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2章

戴冠の儀式

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 王様が騎士達に連れて行かれ、再び各国の王様達の話し合いが始まった。
元々、ヴインダムの王様が邪魔して中断していただけだしね。私はデンちゃんの背中に乗って大人しくしている。
流石に猫かぶりももう出来るわけは無いけど、余計な事に口を挟むわけにもいかない。

「まず、賢者召喚の契約に関しての王族の盟約だったな」

 お祖父ちゃんとお父さんが、各国の王達の前で賢者召喚の召喚陣と、呼び出す呪文を真新しい紙に書いて、王の一人一人が血を一滴、紙の上に落としていく。
グスタカ王国のセンティメオは脅えていたけど、王様と従者の人が説明しながら教えていた。
流石に、この国の王の暴れっぷりに冷静になったのかもしれない。

「後は、日都留との契約をするかどうかだが……」
「僕としては、条件を付けましょう。十一国の王族はお互いに争うことがあれば、自分達の首を絞めるだけだという事は理解したのですから、和平を互いに結ぶ事です。争ったところで無駄ですからね。もし和を乱すようならば、契約違反として、僕自ら国を半壊させてしまいましょう」

 お父さん、冗談に聞こえないんだけど?
無表情で何を怖いことを契約条件に入れ込んでいるの!? お父さん怖いよー!
でも、和平条約は良い提案だと思います! そうすれば、夏にイクシオンや軍の人が見張りに立たなくても良いんだし!
ああ、でもイクシオンは王様になるのなら、見張りは無くなっちゃうんだろうか?
王様になるのかなぁ……?

「私は契約します。戦う意味がありません。戦うのは魔獣の討伐だけで十分です」
「異論のある王は?」
「まぁ、国の中の諍いだけで十分だ。私のところも異議はない」
「我々の国も争いは好まない種族ですので、契約に賛成致します」
「ああ、わかった。余も戦などしている程暇では無いからな」

 それぞれの国がお父さんと契約をして、お父さんの背中に十一国の紋章が刻まれた。
ある意味、悪魔の契約な気もするけど……まぁ、要は戦争を仕掛けなきゃ、お父さんに国を半壊にされないのだから、良しとしよう。

「さて、ヴインダム王国とグスタカ王国に新たな王が立ったとなれば、忙しくなるだろう。戴冠式はどうするのだ?」
「それならば、ワシがまとめて今、戴冠の儀を行ってやろう」

 お祖父ちゃんがイクシオンとセンティメオを前に並ばせる。

「『神子』よ、お前の力も貸してもらおう」

 何ですと!? お祖父ちゃんが私の手を取り、ルドルフの角を片方、私に持つように指示する。そして、もう片方の角はお祖父ちゃんが持つ。

「賢者エイゾウの名において、ヴインダム王国とグスタカ王国の王がここに新たに誕生したことを宣言しよう」

 お祖父ちゃんが目配せしてきて、私もお祖父ちゃんに習って同じ言葉を紡ぐ。

「神子リトの名において、ヴインダム王国とグスタカ王国の王がここに新たに誕生したことを宣言します」
「賢者と神子の戴冠の儀は祝福されし儀式。各国の王達よ、しかと目に焼き付けておくといい」

 ルドルフの体が白く光り、デンちゃんの体も白く光り輝き、お父さんの首に巻きついていたリンカの体も白く輝く。
お祖父ちゃんの肩からゲッちゃんが飛び、イクシオンとセンティメオの上で旋回すると、金色の王冠が二人の頭に掛かる。
鹿の角が枝の様に巻かれ、スカイブルーの宝石が中央に光る。

「これから国の未来は、そなたらの肩に掛かっている。良い王になりなさい」

 お祖父ちゃんがルドルフの角から手を放し、私も手を放す。
イクシオンがゆっくりと頭を下げ、センティメオも真似して頭を下げる。

 お父さんがセンティメオに「これから先、今までの生活とは一転するだろうが、君は王になった。良く学び、良い王になるよう、人に助力を求め成長していきなさい」と、話し掛けて口元を少し上に上げていた。
お父さんなりに、若き王様を激励しているようだ。

「この戴冠の儀式は、初めの十一国の王族にしたものと同じだという事を覚えておくといい。初代の王達は賢者と神子の手により、王と定められた十一人。王達はその子孫であるという事を誇りに、この先も王族らしくあるように」

 お祖父ちゃんの言葉に王様達は、誇らしげに頷いている。
私はイクシオンを見上げてフードの奥で微笑む。
なかなかに似合っている。流石、王様。

「さあ、王達は自分達の国へ急いで帰ると言うなら、ワシと日都留がそれぞれの国へ送るが、どうするかね?」

 賢者の瞬間移動タクシー……贅沢なタクシーでは無いだろうか?
王様達はイクシオンに「困った事があれば頼れ」と言って、お祖父ちゃんとお父さんの手で従者を引き連れて帰って行った。

 ようやく最後の王様が送られ、私とイクシオンは謁見の間で二人になった。
まぁ、周りに護衛の騎士の人達は居るんだけど、それでも、ようやく落ち着いた感じだろうか?

「リト、流れでこんな事になってすまない……」
「ううん。お祖父ちゃん達が、イクスを思って色々したのが、裏目に出ちゃった感じだから、こっちこそ、静かに暮らしたかったのに、こんな事になって、ごめんなさい」
「結局、オレはこの国の最後の王族なのだから、逃れようがなかったのかもしれない」

 私のフードを取って、イクシオンが両頬に手を添えておでこにキスを落とす。
見つめ合っていると、謁見の間の扉がバンッと勢いよく開く。

「イクシオン殿下!!」
「王が廃されたと聞きましたが!!」

 黒耳と黒尻尾のビブロースさんに似た感じの老人と、灰色のフサフサ耳の丸眼鏡の老人が、ワァワァ言いながら詰め寄ってきた。

「あー……、リト、この国の宰相と財務官だ。二人共、オレが先程、王として賢者に戴冠式を他国の王達の前で行ってもらい、新たな王になった」

 お互いに宰相と財務官が顔を見合わせ、周りの護衛の騎士達を見る。

「「何故、誰も言いに来ないのか!! やはり前王の護衛騎士は能無しか!! 総入れ替えだ!!」」

 二人の声に護衛の騎士達がざわつき、慌てた様に謁見の間から「報告に行ってきます!」「遅いわッ!」と叫ばれて出ていった。
いやはや……一応、王様のイクシオンの護衛をする騎士が一人も残らずに出ていくっていうのも、問題があると思うよ? 本当に、総入れ替えした方が良い気がする。

「これは当分、人事に忙しくなりそうだ……」
「イクス、頑張って!」

 イクシオンの深い溜め息と、宰相と財務官が「直ぐに王派の奴等を袋叩きにしましょう!」「即時に行動を起こしましょう!」と飛び出して行った。
なんとまぁ、元気なご老体たちなのか……
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