121 / 167
2章
リトへの土産 イクシオン視点
しおりを挟む
王都の城下町では、港の近くとあり外海からの品も届きやすく、田舎のヴァンハロー領では手に入らない様な物も多い。
レンガ造りの家や店が並ぶ城下町を、黒い丸い耳と長い黒い尻尾の十五歳になる黒髪の少女、エリナ嬢が案内してくれる。
エリナ嬢は庭師のビブロースの妹で、ミルネビアスの孫の一人だ。
ビブロースに似た少しつり上がった目をしていているが、性格は真逆の様で、少し寡黙なビブロースに比べるとリトの様な明るさがあり、リトと出逢った時もこの様によく喋ってくるくると表情を変えていたと思うが、今でもよく喋り、表情もくるくる変えるので、この時期の少女たち特有の物なのかもしれない。
「殿下、お相手の方は、お誕生日で何を贈られて喜ぶような方なんですか?」
「そうだな……ビブロースが研ぎ石を渡して喜ばれていたと聞いたが……」
「お兄様ったら! そんな物を渡したのですか!? 一度、お兄様には女性の何たるかを教育すべきかもしれません!」
「いや、屋敷の中で一番喜ばれたのはビブロースの贈り物で、今も大事に刃物を研ぐのに使っているようだ」
「殿下のお相手の方は……本当に十代の方なのですか?」
エリナ嬢がジト目で見上げてきて、苦笑いが漏れる。
オレの番のリトは少しばかり、生活面に重きを置く女性で、きっと今一番喜ばれる物はドレスや宝石では無いのだろう。
「こちらですわ。今、若い女性に人気の『コスメ』というお化粧品ですわ!」
「ああ、これはオレの妻が作っている物だ」
「え? そうなのですか!?」
ヘチマの化粧水がどうやら、王都でも人気が出たようだ。
貴族たちの噂や新しい物に直ぐ飛びつく事が、リトの商品の売り上げに貢献してくれているのだろう。
「では、無難にドレスや宝石でしょうか?」
「いや、そういった類は森で狩りをするのに、邪魔になると言われて断られたな」
「殿下……お相手の方は、本当に十代ですの!?」
「彼女は、無い物は自分で作るタイプだからな。食べ物も自力で狩りをして肉にするまでがセットだ」
目をパッチリと開き、エリナ嬢が令嬢らしからぬ口を大きく開けて、慌てて手を口に当てる。
ゴッホンと、咳ばらいをしてエリナ嬢は自身を立ち直す。
「……殿下、わたくし、その方に何を差し上げれば喜ぶか、分かった気がしますわ……」
「そうか? なにが良いと思う?」
「わたくし、良い肉屋の加工屋を知っていますわ。そこが宜しいかと思いますわ」
眉尻を下げて、腰に手を当てながらエリナ嬢は道案内を開始する。
ついて歩くと、ほんの少し前までのリトを思い出す。オレの前を意気揚々と歩き、たまに振り返っては笑顔を向けてきて、可愛くて仕方が無く、離れたくなくて彼女の腰に手を回しながらついて回った。
結婚してからは腰に手を回すと彼女を組み敷いてしまうばかりで、腰に手を回すと「ぴゃっ!」と声を出されて、逃げられるようになってしまったが……
「殿下? 着きましたわよ?」
「ああ、すまん。少し考え事をしていた」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だ」
エリナ嬢が連れて来てくれたところは大きな煙突のある精肉屋で、ガラスの窓の奥では巨大な肉の塊が焼けている様子が伺えた。
店内に入ると、スモークされた肉のいい香りがして、エリナ嬢が店の店主を呼び寄せる。
「こちらで一番おススメの物はなにかしら?」
「それでしたら、冬越え用に燻製された肉が、これからの時期はいいですかね? ご試食されますか?」
「殿下、試食ですって。どうです?」
「ああ、頂こうか」
店主に燻製された肉を出され、鼻に抜ける香りが芳醇な事に、素直に美味いと思った。
