やさぐれモードの私はもふもふ旦那様を溺愛中

ろいず

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番外編 オマケ

ガリュウのその後… ガリュウ視点

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 長期遠征中に隊長のイクシオンが国へ呼び戻され、大型魔獣の討伐が終わっていた為、後は帰りがてらの討伐だけという事もあって、部隊は補佐官の俺に一任された。

「あと少しで、ヴインダム国ですねー」
「今回は、何か春が来るのが遅かったよなー」
「それそれ。おかげで帰りが長引いた……食料尽きるかと思った」
「でも、去年みたいに牛捕まえて食べるのも、やりたかったよなー」
「「「それなー」」」

 口々に獣騎の上で喋り続ける部下達の話に俺は、ようやくこの長い遠征も終わると安堵していた。
他国の王からの王命で帰国を命じられたイクシオンに、他国とヴインダム国が今どうなっているのかという情報を遠征中は詳しく知る事が出来ない。

 また国王が無茶をやらかして、イクシオンにとばっちりがいっていなければ良いが……と、心配もある。
イクシオンの軍の部隊は、王弟派が集まっている様なもの。イクシオンを守る部隊が引き離されている間に、何かあれば、この部隊を押しとどめる事は出来ないだろう。
この部隊を止めるにはイクシオンで無ければ止められない。
自分は獅子族である為に、どうあがいても王弟派にはなりはしないのだ。

「ガリュウさん、隊長元気にしてますかねぇ?」
「帰ったのは一月だからな、雪に閉ざされて屋敷の中で嫁さんとイチャついて、今頃子供でも出来てるかもしれないな」
「あー……ありえそうですよねー」
「イクシオン殿下、嬉しそうでしたしねー……帰国と言われて、拳を握って嬉しさを我慢していたようですが、尻尾がバタバタ揺れてましたもんねぇー」

 確かに、イクシオンは他国の介入あっての帰国命令に不審がるより先に、自分を待っている妻の元へ帰れることを喜んでいた。
そして、飛んで帰ってしまったのだ。
言葉通り、魔法の本でピュンと一瞬で……
本来ならば、一ヶ月かかる帰路を一瞬で帰ったのだから、一ヶ月は蜜月を楽しんだ事だろう。

「帰ったら、冷やかしに行くかー」
「屋敷に行って、なんか美味しい物食べさせて貰いましょー!」
「いいねー!」

 とてもノリの良い軍の部下達は、ヴァンハロー領に就いた途端、イクシオンの屋敷に労いの言葉を貰いに行こうとはしゃいだ声をあげていたのだ。
そう、ヴァンハロー領に着くまでは___。


「なんか……ヴインダム国旗が凄いんですけどー……」

 領に着いて、直ぐに目に付いたのは群青色の国旗に銀色のヴインダム国の王紋が付いた物が、領内の道に三メートル間隔で掲げられ、各家の窓からもなびいていた。

「おい。この国旗の量はどうしたんだ?」

 領の住民に話し掛けると、嬉しそうに「王様がお戻りになったんだよ!」と答えた。
王様が戻る? どういう事だ?
部下達の家族が出迎えてくれて、事情を聞けば、イクシオンが王になったという。

「どうなってんだ、それは……? 今までの国王は?」
「ああ、病気で静養する為に王を降りたって話だけどね。事実はこんな田舎まではこないよ」
「じゃあ、イクシオンは……、いや、リト達公爵家の奴等は何処に!?」
「何人かはここに残って、リト王妃の事業の手伝いをこの領でやっていくらしいよ」

 公爵家へ行けば、数人の顔見知りのメイド達が居るぐらいで、主要なメイド__メイミーは、王都へ行ってしまったと告げられた。

「メイミーは、リト様付きのメイドですので」
「イクシオン陛下が、ガリュウさんが戻られたら『軍部の膿は出した。お前はヴァンハローで部下と休んだのち、王都に来るように』との伝言です」

