上 下
122 / 167
2章

ゴシップ記事とリト

しおりを挟む
 鬼の形相__と、言うのが表現するとしたら、目の前のアーデルカさんとアンゾロさんの顔がそうなのかもしれない。
 私は庭で公爵夫人らしからぬ、焚火をしてビルズ芋を焼いていたわけで……もくもく上がる煙に驚いたのだろう。
見付からない様に裏庭でビブロースさんと一緒に枯葉を集めていたのだけど、バレてしまったらしい。

「リト様……」
「はいッ!」

 ビシッと垂直に体を強張らせ、怒られる体制を取ったけど、アーデルカさんに手渡されたのは新聞だった。
おや? どうやら芋は新聞紙に包んでお食べなさい。という、親切だった。
なんだ、良かったーと、ホッとして胸を撫でおろして、新聞を貰い頭を下げておく。

「他の者から何を言われても、お気になさらないで下さい」
「はい……? よく分からないけど、ありがとうございます?」
「……我々は情報を確認してまいりますから、どうか出ていかれる事の無い様にお願いいたします」
「はぁーい」

 二人は少しだけ眉を下げてから、きびすを返してお屋敷の中へと戻ってしまう。
うーん。周りの領民に『あそこの奥さん、庭で芋焼いてるぜ。公爵家は実は極貧生活なのか?』とか噂をされていないかを調べるってことかな?
流石に、森でこれをやった方が良かったかな……でも、そろそろイクシオンが帰って来るから待って居たいからお屋敷に居たいんだよね。だから、忠告しなくても、私はここに居るつもりである。

「お芋焼けたかなー?」

 枝で中に放り込んだビルズ芋をプスプス刺して、食べごろの突き刺し具合にニマ~ッと笑って、貰った新聞紙にビルズ芋を包んで、お芋の皮をぺりぺりと剥がし、あーんっと一口齧りつく。
ジャガイモに似た食感とサツマイモの様な甘さ。
ここにバターを載せたら……甘じょっぱさの奇跡の味が出来上がるのでは!?
ホクホクで熱々のうちにバターを載ってけてしまいたいっ!!

 もぐもぐと少し食べつつ、厨房へ向かっているとメイドさん達の近付く足音に、ヤバいッ!食べ歩きはお行儀が悪いって怒られるっ!! 飲み込め! 飲み込んで証拠隠滅するのよ! 私頑張れ!!

「んぐっ!! ウッ……うぐぐっ!!」

 急いで食べたせいで、熱いわ喉に詰まるわで、手で口を押えながら涙目でダッシュして、メイドさん達の前を爆走する公爵夫人……我ながら無いわーって思う。
お芋を咥えて歩くのと、ダッシュで駆けていくの、どっちがマシなのか……?

「プハーッ、死ぬかと思った……」

 水を飲んで、ホッと一息ついてから、厨房からバターの入った茶色の壺から小皿にバターを取り分けて、再び裏庭へ。
実は、まだお芋は焼いているのよ。ふっふっふっ。

「あ、火が消えちゃいそう……新聞、火種にしちゃえ」

 私が新聞紙を燃やしていると、ビブロースさんがやってきて追加の枯葉を掛けてくれた。
ビブロースさんと一緒に芋をおやつに、食べていると……何かの業者さんが来て、ビブロースさんが私を手招きした。

「イクシオン殿下が、燻製機を送ってきた。何処に置きますか?」
「えーっ! 本当!? わぁ、嬉しいっ!! どこが良いかな? んーっ、煙が出るならやっぱり、裏庭かな?」

 業者さんに運んでもらった燻製機は私が丸ごと入るぐらいの大きさで、銅製の物を周りにレンガを固めて頑丈に作ってくれるらしく、お芋焼きの場所は邪魔になるので、芋を回収して水をバサーッと焚火にかけると煙がボフンッとあがり、咳き込みながら退散した。

