やさぐれモードの私はもふもふ旦那様を溺愛中

ろいず

文字の大きさ
上 下
93 / 167
2章

お風呂場ハプニング

しおりを挟む
 ヴァンハロー領のイクシオンのお屋敷に着いた途端、デンちゃんは疲れたーと、体を縮めて私に抱っこをせがむように後ろ足で立って、私の足に手を伸ばす。
ボン助をリュックサックから出して地面に置くと、代わりにデンちゃんを抱き上げた。

「ワフーン」
「デンちゃん、お水を貰おうね。ボン助もお水貰おうね」
「ワンッ!」

 イクシオンがお屋敷の扉を開けると、執事のアンゾロさんとメイド長のアーデルカさんが揃って出迎えてくれた。

「お帰りなさいませ。イクシオン殿下。リト様、心配しておりました」
「お帰りなさいませ。イクシオン殿下、リト様、直ぐにくつろげるように用意致しますので、少々お待ちください」
「ただいま。オレはまずは風呂に入りたい。風呂の準備から頼む」
「私は、デンちゃんとボン助にお水を貰いたいので、厨房に行って良いですか?」
「リト様、デンにはお部屋を用意していますので、そちらの方へ案内します」
「イクシオン殿下、直ぐにご用意致します」

 アンゾロさんがイクシオンを案内して、私はアーデルカさんに連れられて一階の客間だった部屋が大きな丸いクッションと、止まり木に餌箱などがある事から、デンちゃんとゲッちゃんのお部屋を作ってくれたらしい。

「うわぁ……お部屋を作ってくれたんですか?」
「はい。そちらの……ボンスケ? のお部屋もここでよろしいですか?」

 流石にここの人にはボン助は言いづらいらしい。
ボン助は足元で「へっへっ」と甘えてて、デンちゃんは少しぐったり気味だ。
ゲッちゃんは肩に乗ったまま眠そうな目をして、うつらうつら船をこいでいる。

「ボン助、ここがボン助の新しいお部屋だよ。ここでも良い?」
「ワン?」

 首を傾げるボン助にアーデルカさんが「扉は自由に出入る出来るようになっております」と、犬用の出入り口が小さく作ってあることを教えてくれた。
アーデルカさんに水をお皿に貰って、デンちゃんとボン助に水を飲ませて、ゲッちゃんを止まり木で寝かせると、アーデルカさんに連れられて、大浴場に連れて行かれた。
大浴場の鏡で見たら、私の髪の毛ぐしゃぐしゃで、確かにこれはお風呂に突っ込みたくもなるかも?
流石に十七の乙女なので、もう体を洗うのも一人でさせて貰いたい……と、思っていたら、メイドの人達は今出払っていて、戻りは夕方になるのだそうだ。

「イクシオン殿下がお戻りになるのは、もう少し後だと思っていた為に、申し訳ありません」
「いえいえ。お風呂ぐらいは一人で入れますから、大丈夫ですよ。それより、ボン助はここ初めてなので、見ていて下さると有り難いです」
「畏まりました。着替えとタオルはここにご用意させていただきますね」
「はい。ありがとうございます」
「では、ごゆっくりなさって下さいませ」
 
 アーデルカさんが脱衣所から出て行き、髪からリボンやピン止めを外して髪ゴムを取ってから、服を脱いで浴室に入ると、銀色の狼が金色の鹿の口から出るお湯を、頭から被って目を瞑っていた。

「うわぁ~っ、狼が滝行してる~」

 湯船の中で揺蕩たゆたう銀色の毛がキラキラしてて綺麗で、サラサラの毛並みに思わず湯船に入って進んで行き、手をワキワキさせていると、狼が目を開いた。
シルバーアメジストの眼が、瞬きもせず私を見て、私は「あっ!」と、ようやくここで気付いた。
この屋敷で銀色の狼でシルバーアメジスト色の瞳の持ち主はイクシオンだけ。
獣人が獣化するのは知っていたのに、スコンと頭から抜けて……毛を触ろうとしか頭に無かったのだ。

「……リト、その、まぁ……湯船に入るなりして、体を隠してくれると、助かる……」
「は、へっ、ひゃい!」

 ザブッと湯船に肩まで浸かって、一気に羞恥心で赤くなる。
やってしまった―っ! まさかのお風呂ハプニング!? これはラッキースケベというヤツ? ラッキーなのは私? イクシオン? どっちだーっ!!!!

「アーデルカが間違えたのかもしれないな」
「はひ……イクス、お風呂って言ってた、もんね……ごめんなさい~っ」
「いや、謝らなくていい」
「ううっ、恥ずかしくて、お風呂から出れない……」
「まぁ、オレはもう出るから、のぼせないうちに上がるといい」

 私に近付いて、頬に鼻をつんとくっつけてから、イクシオンは湯船から上がっていった。
大人だ……大人の対応だーっ!! ずっと獣化したままで出て行ってくれたし、やっぱりイクシオンは紳士かも?
でも、私の裸見ても動揺もしないのは、少し残念かな?
いやまぁ、動揺されたら、私が恥かしくて死んでしまうけど、少しだけ胸に自信はあったんだけどなぁ。
うーん。まだ私が子供っぽいから魅力無いのかなー……

 湯船から上がって、シャンプーで髪をワシワシ洗って、たまに「ああぁぁぁ」と奇声を発して、体を洗ってからから浴室から出ると、脱衣所に服が置いてあった。
そして、ここでも、問題発生である。

 服が……主に下着のタンクトップと、上着のシャツが……胸の所が苦しい。
さっきまで着てた私の服はもう持って行かれてるし、三ヶ月しか経ってないここでは、私の今のサイズにはもう服が合わないっ!!
タンクトップはギュウギュウに胸がぺたーんと押さえつけられて苦しいし、シャツはボタンが閉まらない。
 服とかが入ったトランクはイクシオンの獣騎に縛って持ち運んでもらっていたから、明日か明後日にならないと届かないだろう。

「ハハハ……はぁー……」

 乾いた笑いを漏らして、タオルをテルテル坊主のようにして脱衣所を出た。
きっと、私の為にヴァンハローの人達がくれたドレスや服は、もう着れなくなっていることだろう。勿体ない。
しおりを挟む
感想 99

あなたにおすすめの小説

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

【完結】あわよくば好きになって欲しい(短編集)

野村にれ
恋愛
番(つがい)の物語。 ※短編集となります。時代背景や国が違うこともあります。 ※定期的に番(つがい)の話を書きたくなるのですが、 どうしても溺愛ハッピーエンドにはならないことが多いです。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

勘違い

ざっく
恋愛
貴族の学校で働くノエル。時々授業も受けつつ楽しく過ごしていた。 ある日、男性が話しかけてきて……。

処理中です...