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1章 

お土産

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 朝からシャンプーをして、群青色のリボンと銀色のリボンを髪に編み込むと、デンちゃんに騎乗用の乗り紐を付ける。
服も今日は、少しこの森では動きにくい薄い水色のフレアスカートに、パフ袖にリボンの付いた可愛いシャツ。私にしては珍しくお洒落だ。

 地図を見ていたら、イクシオンがヴァンハロー領に帰ったのが分かって、その後、こちらに向かって動き出して、今は魔窟の森に入っている様なので、私もお出迎えの準備をしているわけだ。

「ゲッちゃん、そろそろ行こうか!」
「ゲーキョ」
「デンちゃん、行くよー!」
「ワオン!」

 肩にゲッちゃんを乗せて、デンちゃんに跨ると小屋を出てゆっくりと出発する。
少し浮かれてるかなー? という気もしないでもない。
でも、一ヶ月以上会っていないし、少しソワソワしてしまうのは仕方がないと思う。
黒い大地の前でウロウロと、まだかなーまだかなー? と、待つ私はデートの時間に早く聞過ぎて、駅前で落ち着きのない子のようだ。

 いやいや、デートじゃない。うん、遊びに来てくれるだけ……って、それはお家デートというんじゃ? 
違うよー! 私はただ、イクシオンが討伐で疲れているだろうから、この大自然溢れる森の中で、周りの人達から特別扱いされずに、素のままゆっくりしてくれたらと、思っているだけ。
 そりゃ、お洒落はしたけど、私も年頃の乙女だからね。うん。
少しは異性の前では精一杯のお洒落というか背伸びはしたいんだよ。これは女の子なら普通の事だよ。そうそう、普通の事。
誰に言い訳してるんだ? と、頭の隅で自分に自分でツッコミを入れる。

「ゲーキョ、ゲキョキョ」

 ゲッちゃんがぐるぐると回り出し、獣騎に乗ったイクシオンの姿が見えた。
槍を手に持っていて、黒い大地との境目で立ち止まると、すぅと目を細めて上を向くと、アオオォーンと遠吠えを上げる。
その姿に胸がトクンとして、見惚れてしまった……顔が良過ぎるんだってば! と、少し頬が赤くなってしまう。

「イクス、いらっしゃい」

 少し照れながら、魔窟の森に踏み出すとイクシオンが微笑む。

「リト、凄く会いたかった」
「うん。久しぶりだね。今日はゆっくり出来るの?」
「ああ、ガリュウに後は任せてきたからな」
「帰ったばかりなのに、報告とかいいの?」
「よく帰ってきたばかりだとわかったな? そんなに酷い恰好か?」
「ううん。地図でイクスが移動してるの見てたから」
「地図?」
「そっ、イクスが動くとヴインダムのマークが動くの。私の部屋に飾ってあるから、見てみて」

 イクシオンの手を掴んで聖域の森へ引っ張ると、獣騎ごとイクシオンが聖域の森へ入ってくる。

「ワオン!」
「デンも元気そうだな」

 デンちゃんはイクシオンに尻尾をバタバタ振っていて、デンちゃんは私よりイクシオンの方が好きだよなぁ……と、思わないでもないよ。
 小屋に向かいがてら、討伐の話を聞いたり、部隊の人達の様子とかお屋敷の人達の事を聞いて、あっという間に小屋に着くと、獣騎からイクシオンが下りて、獣騎の背中から荷物を下ろしていく。

「随分凄い荷物だね? 討伐の着替えとかそのままなら、洗濯するよ?」
「ああ、これはリトへの土産だ。屋敷の連中からの土産も入ってる」
「ええ!? うわぁ、ありがとう~ッ! お礼とか考えなきゃ!」
「また屋敷に顔を出してくれれば、それでいいよ」

 小屋のドアを開けてイクシオンを中に入れて、デンちゃんの足を拭いてドアを閉める。
ゲッちゃんは私の肩から降りると、イクシオンが持ってきたお土産の袋の上を突きまわしている。

「お前にも土産があるぞ。ほら、討伐先で摘んできた木の実だ」
「ゲキョキョ」
「ゲッちゃん良かったねー」
「デンには、ウィリアムから闘牛骨を貰ってきたぞ」

 何やら変な筒があると思えば、中からは巨大な骨が出てきて、イクシオンがデンちゃんにそれをあげると、デンちゃんは骨にかぶりついて夢中になってゴリゴリと音を立ててる。
ご立派な骨を……これはウィリアムさんにお礼を言っておかなきゃいけない。
あれ? デンちゃんってば、この骨の匂いでイクシオンに飛びつかんばかりの歓迎をしていたのかも? 食い意地の張ったワンコめ。

「リトには、この間、王都に行った時に見付けたお菓子だ」

 デンッとテーブルに置かれた瓶に入ったクッキーとジェリービーンズ。
なにやら、お菓子屋さんで蓋を開けて買うタイプの大容量サイズなのだけど……
これはしばらくはお菓子は要らないかも?

「凄い~! 大事に食べるね!」
「ああ、ここだとお菓子は手に入り難そうだからな」
「えへへ。それが一番の問題かもしれない」

 お菓子だけは自作するしか無いしね。でも、お菓子を作る余分な食糧は無いんだよね。作るならパンケーキとかお腹に溜まる物じゃないと!
この間、買ってもらったキャンディーも、チビチビ食べてるから、あまり減った感は無いかな?

「後は、ウィリアムがプリンを作ってガラス瓶に入れているから、ゆっくり食べてくれ。作り方のレシピも張り付けてあるそうだ」
「プリン!? ウィリアムさん好きぃぃ~ッ!!」
「……リト、婚約者の前で、他の男に『好き』は無いだろ?」
「あー、えへへ……プリンは好物だから、つい」

 プリンは子供の頃から好きなんだから仕方がない。
ただ、牛乳が必要だった気がするから、作れるかは微妙なんだけどね。
プリンの入ったガラス瓶に付けてあったメモを、イクシオンが剥がすと、たたんで胸ポケットに入れてしまう。

「プリンは今度から、オレが作って持ってくる」

 良い笑顔で言われて、「……はい」としか言えなかった私は悪くない。
だって、笑顔の奥に殺気だった物を感じ取ったから、危険は回避したいところだ。
野生の勘は馬鹿にしちゃいけない。 
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