やさぐれモードの私はもふもふ旦那様を溺愛中

ろいず

文字の大きさ
上 下
127 / 167
2章

君に焦がれて

しおりを挟む
 イクシオンにどんな歌なのかを聞かれて、記憶の中にある『君に焦がれて』を口ずさむ。
お祖父ちゃんがお祖母ちゃんとよく歌っていて、お祖母ちゃんが亡くなった後は、お祖父ちゃんは口ずさむことはあまりなくなったけど、結構甘々なラブソングだ。

「~君を想えば、例え遠く離れていても、なにも辛くは無い~君の髪に、君の瞳に、君の唇に、恋をしている僕の気持ちが君へと届くように~ って、感じの歌でね」

『ん? おっ、賢者召喚か? おいおい、指くらいしか入りゃせんぞ?』

 聞きなれた声が近くからして、手に持っていた白い紙から節くれだった指がニョコニョコ動いている。

「なんだコレは……?」
「えーと、多分、お祖父ちゃん……?」
『おっ、李都か? 祖父ちゃんだぞ! 元気にしとったか?』

 ひええぇぇ~白い紙から指が出た状態でのシュールな状態での会話である。
イクシオンも少し引いている……わかる、私も身内じゃなきゃ一歩引き下がりたい!

「お祖父ちゃん、『君に焦がれて』を歌ったんだけど……賢者召喚って、歌なの?」
『あー、そういえば書き換えとったな……』
「お祖父ちゃん……何してるのー……」
『それより、召喚陣が小さいぞ?』
「だったら、直ぐに大きい物を書き直ししよう。リト、少しお爺様と会話を繋げていてくれ」

 イクシオンが食堂室のテーブルクロスの上に、ゲッちゃんの食べ残した木の実で召喚陣を人一人分の輪の大きさで描いていく。
結構細かい召喚陣なのに、よく紙を見ずに描けるものだよねぇ……凄い。

『今の男の声は?』
「あっ、お父さん。今の人が私の旦那様のイクスだよ」
『……そうか』

 あー、お父さんがピリピリしている感じがするのは気のせいかな? 気のせいじゃなさそうだなー……
イクシオンを見れば、少し耳をこちらに向けてピクピク動かしている。

「お父さん、お母さんは元気?」
『ああ。元気にしている』
『日都留、いい加減にワシに代わらんか!』
『父さんは黙っててください』
「まぁまぁ、二人共、喧嘩しないでよー……って、いうか、賢者召喚しちゃっていいの? 少し口ずさんでいただけなんだけど?」

 なんだか召喚する流れになりかけているけど、大丈夫なんだろうか?

『絵李果とも話し合ったんだが、そちらの世界へ引っ越そうかと思っている』
「え? えええぇぇ!? なに言ってるのー!?」
『うちは親戚は居ないし、家族は李都とお祖父ちゃんだけだろう? 家族は一緒の方が良いだろう?』
「でも、便利な世界じゃないんだよ?」
『そんな物は何とでもなる』
「うーん、でも家とかどうするの?」
『それに関しては、我々が居なくなったら、お祖父ちゃんの知り合いが処分してくれる』
「えっと、じゃあ、荷物とか色々準備して……こっちも召喚陣をもう少し大きく描いてもらうから」
『なら、三十分後に』

 イクシオンを見上げれば、頷いて新しいテーブルクロスを用意させて、ビブロースさんにペンキを持って来させている。
私は腕時計をセットして、召喚陣が描き上がるのを待っていた。
しかし、三十分後とは言ったけど、あっちとこっちでは時間の誤差がある事を話していなかった。
大丈夫だろうか?

「リト、描き上がった。どうする?」
「五分前だけど、時間の誤差があるかもしれないから、呼び出してみるね」

 再び、『君に焦がれて』を口ずさんで歌うと、新しく描いた召喚陣から、本棚がヌッと出てくる。
これはなんだー!? というか、お父さんに作った本棚……? 
まさか……本を持ってくる気なのー!?
 ズシンッと本棚が現れて、慌ててビブロースさんとイクシオンが脇に避けると、次々にポイポイとトランクや家具が召喚陣から出てくる。

「ちょっとー! お父さん達なにこれ!?」
『生活必需品だ』
「本棚の本は生活必需品じゃないよねー!?」
『生活必需品だ』

 ……駄目だ。お父さんの中で本は生活必需品のカテゴリーから動かない。
公爵家の食堂室が、我が家の家具に侵食されている気がするのは私だけだろうか?
少し額を手で覆っていると、「李都~」と、お祖父ちゃんが元気に手を振って出てきた。
その後で、お父さんとお母さんが抱き合いながら出てきた。
 感動の再会と行きたいけど……この荷物をどうすれば良いのか……?

「李都~、お母さん来ちゃった~」
「お母さん、いらっしゃい……かな?」

 いつも通りのお母さんで、別れた時とそんなに変わってない。むしろ、お母さんの腕に抱かれているモフモフの茶色い毛玉ちゃんが、私はすごーく気になる。

「お母さん、その子なに? 犬飼ったの!?」
「そうなのー。李都が居なくなって、ボン助も居なくなったしで、日都留さんが拾ってきたの。名前は姫ちゃんよ」
「ふわぁ~、可愛いッ! 女の子? 姫ちゃん、お姉ちゃんだよー」
「キュウン」

 うぐっ! なにこの可愛い子!!
まだ子犬みたいで可愛いミックス犬!!
あのお父さんが犬を拾ってくるなんて、でも、こんなに可愛かったら仕方がない。うん、拾っちゃうよね。

「李都、誰が、お前の旦那なんだ?」
「あ、お父さん、お母さん、お祖父ちゃん、紹介するね。この人が私の旦那様のイクスだよー」

 私がイクシオンに抱きついて紹介すると、イクシオンが拳を左胸の上に当てて、綺麗にお辞儀をする。

「リトの夫、イクシオン・エディクス・セラ・ヴインダムです。お見知りおきを」

 そしてイケメンの微笑みである。ぐはっ、イクシオンやっぱり格好いい!!

「まぁ~、イケメンだわぁ。日都留さん、外国俳優みたいよー」
「鴨根日都留、李都の父親だ。こちらは妻の絵李果」
「ヒヅル様とエリカ様ですね。ようこそ、我が公爵家へ」
「ワシは『賢者』の鴨根栄三えいぞうだ。見知りおくといい」
「お祖父ちゃん、なんか偉そうだよ。ふふっ」

 お祖父ちゃんが片眉を上げて笑ってみせて、お茶目なところは変わらない。
お父さんは相変わらず無表情に近いけど、お母さんもちょっとお化粧濃い気がするけど、変わり無さそう。
イクシオンを見上げれば、私の視線に気付いて微笑み返してくれる。
でも、いきなりこんなに家族総出で押しかけて大丈夫だったんだろうか?
しおりを挟む
感想 99

あなたにおすすめの小説

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

【完結】あわよくば好きになって欲しい(短編集)

野村にれ
恋愛
番(つがい)の物語。 ※短編集となります。時代背景や国が違うこともあります。 ※定期的に番(つがい)の話を書きたくなるのですが、 どうしても溺愛ハッピーエンドにはならないことが多いです。

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

処理中です...