彼を知りたくなった。
「いつから、恋をしたのかなんて……わかりませんね」
いつの間にか、自分の中で彼が一番大切で愛おしい存在になっていただけの話。
横で寝がえりをうつフェルミナに、あの小さな子供が大きくなったと目が細まる。
保護欲で、フェルミナの周りを威嚇して牽制していたのに、大事にしすぎて余計な害虫に目を付けられた。
知らない間に、人を惹き付けて恩を売る事に関しては、フェルミナが無意識に得意としている事だと解っていたはずだったのに、それを思うと悔しいが、こうして心も体も手に入れる事が出来たのは、良い事なのだろう。
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