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2章
彼女は辛辣 エルファーレン視点
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従者の護衛騎士、デイルとラッドに連れられて王城へ帰って、執務室の姿見で自分の姿を見て、溜め息を吐く。
『毛も生えそろってない様な人はお断り!』というリトの口から出た言葉に、少し、いやかなり、ショックを受けている。
父親が父親なので、自分の周りには王弟派から派遣された監視役の子息令嬢か、国王派の甘い蜜を吸おうとしている不正ギリギリの貴族の子息令嬢しか集まらない。
周りは常に『王太子らしく』と厳しい目を向けるか『利用』しようとする目。
そして、掛けてくる言葉も一歩離れたものばかりだった。
リトの様に物言いがハッキリとした少女は居なかった。
田舎ののんびりした場所で育ったが故の無作法とも思ったが、彼女の小さな仕草の一つ一つは礼儀正しく、普通に自分の気持ちに素直で、誰でも平等に見る子なのだと気付いた。
だから、欲しくなったのだ。
父上が知ったらさぞかし怒るだろうとは思ったが、一度きりの結婚印を結んでしまえば、父上も文句は言わないだろうし、『神子』は愛妾にでもして、離宮に閉じ込めて会わなければいいと思っていた。
気付けば跪いて名を名乗っていた。
まさか、人妻だとは思わなかった。
自分より年下だと思っていたのに、結婚しているとなると自分より年上で成人しているのだろう。
イクシオン叔父上の尻尾を握りながら、毛並みについて語る彼女は、ガリュウ叔父さんの毛並みも褒めた。
毛並みに口うるさいとイクシオン叔父上は言っていたが、求婚したらボロ雑巾の様に言われてしまった甥に追い打ちをかけてくるし……踏んだり蹴ったりだ。
確かに、自分は剣の稽古も体術の稽古も苦手で……体つきも貧弱なところはあるが、その分勉学にだけは手を抜かなかったが……やはり、女性は毛並みの良い男らしい人の方が好みなのだろうか?
カチャリと、小さく紅茶を机に置いたデイルが心配そうな顔をして覗き込んできた。
「エルファーレン様、あの様な田舎の無知な娘の言う事など、気にしない方が良いかと……」
「デイル……彼女は無知では無いよ。彼女の発想力で作られた商品は、目を見張るものがあるからね」
頬杖を付いて、淹れて貰った紅茶に映る自分の、しょぼくれた顔に溜め息が漏れる。
「エルファーレン様の初告白が、無駄に終わっちゃいましたね」
「ラッド! お前は少しはエルファーレン様の気持ちをだな!」
「いいよ、デイル。仕方がないさ。人妻だと知らなかったんだから、どちらにしろフラれてたんだよ」
ラッドは王弟派だから物言いもスッパリしているが、それでも私の事をよく見て、父とは関係なく見守ってくれている数少ない者の一人だ。
しかも、『聖堂教会』の司祭の息子でもある。
占いの呪文をすり替える案もラッドのもので、呪文の解読も彼がした事だ。
バレたらただでは済まないのに、手を貸してくれたのだから、護衛騎士というより親友と言っていいだろう。
金髪の髪に黒い瞳のラッドは猿獣人の為に耳は人族に似ていて、長い金色の尻尾はフサフサの毛並みをしている。
金色のフサフサの毛並み……羨ましい限りだ。
「エルファーレン様が、あの田舎娘を気に入ったのはアレですよ。周りに今まで居なかっただけの物珍しさからです。きっとお似合いの令嬢が見付かりますよ!」
「デイル、父上に『神子』を押し付けられようとしているのに、それは難しいし、ほとんどの公爵家は王弟派だからね。絶対に娘を差し出したりはしないよ」
赤毛を掻き上げながらデイルが言葉を探しているが、そんなに気にされても困る。
ただ、少しショックを受けただけなのだ。こんな風に自分の精一杯の気持ちをぶつけたのも初めてなら、自分の魅力の無さを突きつけられた気がする。
ただ、それだけ__。
デイルの角は牛族でも戦う事を得意とする一族の雄々しい角で、しかも本人もそれなりに逞しい筋肉を持っている。
尻尾の先の毛もさらりとなびいているし……羨ましい限りだ。
「エルファーレン様がこうして面白い行動をとるのは、付き合うのも面白いので良いんじゃないですか?」
「ラッド……、私の今までの品性高潔なイメージとはかけ離れ過ぎていたと、反省はしているんだよ?」
「そうですか? エルファーレン様は二年前までは人懐っこい笑顔で、大人みたいな事を言っていたじゃないですか」
「アレは、子供の時だから出来た芸当だよ。今の私がやったら頭が緩いとしか思われないよ」
「なにも自分の個性を殺してまで、品性を保つ必要はないのでは?」
ラッドは本当に『聖堂教会』の司祭の息子なのか疑ってしまいそうだ。
すました顔でシレッとこういう事を言うのだから……まぁ、リト程ではないが、ラッドのこういう自分を特別扱いしていない所が好ましいのではある。
「ラッド、お前はいい加減にしとけ。エルファーレン様が王になった時に、過去に足を引っ張られるようでは困るだろ」
逆に心配性なぐらい守ろうとするデイルの、こうした所も好きである。
この二人の側近兼護衛騎士がいるからこそ、今回の様な無謀な真似も出来たが……父は『神子』を手に入れようと躍起になっている。
他の国に戦争を仕掛けて『神子』を戦利品として持ち帰る様に言い出しそうだ。
イクシオン叔父上が『神子』と会って先に手に入れてしまえば、国民はイクシオン叔父上を支持する事になるだろう。
