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1章
本部の人達
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イクシオンのお屋敷を出ると、お屋敷の人達が屋敷に垂らしていた黒い布を仕舞い込んでいた。
あれは人が亡くなった時に、『このお家の人が亡くなりました』という事を告げるものらしい。
お屋敷の人達に「いってらっしゃいませ!」と声を掛けられつつ歩いていると、デンちゃんとゲッちゃんが屋敷の庭で首を傾げていた。
「ゲッちゃん、デンちゃんお留守番お願いね」
「ゲーキョ」
「ワフーン」
流石に街中では目立ちすぎるので、お屋敷の人達が私達が出掛けている間は責任を持って、面倒を見てくれるらしい。
コックのウィリアムさんが作ってくれた部隊の人達への差し入れをバスケットに持って、私はイクシオンの後をついて歩く。
「イクスって、呼ばないと駄目?」
「イクスで無ければ、シオンでも良いぞ?」
「……イクスと呼ばせてもらいます。そんなに婚約者って、言わなきゃいけないもの?」
「婚約したことを周りに示しておかないと、リトがうっかりフルネームを言ったら目も当てられない」
「そうですかー……」
この世界の婚約や結婚のシステムはよくわからないけど、まぁ、私はそんなに長くこの街には居ないから、少しの間は婚約者で良いのかな?
もし本当に結婚しても十八歳までは何も無いだろうしね。
「イクシオン公爵! ご無事だったのですね!」
「イクシオン様よ!」
歩くたびに、街の人から声を掛けられたり、騒がれたりで泣いている人も居たし、イクシオンは随分とこの街の人々に慕われているみたいだ。
イクシオンは一人一人に対応していて、キリッとした姿に、私の前で見せる情けないお兄さんは何処に行ったのやら?
狼なのに猫かぶっているんだろうか?
しばらくして、大きな広場と木の柵で囲まれて、イクシオンの着ている詰襟と同じ物を着た、兵士の様な人達が練習をしている所に着いた。
奥の方には木造りのロッジが集合したような宿舎があって、そこから少し離れた場所に白い建物が立って居て、イクシオンはその白い建物に向かっているらしい。
「リト、本部に顔を出して挨拶をするから、オレの側から離れないようにな?」
「離れたら危ないの?」
「馬鹿が多いから、リトが巻き込まれて怪我でもしたら、大変だからな」
なんか隊長のくせにサラッと馬鹿が多いとか言いましたよ?
まぁ、そう言える分、仲が良いのかな?
イクシオンの後ろにピッタリくっついて歩くと、尻尾が目について、サワサワと尻尾を触りながらついて歩く。
モフモフたまらん!
お風呂に入って、サラサラ度がアップしてるし、なんか凄くいい香りがしてる!
けしからん! 是非、後でブラッシングをさせて貰おうか!?
ガラッとドアを開けてイクシオンが本部とやらに入ると、シンッと静まり返った後で「今、帰った。留守にして悪かった」とイクシオンが言うと、「あ、あ、あ、あああああっ!!」と大きな声がワッと上がり、本部にいた人がイクシオンの元へ我先にと集まる。
「イクシオン! お前、無事だったのか!?」
「ああ、残念ながら生きている」
「もう死んだかと思ったんだぞ! 葬式もしたしな!」
「そのまま死んだことにしてくれると、非常に助かるんだが?」
「お前、今までどこで何してたんだ?」
「死ぬところだったのを、番のリトに助けて貰って、この通りだ」
何かライオンっぽい獣人の人にイクシオン、ばしばし叩かれるけど、塩対応な反応してるなぁ。
部下の人達はウズウズと飛びつきたさそうにしてるし、イクシオンこの街で滅茶苦茶好かれてる気がする。
「番? ああ、お前、婚約紐結んでるな。へぇー、じゃあ怪力な嫁さん貰うのか」
「ええ!? 隊長の番ってあの魔窟の森に棲んでるんでしょ!?」
「どんな女性なんです!? あんな所で生き抜けるなんて、部隊に欲しい人材ですよね!」
おいおい。怪力嫁ってなんぞ?
