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1章 

街に出発

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 スカイブルーに黄色い染め汁で染められ、若干じゃっかん、黄緑色になっているゲッちゃんにフード付きコートを着せておいた。
軽い布生地でテルテル坊主にしただけなので、飛ぶのにも支障は無いだろうけど、ゲッちゃんは不服らしく、私の髪をくちばしで引っ張っては、髪をぐしゃぐしゃにして丸めていく。
それを後ろに座っているイクシオンが、手で直すのを繰り返すという堂々巡り。

 デンちゃんに乗って、『魔窟の森』を通過中で、イクシオンは武器の部屋から槍を持ってきていて、魔獣が出ても槍で上から突き刺して突破している。
槍は魔法の槍の中でも、一番魔法を使っていると思わせない、使用者の力を倍増するというもので、派手さはない……かなぁ? 槍自体には無い……が、魔獣の死体は見るも無残な姿にされるので、もしこれが映像で流されたら、モザイクがかけられているだろうぐらいには、死体だけは派手な感じ。
もし、私が解体に見慣れていなかったら、デンちゃんの背中は、朝食べた物で汚していたかも?
慣れててよかった解体作業……いや、慣れちゃいけないのかな?

「魔法の武器は、槍で良かったの?」
「ああ。下手にあんな魔法の派手な物は世には出せない」

 確かに炎がボフンと空に打ち上がったり、ヤバかったからねぇ。
ちなみに杖とかを使わずに魔法を放って貰ったら、雲泥の差というか、線香花火と打ち上げ花火の違いくらい違う。
もちろん、線香花火も舐めてかかると火傷するから、バカには出来ないんだけどね。

「デンの速度と、魔獣が一刺しで終わるから、半日あれば辿り着くと思うが、リトは疲れてないか?」
「大丈夫! とってもワクワクしてるよ!」

 獣人の街……モフモフパラダイスが私を待っている!
それを思えば、たまに魔獣がバッと出てきて、脅かされて「ぎゃわっ!」とか、変な悲鳴出すことぐらい何ともない。
心臓には悪いけどね。

 街に行ったら、少しは物々交換の様な感じで何か手に入らないかな? と思って、傷薬を瓶に詰めてきた。
高級な傷薬と言うからには、売れるかもしれないし、もしくは何かと交換してもらえるかも? と、思っているんだよね。
ゼキキノコも干したものが残っていたから、一応持ってきた。
漢方の薬売り場とかに売れやしないかな? という、せせこましい私である。

 お金無いしね。イクシオンもお金は置いてきてしまったらしいので、この世界の通貨は私は見たことが今のところない。
でも、硬貨の裏と表には盾に狼がかたどってあるそうで、イクシオンの指輪があれば、店の買い物なんかは、店の書類に指輪で判子を押せばいいらしい。
イクシオンの口座から後で徴収ちょうしゅうされるのだとか。

 だから、イクシオンの指輪は私では買い物の仕方も判らないので、イクシオンに返しておいた。
すっごい嫌な顔されたけど、銀行口座を渡されたような物だと知って、黙って指に付けていられない。無くしたら財産が無くなるんだよ? そんな責任取れないし、冗談ではない!

 他に持ってきた物はデンちゃんのジャーキーと、ゲッちゃんの木の実の入ったガラス瓶。
飲み物と簡単な食べ物も入ってる。
後は着替えなんだけど、イクシオンが着替えとかは用意するというから、下着だけ持ってきた。
下着は三枚しか無いから、街で良い下着が売ってればいいんだけどなぁ。

「デンちゃん、疲れてない? 大丈夫?」
「ワオン!」

 デンちゃんもまだイケる様だし、順調と言って良いかな?
黒い森は薄暗いし、不気味さ満点な絵本の魔女の森っぽくはあったけど、ようやく『魔窟の森』出た時、そこに広がったのは赤錆びた大地の広がる荒野だった。
赤い山と大地、岩がゴロゴロしていて、申し訳程度に草木が生えている。

「赤い場所だね」
「この赤い平地は、リトの居た聖地と魔窟の森を一周して囲んでいる。この赤い平地を一周すれば、他国を寄って回れる。まぁ、国の外の海にある国は船になるけどな」

 そういえば、小屋にあった地図でも聖域と黒い森を中心に赤い大地が周りを囲っていて、それを中心に花の様に色んな国が集まっていたっけ?
今度イクシオンに地図はアレで合ってるのか聞いてみよう。

「この赤い平地は色々な商人や旅人が通る事もあって、魔獣は滅多に出ない」
「じゃあ、戦闘はもう終わりだね」
「あと一時間も掛からずにヴァンハロー領に着くから、それまでは気は抜けないがな」
「あっ、イクシオン、お水飲む?」
「リトから先にどうぞ」
「じゃあ、お先に」

 ガラス瓶に氷と水も入れてきているから、水分補給もバッチリ。
やっぱり、氷があると水も冷たくて美味しい!
飲み過ぎないように喉が潤ったら、イクシオンに水入りのガラス瓶を渡してから、あっ、コレは間接キスにカウントされる!? と、心の中が大騒ぎである。
イクシオンを見上げると、普通に水を飲んでるし、私の気にしすぎなのは判るんだけどね?
やっぱり、婚約者だとか好きな子とか言われて、意識しないわけないし……

「ん? どうした?」
「ううん。何でもないよ! ヴァンハロー領って意外と近いんだね」
「ああ、田舎だからな」
「田舎だと近いの?」
「この世界は赤い平地にある街ほど田舎で、外側の海側に行くほど都会なんだ」
「そうなんだ? じゃあ、私はド田舎に居たんだね」

 まぁ、野生児の様に、鳥を捕まえてさばいて食べちゃう生活は、ド田舎と言われても仕方がない。
  
「聖地はお伽話とぎばなしの中でしか語られていない人が入り込めない場所だから、田舎と呼んでいいかはわからないな」
「いや、でも普通に自給自足で森だらけだから、田舎で良いと思う」
「リトの眼には聖域から立ち上がっている白い光は見えるか?」

 後ろを振り返って、自分が居た森を見るけど、白い光なんて無い。

「ううん。何も無いよ?」
「オレには、薄っすら白いベールが空から掛かっている風に見える。リトがオレを聖域に入る事を許可したから、少し見えるようにはなったが、普通なら白い光で中に森があるのかもわからない」
「へぇー……そうなんだ? お伽話の世界へようこそ?」

 茶目っ気を出してそう言って笑うと、後ろからギュッと抱きつかれて頭をスリスリとされてしまった。
イクシオンはどれだけ甘える人なのやら?
これでは、どっちが大人か分からない。ただ、イクシオンの尻尾がパタパタ音を立てていて、私としては、イクシオンの尻尾の方が気になるから、帰りはイクシオンに前に乗ってもらおう。
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