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2章
お祖父ちゃんは賢者
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ビュオオォォーと、猛吹雪の中で白い牡鹿のルドルフに乗って、お祖父ちゃんがゲッちゃんをコートの中に入れつつお屋敷を訪問してきた。
「李都、外は吹雪いて凄かったぞ!」
「それはそうだろうね。お祖父ちゃん、歳なんだから無茶しないでよ。普通こんな吹雪の中を遊びに来る?」
「今年のうちに李都に会いにこようと思っただけなのに、酷い言いようだわい」
「私はお祖父ちゃんを心配してるの。小屋で温かくしておけばいいのに」
「あー、そんな事より、何か温かい物を飲ませてくれ。酒が良い、酒!」
お祖父ちゃんはルドルフの頭の雪を払い、コートの中からゲッちゃんを出すと、ゲッちゃんは寒さで動きが鈍いのか、ヘロヘロと飛んで私の肩に停まると髪の毛の中に顔を突っ込んできた。
うわっ、冷凍の鶏肉になってる! 可哀想に……
「ゲッちゃん、お祖父ちゃんに付き合わされてコチンコチンに凍ってるねー、可哀想に」
「ゲキョー……」
アンゾロさんにウィスキーのボトルを持ってきてもらい、お祖父ちゃんは広間にある暖炉の前で手を摩りながら、ウィスキーを飲んで上機嫌だ。
アーデルカさんがおつまみのビーフジャーキーにスモークサーモンとチーズを持って来てくれて、お祖父ちゃんは美味しそうにおつまみを食べている。
「リト様も温かい物を飲みますか? エイゾウ様、シチュー等もありますが如何ですか?」
「それなら、ミルクを温めて蜂蜜を入れて貰えますか?」
「ワシは酒とつまみで充分だ。気にせんでいいよ」
「畏まりました。直ぐにお持ち致しますね」
アーデルカさんが部屋を出ていき、私は暖炉の前でお祖父ちゃんの横に座って、ゲッちゃんを触りつつ温めていく。
ちなみにルドルフはお祖父ちゃんのウィスキーのグラスにたまに舌を伸ばして隙あらば飲もうとして、お祖父ちゃんと格闘中である。
「李都、十一の国からワシに『召喚』の要請がきた」
「そうなの? って、十一国って、全部の国じゃない?」
「ああ、しかし、要請に応じられない国が二つある。一つはこのヴインダム国、理由は王家はシオンだからな。王族でもない者の命は受け付けられない。もう一つの国はグスタカ国、こちらも王家の血が入っていない。本当の王家の人間は他の国で暮らしているからだ。賢者は王家との契約だから、他の九つの国には顔を出さねばならん」
そういえば、前にイクシオンも外海の国のグスタカ王家の紋章が内側の国にあるのは、王家の人間がそこで暮らしているからだろうとか、賢者の小屋で地図を見せた時に言っていた。
イクシオンと同じ様に、王家を乗っ取られでもしたんだろうか?
「お祖父ちゃん、お父さんは呼び出しに応じるの?」
「日都留は、まだ王家との契約を結んでいないから、九つの国の王家と契約をさせる為に連れて行くぞ。ただ、グスタカ国とこの国はどうするかだな……」
「契約って、結ばなきゃいけないの?」
「結ばんでもいいが、結んでおけば、移動魔法が瞬時に国から国に出来て便利なんだわ。それだけかの?」
便利だけど、王家に縛られるのはどうなんだろう?
「まぁ、今回の呼び出しは『神子』は、どの国に現れているのか……それを聞く為だな」
「ここに居ますー……お祖父ちゃん、私、どうすればいい?」
「ヴインダムの王族が手に入れたとなると、問題になるだろうなぁ……なんせ、今は軍が長期遠征中。軍の居ない間に攻め入られたら、ひとたまりもないだろうな。獣人達は強いが、一般市民レベルの獣人たちの犠牲はどれぐらいでるか……」
それは、非常に危ない。というより、そんな事で戦争になって『神子』を手に入れても絶対に『神子』としては協力しかねる。
第一、安寧をもたらす『神子』が戦火の火種になるのはおかしいでしょ?
