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2章
賢者が来た! 竜の国召喚士視点
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御伽噺で語られる『賢者』を召喚せよと命令が下ったのは、年も暮れに迫った頃だった。
他の国で『神子』の召喚が行われたが、『神子』を有している国は名乗り出ない。
その『神子』を探す為に『賢者』の知恵を借りよう……と、言う事らしい。
御伽噺の『賢者』に『神子』だというのに、馬鹿なんじゃないか? そう思ってしまっても仕方が無いだろう。
しかし、召喚の儀を行ったところ『賢者』は反応を示した。
『しばし待て。他の国にも同時に召喚の要請が来ている。順に回っていく予定である』
老人の渋くて深みのある声が召喚陣の中でした。
術師たちは動揺を隠せない目で、お互いに視線を交差し合った。
そして、遂に我が国にも白い牡鹿を連れた白髪の老人と、白い子狐を首に巻いた無表情の男が訪ねて来た。
「賢者のエイゾウだ。これは倅のヒヅル、次期『賢者』だ。既に資格は得ているから、ワシ亡きあとはヒヅルが務めを果たすだろう」
『賢者』のエイゾウ様とヒヅル様……名前が独特ではあるが、守護獣の白い牡鹿を連れているのは御伽噺でも有名だ。
それにしても、ヒヅルという次期賢者は一言も喋らず、圧の掛かる様な目で見てくるのは止めて頂きたいものである。
「遠いところを遥々お越しくださり、ありがとうございます。賢者様」
「国王様の元へ、ご案内します」
二人の賢者を連れて謁見の間に入り、竜人の国の国王様へ頭を垂れて下がり、二人の賢者の後ろにつく。
「余が竜王国、ドラグニアの王である。そなたが賢者か? しかし、二人居る様に思えるが?」
「これはワシの倅で、次期『賢者』だ。賢者の契約は王家との直接契約ですからな。これからも賢者と契約を結ぶようならば、倅と契約を、しないのであれば、それも良しだ」
「成程。契約の前に『神子』についての情報を話すが良い。話はそれからだ」
朗らかに笑うエイゾウ様は国王様を前にしても、その表情は崩さずヒヅル様も眉一つ動かしはしなかった。
心臓が強い者達だと思う。こちらは国王様の覇気にすでに足がすくみ上がりそうだというのに……
「別に隠し立てするような情報ではないからな。『神子』は確かに、この世界に召喚されている」
「それは、どこの国だ! どこの国が、余の『神子』を捕らえている!」
この王の発言の時に、今まで眉一つ動かさなかったヒヅル様の片眉が動き、心臓の上に氷を置かれた様なキュッとした感覚で背筋が凍りつく。
それは国王様も同じだったようで、「ヒュッ」と風の様な音が誰ともなく出ていた。
「ヒヅル、少し抑えろ」
「……ハッ」
鼻でヒヅル様は笑い、不機嫌そうなままである。
これが『賢者』の力なのかと、少々怖いものを感じるが、逃げ出すわけにもいかないので、見守るしかない。
「『神子』は誰かの物ではない。『神子』は自身が決めた道を歩き、そして安寧をもたらすものだ。国同士の諍いが起きる様ならば、『賢者』として『神子』を元の世界へ戻す。次期、賢者として欲の張った王家と契約を結ぶことは考えさせてもらう。契約は保留だ」
ヒヅル様はそう言い、国王様は「……わかった。神子を奪い合う真似はすまい」と口にし、エイゾウ様が頷き、『神子』の現状について話をした。
「王族では無い者が治める国が二つあり、その二つのうちどちらかが神子の召喚を行った。しかし、召喚の儀は王族立ち合いの元というのが前提だ。勿論、我々賢者も王族の呼び出し以外には応じられない。そして、王族以外の者の召喚で神子は、国ではない土地へ落ちてしまった。今も何処かでさ迷っていることだろう」
王族では無い者が治める国の一つはヴインダム国だというのは、直ぐに判ったが、もう一つそのような国があるのは初耳である。
しかし、『神子』がどこか国ではない土地に落ちたとなると……国ではない場所は幾つもある。
探すのは極めて困難と言えるだろう。
なにせ、こちらは『神子』の姿を知らないのだから。
