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2章
リトと青年
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王様から派遣された使者が来てから、あれから一週間後。
秋に足を踏み入れる手前で、冬支度をする為にそれぞれが動き出していた。
お祖父ちゃんとお父さんは魔法契約をする為に魔法の動物を探しに旅に出て不在。
ちなみにゲッちゃんはお祖父ちゃんの道案内で連れて行かれてしまった。
お母さんは、このお屋敷で貴族生活をしていて……刺繍をしてはお菓子と紅茶を楽しむ毎日で、サロン室で優雅なお貴族様状態。姫ちゃんとボン助もお母さんと一緒にいる感じである。
特になにか我が儘をしたり、メイドさんに偉そうにする人では無いから無害なんだけど、私より公爵夫人生活って、感じなのはどうなんだろうね?
まぁ、私はそういう生活だけだと、体が鈍るからジッとしていられないんだけどね。
イクシオンは長期遠征の準備で軍部に行っていて、屋敷に帰って来るのは最近は夜遅い。
本格的な秋になる前に、お屋敷のメイドさん達は、私が作ったリップクリームとハンドクリームの追加注文が殺到した為に忙しい。
冬用の赤ちゃん服なんかは、もう工場を確保してしまった!
『リトブランド』という……私の名前そのままの名前で売り出し始めたよ……「イクスの名前で良いじゃない?」と、言ったんだけど、却下されて仕方なくね。
他にも、私が手掛けたファスナー付き革財布やカバンの工場も建設途中で、アンゾロさんはその工場に今日は進行状況をみる為に出掛けていていなかった。
アーデルカさんは、お母さん専属のメイドの様な感じにされていたので、私の近くには居なかった。
私は、イクシオンのお土産の燻製機でスモークソーセージやベーコンにチーズに卵を作ろうと思っていて、服を汚さないように、メイド服姿で庭に居た。
白塗りの見るからにお貴族様な馬車が公爵邸前に停まって、嫌味なくらい金色の部分は金ですよ! と、言わんばかりの細工がされたゴテゴテした物でね……少し悪趣味かな?
御者の人は服装が騎士っぽい感じで、二人乗っている。
一人が降りて、馬車のドアを開けて、馬車の外にタラップを用意して、中から出てくる人に手を差し伸べると、「降りれますから」と若い声がする。
馬車を降りたのは、私と大差なさそうな若い青年で、小麦色の髪に丸い耳、こげ茶色の目、尻尾の先は少し黒い……なんの獣人かイマイチ解らない。
尻尾の先が黒い動物ってなんだろう?
青年は穏やかそうな笑顔をしていて、白い軍部に似た詰襟に、金を使った装飾やボタンが多いから、そこそこのお金持ちかもしれない。
これで金髪で碧眼なら王子様っぽく見えなくもない。
まぁ、顔が趣味じゃないけど……やはり、イクシオンみたいな大人の魅力のある人が良い。
私と目が合うと、ニコッと笑顔を向けてきて私はとりあえず、軽く会釈を返した。
少し彼は驚いた顔をして、御者の男性も眉間にしわを寄せる。
うーん、身分が高い貴族なのかも? でも、私はペコペコしすぎるから、アンゾロさんにマナーとして、過剰な挨拶はしないように言われているんだよね。
「この公爵邸のメイドなのですか?」
「えーと、一応……?」
正確には公爵夫人だけど、まぁ夫人がメイド服着て、両手に食材山盛りにして歩いているとは誰も思うまい。
彼は、私を首を傾げながら見て、また笑顔を向ける。
「良かったら、私に手伝わせていただけませんか?」
なにを? と首を傾げると、私の持っていた食材山盛りの籠に手を伸ばして、御者二人が慌てた様な顔で手を出そうとしたのを、「私がやりたいから」と二人を笑顔で制していた。
「これを何処に運ぶの? 屋敷の中?」
「いいえ、屋敷の裏にある燻製機の場所ですよ。持ってくれて、ありがとうございます」
