上 下
159 / 167
2章

パムネリーとルドルフ

しおりを挟む
 私とイクシオンが女騎士の元へ行ったのは、一時間程してからだった。
女騎士は何故か、背広姿のお祖父ちゃんの腰を揉んでいて、守護獣のルドルフにペッと唾を吐きかけられていた。
何だろう……このカオス状況。
執事のアンゾロさんが私達に気付き、「イクシオン殿下、王からの招集に関しまして、このパムネリー嬢からお聞きしていた所です」と教えてくれた。
いやいや、聞くだけでこのカオス状態は何なのか……?

「お祖父ちゃん、何しているの?」
「おー、李都。このお嬢ちゃんがな、王都まで一緒に行くんだとさ」
「いや、王都から来た人なんだから、王都に戻るでしょ?」
「ワシがシオンを連れて一瞬で行くと言ったら、一緒に付いていくと我が儘言うんでな、腰を揉んでもらってる」

 交換条件か何かだろうか?
まぁ、お祖父ちゃんはヴインダム王国の王族との契約も昔しているから、この世界中何処でも行けちゃうんだけどね。

「あれ? お祖父ちゃんもお城に呼ばれたの?」
「ああ、他の国の王もヴインダムに来るらしくてな。ワシも他の国の王から呼ばれた。日都留は姫の出産があるから、そっちの方が大事だと断りおった」

 あー、確かに姫ちゃんの方が他の国の王様にどういわれようと大事だもんねぇ。
私もイクシオンがお城に行った後は姫ちゃんの所に行くつもりだったしね。

「李都、お前も一緒じゃからな」
「え? なんで私も?」
「お前には『神子』として参加してもらう」

 私が目を丸くすると、イクシオンが私を抱き寄せて、お祖父ちゃんに食って掛かった。

「エイゾウ様! リトは他の国に狙われるかもしれない! この屋敷から出すわけには行かない!」
「シオン、『神子』を取り合う事は各国出来ない。『賢者』を前に、口にした『契約』は覆す事は出来ないからな」
「しかし……リトを危険にさらしたくはない……」
「カーッ、心配性め! いざとなれば賢者の森で暮らせばいい。第一、シオンがヴインダム王国の最後の王族である以上、他の国は手が出せん」

 私を抱き寄せるイクシオンの手に力が入る。
いざとなれば、お祖父ちゃんが言うように、森に逃げてしまっても良いし、この世界の何処か違う場所でのんびり暮らしても良いかもしれない。
色々なモノを捨てる覚悟はいるだろうけど。

「リト様。わたくし達がリト様のお顔がバレないようサポートいたします!」
「へっ?」

 アーデルカさんを筆頭としたメイド部隊が、イクシオンから私を引き剥がすと、いつものコースで大浴場で磨き上げてからの着せ替え!!
今回は白いドレスに銀色の刺繍と紺色のラインが入った物で、白いフードに口元を覆い隠す布が掛けられた。
これ、怪しい占い師に見える……
でも、これなら正体はバレないかな?

「ワフッ!」
「デンちゃんもなんだか立派な紐を付けて貰ったね」
「ワフ―」

 デンちゃんには赤い手綱に金色のふさが付いた物を付けて貰っていた。
なんだか神々しい神社のお犬様のようだ。
デンちゃんと一緒に広間の方へ戻ると、女騎士のパムネリーさんはルドルフに追われていた。
半べそ状態のパムネリーさんが少し可哀想な気もしてきた。

「ルドルフ、止めなさい。好きな子を苛めるタイプなの?」

 声を掛けると、ルドルフは眉間にしわを寄せて、ペッと大理石の床の上に唾を吐いた。
なんかこういう態度の悪い人、不良漫画とかで見た事あるよ……
お祖父ちゃんは「ヒャッヒャッヒャッ」と大ウケして笑っているし、お祖父ちゃんもお祖父ちゃんで注意してあげればいいのにと思うんだけどね。

「リト。なんだか『神子』という感じだな」
「ああ、なんか怪しい占い師になった気分なんだけど……」

 裾も袖も滅茶苦茶長いドレスだし、踏んづけてコケ無い様にしないと本当に危なそうだ。
イクシオンが「リトにキスが出来ないのが問題だな」と、冗談めかして言って私の手を取る。

「さて、ブルータス。ルドルフ。そろそろ行くか」

 お祖父ちゃんが腰を上げて、ゲッちゃんが肩に乗るとルドルフも「仕方ないなぁ」というやる気の無さそうな半目でお祖父ちゃんの方へ歩いてきた。
あれがこの世界で蛇口のモデルになっている伝説の守護獣の牡鹿だなんて……色々と言いたいよね。
口から水じゃなくて、唾吐いてくるんだけど? と、いう感じだよねぇ。