普段の燻製肉と何が違うのだろう? 首を傾げると、店主が「いい味でしょう! これはリンゴの木のチップを使って燻製を作っているんですよ」と、笑いながら自慢気に話した。
そして、リトへの土産はこれしかないと購入を決め、エリナ嬢には少し「あー、わたくしが予想していた物とは斜め上ですわね」と呆れた声を出したが、リトならば大喜びしてくれるだろう。
直ぐに屋敷の方へ手配してくれるように頼み、道案内のお礼にエリナ嬢を連れて人気のカフェに行って、今度リトに頼んで『コスメ』を贈ると約束をして別れた。
それから三日経ち、王都での仕事を全て終わらせて帰ることになり、部下達を引き連れて帰ることになった。
そろそろ、リトの元へ土産は届いているだろうか? それが気になり、少しワクワクとした気持ちで馬車に乗った時、ガリュウから新聞を馬車に放り込まれた。
「お前、少しは気を付けろよ」
「何がだ?」
「新聞、すっぱ抜かれてるぞ」
「まさか……ツ!?」
リトの事が新聞に載ったのかと記事に目を通すと、『王弟陛下のお相手は十代の令嬢!?』という見出しで、エリナ嬢とのカフェでの事が記事に書かれていて、髪を切った事にも憶測が飛び、すでに結婚もしているのでは? と、書かれていた。
「なんだこんな事か。くだらん」
「ただのゴシップ記事だが、リトの目に付けば、そんなに悠長な事を言ってられないぞ?」
「いや、理由を話せばわかってもらえる。屋敷の庭師の妹だからな」
「女心をもう少し分かった方がいいぞ?」
「リトに限って、それはないだろう」
ガリュウが小さく溜め息を吐いて、馬車から離れていき、出発したが……こんな記事でリトは怒る……だろうか?
誤解だと言えば、理解してくれるはず……
馬車を急がせて二日掛けて屋敷に戻ると、執事のアンゾロが据わった目をしてゴシップ記事を片手に待ち構えていた。
レンガ造りの家や店が並ぶ城下町を、黒い丸い耳と長い黒い尻尾の十五歳になる黒髪の少女、エリナ嬢が案内してくれる。
エリナ嬢は庭師のビブロースの妹で、ミルネビアスの孫の一人だ。
ビブロースに似た少しつり上がった目をしていているが、性格は真逆の様で、少し寡黙なビブロースに比べるとリトの様な明るさがあり、リトと出逢った時もこの様によく喋ってくるくると表情を変えていたと思うが、今でもよく喋り、表情もくるくる変えるので、この時期の少女たち特有の物なのかもしれない。
「殿下、お相手の方は、お誕生日で何を贈られて喜ぶような方なんですか?」
「そうだな……ビブロースが研ぎ石を渡して喜ばれていたと聞いたが……」
「お兄様ったら! そんな物を渡したのですか!? 一度、お兄様には女性の何たるかを教育すべきかもしれません!」
「いや、屋敷の中で一番喜ばれたのはビブロースの贈り物で、今も大事に刃物を研ぐのに使っているようだ」
「殿下のお相手の方は……本当に十代の方なのですか?」
エリナ嬢がジト目で見上げてきて、苦笑いが漏れる。
オレの番のリトは少しばかり、生活面に重きを置く女性で、きっと今一番喜ばれる物はドレスや宝石では無いのだろう。
「こちらですわ。今、若い女性に人気の『コスメ』というお化粧品ですわ!」
「ああ、これはオレの妻が作っている物だ」
「え? そうなのですか!?」
ヘチマの化粧水がどうやら、王都でも人気が出たようだ。
貴族たちの噂や新しい物に直ぐ飛びつく事が、リトの商品の売り上げに貢献してくれているのだろう。
「では、無難にドレスや宝石でしょうか?」
「いや、そういった類は森で狩りをするのに、邪魔になると言われて断られたな」
「殿下……お相手の方は、本当に十代ですの!?」
「彼女は、無い物は自分で作るタイプだからな。食べ物も自力で狩りをして肉にするまでがセットだ」
目をパッチリと開き、エリナ嬢が令嬢らしからぬ口を大きく開けて、慌てて手を口に当てる。