魔窟の森の奥だから、まぁ、間違ってないのかな?
あんな場所で生き抜いたサバイバル女子ですが?
「オレの尻尾を握って放してくれないのが、婚約者のリトだ」
「は?」
「ん?」
「あっ」
「なっ!」
尻尾をにぎにぎしながら、部下の人達を見上げると、視線が私に向かった後で何故か、ライオン獣人さんが部下を殴った。
「痛ってぇぇ! ガリュウさん酷い!」
「痛いなら、本当か」
「隊長、こんな小さい子……本当に魔窟の森に居たんですか?」
「またまた、ご冗談でしょ?」
何だか酷い言われようじゃない?
小さくとも成長期、そのうち大きくなるんだから、言った奴覚えてなさい?
と、言うか、この人達殴り合って「夢じゃないだと?」とか言うの、止めた方が良いと思う。
「リト、オレの補佐官のガリュウ、部下のイデア、エース、カルミアスだ」
「初めまして、イクスの婚約者のリトです。よろしくお願いします」
深々と頭を下げて、挨拶は基本の日本の教育を見るが良い!
「イクスのお屋敷のコック長ウィリアムさんから、皆さんに差し入れです。よろしかったら召し上がって下さい」
極めつけの差し入れという名の袖の下! どうだ!
私もこれぐらいの猫かぶりは出来るのだよ?
「リト……ッ!」
いや、イクシオン、何であなたが一番感動して打ち震えているのか……
ライオン獣人のガリュウさんに笑顔で差し入れのバスケットを手渡して、イクシオンの後ろに戻って再び、尻尾をにぎにぎしていると、バッと両手を広げたガリュウさんと部下の人達。
「オレのリトに近付くんじゃない!」
「それをくれ!」
「それとか言うな!」
「隊長、触らせて!」
「触るな! 去れ!」
ワーッと、イクシオンと部下の人達が私を取り合っての攻防が繰り広げられ、馬鹿が多いというのはイクシオンも含めてのようだと、少し半目になりながら、見ていたけど、動物目線で見れば、私が子猫とか「かわいいー触りたーい」と騒いでいるような物なのかな? と、思わなくもない。
あれは人が亡くなった時に、『このお家の人が亡くなりました』という事を告げるものらしい。
お屋敷の人達に「いってらっしゃいませ!」と声を掛けられつつ歩いていると、デンちゃんとゲッちゃんが屋敷の庭で首を傾げていた。
「ゲッちゃん、デンちゃんお留守番お願いね」
「ゲーキョ」
「ワフーン」
流石に街中では目立ちすぎるので、お屋敷の人達が私達が出掛けている間は責任を持って、面倒を見てくれるらしい。
コックのウィリアムさんが作ってくれた部隊の人達への差し入れをバスケットに持って、私はイクシオンの後をついて歩く。
「イクスって、呼ばないと駄目?」
「イクスで無ければ、シオンでも良いぞ?」
「……イクスと呼ばせてもらいます。そんなに婚約者って、言わなきゃいけないもの?」
「婚約したことを周りに示しておかないと、リトがうっかりフルネームを言ったら目も当てられない」
「そうですかー……」
この世界の婚約や結婚のシステムはよくわからないけど、まぁ、私はそんなに長くこの街には居ないから、少しの間は婚約者で良いのかな?
もし本当に結婚しても十八歳までは何も無いだろうしね。
「イクシオン公爵! ご無事だったのですね!」
「イクシオン様よ!」
歩くたびに、街の人から声を掛けられたり、騒がれたりで泣いている人も居たし、イクシオンは随分とこの街の人々に慕われているみたいだ。
イクシオンは一人一人に対応していて、キリッとした姿に、私の前で見せる情けないお兄さんは何処に行ったのやら?
狼なのに猫かぶっているんだろうか?
しばらくして、大きな広場と木の柵で囲まれて、イクシオンの着ている詰襟と同じ物を着た、兵士の様な人達が練習をしている所に着いた。
奥の方には木造りのロッジが集合したような宿舎があって、そこから少し離れた場所に白い建物が立って居て、イクシオンはその白い建物に向かっているらしい。
「リト、本部に顔を出して挨拶をするから、オレの側から離れないようにな?」
「離れたら危ないの?」
「馬鹿が多いから、リトが巻き込まれて怪我でもしたら、大変だからな」
なんか隊長のくせにサラッと馬鹿が多いとか言いましたよ?