「李都、シオンもそろそろ行くぞ。そこのお嬢ちゃんも行くぞ」
「はい……あの、何か拭く物をお貸しいただけませんか……」

 ぬばーっと、ルドルフの唾だらけのパムネリーさんは泣きそうな顔で申し訳なさそうに訪ねてきた。
アンゾロさんがタオルをパムネリーさんに手渡し、ルドルフがまた口をモゴモゴさせ始めるとパムネリーさんは「ヒッ」と短く悲鳴を上げて、玄関の方へ走って行った。

「ルドルフ、お前は気に入った奴に唾を吐くのは止めておけ」

 あれ、やっぱり好きな人に唾吐いてたんだ。
私はやられたこと無いけど、流石に唾吐きかけられるのは嫌だなぁ。
でも、お祖父ちゃんは良く唾吐かれてるけど、気に入られている感じじゃない気がする……
うーん。ルドルフ、謎の牡鹿だ。

「リト、一応武器は持っているか?」
「あっ、うん。太腿ふとももに革ベルトのナイフホルダーつけて『熊吉』と、よく切れるナイフを差してるよ」

 ドレスの裾をたくし上げて太腿のホルダーを見せると、イクシオンに「リトッ」と怒られてしまった。
だけど、こういうドレスの下にナイフを隠すとか、映画や何かで出てくるシチュエーションは、人に見せてみたい物なんだけどなぁ。
ちょい悪奥様みたいで、私としてはノリノリである。

「一応、目に見える小道具として杖も持っておくといい」
「って、コレ、魔法の杖……危なくない?」
「『神子』の力を見せつけるのに、脅しに使っても良いと思う」

 おいおい。旦那様、私はどんな危険な『神子』なんだい?
私達が笑っていると、お祖父ちゃんが背中を押してきて、玄関まで行くとパムネリーさんが自分の獣騎を連れて来ていた。

「さて、皆ワシに掴まれ。ヴインダム王宮までひと飛びするぞ」
「うん。気を付けて、安全に行こう!」

 イクシオンに腰を持たれて、私はデンちゃんの手綱を握り、片手はお祖父ちゃんの手を握る。パムネリーさんは獣騎の手綱を持ちながら、ルドルフに腰のベルトを噛まれ、お祖父ちゃんがルドルフの角を片手で握り、「リ・テラビーナ」と移動魔法を唱えて、私達はヴインダム王宮へと移動した。
しおりを挟む
感想 99

あなたにおすすめの小説

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

獣人公爵のエスコート

ざっく
恋愛
デビューの日、城に着いたが、会場に入れてもらえず、別室に通されたフィディア。エスコート役が来ると言うが、心当たりがない。 将軍閣下は、番を見つけて興奮していた。すぐに他の男からの視線が無い場所へ、移動してもらうべく、副官に命令した。 軽いすれ違いです。 書籍化していただくことになりました!それに伴い、11月10日に削除いたします。

召喚されたのに、スルーされた私

ブラックベリィ
恋愛
6人の皇子様の花嫁候補として、召喚されたようなんですけど………。 地味で影が薄い私はスルーされてしまいました。 ちなみに、召喚されたのは3人。 2人は美少女な女子高生。1人は、はい、地味な私です。 ちなみに、2人は1つ上で、私はこの春に女子高生になる予定………。 春休みは、残念異世界への入り口でした。

私の番はこの世界で醜いと言われる人だった

えみ
恋愛
学生時代には多少恋愛経験を積んできたけど、社会人になってから仕事一筋でアラサーになっても恋人が出来なかった私は、恋人を作ろうと婚活パーティに行こうとしたところで交通事故にあって死んでしまった。 生まれ変わった世界では、私は人間だったけど、獣人や人間が共存している世界。 戦争などが無く、平和な世の中なため、獣人も人化した時にはマッチョはあまり美しく思われないという美的感覚に、マッチョ好きの私は馴染めないのでやはり恋人はなかなかできない。 獣人には番だとかそういうものがあるみたいだけど、人間の私にはそういう感覚があまりよく分からないので、「この世界でも普通に仕事一筋で生きていこう。また死にたくないし。」 とか思っていたら、さっそく死亡フラグが舞い込んできました。 しかも、死ぬか恋愛するかって、極端すぎるわ…! 結構あっさり終わらせる予定です。 初心者なので、文章がおかしいところがあるかもしれません…

関係を終わらせる勢いで留学して数年後、犬猿の仲の狼王子がおかしいことになっている

百門一新
恋愛
人族貴族の公爵令嬢であるシェスティと、獣人族であり六歳年上の第一王子カディオが、出会った時からずっと犬猿の仲なのは有名な話だった。賢い彼女はある日、それを終わらせるべく(全部捨てる勢いで)隣国へ保留学した。だが、それから数年、彼女のもとに「――カディオが、私を見ないと動機息切れが収まらないので来てくれ、というお願いはなんなの?」という変な手紙か実家から来て、帰国することに。そうしたら、彼の様子が変で……? ※さくっと読める短篇です、お楽しみいだたけましたら幸いです! ※他サイト様にも掲載

処理中です...