そこまで父が考えていればいいが……どうにかして、先に『神子』を手に入れなければいけない。
その為にも、当分は王宮で情報が届くのを待つしかない。
『毛も生えそろってない様な人はお断り!』というリトの口から出た言葉に、少し、いやかなり、ショックを受けている。
父親が父親なので、自分の周りには王弟派から派遣された監視役の子息令嬢か、国王派の甘い蜜を吸おうとしている不正ギリギリの貴族の子息令嬢しか集まらない。
周りは常に『王太子らしく』と厳しい目を向けるか『利用』しようとする目。
そして、掛けてくる言葉も一歩離れたものばかりだった。
リトの様に物言いがハッキリとした少女は居なかった。
田舎ののんびりした場所で育ったが故の無作法とも思ったが、彼女の小さな仕草の一つ一つは礼儀正しく、普通に自分の気持ちに素直で、誰でも平等に見る子なのだと気付いた。
だから、欲しくなったのだ。
父上が知ったらさぞかし怒るだろうとは思ったが、一度きりの結婚印を結んでしまえば、父上も文句は言わないだろうし、『神子』は愛妾にでもして、離宮に閉じ込めて会わなければいいと思っていた。
気付けば跪いて名を名乗っていた。
まさか、人妻だとは思わなかった。
自分より年下だと思っていたのに、結婚しているとなると自分より年上で成人しているのだろう。
イクシオン叔父上の尻尾を握りながら、毛並みについて語る彼女は、ガリュウ叔父さんの毛並みも褒めた。
毛並みに口うるさいとイクシオン叔父上は言っていたが、求婚したらボロ雑巾の様に言われてしまった甥に追い打ちをかけてくるし……踏んだり蹴ったりだ。
確かに、自分は剣の稽古も体術の稽古も苦手で……体つきも貧弱なところはあるが、その分勉学にだけは手を抜かなかったが……やはり、女性は毛並みの良い男らしい人の方が好みなのだろうか?
カチャリと、小さく紅茶を机に置いたデイルが心配そうな顔をして覗き込んできた。
「エルファーレン様、あの様な田舎の無知な娘の言う事など、気にしない方が良いかと……」
「デイル……彼女は無知では無いよ。彼女の発想力で作られた商品は、目を見張るものがあるからね」
頬杖を付いて、淹れて貰った紅茶に映る自分の、しょぼくれた顔に溜め息が漏れる。
「エルファーレン様の初告白が、無駄に終わっちゃいましたね」
「ラッド! お前は少しはエルファーレン様の気持ちをだな!」
「いいよ、デイル。仕方がないさ。人妻だと知らなかったんだから、どちらにしろフラれてたんだよ」
ラッドは王弟派だから物言いもスッパリしているが、それでも私の事をよく見て、父とは関係なく見守ってくれている数少ない者の一人だ。
しかも、『聖堂教会』の司祭の息子でもある。
占いの呪文をすり替える案もラッドのもので、呪文の解読も彼がした事だ。
バレたらただでは済まないのに、手を貸してくれたのだから、護衛騎士というより親友と言っていいだろう。
金髪の髪に黒い瞳のラッドは猿獣人の為に耳は人族に似ていて、長い金色の尻尾はフサフサの毛並みをしている。
金色のフサフサの毛並み……羨ましい限りだ。
「エルファーレン様が、あの田舎娘を気に入ったのはアレですよ。周りに今まで居なかっただけの物珍しさからです。きっとお似合いの令嬢が見付かりますよ!」
「デイル、父上に『神子』を押し付けられようとしているのに、それは難しいし、ほとんどの公爵家は王弟派だからね。絶対に娘を差し出したりはしないよ」
赤毛を掻き上げながらデイルが言葉を探しているが、そんなに気にされても困る。
ただ、少しショックを受けただけなのだ。こんな風に自分の精一杯の気持ちをぶつけたのも初めてなら、自分の魅力の無さを突きつけられた気がする。
ただ、それだけ__。
デイルの角は牛族でも戦う事を得意とする一族の雄々しい角で、しかも本人もそれなりに逞しい筋肉を持っている。
尻尾の先の毛もさらりとなびいているし……羨ましい限りだ。
「エルファーレン様がこうして面白い行動をとるのは、付き合うのも面白いので良いんじゃないですか?」
「ラッド……、私の今までの品性高潔なイメージとはかけ離れ過ぎていたと、反省はしているんだよ?」
「そうですか? エルファーレン様は二年前までは人懐っこい笑顔で、大人みたいな事を言っていたじゃないですか」
「アレは、子供の時だから出来た芸当だよ。今の私がやったら頭が緩いとしか思われないよ」
「なにも自分の個性を殺してまで、品性を保つ必要はないのでは?」
ラッドは本当に『聖堂教会』の司祭の息子なのか疑ってしまいそうだ。
すました顔でシレッとこういう事を言うのだから……まぁ、リト程ではないが、ラッドのこういう自分を特別扱いしていない所が好ましいのではある。
「ラッド、お前はいい加減にしとけ。エルファーレン様が王になった時に、過去に足を引っ張られるようでは困るだろ」
逆に心配性なぐらい守ろうとするデイルの、こうした所も好きである。
この二人の側近兼護衛騎士がいるからこそ、今回の様な無謀な真似も出来たが……父は『神子』を手に入れようと躍起になっている。
他の国に戦争を仕掛けて『神子』を戦利品として持ち帰る様に言い出しそうだ。
イクシオン叔父上が『神子』と会って先に手に入れてしまえば、国民はイクシオン叔父上を支持する事になるだろう。
そこまで父が考えていればいいが……どうにかして、先に『神子』を手に入れなければいけない。
その為にも、当分は王宮で情報が届くのを待つしかない。
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