「では、その国ではない土地というのは何処かわかるか?」
「それはワシらにも分からんよ。落ちた直後ならいざ知らず、もう三年も月日が経っている。神子自身、結婚しているかもしれぬしな」
「それは困る! 余の妻に迎え入れる為だけに、余は今まで独身だったのだぞ!」
「まぁ、王族の血を絶やせば、賢者も神子も召喚は出来なくなる。結婚し、子を作る事をワシは薦めておく」
エイゾウ様とヒヅル様は「他の国にも同様の話をしてあるが、召喚の際に十一の国の願いを聞き入れて、この世界に降り立つのが神子だ。王族では無い者が召喚に混ざれば、神子はどの国にも召喚は出来ない。王族の血を絶やさぬようにな。自国を安寧に導きたいのなら」と、言い残してこの国を去っていった。
国王様は直ぐに、各国へ使者と書簡を送った。
各国からも使者が書簡を持って現れ、賢者の話の裏付けを取った。
賢者の現れなかった国の炙り出しのような物だったが、そこでグスタカ国に賢者が現れていないことと、グスタカ国では内乱が五十年ほど前にあり、王家の三男が王の座に就いたというが、あまりにも王族の中で兄達とは似ていない事で、本当に王の息子か疑われていた者でもあったらしい。
そして、その子供が王に今は就いている。
賢者は「二つの国の王族の生き残りは今も生きている。丁重に持て成し、交友を深め、次代の召喚に協力を求めるが良い」とも言っていた。
探しやすいのは、ヴインダム国の唯一の王族、イクシオン王弟殿下だろう。
問題は、グスタカ国の王族が今どこで生きているか……それを探し出すのが、問題でもある。
「とりあえずは、王族では無い国の召喚について、各国から二つの国へ『召喚の儀を行う際は、正当な王族を場につかせる事』を盟約せねばな……王族の血を安く見る簒奪王達には、王の資格がない事を知らしめねばならん! これは王族を軽く見る者達への見せしめでもある!」
国王様の声に我々術師も頷き、国王様は次に「余は后を迎え入れるぞ!」と声高々に宣言した。
ようやく、この国にも遅ればせながらの春が来そうだ。
時期的には真冬ど真ん中の年末ではあるが、目出度いことは良いことだ。
きっと、来年は明るい良い年になるだろう。
他の国で『神子』の召喚が行われたが、『神子』を有している国は名乗り出ない。
その『神子』を探す為に『賢者』の知恵を借りよう……と、言う事らしい。
御伽噺の『賢者』に『神子』だというのに、馬鹿なんじゃないか? そう思ってしまっても仕方が無いだろう。
しかし、召喚の儀を行ったところ『賢者』は反応を示した。
『しばし待て。他の国にも同時に召喚の要請が来ている。順に回っていく予定である』
老人の渋くて深みのある声が召喚陣の中でした。
術師たちは動揺を隠せない目で、お互いに視線を交差し合った。
そして、遂に我が国にも白い牡鹿を連れた白髪の老人と、白い子狐を首に巻いた無表情の男が訪ねて来た。
「賢者のエイゾウだ。これは倅のヒヅル、次期『賢者』だ。既に資格は得ているから、ワシ亡きあとはヒヅルが務めを果たすだろう」
『賢者』のエイゾウ様とヒヅル様……名前が独特ではあるが、守護獣の白い牡鹿を連れているのは御伽噺でも有名だ。
それにしても、ヒヅルという次期賢者は一言も喋らず、圧の掛かる様な目で見てくるのは止めて頂きたいものである。
「遠いところを遥々お越しくださり、ありがとうございます。賢者様」
「国王様の元へ、ご案内します」
二人の賢者を連れて謁見の間に入り、竜人の国の国王様へ頭を垂れて下がり、二人の賢者の後ろにつく。
「余が竜王国、ドラグニアの王である。そなたが賢者か? しかし、二人居る様に思えるが?」
「これはワシの倅で、次期『賢者』だ。賢者の契約は王家との直接契約ですからな。これからも賢者と契約を結ぶようならば、倅と契約を、しないのであれば、それも良しだ」
「成程。契約の前に『神子』についての情報を話すが良い。話はそれからだ」
朗らかに笑うエイゾウ様は国王様を前にしても、その表情は崩さずヒヅル様も眉一つ動かしはしなかった。
心臓が強い者達だと思う。こちらは国王様の覇気にすでに足がすくみ上がりそうだというのに……
