やさぐれモードの私はもふもふ旦那様を溺愛中

ろいず

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2章

リトへの土産 イクシオン視点

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 王都の城下町では、港の近くとあり外海からの品も届きやすく、田舎のヴァンハロー領では手に入らない様な物も多い。
レンガ造りの家や店が並ぶ城下町を、黒い丸い耳と長い黒い尻尾の十五歳になる黒髪の少女、エリナ嬢が案内してくれる。
エリナ嬢は庭師のビブロースの妹で、ミルネビアスの孫の一人だ。
 ビブロースに似た少しつり上がった目をしていているが、性格は真逆の様で、少し寡黙なビブロースに比べるとリトの様な明るさがあり、リトと出逢った時もこの様によく喋ってくるくると表情を変えていたと思うが、今でもよく喋り、表情もくるくる変えるので、この時期の少女たち特有の物なのかもしれない。

「殿下、お相手の方は、お誕生日で何を贈られて喜ぶような方なんですか?」
「そうだな……ビブロースが研ぎ石を渡して喜ばれていたと聞いたが……」
「お兄様ったら! そんな物を渡したのですか!? 一度、お兄様には女性の何たるかを教育すべきかもしれません!」
「いや、屋敷の中で一番喜ばれたのはビブロースの贈り物で、今も大事に刃物を研ぐのに使っているようだ」
「殿下のお相手の方は……本当に十代の方なのですか?」

 エリナ嬢がジト目で見上げてきて、苦笑いが漏れる。
オレの番のリトは少しばかり、生活面に重きを置く女性で、きっと今一番喜ばれる物はドレスや宝石では無いのだろう。

「こちらですわ。今、若い女性に人気の『コスメ』というお化粧品ですわ!」
「ああ、これはオレの妻が作っている物だ」
「え? そうなのですか!?」

 ヘチマの化粧水がどうやら、王都でも人気が出たようだ。
貴族たちの噂や新しい物に直ぐ飛びつく事が、リトの商品の売り上げに貢献してくれているのだろう。

「では、無難にドレスや宝石でしょうか?」
「いや、そういった類は森で狩りをするのに、邪魔になると言われて断られたな」
「殿下……お相手の方は、本当に十代ですの!?」
「彼女は、無い物は自分で作るタイプだからな。食べ物も自力で狩りをして肉にするまでがセットだ」

 目をパッチリと開き、エリナ嬢が令嬢らしからぬ口を大きく開けて、慌てて手を口に当てる。
ゴッホンと、咳ばらいをしてエリナ嬢は自身を立ち直す。

「……殿下、わたくし、その方に何を差し上げれば喜ぶか、分かった気がしますわ……」
「そうか? なにが良いと思う?」
「わたくし、良い肉屋の加工屋を知っていますわ。そこが宜しいかと思いますわ」

 眉尻を下げて、腰に手を当てながらエリナ嬢は道案内を開始する。
ついて歩くと、ほんの少し前までのリトを思い出す。オレの前を意気揚々と歩き、たまに振り返っては笑顔を向けてきて、可愛くて仕方が無く、離れたくなくて彼女の腰に手を回しながらついて回った。
結婚してからは腰に手を回すと彼女を組み敷いてしまうばかりで、腰に手を回すと「ぴゃっ!」と声を出されて、逃げられるようになってしまったが……

「殿下? 着きましたわよ?」
「ああ、すまん。少し考え事をしていた」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だ」

 エリナ嬢が連れて来てくれたところは大きな煙突のある精肉屋で、ガラスの窓の奥では巨大な肉の塊が焼けている様子が伺えた。
店内に入ると、スモークされた肉のいい香りがして、エリナ嬢が店の店主を呼び寄せる。

「こちらで一番おススメの物はなにかしら?」
「それでしたら、冬越え用に燻製された肉が、これからの時期はいいですかね? ご試食されますか?」
「殿下、試食ですって。どうです?」
「ああ、頂こうか」

 店主に燻製された肉を出され、鼻に抜ける香りが芳醇な事に、素直に美味いと思った。
普段の燻製肉と何が違うのだろう? 首を傾げると、店主が「いい味でしょう! これはリンゴの木のチップを使って燻製を作っているんですよ」と、笑いながら自慢気に話した。
そして、リトへの土産はこれしかないと購入を決め、エリナ嬢には少し「あー、わたくしが予想していた物とは斜め上ですわね」と呆れた声を出したが、リトならば大喜びしてくれるだろう。
直ぐに屋敷の方へ手配してくれるように頼み、道案内のお礼にエリナ嬢を連れて人気のカフェに行って、今度リトに頼んで『コスメ』を贈ると約束をして別れた。

 それから三日経ち、王都での仕事を全て終わらせて帰ることになり、部下達を引き連れて帰ることになった。
そろそろ、リトの元へ土産は届いているだろうか? それが気になり、少しワクワクとした気持ちで馬車に乗った時、ガリュウから新聞を馬車に放り込まれた。

「お前、少しは気を付けろよ」
「何がだ?」
「新聞、すっぱ抜かれてるぞ」
「まさか……ツ!?」

 リトの事が新聞に載ったのかと記事に目を通すと、『王弟陛下のお相手は十代の令嬢!?』という見出しで、エリナ嬢とのカフェでの事が記事に書かれていて、髪を切った事にも憶測が飛び、すでに結婚もしているのでは? と、書かれていた。

「なんだこんな事か。くだらん」
「ただのゴシップ記事だが、リトの目に付けば、そんなに悠長な事を言ってられないぞ?」
「いや、理由を話せばわかってもらえる。屋敷の庭師の妹だからな」
「女心をもう少し分かった方がいいぞ?」
「リトに限って、それはないだろう」

 ガリュウが小さく溜め息を吐いて、馬車から離れていき、出発したが……こんな記事でリトは怒る……だろうか?
誤解だと言えば、理解してくれるはず……

 馬車を急がせて二日掛けて屋敷に戻ると、執事のアンゾロが据わった目をしてゴシップ記事を片手に待ち構えていた。
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