「へぇ……燻製機……」
「この間、お仕事で王都に行って、お土産に買ってきてくれたんですよ」
私の欲しいお土産をバッチリわかってくれるイクシオンは、最高の旦那様と言わざるを得ない。
青年と御者一人を連れて裏庭に回ると、我が屋敷ご自慢の燻製機の登場である。
レンガで固めて貰ったから、雪が降っても雪の重みで潰れることは無いから、冬場も安心安全の燻製機。
「随分、立派ですね」
「はいっ! 美味しい物がこれで一杯作れるんですよ。あっ、食材を持ってくれてありがとうございます」
食材を持って燻製機の中に入ると、外から青年が物珍しそうに私が作業しているのを見る。
まぁ、貴族のお坊ちゃんには燻製を作る所は珍しいだろうね。
私は燻製する食材をフックに引っ掛けていき、外に出ると燻製機の横に作ってもらったチップ倉庫から、香りの良いリンゴの木のチップを燻製機にセットして火を点ける。
「はい。これで完了です!」
「凄いですね。初めて見ました」
「ふふふっ。秋は色々美味しい物も増えるから、燻製機の出番はこれからが本番なんですよ?」
「へぇー……、いつも貴女が作っているんですか?」
「私が大半ですけど、料理長のウィリアムさんも作りに来ますよ。あと最近はお祖父ちゃんが、川で釣った魚を燻製に来たりしますね」
ただ、魚の燻製を食べると、ししゃもとか、懐かしい魚の燻製が欲しくなったりするんだよね。
あとサーモンの燻製がとても恋しい。サーモンの時期はまだ少し先なので、サーモンを楽しみにしているところ。
「あっ、私に付き合わせちゃいましたけど、お屋敷の人に御用ですよね? ただ、今は公爵家は責任者が不在の形なのですけど……お茶でも飲んで待っていただいても、夜遅くなりますよ?」
「そうなのですか……では、私に少し、食材を運んだお礼に付き合っていただけませんか?」
「エルファーレン様!」
御者の男性が少しキツめに言うと、エルファーレンと呼ばれた青年は「少しぐらい、いいでしょう?」と、肩をすくめてみせた。
秋に足を踏み入れる手前で、冬支度をする為にそれぞれが動き出していた。
お祖父ちゃんとお父さんは魔法契約をする為に魔法の動物を探しに旅に出て不在。
ちなみにゲッちゃんはお祖父ちゃんの道案内で連れて行かれてしまった。
お母さんは、このお屋敷で貴族生活をしていて……刺繍をしてはお菓子と紅茶を楽しむ毎日で、サロン室で優雅なお貴族様状態。姫ちゃんとボン助もお母さんと一緒にいる感じである。
特になにか我が儘をしたり、メイドさんに偉そうにする人では無いから無害なんだけど、私より公爵夫人生活って、感じなのはどうなんだろうね?
まぁ、私はそういう生活だけだと、体が鈍るからジッとしていられないんだけどね。
イクシオンは長期遠征の準備で軍部に行っていて、屋敷に帰って来るのは最近は夜遅い。
本格的な秋になる前に、お屋敷のメイドさん達は、私が作ったリップクリームとハンドクリームの追加注文が殺到した為に忙しい。
冬用の赤ちゃん服なんかは、もう工場を確保してしまった!
『リトブランド』という……私の名前そのままの名前で売り出し始めたよ……「イクスの名前で良いじゃない?」と、言ったんだけど、却下されて仕方なくね。
他にも、私が手掛けたファスナー付き革財布やカバンの工場も建設途中で、アンゾロさんはその工場に今日は進行状況をみる為に出掛けていていなかった。
アーデルカさんは、お母さん専属のメイドの様な感じにされていたので、私の近くには居なかった。
私は、イクシオンのお土産の燻製機でスモークソーセージやベーコンにチーズに卵を作ろうと思っていて、服を汚さないように、メイド服姿で庭に居た。
白塗りの見るからにお貴族様な馬車が公爵邸前に停まって、嫌味なくらい金色の部分は金ですよ! と、言わんばかりの細工がされたゴテゴテした物でね……少し悪趣味かな?
