やさぐれモードの私はもふもふ旦那様を溺愛中

ろいず

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1章 

便利な生活

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 朝の静寂が森に響き、微かに鳥のピィーと甲高く鳴く声がしている。
その静寂を壊すのは、デンちゃんのご機嫌な足音だ。
バサバサと羽音がしているので、今日も鳥を捕まえて帰ってきたのかと、音のする方を見れば、デンちゃんの口からは、鶏より少し大きめの黒い羽に赤い羽根の付いた鳥が暴れている。

「はい。デンちゃんお利口さん~」
「ワフッ!」
「よっ! んじゃ、ごめんね鳥よ」

 鳥の両足に蔓を縛り付け、木に吊るすと包丁でスパンッと首を落とす。
直ぐに離れないと血が飛び散って服に付くので、ここは気を付けなきゃいけない。
慣れて来てしまった生活に、いささか、ヴァンハロー領ではお肉状態にされていた物を料理に使っていて、楽だったなぁと思わないでもない。
これが都会の便利さに慣れて田舎に帰れない若者心理か!?
いや、今の日本じゃどこも大差ないかな? 

 テレビで田舎はコンビニに行くのに山一つ越える……とかやってたけど、山一つならいいよね……ここじゃ、コンビニはおろか、街に行くのも数時間コースだからね。
それなのに、着いたヴァンハロー領は田舎だと言うから、都会はどうなってるんだろう? って思っちゃう。

「さぁ、デンちゃん次々持っておいで―」
「ワフーン!」

 元気にデンちゃんがまた走って行って、私は弓を引く。
私が持っている弓は練習用で、弦の所が少し柔らかくなっている。
これを毎日引いてトレーニングして、慣れてきたら本物の弓に入る……と、イクシオンの部下の人達が教えてくれて、弓の弦で手や指先を痛めない様に、なめした革で作った弓用のグローブも貰った。
まぁ、練習用でも弦は少し硬くて力がいるんだけどね。
いつか本物を綺麗に引いて見せたいところ。

「ふんぬー!」
「ゲキョキョキョキョ」
「ゲッちゃん、笑ったでしょー? 結構これ硬いんだよー」
「ゲキョキョ」

 ゲッちゃんは相変わらず、人を小馬鹿にした声で笑った様な反応をしていて、本当に『聖鳥』という御大層な鳥なのか怪しいところだ。

「ゲーキョ」
「ゲッちゃん、美味しい木の実あった?」

 コパッとゲッちゃんが私の手に木の実を吐く……うん、これは頬袋に溜め込んだ木の実でね、求愛行動や嬉しい時にやるものなんだけど、ゲッちゃんのは見せてくれるだけ。

「あ、うん。ゲッちゃん見せてくれて、ありがとう。ちゃんと食べていいよ」

 鳥の習性にも少し慣れてきた私だったりする。
弓の練習をして、デンちゃんがまた鳥を捕まえてきて、新しいのを血抜きする間に、先程の血抜きした鳥をお湯に潜らせて羽をむしり取る。
このお湯に入れた時の羽が残念なボロボロ状態が、熱くて手が火傷しそうになって困ってたんだけど、軍手を買ってもらったから、川の水で冷やしながらムシムシと羽むしり。
少し残った羽も少し火で炙れば取れるので、むしり取れば見慣れたお肉状態だね。
内臓取らなきゃいけないけど……

 デンちゃんのジャーキーが少なくなり始めてるし、一羽はジャーキーをいっぱい作ろうかな?
もう一羽はデンちゃんのご飯行きだなぁ。もう一羽獲れたら私のお肉確保なんだけどね。
デンちゃんの体が大きくなってからは一羽丸ごと食べているので、今年の冬越えは一日一羽を確保して考えなきゃいけないから……鶏肉だけで、備蓄庫が埋まってしまいそうな予感がする。

「まずは、備蓄庫をもう一つ建てるべき? いや、素人がいきなり作れるかは分からないから、棚とか試作で作って慣れてからにしよう」

 デンちゃんが鳥をもう一羽咥えて来たから、これで私のお肉も確保出来た。
血抜きをして、さばき終わると小屋に戻って、お肉の解体をする。骨抜き作業が結構面倒くさかったんだけど、コツさえ掴めば簡単になってきた。
鳥の足の骨に沿って、円状に切れ目を入れて、そこからお肉をひっくり返すとツルーッと、剥ぎ取れる。
鶏肉コーナーのアルバイトがあったら、私は働けそうだ。

 と、いうかだ……、私は別に森の外で生きても良いのだろうけど、住む家が無くてここに住んでるけど、街とかでコツコツお金を稼いで、家賃を払いながら生きていければ、ここでなくても良いんだろうけど、ゲッちゃんやデンちゃんが居るから、そうもいかないのが現状。

 それに、何だかんだで、この生活は気ままで良いよね。
全部自分でしなきゃいけないのは大変だけど、生きていけない訳じゃないから、毎日何をするか何をやるか考えるのも楽しいし、多分、性に合ってるんだろうね。うん。

 お肉をジャーキー用の薄切りと、デンちゃん用のご飯用に分けて、残りは私のご飯用一羽で四日は持つから、明日はデンちゃんのご飯分だけ確保できるようにしよう。
ジャーキー用の薄切りお肉を網籠に入れて 庭先の風通しのいい場所に干す。
ついでに畑に水を撒いて、洗濯物を取り込む。

 洗濯物も干すところを作った!
簡単な物だけど、物干し竿を立てる木を埋めて、ロープを掛けた。
木で作られた洗濯ばさみが売ってたから、これも買ったので、ハンガーという名の十字架はお役目御免になったよ。
ハンガーは、この世界でもあってね、大工さんの所で見習いさんが最初に作る練習用の木がハンガーだから、無料で配られてて、私も貰って来た。
私の生活も少しずつ便利になってきた。
街は良いね! 今度また何かお役立ちな物があれば手に入れたいところです。
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