上 下
61 / 167
1章 

結婚(仮)

しおりを挟む
 部屋の中を見渡して、イクシオンが「随分変わった」と頷いてみせる。
そうでしょう、そうでしょう。私は一ヶ月頑張りましたよ!
リビングも調味料棚を作ったり、収納棚を作りまわったよ!
デンちゃんの体のサイズが大きくなってきたから、物がぶつからない様に収納して回った!
後はまぁ……壁にやたらと物騒な斧や剣が飾られまくってるくらいだ。

「イクスの荷物があれば、寝室がイクスの部屋なので置いてね」
「いや、オレはリビングで構わないぞ?」
「ふっふーっ、実は武器の置いてあった部屋を片付けて、私の部屋にしたから、寝室はイクスの部屋だよ!」

 イクシオンの手を引っ張って、元武器の部屋であり、現私の部屋に案内する。
机の上にはヴァンハローの人達に貰った小物や、一番初めにイクシオンがくれた手鏡とかキャンディー缶があるぐらいだけど、ベッドは無事に2週間以上かけて徹夜とかで仕上げた。
これはもう意地で作った。
一度、デンちゃんがベッドに乗ってミシッとヤバい音がして、補強したりもしたけどね。
あれはヤバかった。ヒビが入ってて……

 フレームのクローゼットも服をハンガーに掛けているし、他の服は木箱を利用したラックを作って収納した。私、めっちゃ頑張った!

「私の部屋だよ~」
「ああ、随分見違えたよ。これならオレが泊っても、ベッドを譲り合う事もないな」
「でしょ? あっ、今日は泊まっていくの?」
「リトが良いなら、泊めてくれるか?」
「どうぞ! イクスに色々話したい事あったんだよ。会ったら何を話そうかっていうのが、分かんなくなっちゃったけど、いっぱい話そうね!」

 人と話すことが無いから、独り言とかゲッちゃんやデンちゃんに話し掛けるばかりだったからね。元々お喋り好きな私としては、喋れる人が居るのは嬉しい。
ふっふっふっ、逃がさないぞー!
イクシオンの手を握って、ニコニコしていると、フワッとした笑顔を向けられて「子犬みたいだ」と頭を撫でられ、髪に編み込んでいた銀と群青色のリボンを触られる。

「婚約紐を付けてくれてるのか」
「あ、うん。一応ね? お屋敷の人達がくれたリボンとか髪飾りが全部、銀と群青色の物だからね」
「オレも兄の前以外では、ずっと付けてた」
「うーん。でも、イクスに好きな人とか出来たり、番とかいうのがまた現れたら、私に遠慮なく婚約紐は外していいからね?」

 私はココから出ることはほとんどないから良いけど、イクシオンは色んな所に行くんだから、出会いもあるだろうし、婚約紐なんかあったら、好きになった人とかが出来たら、誤解されて関係がこじれちゃいそうだ。

「イクスの部屋も案内すー……」

 イクシオンの顔が近すぎというか、顔が真剣で怖いのだけど……?

「リト……」
「はい? なんでしょう?」
「番は一人に一人だ。リトに出会った以上、オレはリト以外を好きになる事は無いッ!」
「えーと、そうなんだ……?」

 番ってそういうものなんだ? 鳥の番とか『おしどり夫婦』のオシドリは毎年パートナーを替えるし、そういう感じかなー? って私は思ってたんだけど……
 あっ、でもそうしたら、もしかして……イクシオンは一生、私の事を好きでいるんだろうか?
小さく首を傾げると、おでこにキスをされてギュッと抱きしめられた。

「オレには一生、リトしか居ないんだ。頼むから、オレを突き離さないでくれ……」
「あわわわ……あの、私、こういうのは、疎いというか、番とか、よく分かんないし、あの、その……はひぃ」

 頭がパニックだ~っ!!
今、何がどうなってるのか……ううっ、というか、デコちゅーされた!
うわぁぁぁ~っ!!
心臓の音がドクンドクンで、中学生に恋愛はここまでの熱愛は早すぎる―っ!!

「イクシオン・エディウス・セラ・ヴィンダム、復唱して」
「え、イクシオン・エディウス・セラ・ヴインダム?」
「オレの愛は永遠に、リトの物だから」

 私の手を取って、手の甲にイクシオンがキスを落とすと、イクシオンの手の甲が光って『鴨』の字が黒く浮かび上がる。
十円ぐらいの大きさで、でもハッキリと読める。
刺青? でも、鴨って、私の苗字の鴨根だったりする?
我が家にだって家紋があるよー! なんか桔梗の花みたいなのだったと思うけど……あんまり自信はない! 家紋なんて早々見るものじゃないし、お祖父ちゃんの家の玄関に飾ってあるのを見たぐらいだしね。

「イクス、その手のは……?」
「リトがオレのフルネームを口にしたから、オレはリトの物になったという証明だ」
「えっと、私の手にも何か出るの?」
「それは結婚式の時に、オレがリトのフルネームを口にして、リトがキスした場所に現れる」
「えーと、それは消せるの?」
「消せない」

 マジですかー……じゃあ、かなり目立たない場所にキスしないといけないんだろうけど……結婚式で、花婿を裸にひん剥く花嫁とか怖い。
だから無難に、手の甲かなぁ……?
って、私、受け入れて良いの? 良いのかなぁ……うーん、でも、ここまで真剣なんだし、私がいつまでもはぐらかしてちゃ、駄目だよね……?