「別に隠し立てするような情報ではないからな。『神子』は確かに、この世界に召喚されている」
「それは、どこの国だ! どこの国が、余の『神子』を捕らえている!」
この王の発言の時に、今まで眉一つ動かさなかったヒヅル様の片眉が動き、心臓の上に氷を置かれた様なキュッとした感覚で背筋が凍りつく。
それは国王様も同じだったようで、「ヒュッ」と風の様な音が誰ともなく出ていた。
「ヒヅル、少し抑えろ」
「……ハッ」
鼻でヒヅル様は笑い、不機嫌そうなままである。
これが『賢者』の力なのかと、少々怖いものを感じるが、逃げ出すわけにもいかないので、見守るしかない。
「『神子』は誰かの物ではない。『神子』は自身が決めた道を歩き、そして安寧をもたらすものだ。国同士の諍いが起きる様ならば、『賢者』として『神子』を元の世界へ戻す。次期、賢者として欲の張った王家と契約を結ぶことは考えさせてもらう。契約は保留だ」
ヒヅル様はそう言い、国王様は「……わかった。神子を奪い合う真似はすまい」と口にし、エイゾウ様が頷き、『神子』の現状について話をした。
「王族では無い者が治める国が二つあり、その二つのうちどちらかが神子の召喚を行った。しかし、召喚の儀は王族立ち合いの元というのが前提だ。勿論、我々賢者も王族の呼び出し以外には応じられない。そして、王族以外の者の召喚で神子は、国ではない土地へ落ちてしまった。今も何処かでさ迷っていることだろう」
王族では無い者が治める国の一つはヴインダム国だというのは、直ぐに判ったが、もう一つそのような国があるのは初耳である。
しかし、『神子』がどこか国ではない土地に落ちたとなると……国ではない場所は幾つもある。
探すのは極めて困難と言えるだろう。
なにせ、こちらは『神子』の姿を知らないのだから。
「では、その国ではない土地というのは何処かわかるか?」
「それはワシらにも分からんよ。落ちた直後ならいざ知らず、もう三年も月日が経っている。神子自身、結婚しているかもしれぬしな」
「それは困る! 余の妻に迎え入れる為だけに、余は今まで独身だったのだぞ!」
「まぁ、王族の血を絶やせば、賢者も神子も召喚は出来なくなる。結婚し、子を作る事をワシは薦めておく」
エイゾウ様とヒヅル様は「他の国にも同様の話をしてあるが、召喚の際に十一の国の願いを聞き入れて、この世界に降り立つのが神子だ。王族では無い者が召喚に混ざれば、神子はどの国にも召喚は出来ない。王族の血を絶やさぬようにな。自国を安寧に導きたいのなら」と、言い残してこの国を去っていった。
国王様は直ぐに、各国へ使者と書簡を送った。
各国からも使者が書簡を持って現れ、賢者の話の裏付けを取った。
賢者の現れなかった国の炙り出しのような物だったが、そこでグスタカ国に賢者が現れていないことと、グスタカ国では内乱が五十年ほど前にあり、王家の三男が王の座に就いたというが、あまりにも王族の中で兄達とは似ていない事で、本当に王の息子か疑われていた者でもあったらしい。
そして、その子供が王に今は就いている。
賢者は「二つの国の王族の生き残りは今も生きている。丁重に持て成し、交友を深め、次代の召喚に協力を求めるが良い」とも言っていた。
探しやすいのは、ヴインダム国の唯一の王族、イクシオン王弟殿下だろう。
問題は、グスタカ国の王族が今どこで生きているか……それを探し出すのが、問題でもある。
「とりあえずは、王族では無い国の召喚について、各国から二つの国へ『召喚の儀を行う際は、正当な王族を場につかせる事』を盟約せねばな……王族の血を安く見る簒奪王達には、王の資格がない事を知らしめねばならん! これは王族を軽く見る者達への見せしめでもある!」
国王様の声に我々術師も頷き、国王様は次に「余は后を迎え入れるぞ!」と声高々に宣言した。
ようやく、この国にも遅ればせながらの春が来そうだ。
時期的には真冬ど真ん中の年末ではあるが、目出度いことは良いことだ。
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