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1章 

ファンシーアイドル隊長

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「悪いな。むさ苦しい奴等ばかりで、リトの様な少女には縁が無いから、どうもはしゃぎ過ぎた様だ」

 折角、お屋敷で綺麗な詰襟の制服に着替えて来たのに、イクシオンは既に詰襟を脱いで、シャツ姿になってガリュウさん達と喧嘩祭りの終了後でボロッとしている。
やれやれ、困ったお兄さん達だ。

「大丈夫?」
「いつもの事だから心配ない」

 いつもの事とは、軍の人達は自分達を痛めつけることが好きな人達なの?
いや、でも、動物って仲間同士でじゃれ合うから、そう思えば獣人の人達にとっては日常茶飯事なのかな?

「ガリュウ、お前に渡した包丁の鞘はまだあるか?」
「ああ、持ってる。でも、まだ何の役に立つのか皆目見当もつかないぞ? 国王も、何が『魔法の武器で間違いないのなら、褒美はこれでよかろう』だよ……ったく」

 ガリュウさんが自分の机らしきものを漁って、氷色の熊のファンシーな包丁の鞘を取り出す。
ライオン獣人とファンシーな包丁鞘……シュールだ。
イクシオンに包丁の鞘を渡して、イクシオンは私のリュックサックからタオルに包んだ氷色の包丁を取り出す。

「おいおい。イクシオン、そいつはどうしたんだ?」
「オレのリトが魔窟の森の奥で暮らせてる理由だ。大型魔獣を一人で倒して、これを手に入れたらしい」

 ガリュウさんが目を大きく開いて私を見るけど、私はイクシオンの尻尾に顔を隠しておく。
魔法の武器は内緒にしておいた方が良いらしいから、余計な詮索はノーセンキューなのだ。
あと、イクシオン、私はいつからイクシオンの物になったのやら? 誰が誰のだというのか?
尻尾にフーッと息を吹き込みながら、訴えておく。

「あの時の大型魔獣の討伐国はどこか分からなかったが、こんな小さい子がよくまぁ、倒せたもんだな」
「オレの番なだけはあるだろう?」
「普通に部隊に欲しいな」
「姐さん……」
「姐さん」

 誰が姐さんだ! なんかゾンビみたいな部下の人達怖いわ!
 ブンブンと首を横に振ると、「こんなむさ苦しい所に、リトを置けるか!」とイクシオンが、ガルルと唸って、鞘に包丁を仕舞う。

「どうという事もないな。大型魔獣から落ちたから、何か効果でもあるかと思ったんだが」
「でも、包丁に鞘欲しかったし、丁度良かったよ!」

 これで持ち歩くときにむき身で持たない分、怪我もしなくなったと喜ぶべきだろう。

「試し切りでもしてみるか?」
「そうだな。練習場に行ってみるか」

 ガリュウさんとイクシオンと一緒に本部を出ると、部下の人達に「また来てねー」と手を振られた。気さくなお兄さん達の様で、イクシオンの周りの環境って恵まれているんだなとか思ったりした。

 練習場という名の広場に行くと、部下の人達に「隊長だー!」とまた囲まれて、イクシオンが少しうんざりした顔になっていたけど、嬉しそうな部下の人達に「生きてるから、安心しろ」と言ってもみくちゃにされていた。

 私はガリュウさんと少し離れたところでその様子を見ていた。

「リト、だったか? イクシオンを助けてくれた話は本当なのか?」
「一応、本当です」
「あいつを利用しようって腹ならやめとけ。お嬢ちゃんみたいなのが、国盗りなんて狙うもんじゃねぇぞ?」
「国盗り? 利用はして、なくも無いかな? ここに来たのも、食材とか、足りない物資を教えてもらう為に、イクスについてきてもらったので、それが終われば、また森に私は帰ります」
「あいつの番なんだろ? 婚約者って言ってたのに、森に引き籠るとか有り得るか?」
「うーん、私十四歳ですよ? 番とか婚約者って分かんないですし、それに、イクスがこの街で大事にされているみたいだから、心配ないかなって」

 心配してくれる人がいるのは良い事だ。
若干、棘がある言い方だったけど、イクシオンを心配しての事だろうからね。
私は中学生だけど、そういうのは空気が読めるつもりである。

「オレの従弟の子供もリトと同じ年ぐらいで、悟った事を言うが、今時の若い子はそんなもんなのか?」
「子供って、意外と大人を見てるんですよ?」
「そういうもんなのかね? まぁ、あいつが何か動くときは国がひっくり返る騒動に発展しかねない。そういう所を踏まえて気を付けてくれ」
「はぁ……そういうものですか?」

 少し首を傾げて、隊長ってそういう力がある者なの? 国中を熱狂させるアイドルか何かかな? とか考えて、笑ってしまって、ガリュウさんに不思議そうな顔をされた。

「リト、待たせて悪い」
「いえいえ、それじゃ試し切りしましょうか?」
「いつもの斧にやるみたいに振ってみるか?」
「そういえば、そういうのはしたこと無いね」

 イクシオンがファンシーな熊の鞘から、ファンシーな熊包丁を真剣な顔で出す姿を見て、ファンシーアイドル隊長という名前が頭に浮かんで、口を押さえながら笑いをこらえるのに少し苦労した。

「いくぞ」

 コクコクと頷いて、イクシオンが練習用の丸太の付いた案山子に向けて、包丁を振ると、シュワッと白い冷気が出て、案山子が凍りながら斬れた。
私のマイ包丁が魔法の包丁だった。

「おいおい、これは……」
「どうやら、魔法の武器、だな」
「どうするんだ? 国王に知らせるか?」
「いや、オレ達は褒美に貰ったのだから、報告する義務は無いし、それにこの包丁はリトの物だからな」
「そうだな。まぁ、魔法の武器は秘匿しておく方が良いだろうしな」

 二人でコソコソ話し合いをしている様だけど、後ろで部下の人達が目を輝かせている方を、気にした方が良いと思う。
この後、部下の人達にも他言無用だと言っていたけど、どうなるやら?
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