やさぐれモードの私はもふもふ旦那様を溺愛中

ろいず

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2章

彼女を下さい

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「イクシオン叔父上、このリトというメイドを、私に下さい」

 何言ってんだ? この王子ーッ!!
私がカッと、前に出ようとするのをビブロースさんに止められて、イクシオンが私達の前に立つ。

「それは出来ない。リトは物ではない。くれと言われてやれるものではない。リトにはリトの意思がある。物の様に言ってきた時点で、エルファーレン、お前に大事な公爵家の人間を渡す事は出来ない」

 おぉ~っ! さすがイクシオン。私が何にムッとしたのか理解してくれている。
ビブロースさんやガリュウさんも小さく頷いているし、このお坊ちゃん王太子め! これだから世間知らずなお坊ちゃんはいけない。

 エルファーレン王太子は少し楽しそうに笑っている。

「やっぱり、そう言われちゃいますよね。ただ、『友達』としてはどうですか?」
「え、やだ」

 思わず答えていて、目を丸くしたエルファーレン王太子とガリュウさんに見られたけど、人を利用しようとしか見てない人に「友達になろう」って、言われて、「はい。お友達になろう」なんて言うわけない。

「本人の意思を尊重してくれ。第一、お前は王都に早く戻るべきだ。兄上に知れたら、それこそ出歩けなくなるぞ?」
「父上は当分、動けないんじゃないかな?」
「兄上に何かあったのか?」

 エルファーレン王太子が少しだけ目を細めて、イクシオンを見ているようで私の方へ目線がくる。
うーん。やっぱりこの王子の目線がねっとりしてて嫌いかも?

「父上は『神子召喚』の占いをしていたんですけど、前に私がすり替えた偽物の占い用紙で術を発動させたようで……また占いをするというので、本物の占いの用紙とすり替えたんです。そしたら『神子』は既に召喚された後で、どの国が召喚したのか不明なんです。唯一の手掛かりになる『聖鳥』も姿を消しているんですよ。今、それで城は大騒ぎです」

 こいつのせいかーッ!?
ちょっと王太子じゃなかったら、この王太子の頭を引っ叩きたい!!
絶対、友達になれない~ッ!!

「なんでそんな事をしたんだ! 占いや召喚は国の重要儀式の一つだろう!?」
「そうだぞ! 国王にバレたら、お前でもなにを言われるか分かったもんじゃないんだぞ!」

 イクシオンとガリュウさんが同時に王太子に怒ると、王太子は少し子供の悪戯っ子のような顔で舌を出す。

「私だって、たまにはヤンチャしたくなるんですよ? しかも、見も知らぬ『神子』を自分の妻に迎え入れろなんて、父上も母上も勝手だと思うでしょう?」
「それは……勝手だとは思うが、していい事と悪い事の区別はお前ならつくはずだろう?」
「どの国が召喚に成功するか分からない、しかも御伽噺おとぎばなしの様な『神子』なんて、得体のしれない者を妻にする気は無いんです」

 得体のしれない怪しげな人間で悪かったですよーっだ!
 確かに親に結婚相手を決められるのは嫌かもしれないけど、それで私がこの世界に飛ばされて迷惑のとばっちりを食らったんじゃたまったものではない。
まぁ、おかげでイクシオンに会えたり、お屋敷の人達には会えたけど……
 でも、勝手が過ぎると思う!

