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2章

魔獣の卵 イクシオン視点

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 屋敷の前で、手を振って見送ってくれるリトに後ろ髪を引かれつつ出発し、部下に揶揄からかわれながら魔獣の産卵場所に獣騎に乗って進んでいく。

「殿下、結婚して早々に任務とは、ついてなかったですね」
「全くだ。休暇はあと三日も残っていたのに……」

 あと三日はリトと一緒に屋敷でゆっくりする予定だったのだ。
リトの好物のプリンも作って、彼女に「美味しい」と笑顔を貰う為に少し高めの卵も用意していたのに……
きっと今頃、お祝いの品を持ってきた客の対応に疲れ果てて、ウィリアムがプリン以外の甘い物でリトの疲れを癒していることだろう。用意した卵を使って……
こんな事なら初日に作って食べさせておけばよかった。

「なんだ? しょげた耳しやがって。鬱憤うっぷんは魔獣に向けろよ」
「そのつもりだ。根絶やしにして、二度とオレの休暇を潰させたりはしない」
「おー、怖っ、皆イクシオンが暴れるから、近付くなよー」
「「「りょうかーい!」」」

 ドッと部下達が笑って、やはり男だらけなので、夜の話が出るわけだが、リトの可愛く乱れる様を部下に教えてやるほど心は広くもない。リトの恥ずかしがって喘ぐ様を知っているのは自分だけでいい。

「お前達も結婚すれば、解るさ」
「隊長、この間まで俺等と同じ独り身でしたよね!?」
「うわーっ、結婚した途端、結婚すすめてくる人と同じかー!」

 賑やかな部下達を連れて、魔獣の産卵場所、___ヌウラス沼地帯へ足を踏み入れる。
やはり、春の温かさで沼地の温度も上がり、熱気が増して既に孵化している幼獣達が沼の中を歩き回っている。

「面倒だが、確実に根絶やしにする為にも、一匹ずつ倒していけ! 雑な仕事はするな!」
「「「ハッ!」」」

 それぞれが武器を持ち、卵と幼獣を倒して乾いた場所で炎で燃やしていく。
魔獣は卵で生まれ落ち、育てば家畜を襲い、人を襲うようになる。春の産卵期にどれだけ処理できたかで、その年の討伐の件数が減るか増えるかになる。

「こりゃ、随分多いな」
「それだけ、春の恵みが多いという事だ。こうした魔獣の多い年は、豊作だからな……その分、魔獣被害も増えるが」

 ガリュウが山積みされた幼獣を見て「うへぇ」と声と舌を出す。
この様子なら、聖域の森の中も実り豊かな春をなっているだろう。
帰ったら、リトが森の中に飛んで帰ってしまって、屋敷には居ない気もしてしまう。
森の中で元気にはしゃぐリトも可愛くて魅力的ではあるが、もうしばらく新婚時期は一緒に居たいとも思っている。
しかし、兄の耳にいつリトと結婚した事がバレて、刺客を送られないとも限らない。
リトには安全な場所である聖域の森で過ごしてもらう事が、リトにとっても自分にとっても安全なのだ。
それが分かっていても、屋敷でリトが待っている生活を想像すると、心が躍らずにはいられない。

「隊長ーっ! 親魔獣がまだ生息しています!」

 そんな部下の声に、魔法の槍を手に持って向かい、卵の上で咆哮ほうこうを上げる棘の多いトカゲに似た魔獣と対峙する。
普通、産卵を終えた親の魔獣は直ぐに沼地から去るものだが、呑気な魔獣もいたものだ。

「お前達は下がれ! 他に魔獣が居ないか一応の確認をしろ!」
「隊長! まだ奥の方に魔獣が居ます!」
「奥に数体群れを成してます!」

 どうやら、卵や幼獣だけの討伐では済みそうにないらしい。
二日程で手早く片付けるつもりが、これは二日では済まないかもしれないと、溜め息を吐き、槍を握り直して目の前の魔獣に怒り任せに投げつける。
魔法の槍なだけはあり、力を増幅させて威力をます為に魔獣は臓腑ぞうふをまき散らして破裂する様に沼に散らばる。

「おいおい、やり過ぎだろ……」
「サッサと片付けて、報告して終わらせる!」
「イクシオン……新婚家庭はお盛んだな」
「黙れ。サッサと終わらせるぞ」

 沼地に居た魔獣を倒し、沼地に魔獣の死骸が山になった頃には夜に差し掛かり、沼地から引き上げて少し離れた陸地でテントを張る頃には、全員沼地の泥と魔獣の臓腑で軍服もドロドロ状態だった。

「この近くに川はあったか?」
「あー、川で洗いたいっすよねー」
「川ならもう少し下ったところにあるはずですよ」

 数名を残して、川へと向かい川で服を洗いながら、替えの軍服を着てゾロゾロと帰ると、設営していたテントが魔獣の群れに襲われていた。
交戦している部下達に加勢し、魔獣退治となり、結局交戦が終わったのは朝も白んだ頃だった。
結局、川で洗った服も替えに着た服もドロドロになり、異臭を発してしまう事態に鼻の良い獣人達は苦悶しながら、沼地で残りの卵と幼獣を処理して、鼻が利かなくなってから、交替でテントで眠り、また魔獣の襲撃が夜あり、徹夜で退治して、ヨロヨロしながらヴァンハロー領へ戻る事となった。

 やっと愛しい番の元へ帰れると喜んだものの、「おかえりなさい」と手を広げて出迎えてくれたリトに、キスをしようとしたら「うぐっ!」と口元を押さえられて、涙目で離れていかれた。

「ごめんなさい~っ、でも、なんか凄く臭いよ~っ」

 屋敷の執事のアンゾロにも鼻を摘ままれ、料理長のウィリアムにも「旦那様は厨房には来ないで下さいね! 匂いが移りますから!」と非難された。
庭で獣化して水を庭師のビブロースに掛けてもらっていたら、リトがシャンプーを手に「私が洗ってあげる―!」とニコニコ顔で出てきて、リトに思う存分洗ってもらえた。
それはそれで、まぁ良かったが、今回の沼地の討伐は、色んな意味で悲惨だったと思う。
 
 今回の討伐で、今年の討伐が数が減れば、リトと過ごす日々が増えればいいと思いながら、「モフモフ~柔らか~いい香り」と、抱きついて離れない可愛い番のおでこを舌で舐める。
おでこには結婚印がクッキリとオレのモノだと浮かび上がっていて、口元が緩んだ。
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