やさぐれモードの私はもふもふ旦那様を溺愛中

ろいず

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2章

王族と神子

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 開け放たれた扉からは、脅えた目をした少年を連れたお父さんが立って居た。
お父さんもお祖父ちゃんと同じで背広姿で……賢者は背広がデフォなんだろうか?
相変わらずの無表情のお父さんではあるけれど、少し怒った表情に近い。
お祖父ちゃんを見れば、いつも通り、飄々とした顔で口元に笑みを浮かべている。

「十一の王族のうち王座を簒奪され、王族の血が分からなくなっていた、グスタカ王国の王族の子です。残念ながら、大人は一年前の流行り病で亡くなってしまったようですが、グスタカの王族である『目』を有しています」

 十歳かそこらの子供で褐色の肌に淡い真珠色の髪、そして瞳はルビーの様に赤い。
やせ細って、着ている服も冬だというのに薄着な上に汚れている。随分と劣悪な環境に居たのかもしれない。

「ご苦労、日都留。これで、本来の十一の国の王が正式に集まったわけだな」

 お祖父ちゃんが目を細めて各国の王様達を見る。
そこで動きがあったのは、連れてこられた少年と同じ褐色の肌の王様だった。

「待て! どういう事だ! グスタカの王は余だ!」
「残念ながら、グスタカの国王はこの子、センティメオだ。証拠に王族十一国の王にのみ継承される『目』を持っている。グスタカの王だというのならば、『目』を以って証明する事だ」

 お父さんがセンティメオと呼んだ少年の肩に手を置くと、センティメオの目がイクシオンと同じ様に銀色の光が揺らめく。
あれが王である証の『目』だという事。

 他の王様達も目が銀色に光り、イクシオンの目も銀色の光を出していた。
ある意味、暗闇でこの集団を見たら怖そうな気がする。

「賢者の権限で、グスタカの王座はセンティメオへ移行する事を、この場で宣言しよう」
「そ、んな___余の王座が……」

 お父さん、言いきっちゃったよ!?
賢者の権限って、そんなものあるのー!? と、少し突っ込みたいけど、私は『神子』としてこの場に居るのだから、変にツッコミは出来ない。

「さて、十一の国の王達よ。『召喚の儀』に関してだが、王族の立ち合いの元、王族が望んだ場合にのみ『賢者』の呼び出しに応じよう。『神子』に関しては、彼、彼女等は王族の為に、この世界に降りてくる。今回の召喚で、この『神子』が降りてきた」

 お祖父ちゃんが私の方を向き、王達の目が私に向く。
イクシオンが少し眉を下げて、不安そうな顔をしている。お祖父ちゃんは何をさせようとしているんだろう?

「『神子』よ。この中にあなたの『つがい』は居るか?」

 えぇぇーっ! お祖父ちゃん本当に何をさせる気!?
わからないけど、私は頷く。
王達が騒めき、期待した目を向けるけど、私が最初から見ているのはイクシオンだけだ。

 デンちゃんの背中を撫でると、デンちゃんはゆっくり歩きイクシオンの前で止まって、イクシオンが微笑むと私の手を取る。

「イクシオン・エディクス・セラ・ヴインダムです。貴女のお名前を伺っても?」
「鴨根李都です。イクシオン・エディクス・セラ・ウインダム」

 「カモネ・リト。貴女を妻にしても?」と聞かれ頷くと、私の手の甲にキスを落として、顔を寄せて来たイクシオンに口元のベールを外して、額にキスをする。

 イクシオンが手袋を外し王達に『鴨』の結婚印を見せる。
「クッ」と、どの王かはわからない悔しそうな声に、口を開いたのはお祖父ちゃんだ。

「皆は分かっていないようだが、『神子』とは本来、王族の血が絶えるのを防ぐ為の天の采配によるもの。神子が世界を安寧に導くという話は、王族の子を産み他の王族との十一王家を保つことを表す言葉だ。取り合いをするようなものでは無い事を、これから先の子孫にも伝えよ。血を継ぐ者がいる限り、『神子』は現れぬ存在だ。今回は、王族では無い者が『召喚の儀』を行った為に、『神子』には本来の王の元へ導くのが遅くなった事を、賢者として詫びよう」

 お芝居が掛かり過ぎてるよお祖父ちゃん……ッ!!
 って、いうかだよ。本当の話なのかなぁ? うーん。お祖父ちゃんの事だからイマイチ信用に欠ける。
でも、お父さんが動いていた様だから、お父さんのシナリオかもしれない。 
私がフードの奥でジト目でお祖父ちゃんを見ると、ウインクをしてお祖父ちゃんは茶目っ気を出している。

「賢者様、私を探し、ここへ導いてくれた事を感謝します」
「私からも、感謝を。おかげで番に出逢う事が出来ました」

 私とイクシオンがお祖父ちゃんにお礼を言うと、お祖父ちゃんは頷いて、他の王様達もうんうんと頷いている。
なんだか、結婚式のくだりをもう一度王様達の前でさせられた気がしないでも無い……
これでもう、私が神子だなんだで騒がれることはないかな? と、ホッと息をついた時、ペッとルドルフが唾を吐いた。

 唾を吐きかけられたのはヴインダムの王様で、見れば手には唾を吐きかけられてベトベトになった宝石細工の施された短剣を持っていた。
一瞬で、各国の王様達の従者は自分達の王の前へ出て身構え、イクシオンは私を背中に庇う様に身構えた。

「ヴインダムの簒奪王よ! 何の真似だ!」
「私は簒奪王などではない! この国の、ヴインダムの王だ!」

 ヴインダムの王様が吠える様に叫び、イクシオンが目を見開く。

「魔法の宝剣『アルバーナ』……ッ! 兄上、それを使ってはいけないッ!」
「うるさいっ! お前の様な『庶子』にも等しい虫けらが、私に指図するなぁぁ!!」

 振りかざされた短剣が勢いよく振り下ろされたのを、私はイクシオンの背中で見ていた。
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