「この世界の人は、結婚も特殊なんだね?」
「一度きりしか出来ないものだからな」
「そんな一度きりを、勢いで今して良かったの? イクスはもう少し考えた方が良いよ?」
「一度きりだからこそだ。リトはもう少し、オレの愛を信じるべきだ」
「十四歳の女子に、そういうのは難しいよ! 十八まで待って!」
「ああ、だから、リトのフルネームは言わなかっただろ?」

 そういう問題だろうか? なんというか、不意打ち過ぎて、脳内処理が追い付かなくなってきたーっ!!
 まぁ、でも……もう、自分に素直になろう。私はイクシオンの事、嫌いじゃないよ?
うん、好きだと思う。
ここまでしたイクシオンが私を揶揄からかって、こんな事をしたってことは無いだろうから、十八歳になってもこの気持ちが変わらなかったら、手の甲にだろうが、おでこにだろうがキスしてやろうじゃない。
とりあえず、今は結婚(仮)状態の婚約中でいいかな?
しおりを挟む
感想 99

あなたにおすすめの小説

私の番はこの世界で醜いと言われる人だった

えみ
恋愛
学生時代には多少恋愛経験を積んできたけど、社会人になってから仕事一筋でアラサーになっても恋人が出来なかった私は、恋人を作ろうと婚活パーティに行こうとしたところで交通事故にあって死んでしまった。 生まれ変わった世界では、私は人間だったけど、獣人や人間が共存している世界。 戦争などが無く、平和な世の中なため、獣人も人化した時にはマッチョはあまり美しく思われないという美的感覚に、マッチョ好きの私は馴染めないのでやはり恋人はなかなかできない。 獣人には番だとかそういうものがあるみたいだけど、人間の私にはそういう感覚があまりよく分からないので、「この世界でも普通に仕事一筋で生きていこう。また死にたくないし。」 とか思っていたら、さっそく死亡フラグが舞い込んできました。 しかも、死ぬか恋愛するかって、極端すぎるわ…! 結構あっさり終わらせる予定です。 初心者なので、文章がおかしいところがあるかもしれません…

召喚されたのに、スルーされた私

ブラックベリィ
恋愛
6人の皇子様の花嫁候補として、召喚されたようなんですけど………。 地味で影が薄い私はスルーされてしまいました。 ちなみに、召喚されたのは3人。 2人は美少女な女子高生。1人は、はい、地味な私です。 ちなみに、2人は1つ上で、私はこの春に女子高生になる予定………。 春休みは、残念異世界への入り口でした。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

おいしいご飯をいただいたので~虐げられて育ったわたしですが魔法使いの番に選ばれ大切にされています~

通木遼平
恋愛
 この国には魔法使いと呼ばれる種族がいる。この世界にある魔力を糧に生きる彼らは魔力と魔法以外には基本的に無関心だが、特別な魔力を持つ人間が傍にいるとより強い力を得ることができるため、特に相性のいい相手を番として迎え共に暮らしていた。  家族から虐げられて育ったシルファはそんな魔法使いの番に選ばれたことで魔法使いルガディアークと穏やかでしあわせな日々を送っていた。ところがある日、二人の元に魔法使いと番の交流を目的とした夜会の招待状が届き……。 ※他のサイトにも掲載しています

【完結】あわよくば好きになって欲しい(短編集)

野村にれ
恋愛
番(つがい)の物語。 ※短編集となります。時代背景や国が違うこともあります。 ※定期的に番(つがい)の話を書きたくなるのですが、 どうしても溺愛ハッピーエンドにはならないことが多いです。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

伯爵は年下の妻に振り回される 記憶喪失の奥様は今日も元気に旦那様の心を抉る

新高
恋愛
※第15回恋愛小説大賞で奨励賞をいただきました!ありがとうございます! ※※2023/10/16書籍化しますーー!!!!!応援してくださったみなさま、ありがとうございます!! 契約結婚三年目の若き伯爵夫人であるフェリシアはある日記憶喪失となってしまう。失った記憶はちょうどこの三年分。記憶は失ったものの、性格は逆に明るく快活ーーぶっちゃけ大雑把になり、軽率に契約結婚相手の伯爵の心を抉りつつ、流石に申し訳ないとお詫びの品を探し出せばそれがとんだ騒ぎとなり、結果的に契約が取れて仲睦まじい夫婦となるまでの、そんな二人のドタバタ劇。 ※本編完結しました。コネタを随時更新していきます。 ※R要素の話には「※」マークを付けています。 ※勢いとテンション高めのコメディーなのでふわっとした感じで読んでいただけたら嬉しいです。 ※他サイト様でも公開しています

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢に転生したはずなのに!?

もふきゅな
恋愛
現代日本の普通一般人だった主人公は、突然異世界の豪華なベッドで目を覚ます。鏡に映るのは見たこともない美しい少女、アリシア・フォン・ルーベンス。悪役令嬢として知られるアリシアは、王子レオンハルトとの婚約破棄寸前にあるという。彼女は、王子の恋人に嫌がらせをしたとされていた。 王子との初対面で冷たく婚約破棄を告げられるが、美咲はアリシアとして無実を訴える。彼女の誠実な態度に次第に心を開くレオンハルト 悪役令嬢としてのレッテルを払拭し、彼と共に幸せな日々を歩もうと試みるアリシア。

処理中です...