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1章 

リトの贈り物

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 今回も買い物は色々と生活用品で、特に釘と針金は大事とばかりに買い込み、私は基本的に生活中心の物しか買わないなぁ……という感じである。
 お屋敷に戻ると、今日もメイドさん達に連行され、今日はイクシオンの部下の人も来ていて、小型ナイフを仕舞う革の鞘にスナップボタンを付けたいらしいけど、大きいサイズも作れないか? という事らしい。

「スナップボタンの大きさに関しては、技術屋さんに言えばどうとでもなると思いますけど……」
「リト様、大きさに関しても、リト様の許可書類が必要なのですよ?」

 横からアンゾロさんが耳打ちし、サッと書類を出してくる。
部下の人は自分のナイフの鞘を出して、「丁度いいサイズをお願いします!」と、言うし……
まぁ、確かに、動物の牙を使った留めるタイプの鞘からナイフを出し入れって、面倒そうだよね。
スナップボタンなら指で弾けば直ぐに取り出せるしね。

「武器の出し入れだと、咄嗟に出す場合もあるので、少し頑丈なタイプで厚めにスナップボタンを作った方が良いかもですね? 何回も出し入れすると壊れたら大変ですしね」
「流石、姐さんは話が分かる……ッ」
「姐さんじゃないですよー? 私もナイフは良く使うので、経験上そう思うだけなので」

 部下の人とスナップボタンの大きさを聞きつつ、技術屋さんへの発注を掛けて、書類を書き……私もね、自分の名前だけは、こちらの文字で書けるようになったよ……

 いつもはメモ帳に使えそうな文字を書いたやつを見ながら、お屋敷の人達にお礼の手紙を書いたりしてるぐらいだけど、書類のサインは李都とこちらの文字で書くだけで済んで良かったよ。
苗字まで書く事になったら大変だけど、この世界は基本、苗字は書かない。
結婚の時に初めて、相手の名を知る……みたいな感じだからね。

 メイドさん達からは、「他の領地のメイドに今度会うので広めて見ましょう!」とパンツと生理用品を持って言われ、ついでにキャミソールもどうぞ―……と、言っておいた。
世の中、便利な物が増えれば、その便利な物を改良していく人達も増えるわけで、そうすれば、もっといい物が手に入っていくわけだから、私としてはガンガンいこう! って、感じである。
書類とか面倒くさいけど。

 やっと、解放してもらえて、自分のお部屋として用意されている部屋で、ゲッちゃんとデンちゃんをベッドの上に寝かせておいて、机に向かって今日買いこんだ刺繍糸を出す。

 刺繍糸を八本用意する。色は黒・群青・銀・薄紫
まずは、全部を揃えて結び、編み込みをして、ペーパーウエイトで動かない様に押さえて、四本ずつに左右に分ける。
左の四本を織り込んだら、右の四本を織り込んで、V字になる様に色を重ねて行き……十五センチくらいまで作って、最後にまた色をまとめて編み込んで、ミサンガの完成!!

 本当は色々柄とか織り込みたいんだけど、時間も無いからこれで良いかな?
イクシオンに渡すもので、私には三角の耳も尻尾も無いから、離れていても私の代わりに持って行って貰う物って、こんな物しか思い浮かばなかったんだよね。
ミサンガなら軽いし、戦闘の邪魔にはならないだろうし、切れて無くしても、それは願いが叶った証拠だから良いことだしね。

「さてと……イクスのは出来たけど、屋敷の皆にも作らなきゃ」

 今日は徹夜かな? まぁ、たまにはこういう手作りも良いよね。
メイドさん達には斜め編みの簡単な物になっちゃうけど、可愛い色をいっぱい買ったから、それで許してもらおう。
せっせとミサンガ職人になり、何とか八人分出来たけど、途中で机に突っ伏して寝落ちしてしまって、起こしに来てくれたメイミーさんに、少し怒られたりした。