「リト様、ミルクを持ってきましたよ」
「ありがとうございます。アチチ……ふぅー、とりあえず、落ち着いて考えなきゃ」
アーデルカさんからホットミルクを貰って、しばし考えるけど、これという案は思い浮かばない。
すると、アンゾロさんが「失礼ですが、口を挟んでもよろしいですか?」とスッと手を小さく上げる。
「なんじゃ? 執事さんはいい案でもあるんかい?」
「いい案かは分かりませんが、李都様が召喚されたのはヴインダム王家のせいではありますが、召喚の呪文が書き換えられていた為に、リト様は賢者の森に出てしまったのですよね?」
「はい。そうです」
「でしたら、いっそのこと、正当な王家の血筋ではない者が召喚の儀を行った為に、『神子』は召喚に失敗し、召喚陣に現れず、国無き土地へ落ちてしまったと、告げてはどうでしょう。勿論、正当な王家ではない国は二つあると言ってしまえば、心当たりのある国は大騒ぎするでしょうし、ヴインダム国は他国にも王族ではない者が王に就いていることは知られていますから、多少文句を言われるとは思いますが、あの王にはそれぐらいされて当然かと思います」
うーん。当たらずとも遠からず、確かに王様と王太子のせいで酷い目には遭ったから、多少はチクチクされるくらいいい様な気もしてくる。
それに、『神子』は国無き土地に居るとしたら、国への攻撃は無いだろうしね。
「そうだな。守るべき王家がこれ以上、血を絶やさぬように、賢者として……王族ではない者が召喚は行えぬ事と、賢者の呼び出しは出来ぬことを、しっかりと宣言して、シオンの様な者が出ない様に釘を刺しに行くか」
「うん。王様にはなりたくないイクスだけど、王族でも無い王様にバカにされ続けるのは可哀想だから、お祖父ちゃんガツンと言ってやって!」
お祖父ちゃんは、ウィスキーを飲んでしばらくしてからルドルフとゲッちゃんを連れて、お父さんの家に向かい、二人で九つの国に移動してしまった。
年末だというのに、他の国もこの国の王も『賢者』を呼び出そうとしたり、『神子』を探したり、年末にする事かなって思う。
まぁ、ゲッちゃんをお祖父ちゃんが連れて行ったから、『神子』は『聖鳥』と一緒じゃない理由にはなるかな?
「李都、外は吹雪いて凄かったぞ!」
「それはそうだろうね。お祖父ちゃん、歳なんだから無茶しないでよ。普通こんな吹雪の中を遊びに来る?」
「今年のうちに李都に会いにこようと思っただけなのに、酷い言いようだわい」
「私はお祖父ちゃんを心配してるの。小屋で温かくしておけばいいのに」
「あー、そんな事より、何か温かい物を飲ませてくれ。酒が良い、酒!」
お祖父ちゃんはルドルフの頭の雪を払い、コートの中からゲッちゃんを出すと、ゲッちゃんは寒さで動きが鈍いのか、ヘロヘロと飛んで私の肩に停まると髪の毛の中に顔を突っ込んできた。
うわっ、冷凍の鶏肉になってる! 可哀想に……
「ゲッちゃん、お祖父ちゃんに付き合わされてコチンコチンに凍ってるねー、可哀想に」
「ゲキョー……」
アンゾロさんにウィスキーのボトルを持ってきてもらい、お祖父ちゃんは広間にある暖炉の前で手を摩りながら、ウィスキーを飲んで上機嫌だ。
アーデルカさんがおつまみのビーフジャーキーにスモークサーモンとチーズを持って来てくれて、お祖父ちゃんは美味しそうにおつまみを食べている。
「リト様も温かい物を飲みますか? エイゾウ様、シチュー等もありますが如何ですか?」
「それなら、ミルクを温めて蜂蜜を入れて貰えますか?」
「ワシは酒とつまみで充分だ。気にせんでいいよ」
「畏まりました。直ぐにお持ち致しますね」
アーデルカさんが部屋を出ていき、私は暖炉の前でお祖父ちゃんの横に座って、ゲッちゃんを触りつつ温めていく。
ちなみにルドルフはお祖父ちゃんのウィスキーのグラスにたまに舌を伸ばして隙あらば飲もうとして、お祖父ちゃんと格闘中である。
「李都、十一の国からワシに『召喚』の要請がきた」
「そうなの? って、十一国って、全部の国じゃない?」
「ああ、しかし、要請に応じられない国が二つある。一つはこのヴインダム国、理由は王家はシオンだからな。王族でもない者の命は受け付けられない。もう一つの国はグスタカ国、こちらも王家の血が入っていない。本当の王家の人間は他の国で暮らしているからだ。賢者は王家との契約だから、他の九つの国には顔を出さねばならん」
そういえば、前にイクシオンも外海の国のグスタカ王家の紋章が内側の国にあるのは、王家の人間がそこで暮らしているからだろうとか、賢者の小屋で地図を見せた時に言っていた。
イクシオンと同じ様に、王家を乗っ取られでもしたんだろうか?