まぁ、そう言える分、仲が良いのかな?
イクシオンの後ろにピッタリくっついて歩くと、尻尾が目について、サワサワと尻尾を触りながらついて歩く。
モフモフたまらん!
お風呂に入って、サラサラ度がアップしてるし、なんか凄くいい香りがしてる!
けしからん! 是非、後でブラッシングをさせて貰おうか!?
ガラッとドアを開けてイクシオンが本部とやらに入ると、シンッと静まり返った後で「今、帰った。留守にして悪かった」とイクシオンが言うと、「あ、あ、あ、あああああっ!!」と大きな声がワッと上がり、本部にいた人がイクシオンの元へ我先にと集まる。
「イクシオン! お前、無事だったのか!?」
「ああ、残念ながら生きている」
「もう死んだかと思ったんだぞ! 葬式もしたしな!」
「そのまま死んだことにしてくれると、非常に助かるんだが?」
「お前、今までどこで何してたんだ?」
「死ぬところだったのを、番のリトに助けて貰って、この通りだ」
何かライオンっぽい獣人の人にイクシオン、ばしばし叩かれるけど、塩対応な反応してるなぁ。
部下の人達はウズウズと飛びつきたさそうにしてるし、イクシオンこの街で滅茶苦茶好かれてる気がする。
「番? ああ、お前、婚約紐結んでるな。へぇー、じゃあ怪力な嫁さん貰うのか」
「ええ!? 隊長の番ってあの魔窟の森に棲んでるんでしょ!?」
「どんな女性なんです!? あんな所で生き抜けるなんて、部隊に欲しい人材ですよね!」
おいおい。怪力嫁ってなんぞ?
魔窟の森の奥だから、まぁ、間違ってないのかな?
あんな場所で生き抜いたサバイバル女子ですが?
「オレの尻尾を握って放してくれないのが、婚約者のリトだ」
「は?」
「ん?」
「あっ」
「なっ!」
尻尾をにぎにぎしながら、部下の人達を見上げると、視線が私に向かった後で何故か、ライオン獣人さんが部下を殴った。
「痛ってぇぇ! ガリュウさん酷い!」
「痛いなら、本当か」
「隊長、こんな小さい子……本当に魔窟の森に居たんですか?」
「またまた、ご冗談でしょ?」
何だか酷い言われようじゃない?
小さくとも成長期、そのうち大きくなるんだから、言った奴覚えてなさい?
と、言うか、この人達殴り合って「夢じゃないだと?」とか言うの、止めた方が良いと思う。
「リト、オレの補佐官のガリュウ、部下のイデア、エース、カルミアスだ」
「初めまして、イクスの婚約者のリトです。よろしくお願いします」
深々と頭を下げて、挨拶は基本の日本の教育を見るが良い!
「イクスのお屋敷のコック長ウィリアムさんから、皆さんに差し入れです。よろしかったら召し上がって下さい」
極めつけの差し入れという名の袖の下! どうだ!
私もこれぐらいの猫かぶりは出来るのだよ?
「リト……ッ!」
いや、イクシオン、何であなたが一番感動して打ち震えているのか……
ライオン獣人のガリュウさんに笑顔で差し入れのバスケットを手渡して、イクシオンの後ろに戻って再び、尻尾をにぎにぎしていると、バッと両手を広げたガリュウさんと部下の人達。
「オレのリトに近付くんじゃない!」
「それをくれ!」
「それとか言うな!」
「隊長、触らせて!」
「触るな! 去れ!」
ワーッと、イクシオンと部下の人達が私を取り合っての攻防が繰り広げられ、馬鹿が多いというのはイクシオンも含めてのようだと、少し半目になりながら、見ていたけど、動物目線で見れば、私が子猫とか「かわいいー触りたーい」と騒いでいるような物なのかな? と、思わなくもない。
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