ゴッホンと、咳ばらいをしてエリナ嬢は自身を立ち直す。
「……殿下、わたくし、その方に何を差し上げれば喜ぶか、分かった気がしますわ……」
「そうか? なにが良いと思う?」
「わたくし、良い肉屋の加工屋を知っていますわ。そこが宜しいかと思いますわ」
眉尻を下げて、腰に手を当てながらエリナ嬢は道案内を開始する。
ついて歩くと、ほんの少し前までのリトを思い出す。オレの前を意気揚々と歩き、たまに振り返っては笑顔を向けてきて、可愛くて仕方が無く、離れたくなくて彼女の腰に手を回しながらついて回った。
結婚してからは腰に手を回すと彼女を組み敷いてしまうばかりで、腰に手を回すと「ぴゃっ!」と声を出されて、逃げられるようになってしまったが……
「殿下? 着きましたわよ?」
「ああ、すまん。少し考え事をしていた」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だ」
エリナ嬢が連れて来てくれたところは大きな煙突のある精肉屋で、ガラスの窓の奥では巨大な肉の塊が焼けている様子が伺えた。
店内に入ると、スモークされた肉のいい香りがして、エリナ嬢が店の店主を呼び寄せる。
「こちらで一番おススメの物はなにかしら?」
「それでしたら、冬越え用に燻製された肉が、これからの時期はいいですかね? ご試食されますか?」
「殿下、試食ですって。どうです?」
「ああ、頂こうか」
店主に燻製された肉を出され、鼻に抜ける香りが芳醇な事に、素直に美味いと思った。
普段の燻製肉と何が違うのだろう? 首を傾げると、店主が「いい味でしょう! これはリンゴの木のチップを使って燻製を作っているんですよ」と、笑いながら自慢気に話した。
そして、リトへの土産はこれしかないと購入を決め、エリナ嬢には少し「あー、わたくしが予想していた物とは斜め上ですわね」と呆れた声を出したが、リトならば大喜びしてくれるだろう。
直ぐに屋敷の方へ手配してくれるように頼み、道案内のお礼にエリナ嬢を連れて人気のカフェに行って、今度リトに頼んで『コスメ』を贈ると約束をして別れた。
それから三日経ち、王都での仕事を全て終わらせて帰ることになり、部下達を引き連れて帰ることになった。
そろそろ、リトの元へ土産は届いているだろうか? それが気になり、少しワクワクとした気持ちで馬車に乗った時、ガリュウから新聞を馬車に放り込まれた。
「お前、少しは気を付けろよ」
「何がだ?」
「新聞、すっぱ抜かれてるぞ」
「まさか……ツ!?」
リトの事が新聞に載ったのかと記事に目を通すと、『王弟陛下のお相手は十代の令嬢!?』という見出しで、エリナ嬢とのカフェでの事が記事に書かれていて、髪を切った事にも憶測が飛び、すでに結婚もしているのでは? と、書かれていた。
「なんだこんな事か。くだらん」
「ただのゴシップ記事だが、リトの目に付けば、そんなに悠長な事を言ってられないぞ?」
「いや、理由を話せばわかってもらえる。屋敷の庭師の妹だからな」
「女心をもう少し分かった方がいいぞ?」
「リトに限って、それはないだろう」
ガリュウが小さく溜め息を吐いて、馬車から離れていき、出発したが……こんな記事でリトは怒る……だろうか?
誤解だと言えば、理解してくれるはず……
馬車を急がせて二日掛けて屋敷に戻ると、執事のアンゾロが据わった目をしてゴシップ記事を片手に待ち構えていた。
29
お気に入りに追加
3,026
あなたにおすすめの小説
俺の番が見つからない
Heath
恋愛
先の皇帝時代に帝国領土は10倍にも膨れ上がった。その次代の皇帝となるべく皇太子には「第一皇太子」という余計な肩書きがついている。その理由は番がいないものは皇帝になれないからであった。
第一皇太子に番は現れるのか?見つけられるのか?