「お祖父ちゃん、お父さんは呼び出しに応じるの?」
「日都留は、まだ王家との契約を結んでいないから、九つの国の王家と契約をさせる為に連れて行くぞ。ただ、グスタカ国とこの国はどうするかだな……」
「契約って、結ばなきゃいけないの?」
「結ばんでもいいが、結んでおけば、移動魔法が瞬時に国から国に出来て便利なんだわ。それだけかの?」
便利だけど、王家に縛られるのはどうなんだろう?
「まぁ、今回の呼び出しは『神子』は、どの国に現れているのか……それを聞く為だな」
「ここに居ますー……お祖父ちゃん、私、どうすればいい?」
「ヴインダムの王族が手に入れたとなると、問題になるだろうなぁ……なんせ、今は軍が長期遠征中。軍の居ない間に攻め入られたら、ひとたまりもないだろうな。獣人達は強いが、一般市民レベルの獣人たちの犠牲はどれぐらいでるか……」
それは、非常に危ない。というより、そんな事で戦争になって『神子』を手に入れても絶対に『神子』としては協力しかねる。
第一、安寧をもたらす『神子』が戦火の火種になるのはおかしいでしょ?
「リト様、ミルクを持ってきましたよ」
「ありがとうございます。アチチ……ふぅー、とりあえず、落ち着いて考えなきゃ」
アーデルカさんからホットミルクを貰って、しばし考えるけど、これという案は思い浮かばない。
すると、アンゾロさんが「失礼ですが、口を挟んでもよろしいですか?」とスッと手を小さく上げる。
「なんじゃ? 執事さんはいい案でもあるんかい?」
「いい案かは分かりませんが、李都様が召喚されたのはヴインダム王家のせいではありますが、召喚の呪文が書き換えられていた為に、リト様は賢者の森に出てしまったのですよね?」
「はい。そうです」
「でしたら、いっそのこと、正当な王家の血筋ではない者が召喚の儀を行った為に、『神子』は召喚に失敗し、召喚陣に現れず、国無き土地へ落ちてしまったと、告げてはどうでしょう。勿論、正当な王家ではない国は二つあると言ってしまえば、心当たりのある国は大騒ぎするでしょうし、ヴインダム国は他国にも王族ではない者が王に就いていることは知られていますから、多少文句を言われるとは思いますが、あの王にはそれぐらいされて当然かと思います」
うーん。当たらずとも遠からず、確かに王様と王太子のせいで酷い目には遭ったから、多少はチクチクされるくらいいい様な気もしてくる。
それに、『神子』は国無き土地に居るとしたら、国への攻撃は無いだろうしね。
「そうだな。守るべき王家がこれ以上、血を絶やさぬように、賢者として……王族ではない者が召喚は行えぬ事と、賢者の呼び出しは出来ぬことを、しっかりと宣言して、シオンの様な者が出ない様に釘を刺しに行くか」
「うん。王様にはなりたくないイクスだけど、王族でも無い王様にバカにされ続けるのは可哀想だから、お祖父ちゃんガツンと言ってやって!」
お祖父ちゃんは、ウィスキーを飲んでしばらくしてからルドルフとゲッちゃんを連れて、お父さんの家に向かい、二人で九つの国に移動してしまった。
年末だというのに、他の国もこの国の王も『賢者』を呼び出そうとしたり、『神子』を探したり、年末にする事かなって思う。
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