 王座になど興味はなく、この領地で静かに暮らす事を望んでいたイクシオンに何があったのか……親戚達は、ほぼ軍部の膿と言える存在、自分はどうなるのかが分からない。
いや、獅子族のしたことを思えば、今までがおかしかったのだ。
せめて、獅子族の小さな子供達までは死罪になっていなければ良いが……

 そんな不安を抱えて、部下には休むように言い一人王都へそのまま向かった。
休む暇なく二日掛けて王都へと向かい、王都までの道すがらどこもかしこも、ヴインダム国旗が並び、人々がヴインダムの国王が正当な王の元へ返った事を喜んでいた。

 王宮へ辿り着くと、衛兵に止められ、謁見の間に行くまで生きた心地がしなかった。
謁見の間の扉が開かれると、エルファーレンとお付きの従者が、小さな背丈の白いドレスを着た見知った顔の少女にクッションで叩かれて逃げ回っていた。

「お前達、何をしてるんだ……?」

 思わず呆れて声を掛けると、少女が吊り上がった目を元に戻して笑顔になる。

「ガリュウさん! 長期遠征お疲れ様です! ちゃんと休みましたか? 酷い顔していますよ?」
「ガリュウ叔父さん! お疲れ様です!」
「あっ、ラッドは逃げないッ! そこになおれー!」
「リト王妃止めてください~ッ!!」

 またリトがクッションで、エルファーレン達をボスボス叩き始めていた。
何があったのやら? 首をかしげると、謁見の間の扉が開き、宰相達を引き連れたイクシオンが姿を現す。

「ああ、ガリュウご苦労だったな。お前酷い顔をしているが、ちゃんと休んだのか? ……って、リト! お腹の子に障るから、その辺にしておけ!」
「だって、ラッドが私の召喚呪文の書き換えをした犯人だったの! おかげで、私が何ヶ月サバイバルしたと思ってるのー! 待ちなさいッ! ラッド~ッ!!」

 イクシオンがハァ……と、溜め息を吐いてリトを止めに行き、王座に座って膝の上にリトを抱えたままで話をし始める。

「とりあえずだ、長期遠征ご苦労だった。後を任せてしまって悪かったな。後で褒賞はそれぞれに出すつもりだ。休みも含めて部下達には、今後を決めさせねばいけないからな」
「それはいいが、この状況を説明しろ。何があった? 国王はどうした?」
「他国の王達から、王族の王座は王族へ返還しろという要請でオレが王座に座るより他なかった。兄上は、病気で静養されている……と、公ではなっている。詳しくは言わずとも解るだろう?」

 イクシオンがリトの手に指を絡めながら、目を細めて額にキスを落として、リトが「イケメン破壊力、パナい」と訳の分からないことを呟いていた。

「軍部の膿を出したと聞いたが、獅子族はどうなった?」
「不正に加担していた者、軍の力を私利私欲で使っていた者は罪人として捕えた。匿った者に関しても裁きを言い渡している。土地と屋敷と財産の没収をして、今まで虐げられていた者達への補償に当てている。大体が貴族の甘い生活で庶民暮らしは出来ないと喚いていたが、あの逞しさなら、庶民としてもやっていけるだろう」
「そう、か……なら、俺はどうなる? 少なくとも俺は生まれてから今まで、実家での貴族暮らしは王家から搾取してきたようなものだ。罪が無いわけじゃない」

 フッとイクシオンが笑って、顎でエルファーレンを指す。

「ガリュウ、お前の今までの働きは、補佐をしてもらっていたオレが一番知っている。その働きは、これから先も期待している。エルファーレンも補佐として働いてもらっているしな」
「そうですよ。ガリュウ叔父さん。私達は獅子族を、元の規律正しい獅子族へ再興させなければ」
「それでいいのか? 反発もあるだろ?」
「その反発を丸め込めるぐらいの実力を見せつけてくれ。それが、お前に科した罰だ」

