悪役令嬢ポジションが俺で、回復魔法がキスな件!?

ろいず

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一章 悪役令嬢フェルミナ・ドロッセル

フェルミナの死 一章・完

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 足元には、ヒロインに敗れて婚約者を奪われた悪役令嬢フェルミナ・ドロッセルが倒れている。
 その横でも、公爵家から平民に落とされ、教会でシスターとして暮らす事を余儀なくされたフェルミナが倒れている。その横にも後ろにも、様々なフェルミナが倒れていた。

 彼女は、ヒロインが割り込む前までは、公爵家の令嬢で王太子妃を約束された淑女だった。
 ただ一人の回復魔術師として、もてはやされ……少しだけ、おごってしまっただけ。
 十八歳の少女にとって、もてはやされる事が当たり前で、ただの平民だった少女に回復魔術師としての地位も揺さぶられ、程よい距離を保っていた貴族の幼馴染の男たちは、珍しさからか少女の誘いを断らない。

『今日の実戦訓練は、一緒のパーティのはずでしょう?』
『君は子供の頃から訓練で慣れているだろう? 彼女は慣れていないのだから』

 そう言って約束は反故された。
 何度も繰り返され、プライドはズタズタに引き裂かれ、その苛立ちを少女にぶつけてしまった事で、余計に自分の器の小ささを指摘され、惨めさだけが募った。

『平民相手に、情けない! ドロッセル公爵家に泥を塗る気か!』
『申し訳ありません。お父様……』

 父親には『王妃の立場も危ういぐらいなら、男で生まれてくれた方がマシだった!』と言われ、フェルミナの中で何かが壊れてしまった。
 それは憎悪と悲しみと自棄で形どられた、悪役令嬢フェルミナ・ドロッセルの誕生でもあった。

 感情のままで悪事に手を染め、心が痛む事すら麻痺していく。
 こんなフェルミナにしてしまったのは、周りなのにフェルミナだけが一人、火の中を裸足で歩いている気分だ。
 見えない血を流して、泣き叫んでいる声に誰も気付かず、愚かだと背をそむける。

 だから、いつの間にか……こんなに沢山のフェルミナの屍の山が出来てしまった。

『俺も、その一人なんだな』

 青年は呟く。
 そして、ここはフェルミナの墓場なのだろう。

『夢、だろうなぁ……夢なら、アレ・・が欲しいな』

 青年の足元には緑色の植物が生え、白いバラを咲かせる。
 
『やっぱり、夢は便利だな』

 白いバラを摘んで、一人一人のフェルミナに両手を組ませてバラを握らせる。
 まるで満足したようにフェルミナたちはバラを渡された者から、消えて逝ってしまった。
 最後に残ったフェルミナに、近状報告をする。

『君が心配していた、公爵家の跡取りは弟のシグマが居るから、安心だよ。王子は第一王子と第二王子が居るから、フェルミナなら第一王子のラロと仲良くできると思う。少し腹黒いけど、ね』

 フェルミナに最後のバラをしっかりと握らせる。

『俺がやったみたいに、次はやっておけば、問題はないよ。まぁ、俺は男だから廃嫡されちゃったけど、女の君なら、ご両親も王家に嫁がせて鼻も高いだろうしね。だから、心が癒されたら……戻ってくるんだよ? ここは俺の居場所じゃなくて、君の居場所なんだからさ。フェルミナ』

 フェルミナが消える時、一人のやせ細った少女を見た。
 腕も足も棒のように細く、髪の毛は真っ白の少女。
 頬がコケて唇はカサカサで、幽鬼のようだ。
 震える唇は何かをずっと呟いている。

『ごめんなさい。ごめんなさい』

 繰り返し謝罪をする少女の落ちくぼんだ瞳の色は、オレンジ色から黄色へとグラデーションになっていた。
 まさか、ヒロイン……?

 この少女はフェルミナがバッドエンドを迎えた後の少女だろうか? 
 それともまさか、今現在の___と、心臓がドクリと飛び跳ねたところで目が覚めた。

「……学園から、スタートなんだよな……」

 もうすぐ学園が始まる。
 ヒロインが入学するかもしれない……とは、考えてはいたが、あの少女が今現在の『野ギス』のヒロインの状態だとしたら、探し出して助けなくてはいけない。
 自分の首を絞める事になるとしてもだ。
 もうすでに、廃嫡された時点で俺はバッドエンドを迎えたのだろうし、学園生活が終われば平民として、王族の回復術師としての仕事が与えられるはずだ。
 だから、これ以上の最悪は無いだろう。
 あるとしたら、ヒロインが俺からルカリオンを奪う事ぐらいかな。
 でも、それが正しいルートなら、それでいい。
 
 春は、もうすぐだ。

        一章:悪役令嬢フェルミナ・ドロッセル    _完_
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