やさぐれモードの私はもふもふ旦那様を溺愛中

ろいず

文字の大きさ
上 下
102 / 167
2章

式場準備

しおりを挟む
 王族の結婚式は普通は『聖堂教会』という、ゲッちゃんが保管されていた教会で行われるらしいのだけど、そこを使うには王様のサインとかが必要で、イクシオンとしては私が王様に狙われるのは避けたいと、そこを使わずに、ヴァンハロー領にある自分の軍の施設を使うことになった。

 おかげで、軍の長期遠征をおこなう時の道具が次々と運び出されて、広々としたドーム型の倉庫の中には光が差し込み始める。

「おぉー、ここがこんなに何も無いなんて久しぶりだな」
「窓ガラスあったことすら、忘れてたぜ。いつも薄暗いとか思ってたけどなー」

 イクシオンの部下達がそんな話をしながら、お屋敷のメイドさん達が倉庫の中を掃除しているのを見つめ、「可愛いよなー」と言い合っているが、ガリュウさんが来て「散れ!」と一括すると、部下の人達は慌てて逃げていく。

「にしても、式が早まった分、大忙しだな」
「夏前の討伐の時期が早まるとは思っていなかったからな」

 実は、夏前に春に生まれた魔獣を討伐する時期があるのだけれど、魔獣の卵が春だというのにかなりの量が産み落とされ、羽化し始めているのだという。
夏になれば食料を求めて活性化する為に、早めに討伐となり、その前に結婚式を挙げる事になった。

 私としては討伐が終わってからでも良いと思ったのだけど、イクシオンが「軍人はいつ死ぬか分からない。だから心残りは残したくない」と、言い私もこの世界ではそういう事もありうるだろうと、承諾した。
でも、結婚して直ぐに未亡人とかシャレにならないことにはなって欲しくないので、出来れば元気に帰って来て欲しい。

「リト、これが軍の服とシャツだ。これでいいかい?」
「うん。ありがとう」

 イクシオンから軍服とシャツを受け取り、まだ段取りと仕事のあるイクシオンに「お屋敷に帰ってますね」と声を掛ける。

「リト、忘れ物」
「え? なにかある?」

 顎を指で押されて上を向かされ、唇にキスで塞がれる。
森の小屋でちょっといい感じ? になってから、毎日のように唇へのキスは挨拶のようにされていて、アーデルカさんも式まではあと少しという事で、大目に見てくれているらしい。
まぁ長引くと引き離されてしまうけどね。

「んっ、はぁ……」
「一人で帰れる?」
「だい、じょーぶ……はふっ」

 小さく喉を鳴らして、頬が赤くなるのを感じながら、私はイクシオンから預かった軍服を手に、フラフラとお屋敷に向かって帰る。
式ではイクシオンは軍服を着るから、その前に回収してヴインダム国の紋章を刺繍で入れておくつもりなのだ。
私のドレスにも銀糸で紋章を刺繍してあるから、お揃いっぽいかなー? って、少しだけ特別感を出したいだけの作業なんだけどね。


 ◇◇◇◇◇


「イクシオン……お前、場所を考えろよ?」
「別に身内だけなんだからいいだろ?」
「いや、そういう問題じゃない! 第一、リトが可哀想だろうが!」
「可哀想? 可愛いの間違いだろ?」

 ハァーッとガリュウが溜め息を吐いて、フラフラと歩きながら帰るリトの後姿を見つめる。
隣りのイクシオンは目を細めて、リトを見送っている。

「あの様子だと、番の特性を話してないだろ?」
「ああ。メイド達にも言うなと言ってあるからな」
「可哀想に。あんなにフラフラしてるじゃねぇか……少しは慣らしていってんのかよ?」
「アーデルカに式が終わるまでは手を出すなと言われているから、キスまでだ」
「なら、式の後は何日か出てこれないだろうな」
「休暇は申請しているだろ?」
「そういう事か……」

 機嫌の良いイクシオンを非難する目で見て、ガリュウは白い布を運び込むメイドのメイミーに熱い視線を送る。
王の従弟という事で、メイミーの親からは結婚を反対され、メイミーからもイクシオンの屋敷に仕える者として、王の身内にはなれないと断られている。
出逢った時から惹かれ合っているのに、それが許されないガリュウは、ほんの少しだけ、自分より身分的にも立場的にも難しいイクシオンが、こうして結婚する事に恨めしくもあり羨ましくもある。

「結婚印は当日に付けるのか」
「ああ、リトの方はな」

 イクシオンが白い手袋をしているのを見て、ガリュウは小さく首を振る。
伝統を重んじる王家の一員が、それで良いのかという疑問もあるが、イクシオンは今まで王家の血筋の火種を嫌い、独り身でも構わないと言っていたのに、それは『番』の少女リトが現れて変わってしまった。
王族争いの事など頭から抜けてしまったかのように、リトだけを求めて、こうして結婚まですると言ってのけたのだから、どうか、どうしようもない従弟の国王に邪魔されずに、このままの状態で時が過ぎていけば良いとガリュウは思っている。

「まぁ、お前が幸せになってくれりゃ、それでいいよ」
「リトさえ居れば、オレはいつでも幸せだ」

 平気でそんな台詞を吐くイクシオンにガリュウは、静かに目を伏せる。
しおりを挟む
感想 99

あなたにおすすめの小説

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

【完結】あわよくば好きになって欲しい(短編集)

野村にれ
恋愛
番(つがい)の物語。 ※短編集となります。時代背景や国が違うこともあります。 ※定期的に番(つがい)の話を書きたくなるのですが、 どうしても溺愛ハッピーエンドにはならないことが多いです。

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

【完結】見返りは、当然求めますわ

楽歩
恋愛
王太子クリストファーが突然告げた言葉に、緊張が走る王太子の私室。 伝統に従い、10歳の頃から正妃候補として選ばれたエルミーヌとシャルロットは、互いに成長を支え合いながらも、その座を争ってきた。しかし、正妃が正式に決定される半年を前に、二人の努力が無視されるかのようなその言葉に、驚きと戸惑いが広がる。 ※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

処理中です...