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2章

お母さんと王都

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 本日のお昼にあった王子様来訪事件で一番騒いでいたのは、誰あろうお母さんである。

「李都、お母さんをなんで呼ばないの!」
「お母さんはその時、刺繍に集中してたでしょ? お母さん、何かに集中してる時に声掛けると、文句言うじゃない?」
「それはそれ。これはこれよ。お母さん、王子様見て見たかった―」

 やっぱり、それか……でもね、王子様なんかより、ここに目の前に、本来なら国王様の人が居るんですよー?
イクシオンは、王子が帰った後、直ぐにビブロースさんが軍部に行って知らせて、慌てて屋敷に戻ってきた。
お仕事を中断させて申し訳なかったなー……と、思うんだけど、報告しなかったら、ビブロースさんが怒られていただろうから、これは仕方がない。

「リト、君が心配だ……」
「もう、それ何回目なの? 大丈夫だよ。王様程酷い評価じゃない王子ないんでしょう? 国民の支持率をあげたい人が、人妻を攫ったりして評価を下げる様な真似はしないよ」

 私の手を両手で握って、凄く不安そうな顔をするイクシオンに、「大丈夫」と言って聞かせているんだけど、どうも不安ばかりが先行してしまっているようだ。

 ソファの上で手を握り合って、ずっとこのやり取りを繰り返している。
傍から見たら、かなりの心配性な夫に見えそう……
ワシワシとイクシオンの頭を片手で撫でて、三角耳の後ろをコリコリと指で触り、段々とうっとりし始めたイクシオンに、「大丈夫だよ。心配要らないよ」と笑顔で囁く。
このモフモフな動物達を天国に導くゴッドハンドにかかれば、獣人のイクシオンもイチコロ……かな?

「もう直ぐ長期遠征だというのに……ハァ、エルファーレンは何を考えているのか……」
「流石に、王子様がそう簡単に、何回もこんな場所に来たりはしないでしょ?」
「そうかもしれないが、あの子は自分の利益になりそうな人材を集めて、自分が王になった時に少しでも国民に反発されないように、色々と準備をしている様だからな」

 私はそんなに派手に動いたつもりはー……うーん、無いとは、言えないか。
やはり、『リトブランド』という自分の名前を使ったのは不味かったかも……

「はい! お母さんは李都の代わりに、王都に行ってみたい!」
「……お母さん、お父さんに怒られるよ?」
「義母上、王都観光でしたら普通に手配しますから、わざわざ甥の誘いで行くことは止めてください」

 お母さんが「まぁ! 出来たお婿さん!」と嬉しそうに言っていて、これは確実に王都に行く気だ。
イクシオンがアーデルカさんに早速、旅行の手配をお願いしていたけど、本当に申し訳ありませんッ!!

 害のないお母さんだけど、こうした世界を映画の中の様に楽しむ気満々で……それはそれで、楽しいだろうけど、よくそういう所にズンズン行けるなぁと思う。
 お母さんは、お父さんに出会う前はバイトしては、映画で見た場所や気になった所に積極的に行く人で……お父さんとの出会いも、世界的発見の文献が海外で発見されたと聞いて、文献のレリーフが綺麗で目の前で見たい! と、海外に行って、そこでお父さんに会ったぐらいだからね。

「イクス、お母さんがごめんね……」
「いや、秋のうちに観光はしておいた方がいいだろう。冬は雪に閉ざされて、楽しみも無いだろうからね」
「うふふ。日都留さんが居ない間に、羽を伸ばすのよ~」
「お母さん、後でお父さんに怒られても知らないからね?」
「大丈夫。お母さん、お土産いっぱい買ってくるから、李都も楽しみにしててね」
「もう、お母さんのお小遣いは一日一万トルコまで! 無駄遣い禁止だからね!」
「李都のケチッ」

 一日一万円も使えるのに、ケチッて……まったく、お金の感覚がマヒして無いと良いんだけど?
今のところ、お金は私が稼いだものから、お祖父ちゃんお父さんの旅行費に持たせたりしているだけで、あまり使って無いから、そこそこ残っているけど、工場を建てたり、工場で働いてくれる人のお給料も全額私が支払うので、無駄なお金は無い。
お母さんそこら辺を少し理解してほしい。

「観光案内にアーデルカを連れて行ってください。アーデルカは元々、王都に住んでいましたから、詳しいですよ」
「お任せください、エリカ様。観光中の住まいもわたくしの屋敷がございますので、そこを使って下さいませ」
「まぁ、宿代が浮くのはラッキーよね。アーデルカさんお願いしますね」
「すみません、アーデルカさん。お忙しいのに、お母さんに付き合わせてしまって……」

 アーデルカさんを思いっきり巻き込んでしまったようで申し訳ない……お母さんは、お父さんが居ないとフラッと思い付くままに何処かに行くから、ちょっと大変なんだよね。
 私が十三歳の時に居なくなってからは、それは収まっていたし、戻ってからも心配して何処にでもついて来てたから、お母さんの自由を奪ってないかな? と、少し思っていて……まぁ、でも、こういうのは少し止めて欲しいけど。

 お母さんはアーデルカさんに王都はどんな所かを聞いて、話に花を咲かせていて、明日にでも飛んでいきそうな勢いを見せていた。
まぁ、イクシオンの心配そうな顔が少しだけ緩んだから、良しとしておこう。
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