御者の人は服装が騎士っぽい感じで、二人乗っている。
一人が降りて、馬車のドアを開けて、馬車の外にタラップを用意して、中から出てくる人に手を差し伸べると、「降りれますから」と若い声がする。
馬車を降りたのは、私と大差なさそうな若い青年で、小麦色の髪に丸い耳、こげ茶色の目、尻尾の先は少し黒い……なんの獣人かイマイチ解らない。
尻尾の先が黒い動物ってなんだろう?
青年は穏やかそうな笑顔をしていて、白い軍部に似た詰襟に、金を使った装飾やボタンが多いから、そこそこのお金持ちかもしれない。
これで金髪で碧眼なら王子様っぽく見えなくもない。
まぁ、顔が趣味じゃないけど……やはり、イクシオンみたいな大人の魅力のある人が良い。
私と目が合うと、ニコッと笑顔を向けてきて私はとりあえず、軽く会釈を返した。
少し彼は驚いた顔をして、御者の男性も眉間にしわを寄せる。
うーん、身分が高い貴族なのかも? でも、私はペコペコしすぎるから、アンゾロさんにマナーとして、過剰な挨拶はしないように言われているんだよね。
「この公爵邸のメイドなのですか?」
「えーと、一応……?」
正確には公爵夫人だけど、まぁ夫人がメイド服着て、両手に食材山盛りにして歩いているとは誰も思うまい。
彼は、私を首を傾げながら見て、また笑顔を向ける。
「良かったら、私に手伝わせていただけませんか?」
なにを? と首を傾げると、私の持っていた食材山盛りの籠に手を伸ばして、御者二人が慌てた様な顔で手を出そうとしたのを、「私がやりたいから」と二人を笑顔で制していた。
「これを何処に運ぶの? 屋敷の中?」
「いいえ、屋敷の裏にある燻製機の場所ですよ。持ってくれて、ありがとうございます」
「へぇ……燻製機……」
「この間、お仕事で王都に行って、お土産に買ってきてくれたんですよ」
私の欲しいお土産をバッチリわかってくれるイクシオンは、最高の旦那様と言わざるを得ない。
青年と御者一人を連れて裏庭に回ると、我が屋敷ご自慢の燻製機の登場である。
レンガで固めて貰ったから、雪が降っても雪の重みで潰れることは無いから、冬場も安心安全の燻製機。
「随分、立派ですね」
「はいっ! 美味しい物がこれで一杯作れるんですよ。あっ、食材を持ってくれてありがとうございます」
食材を持って燻製機の中に入ると、外から青年が物珍しそうに私が作業しているのを見る。
まぁ、貴族のお坊ちゃんには燻製を作る所は珍しいだろうね。
私は燻製する食材をフックに引っ掛けていき、外に出ると燻製機の横に作ってもらったチップ倉庫から、香りの良いリンゴの木のチップを燻製機にセットして火を点ける。
「はい。これで完了です!」
「凄いですね。初めて見ました」
「ふふふっ。秋は色々美味しい物も増えるから、燻製機の出番はこれからが本番なんですよ?」
「へぇー……、いつも貴女が作っているんですか?」
「私が大半ですけど、料理長のウィリアムさんも作りに来ますよ。あと最近はお祖父ちゃんが、川で釣った魚を燻製に来たりしますね」
ただ、魚の燻製を食べると、ししゃもとか、懐かしい魚の燻製が欲しくなったりするんだよね。
あとサーモンの燻製がとても恋しい。サーモンの時期はまだ少し先なので、サーモンを楽しみにしているところ。
「あっ、私に付き合わせちゃいましたけど、お屋敷の人に御用ですよね? ただ、今は公爵家は責任者が不在の形なのですけど……お茶でも飲んで待っていただいても、夜遅くなりますよ?」
「そうなのですか……では、私に少し、食材を運んだお礼に付き合っていただけませんか?」
「エルファーレン様!」
御者の男性が少しキツめに言うと、エルファーレンと呼ばれた青年は「少しぐらい、いいでしょう?」と、肩をすくめてみせた。
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