「成長期の子供が夜更かしをすると、身長が伸びませんよ!」
「ひぃぃ。それは嫌ですー!!」

 仕方がないので、少しだけ眠らせて貰って、遅めの朝食をウィリアムさんに出してもらい、少しウトウトしながら食べて、今日イクシオンに森に送ってもらうから、それまでに残りのミサンガを作るのだ! と、意気込んではいたのだけど、同じ作業の繰り返しにウトウトして、結局一本出来ただけだった。

 仕方が無いから森に帰って、改めて作るしかない。
出来上がった分は、パンツ作りのメイドさん達に渡して、残りの人には今度来る時に作りますねーと、言っておいた。

「イクスには、皆のとは少し柄の違うミサンガだよ」
「ありがとう。リトは器用だな」
「これぐらいは皆作れるよー。私は長期遠征の時に何も渡せないから、これで我慢してね? これにお願い事を掛けて切れたら、願いが叶うんだって」
「リトからなら、この右手の結婚印だけで充分貰っているけどな」

 あー、そういえばハッキリと判る物をお持ちでしたよ。
眉を下げてどうしようか思案していると、おでこにチュッと唇を落とされて、「大事にする」と微笑まれた。
イクシオンはやる事が王子様過ぎるんだよね……まぁ、元王子様だからなのかな? 漫画のイケメンみたいなことを易々とやられてしまうと、免疫のない私は思考回路が一時停止してしまう。
困った旦那様(仮)だ。

「リト様、今度、これの作り方も教えてくださいね?」
「はーい」

 メイドさん達には渡したら不味かったかも……今度来る時は、パンツ作りからミサンガ作りになっていそうだ。
お屋敷の人達に「お世話になりました」と深々と頭を下げて、イクシオンの獣騎に二人乗りで森へ帰り、途中で私はイクシオンを背もたれにスヤスヤ寝てしまい、デンちゃんが落ちないように紐で私と一緒に縛られていたよ……まぁ、魔窟の森は戦闘があるから仕方ない。

 小屋に着いたら、ビブロースさんが庭先で困った顔をしていた。

 うん。忘れていたけど、この小屋の玄関って、何故か私以外は開けられなくて……玄関を開けたら、ドアに何かを挟んでいないと、開けられないんだよね……
ビブロースさん、本当にすいません。
うっかり、そう、うっかり忘れていたんですーッ!!

 土下座の様な謝罪をして、ビブロースさんは一応、火の魔法が使えるから、獣化して鳥を捕まえて、焼いて食べたりしたらしい。お風呂は暑いから川で水浴びで充分だったとか……本当にすいません。
野菜は残念ながら、保存出来る容器が無かったから、食べたりしたみたい。
これに関しては、全面的に私が悪いので、諦めるしかない。

 ペコペコと米つきバッタよろしく謝り倒して、イクシオンもうっかりしていたと、困った顔をしていた。

 イクシオンは明日から夏の強化警護になるので、今回は泊まらずに帰るらしい。だから、箱一杯に年始に退治した氷の熊の氷を山盛り入れて渡しておいた。
獣人の人達は夏が弱いそうだから、役に立てばいいのだけど。

「次に来るのは、夏の終わりになるかもしれない。その後は長期遠征があるから、当分会えなくなる。冬越えの準備をするなら、屋敷の方に冬の間は過ごすことも考えておいてくれ」
「大丈夫。今年の冬越え用にもう準備は少しずつしてるよ」
「冬越えでリトが屋敷に居てくれた方が、オレは安心できるんだが……」
「大丈夫だよ。イクスはお仕事に集中して頑張って!」

 お誘いは有り難いけど、冬越えをどう対処するか考えるのも面白いから、気にしないで欲しいんだよね。やりたい事いっぱいあるし、少し気になる事もあるからね。

 イクシオンに両頬にキスされて、ギュウギュウに抱きつかれてスリつかれて、ビブロースさんに「帰りますよ。旦那様」と引きずられるようにして、イクシオンとビブロースさんは獣騎に乗って帰ってしまった。

「ふぅ、でも、ビブロースさんに悪いことしちゃったなぁ……この小屋の扉、どうにかならないのかな?」

 ゲッちゃんは窓から出れるけど、デンちゃんは無理だから、これも考えないといけない。
今後の課題かな? うーん、困ったね。
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