 随分と甘い罰だとは思う。それでは今までの生活と変わらない。
王弟派は獅子族を見る目は厳しかったのだから、今までも努力はしてきたつもりだ。
イクシオンが王になり、獅子族は力を失った。
イチからのスタート、前より厳しいかもしれない。しかし、やるしかないのだろう。

「後だな、オレの護衛隊長にお前を推薦する。この城の騎士に何人か部下を入れようと思う。希望する者を募ってくれ。全員でも構わんが、ヴァンハロー領にこの城の騎士を任命するから、使えるように指導する者を数人残してもらいたいがな」
「ああ、わかった」
「あっ、ガリュウさん。お疲れでしょうから、このお城でしばらく休んで下さいね。ヴァンハローには魔法で送りますから、泊まっていってくださいね。メイミーさん、ガリュウさんをお部屋に案内して下さい」
「話は以上だ。ゆっくり休んでいってくれ」

 リトが部屋の隅へ目を向け、自分も向けると、自分の番のメイミーが群青色のメイド服を着て、いつも通りの小さな微笑みを向けて「畏まりました。王妃様」と、鈴の転がる様な甘い声で答える。

「ガリュウ様、お部屋にご案内致します」
「メイミー……」

 彼女の後をついて行き、客室へ案内されると出ていこうとする彼女の手を取って引き留める。

「メイミー、もう貴族でも無い身分も低い男になってしまったが、君を愛していても……構わないだろうか?」
「……身分など、貴方は一度もひけらかしたりしなかったじゃないですか? 今更、何を怖気づく必要があるんです? それに、陛下付きの護衛隊長ですよ? それなりの身分を用意されるはずです」

 彼女は俺の手に付けたミサンガを指で弄り、「父と母を説得して下さいね?」と微笑んで部屋から出ていく。
王弟派で、しかも何度も結婚に反対していた彼女の両親……これは再スタートするには、もう少し気合いをいれて取り掛かるしかない。
 


 ___その後、王宮の騎士がイクシオンの元部下達に入れ替わり、ヴァンハロー領に元王宮騎士達が軍部として機能するまで二年程掛かったが、ヴインダム国の軍部と騎士は規律正しいものになり、魔獣討伐に関しても『賢者』と『神子』の影響なのか、段々と数が減っていき、長期遠征も三年に一度あるかないかになった。

 王妃のリトは「私は何もして無ーい!」と『神子』扱いされるのを憤慨していたが、『狩りの神子』『女性の向上の神子』と色々言われていて、王妃のリトが何かを作り出す度に、他国からも買い求める声が届き、魔獣討伐だけが国益では無くなった為に『産業の神子』とも最近は言われているが、本人は「パンツの神子って言った奴出てこーい!」と騒いでいる。

「相変わらず、王妃は元気がいいな……」
「オレの妻は元気の良さと可愛らしさが、一番、神子らしいところだ」
「はいはい。惚気は他でどうぞ」
「そういえば、メイミーが帰りに託児所へ子供達を迎えに行け、と言っていたぞ?」
「今日の迎えは、メイミーのはずなんだが……」
「まぁ、お前も子育てに協力して、妻の機嫌は取っておくものだぞ」
「言われなくても、いつだって尻に敷かれているから、逆らう気もない」

 イクシオンとそんな話をしていたら、耳ざとい妻のメイミーとリトが「「妻の機嫌がどうかしましたか?」」と、口を揃えて言ってくる。
これはヤバいと目を逸らすと、既にイクシオンは「リトの機嫌が今日も良いなという話だ」と、リトの元へ行っている。

「あなた……お迎え、お願いね?」
「ハイ。行カセテイタダキマス」
 
 結婚して五年、すっかり恐妻家になってしまったが、それでも幸せだと思えるのだから、愛とは恐ろしいものである。
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