一方、長年継母である侯爵夫人と令嬢に虐げられている庶子ソフィは先皇帝の後宮に送られることになった。悲しむソフィの荷物の中に、こっそり黒い毛玉がついてきていた。
毛玉はソフィを幸せに導きたい!(仔猫に意志はほとんどありませんっ)
皇太子も王太子も冒険者もちょっとチャラい前皇帝も無口な魔王もご出演なさいます。
CPは固定ながらも複数・なんでもあり(異種・BL)も出てしまいます。ご注意ください。
ざまぁ&ハッピーエンドを目指して、このお話は終われるのか?
2021/01/15
次のエピソード執筆中です(^_^;)
20話を超えそうですが、1月中にはうpしたいです。
お付き合い頂けると幸いです💓
エブリスタ同時公開中٩(๑´0`๑)۶
獣人公爵のエスコート
ざっく
恋愛
デビューの日、城に着いたが、会場に入れてもらえず、別室に通されたフィディア。エスコート役が来ると言うが、心当たりがない。
将軍閣下は、番を見つけて興奮していた。すぐに他の男からの視線が無い場所へ、移動してもらうべく、副官に命令した。
軽いすれ違いです。
書籍化していただくことになりました!それに伴い、11月10日に削除いたします。
リス獣人のお医者さまは番の子どもの父になりたい!
能登原あめ
恋愛
* R15はほんのり、ラブコメです。
「先生、私赤ちゃんができたみたいなんです!」
診察室に入ってきた小柄な人間の女の子リーズはとてもいい匂いがした。
せっかく番が見つかったのにリス獣人のジャノは残念でたまらない。
「診察室にお相手を呼んでも大丈夫ですよ」
「相手? いません! つまり、神様が私に赤ちゃんを授けてくださったんです」
* 全4話+おまけ小話未定。
* 本編にRシーンはほぼありませんが、小話追加する際はレーディングが変わる可能性があります。
* 表紙はCanvaさまで作成した画像を使用しております。

番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。
大好きだけど、結婚はできません!〜強面彼氏に強引に溺愛されて、困っています〜
楠結衣
恋愛
冷たい川に落ちてしまったリス獣人のミーナは、薄れゆく意識の中、水中を飛ぶような速さで泳いできた一人の青年に助け出される。
ミーナを助けてくれた鍛冶屋のリュークは、鋭く睨むワイルドな人で。思わず身をすくませたけど、見た目と違って優しいリュークに次第に心惹かれていく。
さらに結婚を前提の告白をされてしまうのだけど、リュークの夢は故郷で鍛冶屋をひらくことだと告げられて。
(リュークのことは好きだけど、彼が住むのは北にある氷の国。寒すぎると冬眠してしまう私には無理!)
と断ったのに、なぜか諦めないリュークと期限付きでお試しの恋人に?!
「泊まっていい?」
「今日、泊まってけ」
「俺の故郷で結婚してほしい!」
あまく溺愛してくるリュークに、ミーナの好きの気持ちは加速していく。
やっぱり、氷の国に一緒に行きたい!寒さに慣れると決意したミーナはある行動に出る……。
ミーナの一途な想いの行方は?二人の恋の結末は?!
健気でかわいいリス獣人と、見た目が怖いのに甘々なペンギン獣人の恋物語。
一途で溺愛なハッピーエンドストーリーです。
*小説家になろう様でも掲載しています
責任を取らなくていいので溺愛しないでください
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
漆黒騎士団の女騎士であるシャンテルは任務の途中で一人の男にまんまと美味しくいただかれてしまった。どうやらその男は以前から彼女を狙っていたらしい。
だが任務のため、そんなことにはお構いなしのシャンテル。むしろ邪魔。その男から逃げながら任務をこなす日々。だが、その男の正体に気づいたとき――。
※2023.6.14:アルファポリスノーチェブックスより書籍化されました。
※ノーチェ作品の何かをレンタルしますと特別番外編(鍵付き)がお読みいただけます。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる