やさぐれモードの私はもふもふ旦那様を溺愛中

ろいず

文字の大きさ
上 下
38 / 167
1章 

医療行為です

しおりを挟む
 口を開く、その人の言葉に私は少しガッカリした。

「オレノ、ツガイ……ッ」

 駄目だ。『オレノツガイ』という言葉が解らない。
この世界の人と私には言葉の壁があるようだ……
折角、自動翻訳で本とかは読めるのに、声に出しての言葉が解らないんじゃ当分は文字の練習をして、言葉の発音を覚えなきゃいけない……

「お兄さん、ここは危なそうなので移動出来ますか?」

 ゼイゼイ息をしている人に、無茶ブリだけど……そもそも言葉が通じているかも分からないけど、とりあえず、デンちゃんに屈んでもらって、お兄さんを起き上がらせつつデンちゃんの背中に乗せる。
このお兄さん、細身に見えて意外とガッシリしてたよ。筋肉で重いっ!

「ゲキョキョ」
「ゲッちゃん、帰るよー」
「ゲキョー」

 ゲッちゃんがぐるっと回って、デンちゃんの頭に乗り、私もデンちゃんに乗ってお兄さんが落ちないように、片手で押さえつつ片手はデンちゃんの乗り紐を握って小屋に帰る。
お兄さんは気を失ったようで、小さく浅い息だけを繰り返していた。

「よし、まずはー……お湯を沸かして、その間に服を脱がせて傷の具合を診る!」

 この生活で段取りを決めるのは、もはやクセのような物かな?
まずはかまどに火を入れてお湯を沸かし、濡れタオルもついでに作った。

「お兄さん、服、脱がせますからねー」

 言葉が通じているか、意識があるかもわからないけど、声を掛けつつ群青色の詰襟つめえりを脱がしていく。
意外と留め金の造りがしっかりしてるから、外しにくいのが難点。

 ちなみに、ベッドまでは運べなかったから暖炉の前の床でやってます。
十四歳の細腕に、この細マッチョは担げないよ!

「よいっしょ!」

 お父さんの服すら脱がしたこと無いのに、知らない男性の服を脱がすとか……
でもねぇ、怪我人を放置も出来ないからねー。
なにより、紳士さんかもしれないし、冬を越せたのは紳士さんのおかげだから恩人には恩で返さないとね。
まっ、元気になったら……その素敵なお耳と尻尾をモフモフさせて欲しいけどね!
これ大事。
ついでに言うと、紳士さんに貰ったケープのファーが、お兄さんの尻尾の毛と手触りが似てて、「もしや?」とか思ったりね……
『まだ見ぬ君』さんに、自分の毛で作ったファー付きケープを贈ったの!? と、ちょっとそこを詳しく聞きたいところだ。

「失礼しますねー」

 流石に、詰襟は脱がすのは躊躇ちゅうちょしないけど、中のシャツを脱がせるのは恥ずかしいね。
でも、シャツに血が滲んでいるから、私が恥かしがっててもいけないだろう。
シャツのボタンを外して、胸を開くとお兄さんは古い傷跡から、新しい傷まで結構あった。
一番大きいのは右肩と左わき腹にある大きな穴のような傷、化膿して少し腐った匂いと肌の色が紫色と赤く腫れ上がってる。

「結構酷い傷かも……」

 濡れタオルで余分な血や泥を拭いて、お湯が沸いたら、紳士さんに貰ったタオルで使っていなかった新品の物を出してお湯に浸けて、改めて拭いていく。
ポーチに入れてた傷薬と包帯では足りないかもだから、追加を備蓄庫から出して、ハサミで布を切ってガーゼの代わりにして、傷口に傷薬を塗りつける。
お兄さんは小さく呻いていたけど、目を開けることは無いから、意識の無い人をも唸らせる傷薬は染みるみたいだ。
いや、私も染みるのは知ってるけど、冬の間に手に使ってたら慣れたからね。

 肩口は何とか傷薬と包帯を巻けたんだけど、お腹はどうしよう?

「あっ、デンちゃん。乗り紐解くよー」

 デンちゃんの乗り紐を外して、お兄さんの両腕を通して、デンちゃんに背中部分を咥えてもらい、少し持ち上げて貰っている間に、お腹に傷薬と布を押し当てて包帯を巻いていく。

「デンちゃん、お手伝いありがとー。ご褒美にジャーキーをあげよう」
「ワフッ!」
「あっ! まだ離すの早い早い!」

 床にドサッと落ちたお兄さんに「大丈夫ですか!?」と声を掛けたけど、意識は戻っていない。
デンちゃんにジャーキーをあげて、お兄さんを見て貰い、意識が無い間に……クローゼットから着せられるような服を探す。
大きな服が多いから、こういう時助かるね。
でも、お兄さんも十分大きいんだよねー……私は身長がどのくらい大きくなったかはわからないけど、十三歳の時は百五十センチだったから、ここに来て少しは伸びたと思う。
そんな私より頭二つ、三つ背が高いから、三十センチか四十センチは違うかも?

「これで良いかな?」

 長めのシャツというか、多分、この世界の寝間着のワンピースみたいなやつで、私が着ると床にズルズル引きずるから着れなかったやつだけど、お兄さんなら着れるだろうし、着せるのも楽そう。
頭からすっぽり被せちゃえばいいし、腕を通すのは大変そうだけどねー。

 ついでにクッションと布団も持ってくる。

「うー……恥ずかしいけど、お兄さん、ごめんなさいっ!」

 ズボンのベルトに手をかけて、少し躊躇してしまうのは、乙女だから仕方がないよね!?
足に傷があるかもしれないし……寝せてあげるのに、泥だらけのズボンじゃ汚れちゃうしね。
うう~っ、恥ずかしい!!
意識の無い相手にこういうことするとか! いや、これは医療行為だから!
ズボンを脱がせて、長めのトランクスみたいな物はこの世界の下着なのかな? と、首を傾げつつ、足も濡れタオルで拭いて、足の汚れは熊の返り血だけみたいで拭き取るだけで大丈夫だった。

「……ちょっとだけ、少しだけ……」

 さわさわ……
さわさわさわさわ……
うん。立派な尻尾の触り具合だ。ナイス尻尾!

 少しだけ尻尾を堪能していたら、お兄さんとバッチリ目が合った……
へ……変態行為を見られてしまったぁぁぁ!!!!

「あの、その、これは、そのっ!! あの、これ着れますか!?」

 ズイッとお兄さんに寝間着を差し出して、顔を両手で隠しつつ「すいません……」と消え入りそうな声で謝罪しておいた。

 まだ意識が混濁していそうなお兄さんを、脇から支えながら「ベッドはこっちなので、移動をお願いします」と、寝室になんとか連れて行って、ようやく寝かせられた。
時間かかったー。たまにお兄さんに「ツガイ」って言われてたけど、言葉は分からないから、「痛い」とか言う意味かな?

 これは早めに、メモ用紙で筆談用の言葉を書いておかなきゃ。
しおりを挟む
感想 99

あなたにおすすめの小説

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

【完結】あわよくば好きになって欲しい(短編集)

野村にれ
恋愛
番(つがい)の物語。 ※短編集となります。時代背景や国が違うこともあります。 ※定期的に番(つがい)の話を書きたくなるのですが、 どうしても溺愛ハッピーエンドにはならないことが多いです。

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

魔法のせいだから許して?

ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。 どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。 ──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。 しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり…… 魔法のせいなら許せる? 基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

処理中です...