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2章

三ヶ月 三年

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 リビングの見えなくなった空……見上げているのだから、空で間違いはない。
うん。しっかりピンチだ! 予想外だ!!
私は黄金の本とボン助を抱きしめて、緩やかに落下中である。

「ボン助だけは助かりますようにぃぃーっ!! ひやわあぁぁぁー!!!!」

 緩やかだった落下速度が段々と早くなり、先程の別れの涙とは一転して恐怖の涙が目に浮かぶ。
下を見た方が良いんだけど、空中で上から下に回るって、それは流石に習ってない! スカイダイブでも次は習った方が良いだろうか!? 次があるならぁぁぁ!!!!

「うわあぁぁん!! いやぁぁぁ~っ!!」

 何か、下からドドドドと音がしてるし、まさか滝? 滝ならワンチャンある? ああでも、ボン助はそんなに泳げないんだよ! 無理無理!!

 この騒がしいほどの考えは多分、コンマ何秒とかの間に浮かんだんだと思う。
人間って、こういう時、スローモーション的な感じで物は見えるし、脳は瞬時に巡っていくし……ううっ、まだギリギリ花の十七歳なのにぃぃー!
こんな所で散りたくない~っ!!
ドドドという音が段々近付き、もう駄目だーっ! と、目を瞑ってボン助をギュッと握りしめると、ドドドという音が段々静かになり、ドシッと体に衝撃がある。
ううぅ、全身打った? もう駄目? 粉ミジンコ? 

「リ、ト……?」

 懐かしい声に片目を小さく開けて、シルバーアメジストの瞳と目が合う。
なんだか、凄く幽霊みたいな顔をしたイクシオンが見える。まさか、天国か地獄にでも落ちた?

「リト……リトだろう?」
「イクス? えっと、ココは?」

 私に顔を埋めるようにして、抱き抱えてくれているイクシオンから顔を上げると、獣騎に乗った部下の人達に囲まれていて、あのドドドって凄い音はもしや、獣騎の走る音だったのかな?

「ウーッ、ワンワンッ!」
「わっ、イクス。うちのボン助に顔噛まれる前に、顔上げて!」
「あ、痛っ」

 忠告が遅かったのか、しっかりボン助に頬を噛みつかれたイクシオンが居た。
ボン助を「メッ!」と鼻先を叩いて、叱りつけ、イクシオンの頬を見ると、ガッツリ噛んだ痕がついて小さく皮がむけていた。

「イクス、ごめんね! うちのボン助良い子なんだけど、知らない人が私に近付くと、噛むようにお父さんが躾けちゃってるの!」

 お父さんは私が居ない間、ボン助を色々教え込んだりしてて、私が帰って来てからは、余計に変なことを教え込んでいたのだ……
私の体に抱きつくイコール痴漢みたいな感じで教え込まされているから、ガブガブと容赦なくいってしまうのだ。

「ボン助、この人はお姉ちゃんの知り合い。オッケー? 安心安全。大丈夫。覚えた?」
「ワンッ!」
「よしよし、ボン助良い子ねー」

 ボン助の頭を撫でて、イクシオンは安全だよ。と、アピールしてから、またイクシオンに向き合うと、泣きそうな顔で私を見つめてくる。
あー、うん。私もボン助が噛みつかなかったら、感動の再会だったかも?

「リト、いきなり君の気配が消えて、心配で、死んだんじゃないかと、不安で……」
「うん。あの日、私ドジっちゃって、骨が足から突き破って大怪我しちゃいまして……実家に帰っていました」
「もう、大丈夫か? 平気なのか? 君の気配が消えた三ヶ月は、生きた心地がしなかった……」
「うん? 三ヶ月? 三年の間違いでしょう?」

 正確には三年まではあと少し日数を要すると思うけど、三ヶ月はないでしょ?
だって、三ヶ月だとしたら、イクシオンは今、大型魔獣討伐の帰りという事になる。
いや、でも、周りの人達は獣騎に乗ってるし、もしかして、時間のズレがあるのだろうか?

「あの、イクス。大型魔獣の討伐の帰りなの? 私が居なくなって三ヶ月というのは本当?」
「ああ。討伐の帰りで、リトの気配が消えて急いで帰っている最中だった。上からリトの気配がして、立ち止まる様に指示を出していたら、リトが上から降ってきた」
「そう、だったんだ……。あっ! なら、今はどこら辺? 私の森は近い?」
「このまま進めば、あと三日で辿り着くはずだ」

 あと、三日……ゲッちゃんとデンちゃんは大丈夫だろうか?
でも、三年も放置という事じゃ無ければ、二人共大丈夫かもしれない……でも、雪の中に置いてきてしまっているし、寒さは大丈夫だっただろうか……

「お二人さん、感動の再会の所悪いけど、進むのか? 休むか? どうするんだ?」

 ガリュウさんが獣騎の上から声を掛けてきて、私は慌ててイクスの腕の中から抜けようとして、ガッチリ掴まれて離してはもらえなかった。

「ここで今日は休憩にしよう。皆もそれで良いか?」
「「「了解っ!」」」

 元気な部下の人達の声に、懐かしいなと思ってしまう。
こちらでは三ヶ月でも、あっちでは三年なのだから、それも仕方が無いのかな?
皆がテントを張っている間、私達は寄り添って座っていた。
なんだか、イクシオンは甘えん坊なお兄さんのままで、部下の人が生暖かい目で見てくるけど、いい加減にしないとボン助をけしかけますよ?

「リト、少し大きくなった気がする」
「あ、うん。元の世界に戻ってたから、あっちでは三年過ぎてて、私、あと一週間で十八歳になるよ」
「そう、なのか……?」
「お父さんたちにもね、許可は貰ってきたよ? イクシオンがまだ私を婚約者として見てくれてるなら、十八になったらお嫁に貰ってくれる?」
「ああ、もうどうして、リトはオレの欲しい言葉をくれるんだ? リトが嫌がっても、オレはリトの番だから、ずっと離さない」
「ふふっ、じゃあ、これからもよろしくね」

 イクシオンが私を抱きしめて、私もイクシオンを抱きしめ返すと、私の後ろでボン助がカチカチと歯を鳴らして、鼻にしわを寄せて「ガルルル」と唸っていたのは、お父さんの躾のせいなのか、ボン助の嫉妬なのかは少し疑問だけど、私は異世界に帰ってきたよ!
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