「私はイクシオン叔父上が王にならないと信じていますが、万が一がある。元々ヴインダム国はイクシオン叔父上が正当な王族で、私達親子はただの簒奪さんだつ者です。ですが、私なりに国民を導いていこうと思っています。父上が変な事を画策しなくても、私は王になる。その為の地盤は自分の手で固めていくつもりです。それには、イクシオン叔父上がここ数年で、大きく動きを見せすぎた……私の事を思うなら、彼女を、リトを私に差し出してください。彼女の発想に、物怖じしない態度は、私にとって必要なんです」

 エルファーレン王太子が真剣な目でイクシオンの目を見ながら言い、最後に私を見てきて、私はビブロースさんの後ろからズイッと前に出る。

「人を自分の利益の為に協力しろだなんて、頭を下げられてもごめんです! 第一、差し出せって何? 傲慢ごうまんにも程がある! この間も言ったけどね、私は誰の下にもつく気はないの! お帰りはあちら! サッサとお家に帰って怒られて、反省してきなさい!」

 カチンときて、思わずワッと口からポンポン出てしまったけど、流石に王太子にこの口の利き方は不味かったかな? 周りが私を見る目が驚いた様な顔をしていて、ちょっと反応に困る。
でも、我慢が出来なかったのだから、仕方がない。
 イクシオンがククッと笑うと、ガリュウさん達も「流石だな」と笑う。
えーっ? ここ笑うところだっただろうか?

「エルファーレン、他人の力で地盤を固めようとする考えが既に駄目だ。もう少し学びなさい」
「そうだぞ。王になりたいなら、強引で傲慢な態度じゃ、今の国王と変わらない。お前は父親よりいい王になりたいなら、決められた奴以外にも付き合いを広めて、人が何を思い何を考え生きているかを学ぶべきだな」

 イクシオンとガリュウさんに言われて、エルファーレン王太子は肩を下げる。
前に出た私に近付いてきて、ひざまづいて手を差し伸べてくる。

「なら、リト。私はエルファーレン・ペトロスカ・ナイル・ヴインダム。貴女の名前を知りたい」

 確かこれって、婚約とか正式な場でしか本名は明かしちゃいけないんだよね?
首を傾げると、手を取られそうになって手を引っ込める。

「悪いけど、私にはモフモフでサラサラの毛並みの綺麗な旦那様がいるの! あなたみたいな毛も生えそろってない様な人はお断り!」

 キッパリと振っておかないと面倒くさそうだから、サクッとお断りだ。

「……リト、その断り方は、流石に可哀想なんだが……」
「そう? でも、ライオンって若い時は たてがみが生えそろって無くて、モフモフ感足りないし、尻尾の先もまだ黒にシマシマで毛が少ない。せめて、ガリュウさんくらいの尻尾のボリュームが無いと」

 イクシオンの尻尾をにぎにぎと握りながら、私がモフモフ感について話すと、エルファーレン王太子を支える様に、護衛の騎士がエルファーレン王太子に肩を貸して立たせていた。

「貴様ッ! 本当に田舎の者は!」
「失礼なのはお前達だ。人の領地を田舎呼ばわりとは……そして、国の為にこれから長期遠征にいく我々を労うでもない。エルファーレン、毛並みについてはリトは口うるさいからな。それだけは気の毒に思うが、兄上からの束縛が緩んでいるからといって、自分まで緩んでしまっては、今までお前が築き上げてきた物を無駄にするぞ」

 周りの軍部の人達もうんうんと頷いて、エルファーレン王太子が「少し、頭を冷やしてきます」としょんぼりした尻尾を揺らして、馬車に乗って帰って行った。

 何しに来たんだあの王太子?

「リト……獣人に毛並みの生え揃いを言うのは……少し可哀想というものだぞ?」
「そうなの?」
「ああ、男性器が小さいと扱き下ろしている様なものだからな?」
「へっ! だ、んっ、ええぇぇ~っ!!」

 私、思いっきり生えそろってないって、コケにしたんだけど……?
ついでにイクシオンとガリュウさんの毛並み褒めたんだけど……?

「あの、毛並みのサラサラ感とかは……?」
「それは普通に賛美されている言葉だから、安心しておきなさい」

 良かった。前も毛並みを褒めるのは「好き」って言ってる様なものだって言ってたからセーフみたい。
こっちも男性器を褒めるような物だったら、私は貝になりたいところだったよ。
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