「大丈夫ですか? リト様」
「ケフッ、煙たいねー、ケホッ」
「顔に すすがついてます」

 ビブロースさんがズボンのポケットからハンカチを出して、私の顔を拭いてくれてくれて……ビブロースさんはお兄さんっぽい世話焼きだなって、思ったら、ビブロースさんって妹さんが四人もいるという。
ちなみに、お兄さんも三人居るのだとか……後妻さんとかでもなく、正真正銘お母さんが一人で八人産んだというのだから、ビックリだよね。

「リト様……イクシオン殿下が、戻られたそうです」

 おずおずとメイドさんがそう言って、いつもの元気の良いメイドさん達にしては耳がぺしゃっとしていて、もしかしてイクシオンに何かあったんだろうか?
胸がドクンと嫌な予感で騒がしくなって、足元から血が下がってしまった感覚だった。

「っ、リト様! お顔が真っ青です!」
「大丈夫ですか!?」
「だい、じょーぶ……です」

 小さくカタカタと歯がなって、涙がぽろぽろ溢れだすと、メイドさん達に連れられて部屋の方へ戻された。

「イクスを、出迎えに、行かなきゃ……」
「駄目ですッ! 少しお休みください」
「大丈夫、だよ……ぐすっ」
「お可哀想に……ッ」

 メイドさんにギュッと抱かれて、イクシオンは……どんな状態なのか、悪い予感だけが頭をぐるぐると過っていく。
心臓がキューッと、痛くなって目の前が真っ暗になると、私は意識が遠のいていった。
メイドさん達の悲鳴のような声が凄く遠くで聞こえた気がした。
しおりを挟む
感想 99

あなたにおすすめの小説

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

獣人公爵のエスコート

ざっく
恋愛
デビューの日、城に着いたが、会場に入れてもらえず、別室に通されたフィディア。エスコート役が来ると言うが、心当たりがない。 将軍閣下は、番を見つけて興奮していた。すぐに他の男からの視線が無い場所へ、移動してもらうべく、副官に命令した。 軽いすれ違いです。 書籍化していただくことになりました!それに伴い、11月10日に削除いたします。

召喚されたのに、スルーされた私

ブラックベリィ
恋愛
6人の皇子様の花嫁候補として、召喚されたようなんですけど………。 地味で影が薄い私はスルーされてしまいました。 ちなみに、召喚されたのは3人。 2人は美少女な女子高生。1人は、はい、地味な私です。 ちなみに、2人は1つ上で、私はこの春に女子高生になる予定………。 春休みは、残念異世界への入り口でした。

私の番はこの世界で醜いと言われる人だった

えみ
恋愛
学生時代には多少恋愛経験を積んできたけど、社会人になってから仕事一筋でアラサーになっても恋人が出来なかった私は、恋人を作ろうと婚活パーティに行こうとしたところで交通事故にあって死んでしまった。 生まれ変わった世界では、私は人間だったけど、獣人や人間が共存している世界。 戦争などが無く、平和な世の中なため、獣人も人化した時にはマッチョはあまり美しく思われないという美的感覚に、マッチョ好きの私は馴染めないのでやはり恋人はなかなかできない。 獣人には番だとかそういうものがあるみたいだけど、人間の私にはそういう感覚があまりよく分からないので、「この世界でも普通に仕事一筋で生きていこう。また死にたくないし。」 とか思っていたら、さっそく死亡フラグが舞い込んできました。 しかも、死ぬか恋愛するかって、極端すぎるわ…! 結構あっさり終わらせる予定です。 初心者なので、文章がおかしいところがあるかもしれません…

関係を終わらせる勢いで留学して数年後、犬猿の仲の狼王子がおかしいことになっている

百門一新
恋愛
人族貴族の公爵令嬢であるシェスティと、獣人族であり六歳年上の第一王子カディオが、出会った時からずっと犬猿の仲なのは有名な話だった。賢い彼女はある日、それを終わらせるべく(全部捨てる勢いで)隣国へ保留学した。だが、それから数年、彼女のもとに「――カディオが、私を見ないと動機息切れが収まらないので来てくれ、というお願いはなんなの?」という変な手紙か実家から来て、帰国することに。そうしたら、彼の様子が変で……? ※さくっと読める短篇です、お楽しみいだたけましたら幸いです! ※他サイト様にも掲載

処理中です...